第34話 何事も経験
若い娘をからかって遊ぶのは楽しいなぁ。とか、これっぽっちも思ってないよ? 命の授業を終わらせて今からはビジネスモードだ。フードを目深に被って瓦礫に座って一行の到着を待つ。思ったより早い到着だった。ライズたちが相当がんばったんだろう。
ほどなくして、先に『銀狼の牙』のメンバーが姿を現し、その後からライズが四十前後のおっさんと話しながら空き地に入って来た。あれが防具屋のボルツだろう。ボルツの他にはリヤカーを引いてる獣人奴隷と用心棒らしいこちらも熊系の獣人奴隷がいた。ライズが声を掛けてくる。
「待たせた! 防具屋を連れてきた……ルシアとオルカは何してるんだ」
ふたりは俺の前で汗みどろで荒い息を吐いて這いつくばっていた。ふふふ。いたいけな少女たちとイイ事をした後なんだよ? 命がけの有酸素運動はさぞ効いただろう。心の問題が身体を動かすことで解消するのは若者の特権だ!
ふたりともライズの声は届いていないみたいだった。オルカが俺に顔を向けて「ししょー、ばけもぬぉ」と言ってぶっ倒れた。
防具屋はそこは興味ない様子で、きちんと並べられた防具が目に入ると一直線に向かって行きながら独り言のように言葉を発した。
「ほう? 本当にあったわ」
「俺たちウソ言わないって言ったろ」
「ふん。そんなもん信じてたらこんなとこで商売続けてられんわ」
仲良いのか悪いのかよくわからんな。
「防具屋のボルツを連れて来たぞ。職人街に工場を持ってるから多少壊れてても引き取ってもらえるはずだ」
ライズ、わざと俺の名前を出さないように気を使ったな? 俺がフードを被ってる理由を察したのか? やっぱお前らおもしろいな! なんだ? これって育成ゲームだったのか?
「引き取るかどうか決めるのは物を確かめてからだ。お前がこいつらの新しいボスかって、ライズ……。どう見てもこいつ子供じゃねーか」
俺は黙ってライズを見る。俺が何も言わないのを受けてライズが口を開く。
「防具引き取るのに歳は関係ないだろ。いるのかいらないのかどっちなんだよ」
「わかったわかった。ここまで出張ってきて物も見ないで帰れるか」
そう言うと仕分けされた装備品を触り始めた。『銀狼の牙』のメンバーは物珍しそうに査定作業を見ている。自分たちにいくら入ってくるのか興味津々なんだろう。
俺はライズと目が合った瞬間に指先だけでこっちに来るように指示を出した。それに気付いたアーノルドも近寄って来る。近寄った二人にもっと側に来いと手招きして小声で指示を出す。
「向こうの用心棒を見ろ。あれが取引現場のプロの仕事だ。わかるか? 主人の仕事の邪魔はしないで周りを常に警戒するんだ。わかったらライズは俺の側に立って警護だ。群がってるあいつらは周辺警護をやらせろ。アーノルドは少し離れたところでボルツの動きを見張れ。お前の仕事を思い出せ。呼び出して終わりか? それなら他の奴でもできるぞ。お前ら、酷すぎるぞ。緊張感を持て。今は戦闘中だ」
ライズが恥ずかしさに顔を赤くして三人を呼んで指示を出している。頷きながら聞いていたアーノルドは早速言われた通りのポジションに就いてボルツに話しかけ始めた。そんなものすぐに直せるとかこんな出物めったにないぞとか言ってる。そうそう、そういうこと。お前の武器を使え!
