第6話 Trial & Update
時々止まって『探索』して獲物を探す。
ソロでの移動なので『探索』の能力を隠す必要が無いから身軽で気楽だ。こそこそと隠密行動するような姿勢を取る必要もないので今までの何倍も移動速度が速くなった。
やっぱり俺はパーティーを組むと戦力ダウンになりそうだなぁ。
野生動物は全てスルーしていたが、ホーンラビットを見つけたようだ。大きさと魔力の容量からアタリがつく。
木の上からじっと観察する。そこにいるとわかって探しているので簡単に見つかる。ホーンラビットごときに今更遅れを取るつもりはないが、今後のためにもスキルを練習しておく。石をぶつけて狩るわけだが、あまり小さい石は落下速度が出ないので威力が小さい。普通に握って投げられる程度の石でも時速百キロも出ていれば直撃で相当なダメージになりそうだ。ただ、即死させるには少し威力が足りない。どの程度の大きさの石がどの獲物に相応しいかを検討したい。獲物に与えるダメージを最低限に抑えたいからだ。
毛皮やツノ、牙、爪、肉、魔石。
損傷が酷ければ下取り価格が下がってしまう。
ホーンラビットを見ながら考えていたらいろいろアイデアが湧いてきた。これは楽しそうだぞ。あとで試してみよう。
とりあえず今は石しか用意できていない。大人の握りこぶしほどの大きさの石をセット。ホーンラビットの首の付け根をロックオン。
射出。
ドスッ
昏倒したホーンラビットに向かう。
収納から盾役のボイルが持っていた短槍を出して首の付け根を刺してトドメ。驚いたことにホーンラビットはまだ生きていた。おそらく脳震盪とか、ひょっとしたら脛骨損傷ぐらいはしていたかもしれないが、死んではいなかった。
こいつらは額から生えたツノを使って一直線に刺しにくる。首の骨も通常のウサギなどより遥かに強化されている。検証しながらさっさと解体する。
ちなみに、躊躇なくすぐにトドメを刺しに行ったのは、ホーンラビットが『収納』できなかったからだ。離れた位置から生死確認が出来るのはものすごく便利だ。これで戦闘や狩猟での危険度が大きく下がる。
と、いうわけで新兵器。
ドーガとボイルが装備していた片手斧を取り出す。身体強化を使って思いっきりぶん投げる。手を離れた瞬間に収納。
二本とも収納したら今度は上空から落下させる。しばらく繰り返していると回転が不安定になってふらふらとしてしまったので木にぶつけて一度回収。
そうだよね。回転運動は落下では維持できないどころか減衰してしまうよね。
尖った刃先が立つように速度が付かないとダメだ。
今度は出来るだけ真っすぐ回転するように投げて収納。自由落下はナシで木の幹の手前数センチの位置から斧の刃が立つように排出。
ドカッ!
思ったところに直で刃を立てられるから片手斧の運用はこれが一番いいのかもしれない。ホーンラビットならこれで首を一撃で刎ねられる。
矢に関しては強い弓で射出するしかない。自由落下では速度が稼げない。
試しに 狩人の装備品の弓矢を取り出す。
身体強化を使って引いてみるが、リーチが足りなくて最後まで引ききれない。そのまま撃つが威力的にはイマイチだ。これもホーンラビットぐらいなら使えそうなので何本か撃って収納しておく。
冒険者装備としてのクロスボウは見たことがない。身体強化を使っても連射速度が遅いからだ。だったら普通の弓を身体強化で連射した方がよっぽど運用しやすい。砦や城など、戦争の道具としては存在している。なんとかアレの射出後の矢を収納できないかなぁ。事前に矢をストックするための収納専用兵器として入手するのはアリか。今後の課題として覚えておこう。
ナイフも何本か速度付きで収納しておく。
斥候と狩人が投げナイフを持っていたのでそれも速度付きでストック。これで安泰。
タイマンなら負けないゾ!
というかパーティー相手にしても負けないな。
怖いのは先制攻撃を受けることだ。しばらくはやられる前にやってしまおう!
巨石以外の威力が大きいなにかが欲しいなぁ。ボアやベアなどのデカい魔獣をできるだけ傷つけないで狩れる方法を見つけなければ。
楽しんでばかりいると帰りが遅くなるので、他の冒険者に会わないよう気を付けながら森の出口を目指して進行する。
金もあるので獲物を狩る必要はないから移動速度優先だ。魔力を纏うようにイメージして身体強化をオン。昨日までとは比べ物にならないぐらい軽い。
身体が軽い。
心も軽い。
呪いが解けたからかな?
