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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第5章 DAY5

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第87話 きれいきれい

 男の子たちは廃材看板素材を探しに行った。そろそろ実務の話しをしようかな。


「カレンさん、それでは屋台の説明をしますね」


 そう言って屋台に行く。なるほど。俺も屋台は初めて見る。そこそこ大きくて丈夫そうだね。さすがレンタル用。串肉屋用の屋台だ。うーん、焼き台とかもうちょっと専用で作り込みたい。炭はバルがさすがの手際で起こしてくれている。


「カレンさん、炭の扱いは慣れていらっしゃいますよね」


「そうですね。毎日使うものですから」


 主婦ならそらそーだ。失礼しました。屋台の下を覗き込むと食材など必要なものを置けるようになっている。なるほどね~。これはキリエの家に頼んで専用のものを作ってもいいな。俺が欲しいのは冷蔵庫だ。保冷庫だね。金属の箱にして底に穴でも開けて溶けた水が垂れるようにする。いや、ステンレスが無いなら(サビ)が怖いからウィルの家で木工のボックスでいいかもしれない。将来的には移動と保管が出来るなら専用の屋台を一から作るのもありだな。


 まずはこの物入(ものいれ)の部分に氷の塊を置きたい。ちょっと練習がてら生垣(いけがき)に向かって氷の生成を試してみる。お湯を作るのとは逆だ。イメージだ。細い雨のシャワーを冷やしていく。水がやがてスキー場で見た雪景色へ展開。そのまま山の上で見た樹氷を思い出す。雪合戦で遊んでてあっという間に冷たくなって、それがすぐに痛みに変わった指先。冷蔵庫の製氷庫の中でゴトゴトと落ちて来る氷たち。ああ、かき氷なんかいいね。古いかき氷の機械ってさ、でっかいブロックの氷を固定するんだよね。そうそう! 氷屋さんの氷室の中! 天然氷が夏まで残ってるんだった! あれってすごいよね!


「ック、ロック、ロック!」


「え?」


 ルシアかな? 聞き慣れない声が俺を呼んでいて目の前を見ると……


「わぁー。やっちまったー」


 生垣の中に自分の身長を超える立派な氷柱が立ってた。太さは俺が一抱えしても手が届かないな。ルシアに声を掛けてくれたことに礼を言う。とりあえずこれはもったいないので狩猟ナイフを抜いて思い切り突き立てる! 円形広場の注目の的になっているが気にしない。


ガッ! ガッ! ガッ!


 ナイフでブロック氷を切り出す。うむ! いい感じだ! それを屋台の収納庫に置く。麻袋の中からデカいまな板を取り出して屋台の調理台に置く。次に麻袋からブロック肉をひとつ取り出す。


「この麻袋に同じようなサイズの肉がもうひとつ入ってます。カレンさん、肉はこの氷の隣に置いてください。痛みが遅くなります。置く時は袋が氷に触れないよう少しだけ離し気味で。氷に肉がくっつくとそこから肉が傷んでしまうので。ああ、肉の下に一枚か二枚、板を置いて溶けた水に浸からないようにしましょう。」


 俺は前回の武器屋での買い物の時に買っておいた予備のナイフのうち包丁として使えそうなやつをバックパックから出したふりをして『排出』する。


「カレンさん、まずこちらをどうぞ」


 俺は木箱に入った石鹸をカレンに渡す。木箱を受け取ってそれを開けてカレンさんが息を飲んで動きが止まる。なるほど。これの価値がわかるんだ。


「これは申し訳ありませんが完全に仕事用でお願いします」


 箱の中身は石鹸(せっけん)だ。シェリルたちが使う高級品ではない。この世界でいうところの廉価バージョンだ。が、それでも高い。カレンが俺を見る。


「これを使いすぎても足が出てしまって商売になりません。なので、食材の生肉を触る時に使ってください」


 そういって今度は調理台の上に清潔な麻布を何枚も置く。


「こちらも遠慮なく使ってください。手を拭く、包丁を拭く、食材の生肉を包む時ですね。それでは一度私がやってみますのでやり方を覚えてください」


 生垣のところで石鹸を使って手を洗う。洗った手で不潔なところを触らないですぐに清潔な麻布で拭く。このあたりの人は胃腸は丈夫だが、俺が売りたいのは申し訳ないがスラムの住人ではない。俺の説明をルシアとオルカも興味深そうに聞いている。売る相手はさっきからこっちをチラチラ見ている商業ギルドに出入りしている商人だと伝える。カレンさんの目がキラリと光る。俺を見る目つきも変わった気がする。


 お? 早いなライズたちがもう戻って来た。


「カレンさん、ちょうどいいや。手を洗う前に看板をお願いしていいですか」


 看板は屋台に立て掛けるだけだ。


「遠くからでも見えるように大きく書きましょう。なにせ高い串肉ですからね。それでも興味を持って近寄って来る人だけを相手にしたいです。まぁ、冷やかしで来る人もいるでしょうけど、そういうのは客じゃないので相手にする必要はないです。追い払ってください」


『一本 小銅貨三枚』と、カレンが炭で書く。


「ライズ、この線をなぞって太い字にしてくれ。手先の器用なメンバーに任せたい。今日のギャラは肉を食わせてやる」


 『銀狼(ぎんろう)の牙』の連中が笑った。お前たち、そこらへんの串肉を想像しただろう? くっくっくっ。飛ぶぞ? オルカだけはわかっているのでニッコニコだ。うむ。自分も食べる気満々だね! ずーっと俺の顔だけ見続けているストーカールシアだけは怪訝(けげん)な顔をしている。お前、俺のこと気になって気になってしょうがないけどめっちゃ疑ってるだろ? それ、正解! 鍛え甲斐があっていいよ。


