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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
1章

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第3話 先行斥候 Advance Scout

 最終目的地は森の奥にあるちょっとデカい川だ。

 順調に行っても到着は昼ごろになる。


 『赤竜の爪(せきりゅう つめ)』は斥候一名、前衛二名、中衛一名、後衛一名の五名パーティーだ。

 非常にバランスが良い。ムカつく。


 まずは斥候を先頭に進んで行く、と言いたいが先頭は俺だ。

 次に斥候、前衛、中衛、そして後衛。

 斥候(スカウト)の前を行く俺は先行斥候(アドバンススカウト)だ。

 まぁ、(おとり)だね。

 俺が今もまだ生きてるのは普通に斥候(スカウト)として優秀だからだ。


 常に俺の後方にいて進行方向を指示してくるのは斥候(スカウト)のザイ。

 斥候らしく細身で身のこなしは悪くないが目つきが悪い短刀を持った男だ。

 ちなみに目つきはメンバー全員が悪いからこいつだけの特徴ってわけでもない。


 次は前衛のリーダー。

 ドーガという二メートル近い大男で、自身の身長ほどの長さの槍を使う。

 森の中では槍はあまり長くても役に立たないのだ。

 背中には片手盾(バックラー)、腰にはバトルアックスを差している。

 防具は動き優先で革鎧。

 

 リーダーを守るように常に左側にいるのは盾役(タンク)のボイル。

 ドーガをさらに二回りゴツくしたような岩のような大男だ。

 全身が隠れられそうなほどデカい盾を軽々と持ち歩いている。

 たぶんなんらかのスキルだろう。

 (やいば)部分が長めの一メートル半ほどの短槍(たんそう)を右手に持っている。

 盾を構えたまま、短槍を突きだけではなく切り裂くのにも使う。

 頭はフルヘルメットだ。今はバイザーを上げている。

 上半身は金属部分の多いアーマーで覆っている。

 下半身は太ももと(すね)の前側だけが金属製だ。

 それ以外は重量軽減と森での動きやすさのために革だ。

 こいつもバトルアックスを予備として持ってる。


 中衛は魔法使い(ウィザード)のクメイル。

 魔法使いはパーティーにひとりいるだけで攻撃力も野営の快適度もぜんぜん変わってくる。

 特に範囲攻撃魔法が使えると、集団だけではなく普通は狩れない空を飛ぶ相手や大物を狩れる可能性が上がるので稼ぎが断然良くなる。

 魔法使い(ウィザード)は、魔法発動時に完全に動きが止まるので仲間になってもらうには守備力が高い等の条件を満たしたパーティーである必要がある。

 自身の顔の高さほどの杖を持っている。

 腰には短刀を差しているが使っているのを見たことはない。


 後衛は狩人(ハンター)のイルム。

 森の中で使いやすいあまり大きくない弓が主要装備(メインウェポン)

 腰にマチェットを装備。

 どこを見てるのかわからないけど的確に動くものを捕らえる目と聴覚が異様に優れている。


 戦闘力だけなら盤石の編成の『赤竜の爪(せきりゅう つめ)

 そこに俺のような優秀な戦闘奴隷がいるのだからこいつらの稼ぎは決して悪くない。

 悪くないどころかとても良いはずだ。

 銅位階(ブロンズクラス)三等級という銀位階(シルバークラス)目前なのは当然だ。

 俺が来てわずか三年でここまで仕上げてやった。


 しかし! 冒険者らしく頭が悪いので金使いが荒い!

