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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第3章 DAY3

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第63話 ここぉをキャンプ地とする

 埋めたとはいえ血の臭いが漂っている可能性があるのでボアを収納して少し移動することにした。今日のところはこれ以上狩りもしなくていいかと思ったので身体強化時のバランス感覚強化を兼ねて枝の上を移動する。初心者のオルカには下手に速度を落とし過ぎると余計にバランスが取りにくいこともあって、地上を進むより遥かに進行速度が速い。五分も経つと相当な距離を稼げた。


 木が適度にまばらな場所を見つけて停止。オルカにすぐそばまで来るように要請。ピタリとうしろに付く。そのままたっぷり三分間身じろぎもせず静止。危険がないことを確認してから口を開く。これはもちろんオルカのための通常の『探索(サーチ)』の見本だ。『走査(スイープ)』ではここに着いた時に全部見えている。


「今日はここぉをキャンプ地とする!」


 高らかに宣言する。オルカはちょっと首を(かし)げただけだった。


 水魔法で水が豊富に使える場合はキャンプ地を川辺などの水場にする必要もない。それよりもディフェンスに適している場所を選べる。そして森の夜は早い。木が日光を遮り平原よりも遥かに早い時間に暗くなってしまう。だから早めに宿泊地と陣地構築が必要なのだと教授していく。


「暗くなる前にごはんの準備をしよう。オルカ、焚火の下地を作ってみて」


 シャベルを出してオルカに渡す。何度か俺の作業を見ていたので問題なく下地が完成。なぜその作業が必要なのかだけ伝える。ここを去る時に完璧に現状回復することで敵対勢力に痕跡を発見されにくくすること、森を守る意識も必要なことを教える。今回は炎を隠すために焚火の周りに石垣を作る。暗所では炎が目立つのだ。


 今回は割れて平らになった石を焚火に入れておく。もちろん、ステーキのためだ。オルカにはまだ内緒だ。木のまな板にさっき切り出したばかりの新鮮なボアの背中の肉を載せて厚く切り分ける。それだけでオルカの視線は釘付けだ。今夜は役割分担の見張りは免除してやろう。そこでじっくり見ているがいいさ! まな板を二枚出して、それぞれ自分用に塩、コショウ、ハーブをばっちり裏表に(まぶ)していく。俺の作業を見ながら真剣に自分の肉に調味料の化粧を施していく。この場合は厚化粧でもいいんだぜ! そのまましばらく寝かせる。思い付きで昼間に採取した薬草をちょっと切り刻んでみる。ふーん。悪くない香りだ。ポーションの独特の清涼感を感じる。試しにひとつまみそのまま食ってみる。ふむ。臭み取りのアクセントにいいね。ボアの背中肉には無くてもいいかもだけど試しに少しだけ塗しておく。オルカの方はナシで。


 昼に焼いたホーンラビットの串肉もあるけど、やっぱりひと口目にボアいっておきたいよね! っていうことで氷入り果実水だけで待機。初キャンプに乾杯。


 さて、そろそろ石も焼けたかな。焼けた石を収納。二人の目の前に石を並べて焼けた石を置く台座を作る。台座の上に焼けた石を出す。そこに肉を置くと……


 じゅー! っといい音をさせて火が入っていく。肉からは脂が出てそれがまた焼けることで食欲をそそりまくる暴力的な匂いの煙が立ち上る。俺は自分の肉が焼け過ぎないよう肉をひっくり返す。オルカは口を開けて見入っている。


 『夕暮れの泉亭』で譲ってもらった二又フォークのデカいやつをふたつオルカに渡してある。許可は要らない。我にかえったオルカもそれを使って石の上に肉を置いた! じゅーっ!


「オルカ、脂が跳ねると火傷するから気を付けてね」


 一瞬、俺の方を見てうなずくが、視線はすぐに肉に戻る。俺は自分の肉をもう一度ひっくり返す。オルカのフォークのひとつをナイフと交換する。端の方に塩を盛る。ナイフを使って真ん中から分厚い肉を切る。切り分けた肉を倒して断面にも少しだけ火を入れる。フォークを使って塩と脂をちょいちょいと混ぜる。ボアでこんな料理やったことないので最初はちょっと火を入れ気味にしてみる。焼けた肉をさらにひと口大に切ってさっきの塩の溶けた脂にちょんとつけて……


「いただきまーす」


 ぱくり。じゅわぁ……。


「くっ。うまぁっ」


 オルカが俺と自分の肉をせわしなく見比べる。オルカの透き通る青灰色(クリアブルーグレー)の瞳がキラリと光る! 今だ! 迷いのないナイフ捌きで肉を切り分ける!


「いただきます!」


 ぱくり! もぎゅもぎゅ~。


 至福の表情のオルカ。


「これは、美味しいね。いくらでも食べられそうだよ」


 オルカが激しく同意。


「ねえ、オルカ。この肉、俺たちものすごい量持ってることになるんだけど。知ってた?」


 驚愕に目を見開くオルカ。そうだ、これは切り出した極々一部分でしかないのだ!


