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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2章 DAY2

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第35話 死女神 Death Goddess

 突然現れて好き勝手言い始めた(やから)の言動は、これから始まる惨劇(さんげき)()(すえ)を暗示するには充分だった。


 ボルツの顔が曇る。と、ライズが吠えた。


「ユルゲン、別にお前らの場所でもないだろ。いちいちこんなことで文句言われる筋合(すじあ)いねーだろ!」


「なんだと、ライズてめぇ」


 そこまで言って並んでる装備品が目に入ったのだろう。つかつかと歩いていく。


「なんだお前これ。……ほー。けっこういいじゃねぇか。ふん。それでボルツがいンのか。よし、ウチが大銅貨三枚で買ってやるよ」


 舌舐(したな)めずりでもしてそうな言い方だった。キモイ。用心棒(バウンサー)がそっとボルツを安全圏まで誘導していく。ちらっと俺をみて笑いやがった。ちぇ。支払い前でよかったな。


 ボルツがいなくなって瓦礫に座る俺が視界に入ったのだろう。ユルゲンと呼ばれたチンピラが声を掛けてきた。


「あー? いっひっひっひ。なんだ、ライズ。おめーはいつから子守りになったんだ? おい、お嬢ちゃん、お外は危ないからおうちに帰りな。それともお兄ちゃんが遊んでやろうか? きっと気持ちいいぜ? はっはっはっは!」


 お付きのチンピラ三人は装備品に群がって、おーすげーなー、とか言っている。こっちのことは完全に無視だ。ユルゲンは勝手に割り込んで勝手な査定をして勝手に持って帰ろうとしてるが金を出す素振りもない。


 ライズが何か言おうとしたが、俺が立ち上がるのを見て黙った。


「ライズ。お前らは防具屋を俺に紹介しただけで取引とは何も関係がない。あっちに行っていろ」


 この場の全員が聞こえるように言ってボルツのいる場所をアゴで示す。ライズは何も言わずボルツの元に向かおうとして、妹がまだ回復しきっていないのを見て肩を貸しながら移動を開始した。それを見た他のメンバーも慌ててオルカを担ぐとライズを追う。


 なにかいつもと様子が違うぞと感じた取り巻きのチンピラがユルゲンの元に集まってくる。どいつもこいつもニヤニヤしていて気持ち悪い。無性に腹が立ってきた。


「おい、チンピラ。なに突然現れて勝手に仕切ってんだこのバカ」


 時間が止まった。全員が信じられないことを聞いたという顔をしてピクリともしない。


「はっ? 今てめーなんてったこのガキぃ。誰に向かってモノ言ってっかわかってんだろぉなあ!」


 唯一、バカと言われたユルゲンだけが反応した。ね? この手の(やから)って(ぎょ)しやすいでしょ?


「はー。お前は本当の馬鹿だな。お前は俺のこと知ってんのか? 俺はお前のことなんか見るのも初めてだぞ。初めて見る奴が誰だかわかるわけないだろ。息してるうちはもうちょっと頭使えよ。……ってこれ、昨日もどこかで言わなかったか? ホント、スラムって頭悪い奴ばっかりだよな」


 醜い顔をさらに歪めながらユルゲンが絞り出すように言う。


「俺っさまはなぁ! 西スラム一帯を仕切るゲットーファミリーの幹部様だぁ!」


「はあ? その、ご家族様っていうのはなんだ? お前はゲットーさん()の何者だよ。初対面の相手にいきなり家族紹介とかどこのボンボンだよ」


 生まれてこの方、一度も言われたことのない最上級の馬鹿にされ方はお気に召しただろうか? 精神攻撃なら元日本人の俺に任せて欲しい。


「おめぇ。ガキだからって許されると思ってんじゃねえだろうなぁ。ファミリーを馬鹿にしたことを生まれて後悔したと思うまで入れたまま切り刻んでやるぜぇ」


 願望が口を()いて出ただけなことも自覚出来ていないっぽい。モテないんだろうなコイツ。


「このお宝が大銅貨三枚にしか見えないとか言ってるモノを知らないバカにバカって言ったんだ。こんな簡単な言葉も理解できないとかゲットーファミリーとかいうのも大したことないねぇ。スラムの組なんて所詮(しょせん)こんなもんか。(あわ)れ過ぎて同情の涙が出そうだわ。()()()は相手を見る目が無さ過ぎてめんどくせーなー」


 ここまで面と向かって馬鹿にされたことはないのだろう。怒りで顔がドス黒くなっていくユルゲン君だった。俺はちょっとだけスッキリした。ちょっとだけね。


 ユルゲンから「ひゅっ」と息を飲むような音が聞こえた。ここだ! 俺はユルゲンの目をできるだけ見下しながら言った。


「もう一度言う。お前は(わたくし)が誰だかわかって買い叩こうって言ってるんだな?」


 それを聞いた瞬間、チンピラたちだけではなく、ボルツとその関係者もハッと息を飲んだ。ライズとその愉快な仲間たち一行も驚いた顔をしているがそれは「ウソだろ。ここでそれをやるのか!?」という顔だった。


「おい、お前ら得物(えもの)抜け」


「坊ちゃん、ヤバいです」


「ここまでコケにされて黙ってられるか。こいつは一人だ。周りには誰もいねえ。ハッタリだ。あとはここにいる全員()っちまえばわかりゃしねえ」


 周りを見て坊ちゃんの言うように他に人はいないとわかると、チンピラたちもファミリーを馬鹿にされたことを思い出して怒りの形相で短刀(ドス)を抜いた。手を引けばよかったのにね。そこから先はもう戻ることの(かな)わない分水嶺(ぶんすいれい)なことに気付いているかい?