 見得(みえ)を張ってるから装備にはそれなりに金を使っているが、とにかく娼館通いが(ひど)くて金さえあれば入り(びた)ってる。

 壁の中がどうのこうの言うだけでこんなんじゃいつまで経っても中に入れそうもない。

 俺はこいつらを稼がせて娼館に入り浸らせて狩猟に出る回数を減らすことでも生存率を上げているから文句は無いけど。


 「近々デカいヤマがあるから壁の中の生活が待ちきれないぜ」が酔った時のリーダーの口癖だ。ムカつく。


 俺は今朝スキルをもらう前から『探索』が使えるが、これは奴隷契約後の『恵みの森』で狩りをするようになってから身に着けたものなので、まだ誰にも知られていない。

 バレると厄介(やっかい)だから、狩りで獲物を見つけたあとにちゃんと足跡やフンなどを示して「ほら、これがあったから見つけられましたよ!」みたいなフォローを入れている。

 獲物を狩ったあとならそんな痕跡はいくらでもでっち上げられるから、こいつらみたいな馬鹿を騙すのは簡単だ。


 後ろから軽い舌打ちのような音が二回聞こえた。

 右に進路を取れという斥候(スカウト)のザイからの合図だ。


 うるせーな。てめーは黙って俺のケツを追ってりゃいいんだよ。

 って言いたいところだけど裏切りを疑われないように言う通りにする。

 お? 今って奴隷の効果が明らかに消失していたよな?

 これはいい兆候だ。

 やはり前世記憶が戻ったことで『俺』という人間のアイデンティティが書き換わったのか?

 奴隷紋が消えていないということは完全には書き換わってないってことかもしれないから油断は禁物だ。


 おっと、ウサギ発見。

 残念ながら魔獣ではない。

 ここらで獲物を確保しておくか。

 手ぶらじゃあ目的地まで黙って付いて来てもらえないだろうしな。


 手で後方を制して隊列を止める。

 ()いでハンドシグナルで獲物の種類と方向を示す。

 視線はウサギから一瞬も外さない。

 斥候(スカウト)のザイからは返事がない。

 まったく音がしない。

 これは狩人(ハンター)のイルムが狙うということだ。

 今は恐らく後方で狙える位置まで移動しているはず……俺には探索で動きが丸見えだ。

 音がしないのはさすが銅位階(ブロンズクラス)三等級。

 このパーティーがまじめに活動してたらとっくに銀位階(シルバークラス)で、壁の中のギルド登録も夢ではなかっただろう。

 それほどこいつらには冒険者としてのポテンシャルの高さがあった。

 グランデールの財政にとっては残念なお知らせですがー、それも今日でおしまいでーす。


 イルムが止まった。

 もうとっくにイルムは標的を捕らえて照準中だが、俺は知らないふりでハンドシグナルでウサギの位置情報を送り続ける。

 弓を引き絞る音も聞こえない。それほどゆっくりと引いているのだ。

 筋力も大したものだ。あれだけ遊びまくってるのになんでだろうな。

 身体強化の才能が高いんだろうか。

 このパーティーの連中はどいつもこいつもそんな感じだ。才能の持ち腐れ。

 俺が的確な誘導で三年間も鍛えてしまったんだなぁ。

 この森で銅位階(ブロンズクラス)三等級になるっていうのはそれだけの経験値があるってことだからなぁ。技もキレるわけだな。

 自分の暮らしを少しでも良くしようといろいろやった結果だけどちょっとやり過ぎたかなぁ。

 こいつら思ったより強くなっちまったぞ。


 ヒョウ!


 俺の真横をシューンという鋭い音が通り過ぎて行く。


 魔獣でもない野兎はあっさりと頭に矢を受けた。

 

