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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2章 DAY2

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第46話 our nest

 さぁ、お待たせしました。次はキュロスの番。黄色い髪はところどころクセなのかハネ気味だ。でもその跳ね具合がキュロスのスリムな外見にマッチしてカッコカワイイ。いや、しかしこの(ひと)の無駄の無いというか引き締まったというかスポーティというか、超健康的スーパーモデルなプロポーションは凄いよ。シェリルが女性的なプロポーションの究極ならシェリルは健康的女性の究極プロポーションだわ。獣人特性とかなのかな? グランデールは獣人も亜人も珍しくないけど、ここまで健康的美人は冒険者でも見たことがない。後ろからドライヤーをあててるけど、腰細っそ! でも肩幅もそんなに広くはないからすごく自然。意識して見るともう造形美って感じ。顔も頭も小っさ! 首長っ! それでも美双丘がね、身体が細いこともあってカップ的にデカっ! ってなる。いかんいかん、煩悩が過ぎるぞ! 


「お客様、かゆいところなどありましたら遠慮なくおっしゃってください。なにかご希望がございましたらそちらもどうぞご遠慮なく」


 煩悩を隠すためにそんなことを言いながらドライヤー。ちなみにサリアよりキュロスが先なのは彼女たちの中のなんらかの序列っぽいから俺がどうこう言うつもりはないしそんなわかりやすい地雷を踏むつもりもない!


 リクエストは、とりあえずさっきのオルカと同じ感じでやって欲しいとのことだ。キュロスは「女性はロングが普通」という価値観には珍しくセミロングだからオルカと同じ感じで施術可能だろう! 今回のブローイメージはどうしようかな? くせっ毛っぽい感じにはいつでもできそうだから、ちょっとストレート系を入れてみようかな。でも、セミロングだからストレート過ぎても物足りなくなりそうだから、やっぱりちょっとアクセント欲しいよね。毛先の方が軽く顔に掛かるように前向き気味なウェーブかけて、最後の毛先だけ跳ねて遊ばせる感じかな。よし、イメージできたぞ!


 髪を乾かしてブローとスタイリングをしつつ頭皮マッサージなども組み込んでいく。ブローの風とは別に指弾だ! 風の弾丸を撃ち込んでいく! 軽く、軽~くね。ポポポっていうイメージからスタート。だんだん強めていく。よし、だいぶ馴染んてきたぞ。ここからオルカには好評っぽかったやつだ。うしろから両耳の横に肘を差し込むようにして五指を耳のうしろの髪の中を探るように何度も掬うように髪を()いてゆく。ほーら、気持ちいいでしょ? 頭が後ろに倒れてきたぞ~ 猫耳が外に向かって垂れてくるのが見える。猫耳を触っていいのかわからないので、直接触らないようにしながら頭皮マッサージを猫耳の付け根近くまで攻める。肩甲骨を反らせて頭をさらにのけ反らすキュロス。刺激が強すぎるのかな? 獣人の人のこのあたりの感じ方がわからないから今度オルカで試させてもらおう。おっと、キュロスがブルブルしだしたので中断。


「キュロスさん、大丈夫ですか? ちょっと寒かったですか?」


「んっ……ん、え? なぁに? あ、ううん。らいじょーぶ。寒くないからぁ」


「あと少しで終わるのでくすぐったいのもうちょっと我慢してくださいね」


 顔の両サイドに垂らす前髪と毛先に軽くウェーブを入れていく。人耳(ひとみみ)を覆うようなイメージ。獣人の人は限りなく人に近いタイプから、獣に近い人まで様々だ。長髪がデフォの世界なので大抵は人耳(ひとみみ)が隠れている人が多い。意図的にそうしているかは不明。今度オルカでいろいろ髪型を試させてもらおう。


「よし、どうですかね?」


 髪型は本人には見えないので、向かい側から真剣な表情で施術を見ていた三人に感想を聞いてみる。するとシェリルが黙ってキュロスの手を取って寝室に連れて行った。鏡チェックかな? いや、でもあの、感想を……


「ロック、最後はわたしね」


 頬が上気して気合充分のサリアさん。こっちも気合が入ります!


