第73話 侮蔑と罵倒
オルカの天然攻撃にただの近所のおっさんに成り下がる冒険者ギルド副長官。
「うんうん、オルカちゃんね。おじさんに任せなさい! んんっ! ということで俺が当『夕暮れの泉亭』の経営者で西冒険者ギルドの副長官、ウォーカー・ボナパルトだ」
「うおほん、ワシが西商業ギルド、ちょ・う・か・ん・の、オーサー・オブライエンだよ、オルカくん」
「オルカ。名乗るのは初めてだな。ウォーカーの用心棒をしている元斥候のバーズだ。お前も斥候だろう? 明日の朝にでも斥候の先輩として稽古をつけてやろう」
「はいっ」
おいっ! おまえら! 誰も俺のこと見てねー! オルカが斥候パイセンからの稽古の餌にあっさり釣られている。ウォーカーとオーサーがバーズのことを「てめぇなにうまいことやってんだ」っていうすげぇ顔で見ている。
「私は西スラム商業ギルド長官のサイラス・カスターニです。よろしくお願いします。カスターニ家はオブライエン家の寄子です。オブライエン家とは一蓮托生の仲なので信頼いただけますと幸いです」
やっぱりサイラスさんも貴族だったか。ここまで上品ならそりゃそうだね。まともそうなのこの人だけだ。どうしよう。
奥でユセフが黙って頭を下げた。気付いたウォーカーが紹介する。
「ユセフはここ『夕暮れの泉亭』の支配人を任せているが、元は俺の生家であったジラール家に仕えていた。俺の教育係だったからな。生まれた時から一緒だ。俺を信じてくれるならユセフも同じだけ信じられるはずだ」
続いてオーサーが話を引き継ぐ。
「知ってるかもしれんが俺とウォーカーとバーズの三人は元々同じ冒険者パーティーだった。パーティー名は『真紅の轍』という。リーダーはウォーカーだ。あとふたりメンバーがいる。ひとりは俺の嫁さんなんだが、残念ながら今夜は来られなかった」
俺とオルカの向かいに四人が並んだ。ユセフは話しは聞くが発言するつもりはないのだろう。給仕をしてくれている。まずは乾杯だ。ユセフも話しに参加するというなら一緒にと勧めて盃を持ってもらった。ウォーカーはユセフも一緒に乾杯が出来てうれしそうだ。
「一応、俺が今回の主催ってことになるから音頭を取らせてもらう。まずはロック、話し合いの場を設けてくれたことに礼を言う。オーサーたちも忙しい中すまんな。この話し合いが良い結果を生むことを望んで。乾杯」
みんなで唱和して口をつける。俺とオルカとユセフはノンアルだ。向かいの三人もまずは薄いエールだ。酔いながら出来る内容の話しではない。
「ロック、俺たちはお互いに知らないことだらけだ。お互いが知っていることもあれば自分たちしか知らないことも多い。できるだけその差を埋めていきたいと思っている」
ウォーカーがちょっと真面目な話をし始めた。じゃあこっちも少し真面目にやらせてもらうかな。
「私はこの国、この都市のことではまだまだ知っていることより知らないことの方が多いのです。同じ国、同じ都市の中でいったい誰が何のために誰と争っているのですか」
大人たちの顔が驚愕から真剣な表情へと引き締まっていく。十歳の子供が話す内容じゃないよね。もう取り繕う必要がないから素でいきます。それに対してウォーカーが代表するように答える。
「お前さんが俺たちの話を理解してくれることが確信できた。その通りだ。同じ国の中でなんとも愚かなことだな。今回の件に関していえば発端は五年前の戦争になる。アゼリア正教国が突如侵攻してきたことに対してグランデールから出兵してこれを退けた。その際、政争が起きた。デミトリーが邪魔者としてギルド副長官の俺の兄とスラムギルド長官を亡き者にしようとした。兄は反撃してデミトリーの次男のギルド長官と相討ちになった。そこからの因縁だ」
オーサーが苦渋の表情で続ける。
「俺たち『真紅の轍』は参戦していない。なぜか出兵開始と同じタイミングで皇帝からの勅命依頼があり、貴重魔物素材を護衛して帝都まで運ばなければならなくなったからだ」
バーズが引き継ぐ。
「それがデミトリーの策謀だったことを突き止めたのはつい最近のことだ。しかし、戦争自体には勝利し、皇帝の勅命だったことは間違いないという事実をもって俺たちの主張はまだ弱過ぎてデミトリー失脚までには不十分だ」
再びウォーカーが俺の目を見ながら静かに語る。
「デミトリーは私服を肥やし、力を付けてきている。このままではグランデールそのものが落とされる。その際に奴を討つことが叶うとしても戦乱の火蓋が開かれればこの都市に住まう人々にどれだけの被害が出るのか。ロック、お前ならわかるのではないか」
「この地を治めるバーランド伯はどうなんですか」
「バーランドはどっちでも無い。デミトリーから上がってくる上納金が目当てで目をつぶっているだけだ」
ウォーカーがバーランドの名を言う時に侮蔑を込めているのことがはっきりわかる言い方をした。
「スラムの税率七割はどうなっているんですか」
これまで無言だったサイラスが答える。
「それは私から。本来、スラムの住人から徴収すべき税率は都市内に住むものと変わらず三割です。それがこの国に住む者に適応される税率だからです。ただし、地方領主に於いてはそれを上回る税率を課しても構わないという特例法があります。帝都に収める税を確保しなければならないので、特に貧しい地域ではよく見られる光景でもあります。だが、グランデールは貧しくありません」
ウォーカーの目が怒りに燃える。
「為政者の目を覚まさせ、冒険者を守らねばならないのだ。このまま奴の好きにさせると森が溢れることにもなりかねん。大幅に減ってしまった冒険者の数も練度も足りないままだ。お前も知っているだろう。グラスウルフが昼日中から跋扈するような荒野になりつつあるのだ。もうあまり猶予もない」
あー、やっぱりね。俺が一日、二日間で感じた程だ。末期症状なんだな現状は。それならまあ、それを止めるだけでも価値はあるか。
「なるほど。正義や善悪を問う前にやらねばならないことがあるところまで事態は悪化しているのですね。まったく、デミトリーもバーランドも皇帝アリテウスも無能もいいところですね。頭が悪過ぎて話にならん」
なんの躊躇もなく為政者、いや、支配者を罵倒する俺に驚いているな。飲み屋で政権批判するノリもここでは首と胴がサヨナラしかねないからな。でも俺にはそんな常識通用しないぞ。なんせ常識が違う世界の人間だからな。
「そうですねー。まずですね、私が持っているものがどんな力を持っているのか私自身、わかっていないんですよ」
「そりゃどういうことだ?」
いつものウォーカーが戻ったかな。
「シェリルさんを呼んでもらえませんか?」
「え?」
四人がハモった。
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