 他に獲物がいないか確認するように頭を巡らせてから身体を低くしてウサギの元へ走る。

 脳天直撃でウサギはその場で昏倒していた。

 さっくりとトドメを刺す。

 盾役(タンク)のボイルが斥候(スカウト)のザイにシャベルを投げて寄越す。

 この間もウサギの処理に掛かっているメンバー以外は姿勢を低くして周囲に視線を走らせ続けている。

 声を出す者もいない。


 やっぱり鍛え過ぎちゃったかなぁ。


 シャベルを持ってザイが寄って来てサクっと穴を掘る。

 俺はその穴の上で後ろ脚を持って逆さづりにする。

 ザイが脚を持ったのを確認して手を離すと一気に(さば)く。

 二人掛かりであっという間に捌き終わる。


 肝臓(レバー)を手の平に()せてリーダーのドーガの顔を見る。

 目線で寄越せというのでスっと近寄って手渡したら処理に戻る。

 後ろではドーガが小枝を拾ってウサギの肝臓(レバー)に刺すと火魔法で炙りだした。

 こういうところが銀位階(シルバークラス)の手前で足踏みする理由なんだよなぁ。

 肉を麻袋に入れて毛皮を袋の外に(くく)り付ける。

 この肉はこのままこいつらの昼メシになる。

 こんなもの一匹じゃ俺には回ってくるわけもない。

 肉と毛皮は盾役(タンク)のボイルに渡す。

 穴を埋める前にふたりで手を洗って血の臭いを洗い流す。

 使った狩猟ナイフもボロ布を出して水洗いで綺麗にする。


 俺の持っている狩猟ナイフと短刀も決して悪いものではない。

 むしろそこら辺の駆け出し冒険者よりよっぽど良いものだ。

 これもプレゼンして、俺が処理するなら道具を良いものにした方が付加価値が上がることを教えたおかげだ。

 同じような理由で防具も奴隷には見えないほどのモノだ。

 俺が「死んだら困る」というところの何歩か前までは()ぎ着けているのだ。

 実際俺はそこら辺の本職の斥候なんかよりよっぽど優秀だ。

 こいつらにはあまりバレないようにやってるけど。

 実質六人パーティーなのに俺に分け前がいらないのだからこいつらめちゃくちゃお得な状況なんだよ。

 顔見知りの冒険者で優秀な奴の何人かは子供のくせに死なない俺を見てそこら辺の事情に気付いてて、たまにこいつらに「お前らいいよな」とか声を掛けるが、こいつらは馬耳東風だ。馬鹿だから。


 一連の流れをすべて無言で終わらせて次の狩りだ。

 こんなものをいくら狩っても娼館への道のりは果てしなく遠いのだ。


 斥候(スカウト)のザイにアゴで進行方向を示唆(しさ)して目線で返事を待つ。

 軽く(うなず)いたのを見て先行して再スタート。


 よし、うまく川の方向に導けた。

 川の辺りは大物の動物や魔獣が来るので、娼館が恋しいこいつらは俺の意図を察してホイホイ付いてくるはずだ。

 昼ごろになると休憩のために水場を求める顔見知りのパーティーと出くわす可能性も出てくるから早めに辿り着いておきたい。

 というか一秒でも早くこいつらとオサラバしたい。


 奴隷契約書はリーダーのドーガが持っているはずだ。

 娼館を好むこいつらは定宿(じょうやど)を持っていない。

 懐が寂しければ安宿、金があれば娼館という具合だからだ。

 財産の一切合切(いっさいがっさい)を常時身に着けているはずだ。

 スラムに物を預かってくれる場所などない。

 ギルド登録していれば金は預けられるがその程度だ。

 宿屋に借りた部屋だって金目の物を置いて外出など愚か者の行いだ。


 川へ急ぎたくなる気持ちを抑えて細心の注意を払う。

 隙は見せるな。油断するな。

 いつものように、だ。

 よし、俺は今から川に向かう。

 それは獲物がいそうだからだ。道中も気を使うぞ。


 自らに暗示を掛けるように「いつも通り」やる。


 索敵。獲物なし。

 ハンドシグナルで獲物が近くにいないことを伝える。

 斥候(スカウト)のザイが自ら確認している気配がある。

 こいつは斥候(スカウト)のなんらかのスキルを持っている。

 たぶん遠視系だとは思う。壁の向こうを見たりとかまでは出来ないはずだ。

 水とか火、弱い風などの生活魔法は器用に使う。

 獲物の処理や野営のスキルも非常に高い。

 そのあたりは狩人(ハンター)のイルムと同等だ。


 舌打ちが二回、そして二回の計四回。

 警戒態勢を解いて良し、だ。

 俺だけはそれでも背筋を伸ばすことはなく、中腰程度の索敵スタイルを崩さない。

 