「サリアさん、キュロスさんの仕上げはどうでしたか? 俺的にはキュロスさんのシュッとした感じとかわいらしさの両方が出てとても良い感じだと思ったんですけど。このあたりの人たちがああいうのをどう感じるとかわからないので正直な感想が知りたいです」


 ちょっと早口になった。いかん、趣味が過ぎたか。


「ロック」


 どうしたんだろう。怖くはないけど真剣な感じが伝わってくる。


「あれはいいわ。あんなの見たことないわ。あなた、冒険者やめたくなったら『一夜の夢(うち)』にいらっしゃい。私が一生面倒見てあげるわ」


 うわーい。本日二度目のヘッドハンティングだー。


 それを聞いたオルカが俺の後ろに来て首にしがみついた。サリアさんは後ろが見えないから気が付いてないっぽい。チョークスリーパーがギリ入ってない。こわい。オルカの腕をぽんぽんとして落ち着かせる。


「専属ヘアスタイリストですね。それで生きていく道もあるのか~。いいことを聞きました!」


 オルカは足も絡めて俺におんぶになっている。まさかドライヤーしながら身体強化も同時発動することになるとは思わなかったぜ! オルカすっごい軽いけどな! 小学生低学年ぐらいの軽さ。でもこれはいい魔力操作の練習になるな! 負荷を掛けてくれてありがとうオルカ! そして全力でサリアにも施術だ! 俺の永久就職が掛かったテストだと思って本気でいくぜ。ドライヤー、身体強化、エアマッサージの魔力の三重起動だ! まさかこんなお気軽に三重起動の修行ができるとは思ってなかったよ!


 サリアさんはかわいい系で攻めよう! どストレートもありだし、ふわっとするのもアリだ! その中でも今日のところはロングにウェーブを入れるぜ! 今後も俺の趣味的にいろいろ試させて欲しい。いつかはツインテールもしくはドリルもやってみたい。薄桃色の髪がめっちゃきれいだ。まだあどけなさが残るほど童顔なサリアさん。時々、歳不相応な妖艶な表情をしてたぶん俺を揶揄(からか)ってる。童顔で背も低くて微双丘ではあるが、決して幼児体形ではない。腰はしっかり細いし、ヒップラインも女性的だ。他のふたりと並ぶからそういうふうに見えるだけなんだよね。あのふたりはちょっとおかしいから!


 よし、ドライヤーは髪全体に風を吹き込むようにして乾かしながらウェーブを形成してゆく。小柄なサリアさんだから頭をふわっとさせすぎないで小顔効果をアップ。春の夜にお待たせしてしまったから身体が冷えてないかな? 身体全体を包むように暖かいその風を感じてもらおう。ガウンの隙間から暖かい風が忍び込んで身体全体を這うように温めながら首元から抜けていくイメージ。それをゆったりした波のようになんどもなんども繰り返しながら五指を髪に差し込み頭を後ろに倒しながら親指で首の付け根、残りの指で頭皮をマッサージしていく……サリアの身体からゆっくりと力が抜けていく……と、ちょうどそこにシェリルが来てまた無言でサリアを抱きかかえて寝室に連れて行ってしまった。え? そんなに軽々と抱っこして? シェリルって身体強化使えるの? 魔法も上手だし、字も書けるし、ちょっとスペック高すぎないかい? 『一夜の夢』ってやっぱりすごい店なんだなぁ。


「なあ、オルカ。サリアさんの髪型どうだった?」


「ん~。だいぶ喜んでた」


「ふーん。ま、明日また感想聞いてみるか。よし、そろそろ寝よう。俺たちも寝室に行こう」


 って言ったらなんとなく困惑というか話が通じてない感じがおんぶしているオルカから伝わってきた。そうだよねー。『寝室』の概念な。


「ほら、オルカ、この部屋の中をみてごらん」


 おんぶしたまま部屋に戻って今さらのお宅探訪。


「さっき、シェリルさんがふたりを連れて行ったところが寝るための場所なんだよ。今いるここは起きている時に使うゆっくり休憩する場所ね。今日借りたこの場所はすごく広くて寝るための部屋がもうひとつあるんだ。あとはお風呂だね。それとごはんを食べたところ。わかったかな?」


「わかった」


「じゃあ寝るか。安心しろ。俺たちはパーティーだ。順番に見張りをすれば安全に寝られる。オルカが寝てる間は俺が守るからな」


「おー。なるほどー。それはすごいね」


「よし、行こう。最初は俺が見張りをするから起こすまで安心して寝てていいからね。というか、オルカ。この部屋の中は安全だ。全員で寝ていても誰も襲ってくるものはいない。外に見張りがいただろう? 俺たちはお金を払って安全も買ってるからな」


