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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
1章

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第7話 慰労金

 南スラムまで走って戻ってきた。


 ここはひとつ、変に姿を隠すより堂々としていこうじゃないか。これからスラムギルドに行ってパーティー全滅の報告をする。回収した冒険者章(ドッグタグ)からメンバーがギルドに預けている金を引き出す。というか引き出す金があるのかすら知らん。あれだけ大金を持ち歩いていたなら預け金は無いのかもしれないけどな。貯金するような奴らとも思えないし。あったらいいなぁって話。


 いずれにせよ、報告だけはしておいて俺の身分をキレイにしておきたい。三年の活動の間に顔見知りになった連中も多い。俺が知らなくても向こうが俺を知ってるってことも大いにあり得る。


 底辺をうろついてたクズ野郎たちが、わずか三年で銅位階(ブロンズ)三等級まで駆け上ったパーティーはかなり目立っていたはずだ。そんな新進気鋭だったパーティーの先行斥候(アドバンススカウト)の俺を欲しがる奴らがいても変じゃない。


 ただ、誘いがあったとしてもパーティーを組む気が無い俺には面倒なだけだ。ということで、これからは拠点を森が近くて稼ぎやすい西スラムに変えるつもりだ。


 えーと、まずはギルド長はいるかなあ。いないね。お出かけかな? 好都合。


 まだ昼過ぎのこの時間は各パーティーの帰還前でギルド内が一番閑散としている時間帯だ。併設の食堂兼酒場で昼間から飲んだくれてる奴はいるけどね。


 受付カウンターにいるのは誰だ?

 お、いいね。暇な時間ということで若手がひとりで立っている。あいつは俺のことをあからさまに馬鹿にしてくる差別野郎のタイスだ。よし、徹底的にやっちまおう。


 そう心に決めて、奴隷紋が無いのを隠すようにフードを目深(まぶか)に被った。スラムギルドに足を踏み入れ、目立たないよう普通の速度でカウンターに向かう。これから生贄(いけにえ)にされる不幸なギルド職員の前に立って、声変わり前の甲高い声を抑えるために、出来るだけ低い声音(こわね)で静かに、そして一方的に話し掛ける。


「報告。所属パーティーが全滅した」


 これから張り出す依頼票の確認作業をしていた若手職員のタイスは急に掛けられた不穏な報告を脳内で処理し切れず「ん?」という感じで顔を上げた。


「……黒髪(くろかみ)小僧か。は? なんだって? 全滅? え? は? えっ、そ」


「騒ぐなよタイス。お前が騒ぐとパニックが起きるぞ」


 俺の顔を見て不機嫌になりながらも言われた言葉の内容を理解するにつれ混乱する仕事の出来ない男。それがタイス。


 『赤竜(せきりゅう)(つめ)』は、銅階位(ブロンズクラス)三等級という銀級(シルバークラス)目前の注目の冒険者パーティだ。


 花形だ。スターだ。憧れだ。そんなアイドルグループ全員が急死したと言われたらタイスみたいなタイプの人間は簡単に処理落ちして使い物にならなくなる。俺はここぞとばかりに、この馬鹿が我に返る前に操り人形にするべく追撃を入れる。


「騒ぐなよ。いつも通り冷静(クール)に仕事してるフリをしろ。他の冒険者のためだ」


 まったく意味不明である。

 タイスは別にいつも冷静に仕事を(さば)いているわけでもなければ「他の冒険者のため」に至ってはまったくなんのことかわからない言い分だ。


 しかしタイスの受け止め方は違う。いつも下に見ている俺という奴隷にとって、タイスという目上のエリートギルド職員は常に冷静沈着なシゴデキ男なのだ。だから「いつも通りクール」が効果を発揮し、クールに俺の言いなりになる。もちろん緊急事態(ゆえ)の秘密事項だから他の冒険者に知られてもいけないのだ。なんのこっちゃ。


「ほお? さすがエリートだな。で、だ。恵みの森の奥でフォレストウルフの群れを追っている内にボアの前に出てしまったらしくいきなり突撃されてそこから一気に破綻(はたん)して全滅した。たまたま運良く生き残ったのは俺だけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 前半を一気に(まく)し立てて最後の部分だけを殊更(ことさら)はっきり、ゆっくりと大事なことのように言う。冷静(クール)でいたいパニック中のタイスは唯一命じられた上に、唯一自分に出来る事を忠実に実行するしかなかった。


