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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2章 DAY2

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第45話 月光

 楽しい夕食も済んで今夜もテラスでドライヤータイムだ。ここ数日は天気も風向きも良くてふたつの月光を浴びながらのテラスは本当に気持ちいい。ホテルに入ると完全に地球の海外リゾート気分になれる。今のうちに吸収できるノウハウを存分に吸い尽くしてやる! そもそもこの建物は何で出来ているんだ? ちょっとデザイナーさんを紹介してもらえないかなぁ。


 デカいソファーにガウンのまま座ってオルカはふたりからドライヤーを受けて気持ちよさそうだ。ずいぶんとここの雰囲気にも慣れてきた様子。それは俺も昨日体験済みで、翌日からここの外でやっていける自信が揺らぐほどのリラックスだった。それもこれもこの三人のお陰なんだよなぁ。そしてそれは今も俺の身に起きている。今日は俺専属と化しているシェリルにドライヤーをやってもらっているからだ。重く垂れていた髪が徐々に舞うように軽くなっていく。俺の髪が終わったら当然、攻守交替。俺がシェリルの後ろに回って風魔法を使役する。座ってるとやりにくいから俺は立ってるんだけどね。俺のはもう完全にドライヤーをイメージした魔法だから温風でいけるぜ! これはさすがのシェリルさんも驚きだ。


「これ、昨日はなにかの間違いかと思ったんだけど……すごく気持ちがいいわぁ。これならもう私の風魔法はいらないわね」


 とか言うから、それとこれとは話が違うんだ、と。そうじゃない。誰にやってもらうかという観点が完全に抜け落ちていてそれはダメだと力説した。そう言うとシェリルがうれしそうに「じゃあこれからも私がロックの専属ね」と言ったからよしだ。となりから三対の視線が突き刺さってきていた気がするが今この場では気付かないフリをするしかなかった。お嬢様方、ご安心ください! 不肖、私めがこのあと全身全霊を(もっ)てして皆様のフォローをさせていただきます!


「みんなの髪もあとで俺が風魔法を掛けさせて欲しいんだけどいいかな?」


 と言ったら、ふたりの風魔法を受けずに俺の順番待ちをしていたらしいオルカがニコーっと笑った。ふたりも、やった、と喜んでいる。


「でも、そんなに魔法使ったら危ないよ」

 サリアがちょっと心配そうに言ってくれる。サリアは魔法に詳しそうだよね。


 魔力切れを起こすと体力は問題ないのに気力が削がれて頭を働かせるのも体を動かすのもしんどくなってしまうんだよね。そうすると回復するには横になって睡眠を取るのが一番楽なんだけど、睡眠を取れば回復するというより、再充填されるまで時間を置くっていうことなんだよね。


「最近、魔力の使い方のコツみたいなのがわかってきたみたいなので、無理なくどこまで使えるか試してみましょう」


 ということにした。たぶんまったく問題ない。シェリルのドライヤーが終わってもまったく魔力が減った感じがしないから。っていうかこれ、まとめて全員いっぺんに出来てしまう気がするぞ? もちろんそれはナイショのままひとりずつやりますけどね! 奉仕の精神っていうのはそういうことじゃないのだよ! ひとりずつじっくりと、髪が乾いて舞い上がって、チラっと見えるうなじとか! 俺のドライヤー魔法をナメないでもらいたい。俺はもうこの神聖な儀式に悟り(フェチ)を開いているのだよ。


 というわけでもうこれ以上放置すると乾いてしまいそうな、髪が肩口までしかないショートカットのオルカからスタート。


 明日の朝カッティングするとして、短めの髪をふわっと自然に広がるようなスタイリングがいいかな? あたたかい風が下から上へ舞い上がるイメージ。うしろから両手で首筋を触るか触らないかの距離まで近づけたり離したり、ゆっくりと髪を(すく)うように動かす。頭の両側から肘を差し入れて耳のうしろの髪を五本の指で地頭をマッサージするように掻き上げていく。オルカのあごが上がり、頭がうしろの俺の方に倒れ掛かってくるのを指で支えながら風を通す。オルカがブルっと震えるのがわかる。寒いのかな? くすぐったかったかも? オルカの前に陣取る三人の方から誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた気がしたけど気のせいか? 繰り返すうちにオルカの身体が弛緩(しかん)するように脱力してきた。おー、いい感じなのかな? 思ったよりドライヤー魔法ってマッサージ効果があるのかもしれんな! 野生児のオルカがここまで気持ちよさそうなら間違ってなさそうだ!


 しっとり濡れたオルカの髪も不思議な色だったが、ドライヤーでブローしたあとの髪色は輝く宝石のようだった。月光に(きら)めいて銀色がキラキラと光る。いや、髪自体が薄く光っているようにも見える。夜空にあるふたつの月のように、月光の加減で銀色の中に(あお)があり、蒼と銀が合わさって純白にも()る。


艶煌銀青(えんこうぎんせい)


 遥か北方に()む銀色の狼が本当にいるのだとしたら 生まれ変わった(ごと)き彼女のようにさぞかし美しいのだろう。北方の狼もオルカと同じように今この時、同じ月を見ているのだろうか。孤高の狼であったこの薄幸の娘はもう俺の手の中にあるのだ。彼女が自らの意思で駆け出して行くその時までは俺が守ると誓おう。それがこの世界を壊す俺を止める(くさび)となるはずだから。


「オルカ、きれいだよ」


 オルカは、それがまるで生まれて初めて自分に向けられて発せられた言葉であるかのように少し恥ずかしそうに微笑んだ。

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