「んー。そうなの?」


「まぁ、俺も完全には信用していないけどな! 心のどこかに覚悟だけ持ってれば大丈夫だ。たぶんここはスラムの中でも一番か二番目に安全な場所だ」


 そう言いながら三人がいる寝室に入っていった。さすがにこの状況でもう一つの寝室を俺とオルカのふたりっきりってのは変だからなぁ。というか今夜はふたりとも泊まっても大丈夫なのかな? 金ならあるからぜひこのまま泊まっていってもらいたいところではある。シェリルさんに聞いてみよう。


 寝室に入るとキュロスもサリアも眠ってはいなかった。キュロスは俺の顔を見るとぽわ~んとした顔でニコ~っと笑った。マッサージが気に入っていただけたのかな? 今度はもっとこう、とかリクエスト聞きながら時間掛けてやってみたいね! そのうち技術を確立してサロンを開いてガッポガッポ……。いや、わざわざ店を作らなくても宿のサービスとして提供すればそれでいけるんじゃないか? まずは俺自身が自信を持って提供できるスキルの確率が先決だな! がんばるぜ!


「みなさん、髪型はどうですか? もっとこうして欲しいとかあったら言ってくださいね。あとマッサージ、身体の揉みほぐしの技術も未熟なのでまた今度練習に付き合ってください!」


 それはいいね! と喜んでもらえそうです。特にシェリルの肩こりとキュロスはもっと全身やってほしいとのリクエストいただきました。サリアはもうウトウトして寝落ち寸前です。そして今夜は昨日と違ってみんな泊まっていけるそうで一安心。ちょうどリラックスできたところだしこのまま寝てしまおう。


「ではそろそろ寝ましょうか。えーと、じゃあ俺はこっちの端で」


 というのは許されず。一応俺は今夜の主催者になるのか。序列みたいなのはよくわからないからそのへんはお任せで! 左からシェリル、オルカ、俺、サリア、キュロスの順番で横になる。なにこのでっかいベッド。オルカと俺とサリアが小さいとはいえ五人で横になっても余裕だわ。ここで間違っても「あっちにも寝室ありますから」的なことは言わない。俺はそんなマヌケではない!


 一番入口に近いキュロスが(あか)りを消してくれた。ガラス窓の戸板を閉めていないので少し開けたカーテンの隙間から月光が差し込んで夜目が効いてくるとじゅうぶん明るい。オルカの瞳が爛々と輝いている。俺の横にいて俺の方を向いているが手足を抱えて丸まっている。手足を伸ばして寝るなどという贅沢を知らないのだから当然だ。


「オルカ、もっとこっちにおいで」


 右手をオルカの頭の下に差し込み腕枕をして肩を抱き寄せる。左手は腰を引き寄せる。俺の薄い胸の中にオルカの顔を埋める。オルカは、呼吸をしていないのではないかというぐらい静かに身じろぎもしない。シェリルがオルカの背を守るように身を寄せて来る。彼女の柔らかいものが俺の手とオルカを包む。俺は左手を腰から外すとオルカの頭を静かに撫でる。


「オルカ、俺たちがいるから今夜はもう大丈夫だ。警戒を解いて眠っていいんだよ。ゆっくり、大きく息を吸ってごらん」


 そう言って俺も深呼吸を繰り返す。シェリルもそれに合わせて深呼吸をする。俺の背中にはサリアが寄り添って、キュロスの手が俺を支える。ここにいるみんなが知っているのだ。暗闇に怯えて眠れない夜を。なにもしてやれない。できるのはただ寄り添うことだけだ。だけど、それでいい。それがいい。


 この娘は俺の奴隷になってもいいと言った。


 俺のために死んでもいいと言った。


 馬鹿を言ってもらっちゃ困る。


 そんなの……人生における望みが全て叶った人間の言うことなんだよ。


 自分の望みはもう叶ったから、望みを叶えてくれたあなたのためにいつでも死にますって言ったんだ……


 馬鹿を言ってもらっちゃ困る。


 俺の望みを言ってやる。


 お前が一生を掛けても叶わないほどの望みを持つことが俺の望みだ。


 生きろ。


 死ぬまで生きろ。


 オルカの呼吸と鼓動が伝わってくる。俺の呼吸と鼓動を感じてオルカの力が抜けていくのがわかる。この瞬間こそが俺の望みだ。シェリルと目が合った。口元が微かに緩む。俺たちも緊張していたのか。今度こそみんなの力が抜けていく。


 オルカが今目を閉じた。


 呼吸と鼓動が重なる。


 やがて静かな寝息が聞こえてくる。


 シェリルの瞳からは涙が零れていた。

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