第59話 ヌシたる理由
外観が真っ赤な箱馬車は内装も全部が赤一色だった。目がチカチカする。ポメラの向かいには二人の冒険者の男が座っている。見た目の清潔さで壁の内側の所属とわかる。階位も低くはなさそうだ。
「二日前の午後に冒険者ギルド内でなにやら揉め事があったそうです。黒髪の子供が一人でやってきてギルド内で若い冒険者と喧嘩になってぶちのめしたという話です」
「あらららぁ。あたりじゃぁないのかなぁン。その子供の素性わぁ?」
もうひとりの男が答える。
「名前はロックと名乗ってます。奴隷ではありません。若い冒険者をぶちのめした後に副ギルド長とも揉めて、冒険者パーティーに魔獣の毛皮やら肉やらを運ばせながら商業ギルドに入って行ったそうです」
「あれれれぇぇ。んーん。ちょーっと面倒だねぇ。とりあえずそのロックってのにお話しぃを聞いてみないとねぇ」
「商業ギルドに入ってから行方が知れません」
「肉と毛皮を運んだ冒険者パーティはわかってます。というかここらのほとんどの冒険者連中がこの話を知っています」
「ん〜ン? いったいなぁんなんだぁい」
「翌日、つまり昨日のことですが、商業ギルドから完璧なグラスウルフってのが運び出されたそうで。それを冒険者ギルドに持ち込んだのがロック。冒険者ギルドで揉めて商業ギルドへという」
「まぁすますわからないねぇ。一緒にいたっていう冒険者にお話しを聞いてみたぁいよねぇ」
「それが、そのあたりの経緯はスラムの冒険者はもう誰もが知ってるようです。まぁ、当の本人たちに聞くのが一番間違いなさそうなのでこれから接触して聞き取りをしてみます」
「うぅぅん。そぉだぁねぇ。よぉろしく~ン、ねっ!」
冒険者二人はドアを開けるとそのまま走る馬車から飛び降りてスラムへと戻って行った。赤い箱馬車は三倍の速度を出すこともなく壁の中へと消えて行った。
「なんなんだこの仕事」
「まぁそう言うなよ。この程度で金払いだけはいいんだから」
「だから余計気に入らないんだけど?」
「俺たちは言われたことだけやってりゃいいのさ。さて、スラムの鉄級パーティーか」
「……俺は手荒なことをする気はないからな? 貴族の言いなりになって身内の連中と揉める気はない」
「いや、それは俺もそうだって。見ただろうあの馬車。あっちもまとめじゃないんだ。まぁうまいことやろう」
彼らは顔見知りではあったが同じパーティーでもなかった。ポメラのことは当然知っていたが普段から仕事を請け負う仲でもなかった。たまたま壁の中のギルドの酒場で飲んでたら受け付けから割の良さそうな仕事だけどと誘われて受けただけだ。そのわけのわからん仕事もあと半日の辛抱だと思いながらスラムへと戻った。
午前中の聞き込みでライズの冒険者パーティのことはなんとなくわかっている。あとは今どこにいるか探さなければならない。とりあえず冒険者ギルドの酒場に行ってそこにいる冒険者に聞いてみるかと決めた。
「え? ライズたちが今どこにいるかって? あー、うん。まぁ知ってるけどな」
酒場のヌシみたいなヤツは一目見ればわかる。声を掛けて正解だった、が。
「お前ら壁の中だろ。そんな金持ちが俺らみたいなのからまさかタダで情報得ようってんじゃないよな」
ヌシなだけあってタチは良くなかった。こんなことで揉めることはないし言い分も尤もだ。
「いや、それは当然だ。俺らはただここで面白いことがあったって聞いたから、せっかくだったら当事者から話が聞きたいと思っただけだからよ」
「おー、そういうことか。だったら俺も当事者だぜ。なにせギルド内での揉め事の時は俺が一番近くにいたからな」
ジェイは売り込みを始めていた。
「そうか、だったら」
ジェイが手のひらを向けて続きを制すると、もう片方の手に持つジョッキを掲げて見せた。質問していた冒険者は苦笑いを浮かべつつ若い獣人の女子店員に向けて手を上げた。
「おねえちゃん、エールをたのむ」
「ここの全員分な」
ジェイが乗っかる。ここにはジェイの他に四人の冒険者がいた。
「五人分頼む」
飲んだくれたちから歓声があがる。これがジェイが一目置かれる理由だ。やけに物わかりのいい冒険者だなぁ。手に持ったジョッキを飲み干しながらジェイの斥候としてのセンサーが反応していた。
「あんたらは飲まないのかい」
「あー、まぁそうだな」
ジェイは思った。なにかおかしいと。こいつら仕事中なんじゃないか? 獣人の少女が弾ける笑顔で五つのエールを一度に持って来てテーブルに置いて冒険者から金を受け取った。ジェイはジョッキをひとつ持つとふたりの冒険者に向かって声を掛ける。
「ライズんところに案内するからついてきな」
飲み仲間にひらひらと手を振ってギルドを出て行く。そのうしろを二人の冒険者はついて行くしかなかった。




