第69話 勘定奉行
「じゃあライズ、昨日の報告を聞こうかな」
今日は本来はこの平和な話のためにわざわざスラムに戻ってきたんだよね。早くおもしろおかしい異世界タウンライフさせてくれよ。現代知識チートでキレイどころに囲まれてキャッキャウフフなのがテンプレじゃないのかよ。いつまでこの臭くて汚いスラムに付き合わされるんだよ。
もうね、昨日のキャンプがさ、この臭くて汚いスラムで過ごすよりもよっぽど健全で楽しかったよ。森の中がだよ? 森でキャンプの方が過ごしやすいってどんな街なんだよ。いくら俺がアウトドアマンだからってそりゃないよな。水魔法があるんだから排水だけなんとかすりゃ風呂だってがんばれば入れるだろうし、シャワーや水洗トイレぐらい簡単に作れるだろうよ。ここに住む連中にも衛生に関する知識を植え付ければ変わってくるのかなぁ。
「あ、あぁ、そうだったな。そのために集まったんだったな。えーと、まず一番の屋台の客は一日で八十三人、二番の屋台は六十五人だ。他の屋台はたぶん四十人ぐらいかな」
思ったより客がいるな。四十枚だと足が出そうだけど、人気店はなかなか良い売り上げなんじゃないかなぁ? なんでそれで儲からないんだろう。
「すごいなそんなに調べてたのか」
「うん。おかげでみんな数が数えられるようにったよ」
そう言ってライズは笑った。『銀狼の牙』のメンバーにはこれは絶対にこれからの人生に必要なことだから忘れないうちに数を数える練習を続けろと言っておいた。ついでに俺は文字を習いたいからそういう機会がありそうなら教えてくれと伝えた。
「じゃあこれが残りの報酬ね」
大銅貨を一枚ライズの前に置く。
「残りは銅貨三枚のはずだったけど」
「うん。期待以上だったから上乗せ。ジェイとの情報料込みで」
「そうか。ありがたく。ああ、それからな、出店のことだ。うちの母さんが知っていたよ。広場の中で屋台を出すには一日あたり銅貨一枚。屋台を借りるのにもう一枚を商業ギルドに払うんだ。場所は広場内ならどこでも自由に出していいってさ。で、税は取られない。あの真ん中あたりでやってる市は小銅貨五枚で場所が借りられる」
「ふーん。あとは燃料と材料費か。誰かどこか上質な炭を買えるところを知らないかな」
「炭が欲しいの?」
珍しく盾役のバルが声を上げた。
「バル、心当たりがあるのかい」
バルが頷いている。バルは身体もデカくて一見強面で強そうだが中身はとても温厚で心優しく無口な少年だ。頼りになる。パーティーの盾役としてうってつけの人材だ。『銀狼の牙』がいらないなら俺が引き取ってもいいと思うぐらいだ。あと、『赤竜の爪』の盾役だったボイルと同じ様に盾を振り回せるスキルを持ってるはずだ。なにげに今のところ『銀狼の牙』では一番、冒険者としての資質の高さを感じる。
「バルの家は炭焼き職人なんだよ」
ライズが無口なバルに代わって答える。
「へー。バル、実家の腕は確かかい」
「うん。親父と兄貴はいい職人だよ」
ちょっと怒ったように言い切る。いいね。よほど家族の仕事に誇りを持ってるみたいだ。
「いいね。仕事に誇りを持ってる職人は好きだよ」
さて、どうするか。デミトリーのことがなければすぐにでも始めるんだけどな。『銀狼の牙』は鉄級だからギルド同士のゴタゴタでなにか命令を受けるようなこともないはずなんだよな。ちょっとやらせてみようか。あとは俺に余裕がなくなったらその時は中途半端だけどゴメンだな。
「ライズ、ちょっと相談なんだけどさ。うーん、たとえばお前の家族とか周りで料理が出来る人間はいるか? 串肉の屋台をやりたいんだよ」
「え? ちょっと待て。どういうことだ」
「金は俺が全部出す。肉も。バル、実家から質の良い炭を買わせてもらうことはできるかな」
「それはもちろんぜんぜん大丈夫だけど」
「あー、ライズ、ちなみに串肉の値段だけどな、こっちで勝手に変えてもいいと思う?」
「いや、それはマズいんじゃないか。ここでは小銅貨一枚って決まってるから、ひとりが安くすると安売り合戦になって誰もいい顔しないと思うぞ」
「いや、下げるんじゃなくて上げたいんだ。一串小銅貨三枚に」
全員が「えっ!?」と驚いた。
「どうだ?」
「いや、上げるならだれも文句の言いようもないだろうけど。それじゃあ売れないだろ」
「そうかもな。ちょっとした実験だよ。それでさ、店をやってくれる人には売り上げに関係なく一日銅貨三枚出す。どうだろう」
「意味がわからん! 売れもしない高いヒマな串肉屋をやったら必ず銅貨三枚もらえるって言ったんだよな?!」
「まぁ、そういうことになるかな。でも、どんなに忙しくなっても銅貨三枚だからな。言ったろ、実験だって。で、それを最低連続十日間やりたいんだ」
全員が黙って俺が言ったことの意味を考えている。うん、考えるのはいいことだね!
