第38話 数の問題
副ギルド長と別れてライズを探すのにゆっくりと円形広場を歩き出すと、すっと横にオルカが寄って来た。そのままオルカについて広場の植え込みの目立たない場所に入って行くと、ライズたちが座っていた。
「へー、目立たないようにこんなところにいたんだ。なかなかやるねー」
「誰かさんのおかげで俺たちも顔だけは売れてしまったんだよ」
なるほど、昨日の騒ぎのせいで今や『銀狼の牙』は顔だけは売れっ子冒険者の仲間入りをしてしまったらしい。
「西スラムで一番有名な鉄級パーティーか」
「……うれしくは、ない、かな」
まぁ、そうだよね。そんな漫才をしたかったんじゃないので話を進める。
「呼び止めたのはちょっとした依頼があるからなんだ」
『銀狼の牙』のメンバーが一斉に俺の方を向いた。やっぱりらしくないよなぁ。こいつらの反応だけは鉄級らしくない。いや、逆か? 反応、思考、行動が鉄級を飛び抜けてるんだ。そのあたり突っ込んで聞いてみたいが、まだ出来ない。俺が聞かれて困ることをこいつらに聞くのは不公平だ。それにこんなのはただの俺の我がままというか興味本位なだけだしな。
「そんなに難しい話じゃないんだが。あー、その前にお前らの中に正確に数を数えられる奴は何人いるんだ? 答えたくなければ答えなくてもいいぞ」
「いくつまで数えられればいいんだ?」
まただ。打てば響くねぇ。普通は「百までなら」とか「三人いる」とかの答えになるだろう。こいつ、自分たちの情報は隠して条件引き出そうとしてるぞ。でもこれ、天然っぽいな。単純に思考プロセスが最短最適の「戦闘思考」なだけなのか?
「そうだな。千まではいかないと思うんだけど」
「それなら三人……いや、ふたりだな」
ん? ルシアが口を開きかけてやめたな。できるのかな? 自信が無いのかな?
「充分だ。依頼内容は、明日の朝一から営業終了まで、今日食ったこの広場の一、二番の屋台の串肉の売れた本数を数えることだ。あー、でも数えるのがふたりしかいないとなると二軒数えるのは難しいな。だったら一位だった屋台だけでいい」
「そんなことでいいのか? だったら一位の店はふたりで担当して確実に数えよう。二位だった店もその他のメンバーで協力して可能な限り正確な数字を出せるよう努力しよう。六人で手分けすれば楽な仕事だ」
ん? 言い間違いか? 珍しいな……えーと、ギャラはどうするかなぁ。
「それで報酬はいくら払えばいい?」
「そうだな。銅貨三枚でどうだ」
「わかった。とりあえず銅貨五枚払おう」
「いや、交渉で依頼主側から報酬が上がる提案が出るとか聞いたことないんだけど」
「うん。ライズ、安く売り過ぎ」
そう言ったらライズが少なからずショックを受けていた。
「アーノルドならいくら欲しいって言ってた?」
「銅貨六枚」
「いや、こんな簡単な内容でそれは欲張りすぎだろ」
ライズくん、人が良いねぇ。目線でアーノルドに発言を促す。
「ライズ、仕事の内容っていうのは、確かに報酬の価格を決めるのに重要な要素だよ。だけど、俺たちパーティー全員を丸々一日拘束するなら、内容に関わらず最低ラインは決めておいていいと思うんだ。俺たちの階位や依頼内容から銅貨三枚は妥当だとは思うけど、最初からその値段の提示じゃ足元を見られると思うんだ。だから、その都度価格は交渉したり妥協してもいい。吹っ掛けるのは必要無いと思うけど、たとえば明日のこの仕事なら、ロックからの頼みなんだから、お金なんかもらわなくてもみんな喜んでやるだろ? でも、ロックがさっきみたいな言い方で俺たちにギャラを決めろって言ったんだからしっかり考えて答えないと捨てられるぞ」
捨てるってなんだ?!
「そっか、確かにそうだな。俺の考えが浅かった。アーノルド、他のみんなも、ロックに捨てられないためにも、俺がおかしなことを言ったり、やったりしそうだと思ったら遠慮なく止めて意見を言ってくれ」
「ちょ! まてよ。捨てるとかってなに? お前ら俺の恋人かなにかなの?」
もう黙って聞いていられん。
「ああ、いや、こっちの話だから気にしないでくれ」
気にするし気になるわ!
