第52話 一世一代の
消耗しているオルカを座って休ませる。俺はシャベルを出して低い枝の真下で軽く穴掘り。穴を掘ったら前に狩ってあったホーンラビットを出す。オルカが何が始まったのかと目を見開いてこっちを見ている。ホーンラビットの後ろ脚を縛って、紐を枝に回して穴の上に宙づりにする。解体ナイフを使って首と腹を裂いて血抜きをする。ドーガたちを始末したあとにスキルのテストで狩ったやつだ。まだ温かい。その前に捌いてあってまだ食べてないやつも持っているが、処理の仕方を見せたいのでこいつにした。いずれ時間を見てまとめて捌いたら時々外に出して熟成もさせないとな。
血抜きをしているホーンラビットをそのままにして乾いた枝を拾い集めて吊るしたホーンラビットの近くに山積みにする。そばの地面を延焼しないようにシャベルで掃除して下生えを失くすのに四角く地面を区切って軽く土を掘り起こす。そこに枝を組んだら着火の魔法で火をつける。以前より火が大きく強くなっていることを実感する。火種用の小枝を作る必要もなくいきなり火がつけられて便利だ。オルカはどうやったのかわからないが水と着火の火魔法は習得済みだ。
火が付いたのでホーンラビットの作業に戻る。血抜きの仕上げをしたら一気に捌いていく。ラビットは慣れたものなのであっという間に素材になる。オルカはその手際の良さに驚いているようだが、森で生活するものならまぁそんなに珍しい技術でもない。ただし、パーティーにはそれぞれ役割があるのでまったく捌けない者もいる。オルカの体調が戻ったみたいなので手招きで呼び寄せる。
「オルカ、今度はそのあたりに座って休んでて。俺がこういう作業をしている時はオルカに見張りをお願いしたいんだ。常に誰かが見張っていれば安心でしょ? トイレもお互いに見張りをしながらするからしたくなったら遠慮なく言ってね。我慢はしないで。それと絶対にひとりで行動してはダメだからね? 『これぐらいは』って思った瞬間に大失敗をすることになるから。大失敗の中には自分じゃなくてパーティーメンバーの命に関わることも含まれるよ。こういうものはもうやり方があるから、何度かやっているうちにすぐに慣れて出来るようになるからひとつずつ覚えていこう。獲物の捌き方も今度教えるから」
オルカは真剣に見て、聞いている。ここが街中と同じように危険な場所であることは俺よりもオルカの方が切実に感じているだろうから真剣にもなる。
「見張ってとは言ったけど、今はこっちを見てていいよ。しばらくは練習だからね」
俺がいなくなってしまった時のことも考えてオルカを教育していく。必要なことだ。
肉以外の素材は収納していく。内臓を捨てた穴を埋めてしまえば、あとには肉しか残らない。穴を埋める前に水魔法で手を洗う。水で洗い流したら手のひらに石鹸を出してキレイに洗う。これにはまたオルカが驚いた。
「はははっ。二日間で余った石鹸がだいぶあるんだ。あとで食べる前に手を洗おう」
手とナイフを洗って清潔な手ぬぐいを出して拭く。この解体ナイフも今朝の武器屋で買ったものだ。材質は知らない。錆びなくてよく切れるやつと言って出してもらったものの中から機能性とデザインで決めたやつだ。かっこよくて美しくてお気に入りだ。オルカの分も自分で選ばせた。生まれて初めて自分の持ち物を選べるという喜びに満ちた顔で真剣に選んだナイフだ。楽しそうで真剣なオルカを見て武器屋のおっさんの説明にも熱が入ったんだけど、オルカが試しにナイフを振るう姿を見て、そのあまりに堂に入ったナイフ捌きにおっさんのアドバイスに一層熱が入って見てておもしろかった。ユセフがオルカになにか言いたそうにうずうずしてる姿も大変興味深かった。今度指導をお願いしてみようかな? およそ女の子の買い物に相応しい代物ではないけれど、本人が喜んでいるならまぁいいだろう。その手の買い物はお姉様方に任せればいいよね。
装備している刃物は短剣、狩猟ナイフ、解体ナイフの三本だ。それとは別に投擲ナイフを何本か仕込んである。オルカも同じ構成だがさらにダガーを二本装備している。短剣は俺のは片刃でオルカのは両刃になっている。俺は峰に力を掛けて押し込むこともあるかもと思って片刃にした。オルカは剣は使い慣れていないから両刃はちょっと危ないかもしれないな。交換した方がいいかな? そこも今後の練習課題だ。ダガーが使い慣れているのはわかるが、如何せんリーチが短い。よほど狭い場所でない限りナイフだけで戦うのはオススメできない。そこらへんはこの後にでも実地で示そう。
ホーンラビットを吊っている同じ枝の下に焚火を作ったので、捌いたラビットを火の上にずらす。遠火に当ててじっくり燻しながら熱を入れていく。
肉に火を入れつつ、直径二十センチほどの倒木の枝のところに行って道具屋で買った両手斧を出して身体強化を使って切り離す。さらに六十センチほどの長さにして真っ二つに割る。そこから何枚か板を切り出す。切り出した板は収納。焚火の近くに戻って板を一枚出して置く。まな板の完成だ。
吊ってあるホーンラビットの火から遠い背中とモモ肉を切り分ける。さっき捌いていた時も思ったが、新調したナイフの切れ味が良くて楽しくなってくる。解体も料理も腕が何倍も上がったような錯覚を覚える。
切り分けた肉をさっき設置したまな板の上に置く。その肉をちょっと大き目な一口大に切り分ける。『夕暮れの泉亭』でお金を払って譲ってもらった塩、胡椒を出して肉に塗していく。いよいよオルカが肉を凝視している。さっきからずっと口はあっけに取られてぽかーんと開きっぱなしだ。あれだけ苦労して手に入れていた肉が目の前に大量に出現したのだ。
今度は片手斧を出して薪からさくっと串を作る。オルカを呼んで手本を見せながら石鹸で手を洗う。別の乾いた手ぬぐいで手を拭いたらオルカに声を掛ける。
「今から串肉を作るんだけど、自分でもやってみたくない?」
自分もやれることがあるという安心感と、それ以上に串肉を自分で作るという思いがけない提案に満面の笑みで「やる」というオルカ。
一本だけやり方を見せてあとはお任せだ。ホーンラビットの肉はまだまだあるのでもう少し切り分けておくか。時々火に掛かった肉の位置調整をしながら肉を切り出す。
「オルカ、俺の物をしまう能力は『収納』って言うんだ。出す方は『排出』ね」
「シュウノウ、ハイシュツ」
「そうそう。収納してしまったものの時間は止まるんだよ。だから余った肉は収納しておけばいつでも取り出せるし、焼いた肉なら次に取り出すまで腐らないし温かいままなんだ。だからお腹が空いたらいつでも取り出して焼きたてが食べられるんだよ」
「えええっ! すごい! すごいよロック! 凄すぎてロックが狙われちゃうよ!」
今日イチ驚くよね~。
なるほど、こっちだったか。
今世、一世一代の告白間違えたわ。