 なにか言われる前にすぐに「次に行くぞ」とハンドシグナルで先を示す。

 まだ野ウサギしか獲れていないことが幸いしたようだ。

 リーダーのドーガが偉そうにアゴをしゃくって「とっとと行け」とやってきた。

 俺は正面に向き直って進み始めるが、口角が上がりそうになるのを止めるのに苦労していた。


 それから一時間、三回ほど獲物をスルーしてやった。

 もうあと三十分ほどで目的地だが、ここらで一度こいつらにエサを()かないと爆発しそうなのでホーンラビットをプレゼントすることにする。

 ちょうどいい感じの大物を見つけたからだ。


 気付かなかったです~ みたいな感じで「右前、近い、ホーンラビット、デカい」とハンドシグナル。

 一瞬の確認の後、斥候(スカウト)から「やれ」の指令が飛んできた。

 失敗するわけにはいかない。

 失敗したらどれだけ殴られるかわかったものではない。


 少しでも違和感を減らすために短刀に持ち換えることなくそのまま狩猟用ナイフを右手に逆手で持ったままホーンラビットの前を通り過ぎるようにスニーキングする。

 「お前には気付かないまま慎重に移動してますよー」ということだ。

 右前方でホーンラビットがこちらをロックオンしているのを感じる。

 右足を踏み出した瞬間、ホーンラビットは動物とは思えないほどのパワーで後ろ脚を蹴り込んでロケットのように突っ込んで来た!

 地面を蹴る時に「ドン!」と音がした気がした。

 俺は低い姿勢のまま身体強化の出力を上げて踏み出した右足を(おろ)すことなく左足のつま先を軸に時計回りに強引に身体をひねりながら右足を引き戻してホーンラビットを避ける!

 目の前を通り過ぎるホーンラビットと目が合った気がするが全ての感情を無視して右手を下から上へ一閃(いっせん)

 すべての身体の動きが()()()()()()()()が、俺は()()が出来る。

 ホーンラビットにとっても想定外の動きだっただろう。

 手ごたえを感じながら身体が回転を終えたところで通り過ぎて行ったホーンラビットの方向にファイティングポーズで着地。次のアタックに備える。

 見るとホーンラビットはジャンプで通り過ぎたまま地面に突っ込んで痙攣(けいれん)しながら首から血を流していた。


 俺は近付いて来るリーダーのドーガを確認すると周囲の警戒に戻る。

 他のメンバーもドーガを囲むように警戒態勢を取る。

 ドーガはホーンラビットのそばに来ると槍を突いて確実なトドメを刺す。

 万が一の反撃を予防するために確実にトドメを刺すのは狩猟でも戦場でも殺しの基本だ。


 絶命を確認したドーガが合図の舌打ちをする。

 上機嫌だ。

 俺はボロ布を用意しながらドーガに近付くと布を手渡す。

 こんな時に差し出された槍の穂先を俺が(ぬぐ)ってたらふたりも戦力が()がれることになる。止めた方がいい。と、いう風に教育してある。

 もちろん、そんな召使いみたいな真似をしたくないからだ。

 その代わり、奴の自尊心をくすぐるためにすこし(うやうや)しく布を差し出してやる。

 お貴族様気分を味わえてますます機嫌が良くなるのがわかる。ムカつく。


 先ほどと同じ手順でホーンラビットを捌く。

 違うのは魔石とツノと前歯を確保することだ。

 ザイと手分けしながらこれも問題なく処理完了。

 ホーンラビットの戦利品はリーダーのドーガが持つ。

 

 ドーガに渡したあとは無言で先行斥候(アドバンススカウト)の位置に戻る。

 よーし、おまえらー。いいかぁ? 目的地はもうすぐだからなー


 それからきっちり三十分後、()()目的地である川に到着した。

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