「あー、じゃあアーノルドが提案したってことで銅貨六枚な。前金で三枚渡しておく。それと、もし雨が降ったら中止で。参考にならないから。その場合は晴れた日に仕切り直そう。途中で雨が降った場合は臨機応変にいこう。俺はここで一日に売れる串肉の本数が知りたいだけなんだ」
ライズとアーノルドの目が興味津々だ。まぁ、諸々の数字が出てからじゃないと俺に何ができるかはまだわからないな。
今の俺にとって一番簡単に金を稼ぐ方法は、森に行って魔獣を狩って『収納』して街で『排出』することだ。でもそうは簡単にいかないだろう。そんなやり方はあまりにも異次元すぎる。そんなことをしたら俺は文明社会の異端になって生活が出来なくなる。まずは合法的にどこまで稼げるか考えよう。くっくっく。まぁやりようはいくらでもあるさ!
問題は、だ。金があっても使うところがないってことなんだよなぁ。
「今日はもう昼も過ぎてあまり時間が無いけどみんなはどうするんだ?」
「ロックはなにかやることがあるのか?」
「うーん。あんまり時間もないから森までのルートの確認ぐらいかなぁ。途中で何かいたら狩って晩飯にするとか」
「それ、ロックさえ良かったら俺たちも一緒に行けないかな。嫌ならいいんだけど」
ライズの提案に『銀狼の牙』のメンバーも同意みたいで熱い視線を投げてくる。
「いいけど本当に二、三時間だけだぞ? 森まで行って、たぶん手前で折り返して帰って来るだけだぞ?」
「ああ、構わないよ! なぁ、みんな!」
メンバーが口々に頼むよとか言ってくる。というわけでちょっと散歩に行くことになった。
というわけで出発。例によってスラム出口近くの廃墟に寄り道して俺の装備回収というイベントをこなす。デカいバックパックと短剣と短槍と弓矢を出した。とりあえず短剣を最年少で斥候のキリエに、 短槍をルシアに渡してみた。
往路の一時間で野兎を二匹狩った。ライズが持ってたスリングショットで一匹と、俺が身体強化で肉薄して投げナイフで一匹を狩った。ライズのスリングショットでウサギ狩るのはなかなかすごい。ちなみにウサギの数え方はこっちでは『羽』じゃなくて『匹』だから。
森に着いて三十分ほど弓で遊んだ。適性を見たかったので全員に引かせたら、スピード特化のウィルに適性ありな感じだった。ただ、俺と同じくまだ身体が出来ていないので、もっと小さい弓にしないとダメそうだ。できれば今のうちから身体に合ったサイズの弓で練習しておきたいな。どんなに才能があっても習熟期間は長ければ長いほど有利だから。パーティーとしても遠距離攻撃を持っていることは有利にしかならないんだよね。参考意見としてライズとアーノルドにはそう言っておいた。弓は金が掛かるからパーティー運用として考えないと行き詰るまる原因になりかねないので難しいところだ。だから、じつは優秀な狩人は魔法使いと並んで引く手数多だ。もちろん、狩人なら索敵系の能力や獲物の処理能力も必要だけど。
帰りは身体強化マラソンで戻った。途中でまた野兎を一匹確保した。狼獣人少女のオルカが俺の真似をして投げナイフで仕留めた。こいつもなかなかおもしろい。ウィルと一緒に索敵の勉強とかさせたいねぇ。
スラムの入口に着いて俺の武器を返してもらって解散だ。俺はまたこれをどこかに隠さないといけないからね! ルシアがまだ何か言いたそうな顔をしている。はっはっはっ! 悩め少女よ! 道中では魔力を効率良く使うコツや練習法なんかを話しながら帰った。こいつらのことだから言われたことは忠実に熟していくだろう。
「それじゃあ明日、屋台の件よろしく」
「おう、任せておいてくれ!」
そうして『銀狼の牙』のメンバーとは別れた。俺の狩ったウサギはそっちで分けてくれとライズに渡した。
さて、今夜の宿を決めないとなぁ。もう面倒だから『夕暮れの泉亭』に行ってみようかな。
……。
えーっと。
隣にオルカが立ってる。