「なんだお前。本当にお(ぼっ)ちゃまくんだったのか? そっかそっか、子供なら冒険者の一級品の装備の価値を知らなくてもしょうがないね。いやあ、馬鹿って言ってごめんねー。でも、アレだね。物を知らないって怖いよね!」


「モノを知らねえのはてンめぇだろぉがあっ! 犯せぇっ!」


 ファミリーの御曹司のお付きとはいえ、手練(てだれ)と言えそうな感じの用心棒(バウンサー)はいなかった。本当に自分の仲間というか手下だけで街をウロついているみたいだ。それほど、自分には誰も手が出せないという自信があったのだろう。だが、手を出された時を想定していないよなそれ? 実際に襲われた時のこととか考えてないのかな? 冒険者相手にはぜったい喧嘩売らないようにとかしてそうで本当に情けない連中だなぁ。あとでいくら仲間が(かたき)を討ってくれても本人は死んだ後なんだけど、それでいいのかい? あー、西地区ってファミリー同士の抗争がだいぶ前に終わって一強(いっきょう)時代なんだっけ? それじゃあ油断しちゃうのかもなー。


 ユルゲンがブチ切れてから上記を考える間に起こった出来事を振り返ると。


 三人のお付きのチンピラも身体強化を使えたところまではいいとして、だが遅すぎた。真ん中にいた腰だめで突いてきた一人目の短刀をピンポイントで左の回し蹴りで叩き落とし、その旋回のまま右足で(あご)を砕く。意識が飛んで崩れ落ちていく身体に隠れるようにして左から来る二人目の攻撃コースを無くし、右の襲撃者に集中。顎を打ち砕いた回転の勢いのまま左足をカチ上げる踵蹴(かかとげ)りで突っ込んで来てたチンピラの急所をピンポイントシュート! 二人目も白目を()かせて無力化。崩れていく一人目の背中を踏みながらその場の空中で前転して三人目の脳天に踵落(かかとお)としが綺麗に直撃。背中から飛び降りるついでに向かって来ていたユルゲンの顔面に左足で飛び蹴り。三人の手下を先行させたことで安心しきって突っ込んで来ていたので綺麗にカウンターで入った。後ろに吹っ飛んでいくユルゲンは完全に意識が刈り取られているため短刀を手離してしまう。宙に浮いた短刀を掴むと仰向けに倒れていくユルゲンの胸と腹に正座するように乗っかったまま左の鎖骨の下に切先(きっさき)を当てて着地。


 体重をかけた両膝の下では肋骨がバキバキと音を立てて粉々になり、短刀はなんの抵抗もなく鎖骨の下を抜けて切先がカチンと地面に当たって止まった。


 (あばら)が砕けていく最中(さいちゅう)、その痛みでユルゲンは瞬間的に意識の消失と覚醒を繰り返した。着地が完了した時にユルゲンの意識が消失状態だったのは彼にとっては不幸中の幸いか。


 短刀を地面に押し付けたままそれを支えに膝を胸から降ろしてドスンと力の抜けてる腹の上に座る。ゴバっと血を吐いて意識を取り戻すが自分の身に何が起きているかはまったく理解出来ていなかった。


「おい。坊ちゃん。起きてー。ぼっちゃーん!」


 ガフガフと血を吐きながらほとんど無意識に声のする方に首を向けようとする。その途中で身体から生えている自分の短刀が目に入って、掴もうと手を動かすがうまく掴めない。二回、三回と繰り返すうちにそれが自分にぶっ刺さっていること、身体を突き抜けていることに気付く。


 自分を覗き込んでいるのが、野性味あふれる黒豹(くろひょう)のような瞳の美しい少女で、彼女の被るフードから(こぼ)れ落ちる瞳と同じ色の美しい髪の毛に自分の汚い血が付いて汚してしまわないかだけが心配だった。


 そしてその美しい少女が無言で短刀を(ひね)るのが見えるのと同時に激痛が走って意識が覚醒した。


「ぐきょおおおおぶっふっ」


「おい、馬鹿息子。お前が誰だか知らんが俺を殺そうとしたんだからお前が死ね。お前が奪ってきた命と恨みの重さが今からお前が味わう痛みと恐怖だ」


 それだけ言うともう興味を無くしてしまったかのように短刀もそのままにさっさと立ち上がって歩き出してしまった。


 折れた肋骨が肺をズタズタにして自分の血で溺れるという苦しみと痛みと死の恐怖の中、歩み去る死女神(しにめがみ)から視線が外せない。


 朦朧(もうろう)としてきた意識の中、もう一度俺を見てくれと渇望(かつぼう)する視線の先で、少女は手下が落とした短刀を拾うと肉屋が肉を切り分けるかのように淡々と彼らの首を切り裂いていた。


 自分も、と言いかけたところで彼女の髪と同じ色が見えた気がした。

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