第77話 魔法少女
完全武装でリビングに戻る。まだみんないた。どうやらここでこのまま籠城らしい。ダイニングルームが指揮所になるみたいで慌ただしく準備中。シェリルとサリアはリビングの壁際のソファーにいる。
「シェリルさんたちはお店に戻らないんですか」
「ん~、そうねぇ。どっちにいても同じだと思うのよねぇ」
「あー、でもこっちだと杖がないわー。シェリル姐さんも弓だったら借りられるんじゃない?」
「弓はわたしはちょっとねぇ。槍の方がいぃんだけどぉ」
シェリルに弓は無理だよね。おっきい双丘に弦が当たって危ないから。 ん? 槍と杖? なんで? 使えるの?
「おふたりは武器が扱えるんですか?」
サリアがこっちを見て言う。
「そうね、ちょっとならね」
ふむ。だったら渡しておこう。「すぐ戻ります」と言って一旦寝室に戻って『出納』から杖を『排出』してベッドに置いてあった槍と弓矢と一緒に持って戻る。
「とりあえずこれを使ってください。槍は森用なんで短めなんですけど」
『赤竜の爪』の奴らの武器を渡す。サリアが試し撃ちしてみよーっと、とか言いながら杖だけ持ってテラスに出るので俺も付いて行く。シェリルも槍を持って出て来た。サリアがテラスにいる警備員たちに向かって注意喚起をする。
「ちょっと魔法のテストするわねー」
何事かと警備員がこっちを見る。サリアはブツブツと詠唱に入った。って、え? 魔法?
杖を荒野の空に向けながら小声で呟く。
「『落雷』」
パリッ! ピシャァッ!
杖の先の魔石がフラッシュを焚いたような白い閃光を発したあと荒野に向かって雷が走った。
すると後ろでブブン、ブゥンと風切り音が聞こえる。慌てて振り向く。
そこではワンピース姿のシェリルが微笑みを湛えたまま槍をぶん回していた。胸当てしてないから別のものもブン回っている。
「シェ、シェリルさん! ストップ! ストップ!」
慌てて止めに入る俺。
「シェリルさん、警備員の人たちが見てますからっ」
最初なんのことかわからないみたいだったが、俺の視線に気付いたら「あら、やだぁ」だって。っていうかスゴかったなぁ。イロイロと。あんなんなるんだねぇ。ああいうのってアニメの中だけだと思ったよ。ええそりゃもう。ん? 雷魔法の話な!
「サリアさん、さっきの何ですか? めちゃくちゃカッコイイじゃないですかっ!」
オルカも大興奮で首を縦にブンブンしてる。シェリルも漢の浪漫砲だったけどサリアのは世界中の十四歳がシビれるやつだぜ! 俺は今、猛烈に感動している! あれはなんとしても習得しなければ!
「久しぶりだけどうまくいったわね。これもまぁまぁな杖ね。使えなくはないわ」
この人ら何者なんだ? 謎が深まります。とりあえず敵が攻めてきてるわけでもないので一旦中へ戻りましょう。
戻るとウォーカーが怪訝そうな顔で声を掛けてくる。
「お前たち、なにやってんの。ご近所の人がびっくりしちゃうからほどほどにね」
ちょっと引いてた。わかる。
「それで結局これはなんの騒ぎなんですか?」
ウォーカーがちょいちょいと手招きするので近くに行く。
「さっきの契約書にあったノエル・マクラクランっていうのはな、南地区の冒険者ギルドの長官だ。貴族にしては珍しく話のわかるやつでな、俺が副長官になってからはいろいろ連絡を取り合っている。デミトリーがこっちの長官になってからは俺個人の付き合いを抜きにすると、西と南は表向きにも実情的にも悪かった仲が最悪の仲になっているんだが……」
冒険者モードになってから一人称が俺になっているウォーカーが教えてくれた。この人、騒動を楽しんで若返ってないか?
「え? まずいですねそれ。さっきの契約書のこと教えてあげた方がいいんじゃないですか?」
「そう思って伝令を送ろうと準備していたところ逆に向こうからの伝令が来てな。今まさに襲撃を受けていると警告を受けたんだ。どうもこっちのゲットーファミリーの連中がわざわざ出張ってるという情報もあって混乱している」
「ゲットーファミリーが出てきているのは確かですかっ」
珍しくシェリルが大きな声を出していた。ウォーカーが少し驚いたように声を掛ける。
「どうしたシェリル。何か気になることがあるのか」
「い、いえ、それが確かならちょっと……」
「向こうの伝令は情報収集も兼ねた連絡要員で西地区の事情にも詳しいんだ。知らせのために脱出する時に襲撃者の中にゲットーの奴らが混ざってるのを見たと言っていたんだ」
オーサーたちがいない。
「オーサーさんはどちらに?」
「オーサーたちは家に戻った。襲撃に備えるためにな。バーズは向こうの伝令に付き合って一回偵察に出るところだ」
シェリルの様子がおかしいので壁際に連れて行く。
「シェリルさん、何かあるなら言ってください。契約書のこともあるしウォーカーさんに俺から取り次げると思いますから」
シェリルが口にすべきか悩んでいるとサリアが口を挟んで来た。
「ロック、キュロスが危ないかもしれないわ」
「え? なんでキュロスさんの話になるんですか。キュロスさん今どこにいるんですか?」
「さっき私たちの身請けの話をしていたわよね。キュロスはゲットーと奴隷契約があるのよ。ただし! ゲットーとの間の奴隷契約は身体の代わりに戦力を提供するという戦闘奴隷契約よ。だからその南地区の襲撃に参加させられている可能性があるわ。今日、いきなりゲットーからの呼び出しがあって出て行ってるの」
「ウォーカーさん! バーズさんは今どこですか!」
俺はウォーカーに詰め寄りながら伝令が来てからどれだけ時間が経ったかを計算していた。くそ! ずいぶんと無駄にしたぞ!
「バーズは今、伝令と一緒に下にいるはずだ。もう出ているかもしれん」
「オルカ! みんなと一緒にここで待機だ! 俺一人で行く! 付いて来たければ次の時までに強くなってみせろ!」
オルカのところまで歩きながらそこまで言うと目の前のオルカが歯を食いしばって無言で頷いた。俺はオルカの頭を撫でながらできるだけやさしく言う。
「シェリルと一緒に待っていてくれ。すぐに戻る」
それだけ言うと身体強化最大のダッシュで窓を抜け三階のテラスからエントランスに向かって飛び降りる。うしろで誰かが俺の名前を呼んでいたが振り返るつもりは無かった。




