第十五話 ハジメ、事件を目撃する
ハジメがギルドから出た時、外は真っ暗、広場は露店でいっぱいになっていた。
人が集まりだしている。
日が沈んで、今からご飯時といったところか。
喧騒を横目にすぐ隣の宿舎に向かう。
3階建ての立派な建物、玄関に入って、目の前にある内階段を登っていく。
今朝、部屋を出るときは二人で喧嘩しながら降りた。
喧嘩と言ってもわたしが一人で拗ねて、クラウディオさんが困っていただけだけど。
内階段を登りきった真っ正面、301号室に入る。
スイッチも押してないのに、通路から広がるように奥のワンルームまで照明がつく。
いまだに原理がわからない。
わたしはイセカイにいる。
仲間はクラウディオさんだけだ。
いつもベッドに入る時、作業机の相棒にルーンのことを話してもらう。
向こうは楽しそうだし、なにを言っているのかわからないのでよく眠れるのだ。
槍を壁に立てかけて革鎧の留め金を外す。
今日は相棒は居ない。
誰に隠すまでもない。
革鎧を外して汗に塗れた布の服を脱いだ。
汗で体に張り付いたインナーが気持ち悪い。
目を下ろすと、空手で鍛えた胸筋の上に、お椀型のお胸が乗っている。
グレーの生地は汗に濡れて黒くなっているが、よく見ると先端がうっすら陰影を作っている。
ブラジャーは転移した時につけていたスポーツブラだけだ。
貴重品なので箱に入れてクローゼットにしまっている。
――インキュバス、サキュバス、エッチなことねえ。
自分の胸を両手で支えて揺らしてみた。
マリちゃんが言うには私の胸は硬すぎず、柔らかすぎず、最高のバランスらしい。
……そんなの知らないよ、こんなの揉んでなにが楽しいんだか。
クラウディオさんだってきっとそうだよ。
目隠ししてわたしの鎧を着付けするような人だよ。
最近じゃ、こっちの方が意識するのがバカらしくなってきたくらいだ。
自分は一人でエッチなこともしたことがない。
アパートは狭くていつも弟か母がいるし、そんな暇があるならバイト、勉強、空手の日々だった。
ため息をついて普段着の長衣に着替えて身を整える
もちろん槍はインベントリにしっかり仕舞う。
自分の財産はセーラー服とスポーツブラとこの槍だけ。
後は自分のために命をかけてくれる友人!
209。
下のフロアの奥の奥だ。
上がってきた階段をヒタヒタと降りていく。
静かだ。
そういえば、ここで誰かと会ったことはない。
みんな一年が過ぎる頃には迷宮で死ぬか、迷宮で一稼ぎして自分の居を構えているらしい。
ここにいるということはサキュバスさんは異界人の使い魔なんだろうか。
2階に降りて薄暗い廊下を進むとうっすら声が聞こえてくる。
足を止めて耳を澄ませる。
……あ……ぃゃ……ぁん
女の人の声かな。
高い声、どこか苦しそうだ。
――あんっ! いやあっ……もうだめぇっ!
急に声が跳ね上がった。
イヤだって!? 助けないと!
そう思った時には足が勝手に廊下を駆け出していた。
201、2、3――
悲鳴に耳を傾けながら流れていく部屋番号を見る。
パンパンと乾いた音が響く。
――た、叩かれてる!?
――もうっ、あっ、あっ! お、お゙お゙ッ
――8、9行き止まり! ここだ!
レベルが上がった肉体で思いっきりドアを蹴飛ばす。
ヒンジが千切れてドアは床に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「――え?」
まっすぐ伸びた部屋の通路の向こうで、床に寝転がる男の上で、女が跨っていた。
素っ裸で胸が露わになっている。
あんなに大きなお胸なのに、あんなに細く腰がくびれている。
『人間』とは思えない程、いやらしい体つきだった。
ハッとしたハジメは女の顔を見た。
汗だくで頬に髪を貼り付けて、ぽかんと口を開けてこちらを見ている。
男の人は目隠しをされていて身動きが取れないみたいだ。
な、なにやってんの?
部屋に充満する汗と、どこかで甘い匂い。
――あっ、これってもしかしてアレ?
「す、すみません、すみませんっ!」
「えっ、誰?」
わたしは廊下に飛び出して、一気に階段の踊り場まで逃げ込んだのだった。
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