第68話 円形広場の団欒
「というわけで俺がロックなんだ。はい、それではお二人さん質問をどーぞ」
ふたりは困惑していた。なにをどうしろと? お互いの視線の会話で逃げ出すタイミングを見計らうところまで追いつめられていた。
「あのー、逃げなくて大丈夫ですから。別にあなたがたをどうこうするつもりはここの誰にもないので。それは俺が保証します」
デタラメだった。誰が何をしでかすかなんて俺の知ったことではない。冒険者は自己責任! 俺はこの二人から情報を引き出せればそれでいいだけだ。こいつらに悪意はないかもしれないけれど、俺の不利にしかならないことをやっていることに変わりはない。オルカはそれを敏感に感じ取っているので、どうなるかはわからない。しゃべる口だってふたつはいらないのだ。
「話に聞いていたのとはちょっと違うかもしれませんが、何度も言うように俺がロックです。見た目はアレかもしれませんが、ちゃんと男です。な、ライズ」
「そうだ。これが昨日話してたロックだ。一晩経ったらこうなってた」
「風呂入ってさっぱりしたらこうなったんですよ。それだけだから。わかってもらえますかね」
ジェイとアーノルドもウンウンと頷いて援護射撃をくれている。もう、マジめんどくせー。本筋とまったく関係ないところで話が進まないんだって!
「あぁ、まあこの際、誰がなにかとかどうでもいい気がするし、そういうことにしておこう」
おー! 話が早くて助かる!
「それでですね。あなたがたはデミトリー・カルチェンコに雇われたわけですけど」
「いや、ちょっと待て。それは違う。俺らはポメラ・マルチーズに雇われてるだけだ」
「飼い犬の方ですね。でも発注元はデミトリーなんで。それで、その依頼って中のギルドを通してます?」
「顔を見ながらだとなんともやりにくいな。依頼内容を話すのは」
「依頼票はあるんですか」
話を遮って突っ込む。黙る冒険者。どうも今しゃべってるやつが先輩になるのかな? もうひとりはビビって話しどころじゃなさそうだな。
「あー、依頼票が無い感じの依頼なんですね。じゃあそれはもう正式な依頼ではないですね。ギルド職員が直接声掛けてくるとか、ちょっと危ない状況ですね。もう完全に壁の中のギルドってデミトリーの私物じゃないですか。お二人とも、それで自分の身に何か起きても誰も助けてくれないってことはもちろん承知の上ですよね? ちなみにあなた方は暗殺依頼とか出たらどうするつもりなんですか?」
「いや! ちょっと待て! なんでそんな話しになるんだ?! 俺らは同業者と揉める気は無いぞ!」
「そうですか。それはよかった。でもそれ、断れますか。ま、それはそうとして、ポメラはデミトリーから指示を受けてるわけですけれど、誰を何のために探しているか教えてもらえますか」
「依頼内容は、いや、これはもうお前さんの言う通り依頼なんかじゃないな。それと、隠すようなものでもない。俺らは南スラムギルドに所属していた『赤竜の爪』っていうパーティーにいた戦闘奴隷で先行斥候のアッシュっていうガキを捜して来いって言われてるだけだ」
「それがなんで俺の話しにすり替わるんですか?」
「アッシュが消えた時期とお前さんがここに現れた時期がぴったり合い過ぎている。見た目もな」
「そういうことですか。だったらどうぞそのまま伝えてきてください。で、話があるならお前が直接来いって言っといてください」
「いいのか?」
こいつ、相手が貴族だってちゃんとわかってるのか? って顔だな。
「いや、良いも悪いもないんですよ。他にどうしろって言うんですか。ここであなたがたの口を封じても意味ないですよね。今となったらどうせまた似たようなのが来るだろうし。そもそもあなたたちだってそのアッシュっていうのが何したかも知らないんじゃないですか? まぁ、興味もないんだとは思いますけど」
図星だろう。発注したポメラってのも言われたからやってるだけなんじゃないかな。ひょっとしたらデミトリーもまさか西スラムに俺がいるとは思わないで探り入れた可能性があるな。本来なら南スラムの方が本命だよな。
「わかった。そうする。俺らは割りのいい仕事だと思って乗っかっただけだ。マジでスラム含めて同業者と揉める気はない。それで納得してもらえるか」
本当にどうでもいいのでそのまま帰すよ。俺としてはいつでもウェルカムなんだよね。不意打ち喰らうより正面切って大戦力で来て欲しいまである。けどまぁ、やれるうちは社会生活が続けられる方法で解決しようかなとは思っている。大戦争もジェノサイドも今のところそんなに求めてはいないかな。
「はい。そうしてください。あ、ちょうどバルたちが飲み物買って戻ってきたから一杯やってから帰ってください。俺も壁の中の話しとか聞きたいのでお願いしますよ。先輩!」
ライズとジェイがニヤニヤしている。ちなみに俺の言ってることは本気だ!
それから三十分ほど世間話に付き合わせた。聞いた内容は壁の中の生活だ。文化レベルと物価。ふたりは観念したように聞かれたことは全部話してくれた。そもそも話してる内容が本当にどうでもいいような世間話だからふたりにとっても拍子抜けだった。最後はちょっと笑みも出ていた。機会があったら手間賃を払うから調味料を買ってきてくれと頼んだ。
「貴重な話をありがとうございました」
「なんか、迷惑掛けちまったな」
「いやいや、冒険者なんてやってたらいろいろありますよね。先輩たちがプロで助かりました」
「ああ、じゃあ報告はさせてもらうからな」
それはこちらからもしっかりとお願いしたい。
「はい。お互い、無事に生きてたらまた会いましょう」
最後は本気の苦笑いで壁の向こうへ帰って行った。
「ジェイもありがとう。いろいろ助かったよ。この辺、ちょっと荒れるかもしれないからしばらくは気をつけて」
「何がなんだかわからん内に巻き込まれるよりいいわ。じゃあな」
そう言って席を立った。
「じゃあライズ、報告を聞こうかな」
やっと本日の本題ですよ。疲れた。