警護任務も取引現場の仕切りもやったことがないのだから出来なくて当然なので、俺は怒ってもいないし不機嫌にもなっていない。そもそも、今はまだ指示通り動いてもどうせ役には立たないのだから。何事も経験だ。
俺は、この現場にいる人間は最初から誰も信じてはいない。だから全員の頭上と鼻っ面の前に石をセットしてある。特にボルツが連れて来た獣人二人からは一瞬も目を離していない。
リヤカーの男は取引には興味無い感じで、リヤカーの側の瓦礫に腰を下ろしている。彼にとってはリヤカーを守ることが仕事なのだろう。
用心棒は俺を見た瞬間から俺のことをロックオンし続けている。あいつは俺がライズに指示を出しているのを面白そうに見ていた。
この場で唯一得体のしれないのが俺という存在だ。ライズたちよりも年下なのにボスとは? 昨日まではいなかった存在なのに、この短期間でなにが? そしてなによりも、こんな場所に無防備にこのお宝が積んであるのはなぜだ?
敵対する気は無いみたいで、そういった疑問を『おもしろい』という感情を乗せたまま俺を注視している。こいつ、自分には関係ないって思って楽しんでやがるよなぁ。正直、俺にとってこの手の輩はやりにくい相手だ。あからさまに馬鹿にしてきたり、敵意むき出しで来てくれた方がよっぽど御しやすい。
査定がそろそろ終わりそうだなというタイミングで用心棒の獣人がボルツの近くに行って何かを告げた。それを聞いたボルツは、何言い出すんだお前は、みたいな顔をして護衛ポジションに戻る獣人を見返している。その後、フードに隠れる俺の表情を見ようとしているのかじっと俺を見つめた。そのあと一度防具を振り返ってから、頭を掻きながら俺の方に歩いて来た。
俺の前で止まると用心棒がちゃんと付いて来ていることを確認してから話し始めた。
「モノ自体は悪くない」
そこまで言ってボルツはライズの立ち位置に気付いた。ゆっくりとした動作だが周りに目をやって他の子供たちの位置も確認した。そして自分の用心棒を見た。用心棒は口の端を少し持ち上げながら軽く頷いた。
「壊れてなきゃもっと良かったが、壊れてなきゃ俺の目の前まで来ることもなかっただろうからそれはいい。さて、お前さんはこの辺りじゃ見ない顔だな。新参か?」
俺はボルツの顔を見ているが返事はしない。答える必要のない質問だ。
「ふー。聞き方を間違えたわ。今後も仕入れはさせてもらえるのかね?」
「そうだなぁ。それはもちろん、今回の査定次第だろうな」
「ふむ。そりゃあ、そうだろうなあ……」
廃墟に埋もれそうな空き地の上にぽっかり開いた青空をしばらく眺めてから視線を俺に戻して言った。
「……ここにあるモノ全部を銀貨八枚で引き取る。と、いつもなら言うところだが、初取引の挨拶としてもう二枚上乗せさせてもらおう。合計銀貨十枚でどうだ」
「ずいぶん気前がいいんだね。正直者同士、仲良くやっていけそうで良かったよ。うん。それで頼むよ」
「そうか。名乗るのが遅れたな。俺はボルツって者だ。まあ今後もなんかありゃあ話に乗るぜ」
「そう。それは助かるね。俺のことはロックって呼んでくれればいい」
彼らにとっては緊張のやり取りを固唾を呑んで見守っていたライズチームの三人が「うおおお」と声を出した。
俺の名前を聞いた瞬間、ボルツと用心棒の眉が動いた。
……今こいつらが俺のことに関して不本意な意見を持った気がするが気付かなかったことにしよう。
ボルツが支払いの銀貨を数え始めた時に声が掛けられた。
「お前らここでなあにやってんだ。ここいらはゲットーファミリーのシマだぞ。わかってんのかぁ!」
赤茶色の髪を後ろで縛り、胸元が大きく開いた赤っぽいシャツとダボっとした黒っぽいズボンに両手を突っ込んだ十代後半のわかりやすいその筋のモノが、後ろに三人のチンピラを引き連れながら突然割り込んで来た。
ブックマーク、いいね、応援ありがとうございます。
励みになります!
X アカウント開設しました。
投稿のお知らせなど掲載予定です。
よろしければフォローお願いします。
アドレスはプロフィール欄にてご覧いただけます。