「……そんなうまい話は誰も信じないだろうがお前が言うことだから俺は信じられる。そしてそれは俺がやりたいところだが料理ができないと話にならんからなぁ……なぁ、それ、うちの母さんでもいいのか?」
「料理ができるならもちろん構わないよ」
「いつからだ?」
「屋台とバルの炭次第でいつでも」
「ただな、ちょっと気になったこともあるんだ。昼過ぎになるとゲットーの奴が来て屋台を一件ずつ回ってなにか店主とやってたんだよ」
なんだ。そういうことか。
「へー。なんだろうね。それでバルの家の炭はいつごろから買えそうかな」
屋台も炭も明日には手に入ることが確定。炭はバルの実家が毎日スラムに卸しに来るから問題ないとのことだ。なんてことはない。この辺の屋台にもバルの家が炭を売っているのだ。
「明日の午前中、今日と同じ時間ぐらいにここで待ち合わせで」
「遅くないか。朝飯の時間はどうするんだ」
「ああ、いいんだ。そんなにすぐ作れないしどうせ売れないから。ちゃんと金は一日分払うから心配しなくても大丈夫だよ」
「いや、そんな心配はしてないけどな。まじめに商売をする気があるように思えないな」
「まぁまぁ、社会実験ってやつだから。俺もうまくいくかどうかはわかってないから。それで屋台はライズの母さんの名義で借りておいてもらおうかな。支度金と明日の分を前金で払っておこう。お前の母さんに信じてもらうためにな」
そう言って銅貨五枚をライズに渡す。炭はバルには値段がわからないということで明日払うことになった。
「今日もいろいろありがとう。助かったよ。これ、今日の分のギャラな」
そう言ってさらに銅貨五枚をライズに渡す。
「ちょ、ちょっと待て。金はさっきもらったぞ。えーと、これは何の金になるんだ」
アーノルドが考えながら口を開く
「えーと、今日の報告代? ってこと?」
「まぁそうだね。頼んだ仕事は昨日一日分のつもりだったからね。この報告のためにお前らは今日一日、仕事を受けられていないわけだから。本当は仕事を受ける時にそこまで考えて契約すべきだな。金を取らないなら報告の人員は一人にして、他のメンバーは別の仕事をするとか。報酬の値段だけで判断すると返って損をすることもあるからね。全体を見て判断しないとね」
コスパは大事だよ。
「なるほどね!」
アーノルドが楽しそうだ。いっそのこと金勘定はアーノルドがやってもよさそうだな。他人のパーティーのことだから余計なことは言わないけど。
「それから誰か、木工職人を知らないか。家具とか作れるような腕の確かな職人がいいんだけど」
「家具ならウチで作れるぜ」
弓の特性があったウィルだ。
「おー! 欲しいのは人が入れるくらい大きい桶か升みたいなやつなんだけど、どうかな」
「何に使うものなのかよくわかんないけど材料さえあればなんでも作れるよ。材料も木材なら親父に言えばいくらでも手に入るぞ」
「よし! 行こう! 今すぐ行こう! ちなみに他に家が職人とか腕のいい職人を知ってる人いる?」
「うちの親父は職人街で金物加工だぜ。武器防具はやってないけどな」
斥候候補で最年少のキリエが答える。
おまえらー! そういうことは早く言いなさい! こいつらが職人をやってないのは長男じゃないからだ。そこまで規模も大きくなければ成人男性を何人もでやる仕事でもないなら家を出るしかない。厳しいね。
「今からそれぞれの家を回って仕事が発注できるか確認したいんだけどいいかな」
実家に仕事を持って帰れるかもしれないというのは彼らにとっても誇らしい出来事だ。嫌はなかった。あと俺って金持ってる人に見えるよね。実際持ってるし。
さあ職人街だ!
あとがき
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