「慌てないでゆっくり食べていいからね。いつでも好きなだけ食べられるし食べさせてあげるからね!」


 オルカは驚いたりニコニコしたりしながら食べ続けているけど「いただきます」以降言葉を忘れたようだ。美味しいものを食べる時の反応として満点だよね。見てるこっちまでうれしくなる。追加の石板を火に入れて熱しておくのも忘れない。溶岩石をどこかで加工出来ないかなぁ。石工師はさすがにいないよなぁ。鍛冶師と仲良くなったら相談かなぁ。おっと、オルカがもう半分以上食べちゃったぞ。追加の肉を用意しておくか!


「オルカ、おかわり食べる? 食べられるなら用意するけど」


 無言でうなずくオルカ。


「じゃあそのまま食べてていいよ。準備してるから」


 俺は肉を食いながら追加肉を切り出して味付けしていく。試しに焼肉スタイルで薄い肉も切り出してみる。今日買った解体ナイフの切れ味がすごくて薄切り肉が簡単に切り出せる。それを焼く。自分用に作ってあった箸で塩のみで食べる。うん! これもイケる! 隣から口をもぐもぐさせたオルカが目線で「それはなぁに?」と訴えている。何枚か薄切り肉を作ってオルカの石版に載せる。あとはご自由に。食感が変わるだけでこんなに味も変わるんだなぁ。焼肉の味変でさらに肉がすすむ!


 果実水で脂を流してさっぱりしたらまた脂を楽しむ。ハーブ多め、胡椒多め、薬草多め……。そうして第一回俺たちのボア肉祭りは大盛況の内に終焉した。


「ごちそうさまでした」


 おもわず手を合わせて言っていた。なるほど、俺、やってるわこれ。記憶戻ってからだな。気付いてなかった。ただ、あれだな。これはやめる気にならないや。これは俺のアイデンティティな気がする。オルカが興味津々なのでこれも説明した。食べ終わったオルカも真似してやっていた。強要はしない。これは儀式みたいなものだ。やりたい人だけがやればいい。


 女神への祈りはある。アゼリア正教国では今でも強烈に信仰もされている。グランデールのスラム、特に俺の周りではほとんど信仰心のある人間はいなかった。教会もあるので壁の中とかだとまた変わってくるのかもしれん。まぁ、黒髪の俺なんかは近寄らない方がいい場所でもあるからどうでもいいけど。


 早めの晩飯にしたがもうだいぶ暗くなった。オルカはこのまま交代で火の番でもして野営と思ってそうだな。ふっふっふ。現代知識チート持ちの俺との野営がこのままで済むわけがなかろう? さぁ、夜は長いんだぜ? 楽しませてもらおうか……


 炎から少し離れた(たいら)なところに昼の間に作っておいた長めの木の板を並べる。だいたい一メートル五十センチ四方になるぐらいに敷き詰める。そこにサンダルを出す。


「オルカ、シャワーの時間だよ」


「? しゃわーってなあに?」


「うーんとね、水を浴びて身体をきれいに洗うんだ」


「ん~。水浴びするの?」


「まぁ、そんな感じかな。先に俺がやってみるから見てて」


 そういうと板の手前でブーツと靴下を脱いで板の上に立つ。装備を上から順番にひとつずつ外して収納する。やろうと思えば収納で外せるけどオルカが驚きそうだから手で外していく。防具が外れたら服も脱いで全部収納して裸になってサンダルを履く。板がカンナ掛けしてなくて怪我しそうだからサンダルを出してみた。毎度のことだが全裸を恥ずかしがってはいけない。これは普通のこと!


 手を洗う時にテストして出来るのは確認済みなんだよね。温風のドライヤー魔法と同じだ。名付けて! 『給湯魔法』だ! まずはお椀にした手の中に温かい湯を溜めてそこからあふれ出すお湯を頭から掛ける。うん、いける。気持ちいい。


 さあ、ここからだ。自分の頭上にそう、穴の開いた天井があるイメージで……


 そこから温かいシャワーが……


 ざーざーざー!


 最高だなこれ。俺の生活魔法が冴え渡る! 少しずつ温度を上げる。ふー。たまらん! 春とはいえ森の夜はまだ冷える。お湯のあたたかさが身に沁みまくる!


 じゅうぶんに身体が温まったところで石鹸を出して手ぬぐいに泡を作って身体を擦りはじめる、と。オルカの手が伸びてきて俺の手から手ぬぐいを取って背中を擦り始める。え、いまオルカの手。服がなかった?


 振り返ると裸になったオルカが微笑みながら俺の肩を手ぬぐいで擦っている。


「オルカ、お湯浴びないと寒いから」


 俺はそう言うと再びシャワーを出す。生まれて初めて浴びるあたたかい水だ。そっか、雨みたいに降るなら頭から掛かっても怖くないのか。そんなどうでもいいことを思いながら熱いシャワーを浴びた。


 立ったままシャンプーするのは難しいので丸太を出した麻布敷いてイス代わりにして洗った。香油が慣れない手でオルカがやってくれた。どうやらお姉さま方にやり方をレクチャーされてきたらしい。いつの間にね。オルカに教わりながらやり返す。やっぱり短い髪の方が楽そうだなぁ。


 実は何回か魔獣が来てた。デカいやつじゃないけど。『走査(スイープ)』頼りで石をぶつけて回収した。怖がるといけないからオルカには内緒で。


 そろそろ日が暮れそうだ。




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