 カレンが石鹸を使って炭の汚れを落としていると、看板製作を家具職人の息子のウィルに任せていたライズがぎょっとしてデカイ声を出す。


「せっ! せっけん?!」


 その声に『銀狼(ぎんろう)の牙』のメンバーだけでなく周りにいた連中もこっちを注目する。ライズが『しまった』という顔をする。


「ライズ、うまいな。いい宣伝じゃないか。注目を集めるのは客商売の基本だからな。さすが商売人の息子だな。やっぱりお前、こっちの道の方が合ってるんじゃないか?」


 いつぞやライズの将来について話したことを引き合いに出してからかうと周りの連中も笑った。ルシアがカレンから石鹸を箱の中に受け取って代わりに麻布を渡す。


「ルシア、それ使って手を洗ってごらん」


 石鹸を見つめていたルシアがびっくりしている。


「え、う、ううん。いいよ、これ、高いんだろ」


 こういうところで遠慮するのが微妙に育ちが良いんだよな。ライズが微笑みながらルシアに近付く。


「ルシア、ロックがいいって言ったんだ。遠慮したら損なだけだぞ。俺たちとは考え方が違うんだ。ロックが言ったことなら遠慮せずに受け入れろ。チャンスは逃がすな!」


 ライズは正しい。それは商売人の考え方だ。そして、優秀な冒険者の考え方でもある。お前の親父さんに会ってみたかったな。


 ライズたちの父親もやはり五年前の戦争で死んでいる。西地区の住民は五年前の戦争のせいで大打撃を受けている。金の無いこの世界で復興はまったく進んでいない。いや、金ならあるんだ。本来は。じゃあそれはどこに? 答えは子供でも知っている。悪い貴族のところだ。


 デミトリーを殺して全て解決で済む話になるなら俺が一人で()ってくればいい。だが、事はそんな単純でもない。なにせ政治の話だからな。デミトリーを殺しても息子や親せきが跡を継ぐんじゃ意味がない。


 ルシアが俺を見て力強くうなずく。せっけんの箱をライズに渡して手を水洗い。カレンが指導している。ルシアも小さいころは使っていたのかもしれない。五年前はルシアは八歳だ。もう詳しくは覚えていないだろう。水で充分汚れを落としたら石鹸の登場だ。ルシアが作った両手の受け皿の上にライズが箱をひっくり返して石鹸を落とす。遠慮がちに両手を使って石鹸を(こす)る。徐々に泡立つ。廉価版だが、その中でも泡立ちと使い心地の良いものをユセフに聞いてチョイスした石鹸だ。


「ふわああ」


 泡立ったあとに石鹸を箱に戻して更に両手を(こす)って泡を作る。俺はルシアに石鹸を使った手の洗い方をレクチャーする。カレンも『銀狼(ぎんろう)の牙』の連中も集まって即席の講習会だ。指の間を洗うこと、手のひらに爪を立てて爪の中を洗うこと、手の甲、手首まで洗うこと、擦って汚れを落とすのは酷い汚れを洗う時だということ、汚れは泡で落とすということ……


「だから洗う時はしっかり泡立てなきゃ意味がない。不潔な手のまま料理すると目に見えない悪いものが身体に入って病気になったり腹を壊すことになる」


 俺と付き合うということ、金の掛かった商売をすることを一番真剣に考えているのはライズと、おそらくアーノルドだ。俺が話しをする時、このふたりの集中力はちょっと異常だ。時々それがプレッシャーで茶化せなくなるほどだ。今まで見たことのない息子の真剣な様子にカレンも事の重大さに気が付き始めている。


「さて、せっかく綺麗になった手です。汚いものを触ったら台無しですからね、触るものには気を付けましょう。


 テーブルに戻って肉の切り分けだ。『銀狼(ぎんろう)の牙』の連中に一番の串肉屋に一本買いに行ってもらう。


「カレンさん、肉の大きさなのですが、このあたりの屋台の肉より大きくしてください。なにせ高いものですし。一本で腹が満たされるぐらいでいいですね。ただし、昼に摘まむものとしてです。これ一本で晩飯を済まそうっていう大きさだと大きすぎですね」


 ライズが買って来た串肉を置く。なるほどこの大きさか。買って来た串肉を参考に少し大きめに肉を切り出す。一串あたりの肉の数はこのあたりの串肉と同じ四切れだ。肉が大きくなった分、串は長めのものだ。それを二本差しにする。


「串打ちが終わったのですが、焼く前に調味料を(まぶ)します」


「えっ」


 カレンが声を上げる。『銀狼(ぎんろう)の牙』のメンバーはなんのことかわかっていない。俺はバックパックの中から調味料入れの木のケースを出す。フタを開けて肉に調味料を塗す。カレンが口を開けて見ている。


「カレンさん、これぐらいだと思うんですよ。肉の大きさはまぁ適当でもいいんですけど」


 肉は無限にあるしタダみたいなもんだから。


「調味料はつけ過ぎるとその分原価が上がってしまいます。かといって薄くはしたくありません。肉が分厚いな。よし、ちょっと切れ込み入れてみましょう」


 四つあるうちの二つに切り込みを入れる。


「カレンさん、いいですか? 肉のコストは無視してください。原価を考えて小さくしなくていいです」


 何か言いたそうだったがやめたみたいだ。そう、それでいいです。


 さあ、メインの炭火焼きの工程だ!



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