第61話 習慣ってやつは
オルカが楽しそうに野ウサギちゃんを掻っ捌いて内臓を引きずり出している。いや~、家庭料理をする女子って和むよね~。
野生動物は魔獣と違って冷やしながら数日寝かした方が肉が柔らかくなって美味しいということは先に伝えてある。捌き終わったあとすぐその日の内には食べられないって知ったらちょっと残念な気持ちになるよね。スラムでは寝かせておく余裕がなくて固いまま食べちゃう。それでもご馳走なんだけど。
どこかに肉を保存できる場所が欲しいなぁ。川に沈めてもいいから森の浅いところか近くにいい場所ないかな。この辺に安地があればなぁ。もっと内陸に行けばそういう土地もあるんだけど。当面は自分も含めて修行して強くならないとこの厳しい世の中に負けてしまうからね。
そろそろ捌き終わりそうだな。というわけで収納から長めの串を出して、と。オルカに枝を渡して肝臓を刺してもらう。それをとりあえず一旦収納する。毛皮と肉も収納。内臓と骨を穴に落とす。水と石鹸で手を洗わせる。
その間にシャベルで下生えを処理。手を洗い終わったら穴を埋め戻す。
「よし、手はきれいになったね。石鹸の使い方ももう問題ないね。捌くのも上手だったしすべて順調だ。じゃあ、はいこれ」
そう言ってさっきの肝臓を刺した枝を渡す。
「今、火を出すから待ってて」
下生えを処理した地面に昼の焚火を出す。オルカが驚く。わかってはいたけど俺も驚く。焚火を出した本人が驚いているのを見てオルカに笑われた。いや、これ不思議現象すぎるでしょ!
「じゃあそれ炙っていいよ」
串が燃えないように気を付けながら肝臓に塩と乾燥ハーブを振って炙る。なんともいい匂いが漂う。そろそろかなというところで氷入り果実水を作る。木皿を出してオルカに渡す。
「落としたらもったいないから木皿を下にして食べた方がいいよ」
恵みの森の魔獣エリアの手前で三時のおやつ的なレバー焼き。オルカがハフハフいいながら食べている。栄養になれ~
「ん」
オルカが皿に載せたレバーを俺に渡してくる。果実水のジョッキを渡して木皿を受け取る。
「オルカが獲って作ってくれた初手料理か! これは金貨より価値があるね!」
他人の作ってくれた料理だ! しかもそれが可愛い生徒が作ってくれた手料理だぞおい! 先生を泣かせるんじゃないよまったく!
「いただきます」
ひとくち食べる。目を閉じて味わう。命を頂く味がした。
「うまーい!」
オルカに返す。「もういいの?」っていう顔だ。
「うん。俺との狩りでオルカの初物だからね。もう充分いただいたよ。最近さ、けっこう美味しいもの食べてたんだけどさ、これが一番美味しかったよ。ごちそうさま」
オルカが食べながら俺に聞いてくる。
「ロックって食べる前に必ず「いただきます」って言うよね。あれはなあに?」
記憶になぃけとなぁ?
「え? そんなこと言ってたっけ?」
レバーを食べながらウンウンと首を振るオルカ。
「そっかー。じゃあ無意識だなそれ。それはね」
説明した。
「ふーん。なんか、いいねーそれ。わたしもやりたい」
「いいんじゃないかな。今オルカはそのウサギの命をもらってるから。奪ったあなたの命を頂いて私は生きていきますという感謝の気持ちを込めればいいと思うよ」
オルカはひと口分残ったレバーを掲げて見ている。
「いただきます」
そうして静かにレバーを味わった。
「命の味はした?」
「うん。命が入ったよ」
もぐもぐしながら目を閉じて胸に手を当てる。
「じゃあそのウサギの分も一生懸命に生きないとね」
食べ終わった串を焚火に投げ入れて炎を見ながら「そうだね」と言った。
焚火をあっという間に片づける。何度やってもすごく便利だ。そして焚火台を作ろうと決意した。足つきの焚火台なら地面の処理さえいらないぞこれ。鉄板と、可能なら網も用意しよう。フライパンも欲しいし、そうなってくるとフライ返しも! 中華鍋はどうだ? ダッヂオーブンは?! ライズかボルツに職人を紹介してもらおう。収納で運用するなら薄い素材じゃなくてもいいから簡単に作れそうだ。
さて、それはそうと街に引き返すならそろそろいい時間なんだけど……
「オルカ、今夜は森で野営しようと思うんだけどどう思う?」
軽い調子で聞いてみる。
「ロックがそれでいいと思うならいいよ」
「ありがとう。オルカが少しでもつらかったらそう言ってくれていいよ」
まったく問題ないというか楽しいとまで言ってる。適応力すごいね。行軍の最中に余裕がある時は魔力の使い方のコツや、身体強化の習熟練習をしている。思った通り筋が良い。今日のテスト行軍だけでずいぶんと身体強化も探索も習熟度が上がったと思う。なにかが解放されて一気に開花する感じだ。才能って怖いなぁ。俺も奴隷時代にギリギリの戦いの後とかにそういう感覚が何度もあった。明日、一晩ゆっくり寝たあとにどうなっているか更に楽しみだ。
時々魔力回復と称して身体強化を切らせている。身体そのものの強化も必要だ。俺たちは成長期のこどもなのだから。食って、運動して、寝る。これ大事。
オルカの装備は途中から狩猟ナイフを外して、代わりに小さめのジョッキを装備している。こまめな水分補給の訓練も開始。俺はパーティーリーダーとしてメンバーのコンディションは考慮するけど、体調管理は最終的には自己責任だからね。水筒にして魔力の消費を抑えるのでもいいんだけど、魔力量に余裕があるなら綺麗な水の方が美味しいしね。
食べられる木の実や果物も採取しまくっている。どれだけ採っても収納に入れ放題なのでオルカも夢中になっている。木の実は煎ったり干したりしないと食べられないので後日のお楽しみだ。焚火をした時にでも作りたいからやっぱりフライパンは早めに欲しいな。ベリー系の果物は腰袋やポーチに入れておけばそのままでも行軍中のいいおやつや補給食になるし、余ったものは干しておけば日持ちもする。
一度ならず薬草の群生地を見つけたが、オルカの練習に少し採取しただけで大量には採っていない。自分たちで精製できるならいいけど、売り物としては今のところ魅力がないからだ。その採取の時間は狩りに充てたい。
おっと、ボアがいる。オルカもボアを狩ったことはないだろうからちょうどいい。
今日のシメにボア狩りいってみよー。




