第76話 誠実にお買い上げ
「シェリルさん、サリアさん、突然お呼びしてしまい申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました」
二人に頭を下げる。
「いいのよぉ。お役に立てたのならよかったわぁ」
いつものゆるいシェリルさんに戻った。緊張が解けたのだろう。
「ロック、あなた大変だったのね」
シェリルからの温かいお言葉だが、いや、お姉様の方こそでしょ!
「いや、俺なんか終わったことですし大したことじゃないですよ」
もうこのタイミングで聞くしかない!
「あの、おふたりの気分を害してしまったら申し訳ないのですが、ぜひお聞かせください。おふたりとキュロスさんを奴隷から解放する条件はなんですか」
ふたりは何も言わない。いや、俺は負けないぞ。こっちだってふざけて聞いてるわけじゃないからね。最初に声を出したのはサリアさんだった。
「ロック。それを聞いてどうするつもりなの」
「決まってます。三人を解放します」
「私たちを身請けしてくれるの?」
「身請け? 奴隷解放にそれが必要ならまずはそうさせてもらいます。でも、俺がやりたいのはみさんを奴隷から解放することです。今すぐには叶わないけれど、どうすればいいかだけ教えてください」
シェリルが心配そうに俺を見ながら言う。
「ロック、あなたはせっかく自由になったのだからオルカちゃんを大切に生きてくれればそれでいいのよ。私たちのことを気に病む必要はないわ」
横でサリアも静かにうなずいている。まぁこれも想定内だ。俺は自然と笑顔になるのを感じながらふたりに向かって話しを続ける。
「はい。私は自由です。前にも言ったと思いますが、俺は俺のやりたいように自由にやらせてもらいます。誰も俺を止めることはできません。このことはオルカとも話し合いは済んでいます。俺は自分勝手でひどい最低のクズ男なんですよ。なのでせめて条件だけ教えてください」
シェリルは微笑を湛えながら困った顔をしている。どうやら話す気はないらしい。ダメか。
「はー、しょうがないわね。オルカちゃん、あなたシェリルのことよろしくね。今夜は私たちここに泊まっていくから。ロック、あの人たちいつまでこの部屋にいるの」
あー、なるほど。俺が話に関わらないなら出て行ってもらうか俺たちが出るかだな。
「それもそうですね。ちょっと確認してきますね」
俺はおっさんたちを追い出すためにリビングに戻った。
「あのー、すいません」
真剣な顔で話しているみんなが一斉に俺の顔を見る。ちょっと言いにくいけどね。言うけどね。
その瞬間、入口が激しくノックされてドア番をしていた女中さんがドアを開けるとその隙間を縫うように若い警備員が駆け込んできた。そしてウォーカーに耳打ちをする。
「わかった。ユセフ、防御態勢だ」
伝令の警備員の兄さんは来た時と同じようにダッシュで出て行った。代わりに四人の警備員が弓を携えて入ってくると、無言のままテラスへ出ていって防御態勢に入った。あー、なるほど。あの壁って弓を撃つ時のための遮蔽物だったんだ。というか物々しいなぁ。『走査』には敵影らしきものはいないので慌てることはない。いったんみんなのところへ戻る。
「なんか物騒な感じになってきましたね。でもまだ周りには誰も来ていないので問題ないですね。おふたりはそのまま座ってお待ちください。オルカ、ちょっとこっちへ」
そういってこの部屋に泊まり始めてから一度も使ったことのない寝室に入る。使っていないので窓の木扉も閉まっているのを確認。オルカが入ったらドアを閉める。
「オルカ、完全武装だ。今は大丈夫みたいだけど、さっきの約定書に書いてある襲撃絡みかもしれない。いいか、いざとなったらここを放棄して逃げる。俺たちはここの人たちを守る義務はない。自分の身の安全だけを考えろ。それが第一だ。次にシェリルとサリアだ。いいな?」
「わかった」
俺はオルカと自分の装備を収納から出して着替えながらオルカに指示を与える。オルカの胸当ての裏の隠しポケットに金貨を三枚と銀貨と銅貨も入れる。オルカは黙って準備を続ける。出し惜しみは無しだ。弓と矢、槍も二本出してベッドの上に置いておく。この部屋に隠して置いてあったって言えばいいだろう。最後にお互いの鉢金を巻き合ってオルカの頭をポンポンと叩く。
「大丈夫だ。なんとでもなる。もしなにかあったらライズ達を頼れ。それも無理そうなら森へ逃げ込め」
「うん」とオルカが頷く。恐怖は感じていないようだ。昨日一日森で鍛えておいてよかったぁ。ぎりぎり間に合ったかな。
あとがき
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