今さら首元の革鎧を引っぱって自分の首元を見る。
さっきまであったはずの奴隷紋が消えている!少なくとも今朝まで見えていた部分は消失している。やはり契約者がいなくなったら契約が無効化されるのかもしれない。問題は契約書が残っている場合だ。
例えば全額払い終わってなくて、不測の事態が起きたら売主に戻るとか書かれている場合もあるだろう。俺の場合は買われて三年経つからもう大丈夫だとは思うが……なんとか早めに確認したいなぁ。
深呼吸をして気持ちを切り替える。
この辺りは魔素が薄くて自然そのものの清涼な空気だ。
さて、もうひとつの『魔力操作』も検証したい。今日はやたらと魔力の通りが良い。これがスキルの効果だろうか。
これをさらに追求する。
魔力の生成を意識する。
鳩尾のあたりから全身を巡るように。
普段の身体強化だとこれを全身に行き渡らせるイメージだが、それでは放出してしまうのでは? ということで行き渡らせて余った魔力をそのまま循環させていく……
いや、魔力を血流に乗せて必要な時に必要な分だけ使って、余った分は他のために回していけば……
未使用魔力が貯まっていく感じがする。
そのイメージのまま移動を開始。
毎秒ごとに周囲に探索を飛ばす。
そこにあるのではないかと探すのではない。
ただ魔力の波を立てるように感じるのだ。
『探索』ではなく『走査』だ。
周囲の風景すべてが流れ込んでくるのがわかった。
『収納』した物体の情報が五感よりも正確に理解できた時の感覚と同じだ。
『走査』したもの全ての状況がわかる。
視覚以上の情報量の洪水だ。
自分を中心に球体が形成されている。
木の裏、草花の向こうもわかる。
自分の踏み込むべき場所、避けるべき枝の一本一本が理解できる。
僅かな梢の間を触れることなく擦り抜ける。木の枝から枝へ飛ぶように走る。
もう、森の出口なのか?
飛び出さないよう注意して森の先端にある巨木の上で身を隠す。左方、二百メートル先に野営地があった。
森と南地区を往復する駅馬車の運行場所だ。
駅馬車は冒険者ギルドが運用していて、人員と獲物素材の運搬をしている。利用するには冒険者登録をしていることはもちろん、一回ごとに料金も発生する。順番は壁の中のギルド所属の冒険者が優先だ。スラムギルド所属の冒険者が使いたい場合は早めに来ないと使えないまま終業になることもある。
他には冒険者クラン所有の専用馬車などもあり、南地区冒険者の安地となっている。集団でいることで安全地帯を形成しているのだ。野営地はもう少しグランデール寄りの場所に別にある。ここはあまりにも森に近過ぎるからだ。
俺は冒険者ではない。
先行斥候という役割を与えられていただけで、身分的にはただの奴隷だ。今は飼い主もおらず、奴隷紋も無いのだから貧民街の孤児というだけだ。
冒険者ギルドに登録するには十二歳以上という規約がある。特例があればそれよりも前に冒険者登録は可能だが、それは貴族向けに存在する特別ルールというただの慣例だ。
ちなみに特例の条件は
・貴族の推薦がある場合。(一代貴族は除く)
・ギルド長の推薦がある場合
・銀等級以上の冒険者からの推薦がある場合。
などだ。結局、グランデールならバーランド辺境伯に賄賂を贈って資格を買うってことだな。
貴族で箔付けのために冒険者位階を欲しがるやつは多い。それが金等級だっていうんだから笑うしかない。
十二歳の成人前の子供が金等級の冒険者章をぶら下げて社交場にでも行くのだろうか? それ、やってて恥ずかしくないの?
というかスキルが発動するのが十歳なんだから登録も十歳からでいいだろうに。この世界のやつらってそういう合理的というか知的な考えが出来なさ過ぎるんだよなぁ。『改善』広めてやらないとダメなのかぁ?
とりあえず俺は等級とか興味もないしどうでもいい。獲物を狩って換金できればそれでいいだろ?狩人でいいよ。
さて、俺は手ぶらだし、サクっと走って戻りますか!