「そのまま待っていなさい」


 と、青い顔で冷静に言って手足を同じ方向に動かしながら奥の棚からファイルを抜き出すと中から一枚の書類を取って戻ってきた。


「こちらになります」


 冷静に敬語になっちゃうタイス。

 書類を覗き込むと、そこには意外な金額が書き込まれていた。


『金貨四枚』


 マジか。

 ドーガの懐には金貨が一枚入っていた。

 この四枚と合わせるとずいぶんとキリが良い数字になる。

 怪し過ぎる金額だ。うむ。もらっておこう。


 乾いた血がこびりつた冒険者章(ドッグタグ)を音が鳴らないようにそっと一枚ずつカウンターに並べていく。


 ごくりと唾を飲んだあとタイスの顔が徐々に「わぁ、ホントに全滅したんだー」と笑顔になっていく。お前、逆に凄いよ。逆にだけど。


 ここで最後のトドメを刺す。


「それでは今すぐ引き取り手続きを頼む。冒険者章(ドッグタグ)の提出と引き換えによる死亡冒険者財産譲渡権の行使だ。あまり騒がないで頂きたい。クールに、な。雲の上が絡む話だ。出来るだけ静かに、速やかに頼む」


 冒険者章(ドッグタグ)を持って来るということは、その持ち主の死亡を意味する。


 死亡者の財産は冒険者章(ドッグタグ)を持つ者に移譲されるのがルールだ。この馬鹿げたルールのせいで冒険者同士の殺し合いが終わらない。まったく誰が何のために作った決まりだ。もちろん貴族が自分たちのために作ったであろう決まりだな。


 決まりは決まりなんだからとっとと処理しやがれってんだが仕事の出来ない奴はそれが出来ない。だから俺がホームで先頭に立っているタイスの背中をそっと押してやる。


 「雲の上が絡む」と言った時は人差し指を空に向けてツンツンとしてやった。これで勝手に貴族案件だと思うだろう。俺はそんなこと一言も言ってないよ?

 俺は、今頃は雲の上の天国(ヴァルハラ)にいる故パーティーメンバーのためによろしくっていう意味で言っただけだから。


 本来、こんな怪しい話はすぐに上長(じょうちょう)に確認を取るべきなのだが、貴族が絡んでいると思ったタイスは、現在ギルド長が不在であることを思い出して冷静に誰にも何も告げずに金庫のある事務室奥に向かって行くのであった。


 そもそも奴隷には譲受権が無いから受け取ることは出来ない。俺は今は奴隷じゃないから問題無いが、金は別にどうでもいい。そんな大金は渡せないと言われたらゴネるつもりも無かった。だってこの金、ヤバすぎるもの。


 (ほど)なくして小さなトレーに小綺麗な麻袋を載せたタイスが戻って来た。

 マジかよタイス! ありがとねー


「こちらになります。ご確認を」


 (いま)だ冷静に敬語なままのタイスに安心しながら袋を受け取ると、口を開いて外からは見えないように中身を確認する。見間違いようもない、金貨が四枚入っていた。


「確認した。俺はすぐに向かわねばならないのでこのまま行く。あとの処理は頼む」


 そう言うと返事を待たずにくるりと背を向け出口に向かってサッサと歩き出す。


 すぐに向かわねばならないのは風呂だ。最後に見たタイスの顔には他にも何かあったはずだと書いてあったが、彼の中身は、何と言っていいかわからないパニック野郎なので茫然と突っ立って俺の背中を見送るしかなかった。


 その後の彼はパニックを気付かれないために冷静に自分が出来ることを実行した。

 冒険者章(ドッグタグ)を隠して、誰にも何も言わずパーティー全滅解散の手続きをした。


 そして、翌日の昼過ぎにギルド長が現れるまでこの秘密を守り通した。


 ちなみに俺換算で金貨一枚一千万円だ。報告を受けたギルド長の顔が赤くなるのと反対にタイスの顔が青くなっていく様が思い浮かぶが、この日を境にタイスを見掛けたことがないので事の顛末(てんまつ)はわからない。


 ギルドを出た俺は、胸当ての裏に感じる確かな重みを楽しんだ後『収納』してホッと息を吐いた。


 これで益々(ますます)こんな場所に用は無くなった。とりあえずギルド職員にパーティー全滅に至る状況報告と解散の申告もしたので、このまま南スラムを出ることにする。


 目の前でパーティー解散手続きをするところまで確認すればよかったかなと一瞬後悔しかけたが、()()タイスならきっとやってくれるはずだと思い直して忘れることにした。

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