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輪廻が嫌なら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2章 DAY2

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Substory 03 ホントのキモチ

 彼を見送ったあとは三人一緒に『夕暮れの泉亭』の護衛付き箱馬車で『一夜の夢』まで帰ってきた。彼女たちがスラムの街を歩いて帰るのはありえなかった。それほど彼女たちはここでは群を抜いて美しいのだ。容姿端麗(ようしたんれい)という意味はもちろん、なによりもその『清潔度』が群を抜いているのだ。


 高級娼館『一夜の夢』アン・レーヴ・デュヌ・ニュイ一言(いちげん)さんお(ことわ)りの店だ。『女帝』と呼ばれる女主人のジーナが首を縦に振らない限りどんなに金を出しても店の敷居を(また)ぐことさえ出来ないと、壁の中の貴族にも噂されるほどの店だ。


 ロガリウス帝国では風呂はそこまで浸透した文化ではない。それよりもサウナの方が普遍的に根付いている。いわゆる『風呂』は、この国では、遥か東方より伝わったという『湯舟』の文化が一部の層に刺さって、愛好的趣向によって運営されているという文化的背景がある。いずれにせよ『湯』というのは金のある者にしか許されない贅沢品なのだ。湯舟は、グランデールでは『夕暮れの泉亭』と『一夜の夢』にしかない。


『一夜の夢』は『女帝』ジーナの絶対的権威により、所属している娼婦間での争いは皆無だ。陰湿なイジメは徹底的に排除されている。そういう傾向の人物は『女帝』によって即、排斥(はいせき)されるのだ。客の奪い合いは、ある。売り上げ順位も、ある。が、それは彼女たちに金銭的優位を何も生まない。選ばれた客がこぞって贔屓(ひいき)の嬢をナンバーワンにしようと金を使うという、店と嬢の思惑があるだけだ。ホンモノの金持ちの遊びなのだ。だから誰も本気にならない。


 『一夜の夢』に所属している者は娼婦も、女中も、家政婦も、護衛も、『女帝』ジーナ以外は全員が奴隷身分である。また、その敷地がある場所は、高級宿『夕暮れの泉亭』から大通りを挟んでお向かいさんという立地だ。そう。めっちゃ近い。


 その日、彼を見送った三人は『夕暮れの泉亭』を馬車で出て数分で『一夜の夢』に到着するとシェリルの個室で休んでいた。


「いやー、不思議な子だったねー! めっちゃかわいかったー!」

 キュロスが興奮気味だ。


「あれは、磨けばもっと光る」

 サリアの目が怪しく光っていた。


「あらあら。本人が聞いたらなんて言うかしら」

 あごに人差し指をあてて小首を傾げる姿が同性しかいない空間なのに(つや)っぽかった。これはもう天然なので止めようがなかった。さらに、無意識に組んでる腕が大双丘を押し上げていてサリアの視線が釘付けになっていた。


「でも、わたしもつい楽しくなってしまって最後はちょっとやりすぎてしまったわ」


「シェリル(ねえ)さん、あれはしょうがないよー。だって、誰もあんな風になるなんて思えないものー」


「ふふふ。そうね。女将(おかみ)さんが連れて来る()にもいつも驚かされるけど、今回が一番だったわね」


 店ではジーナは『女将さん』と呼ばれている。ジーナはどこからかたまに奴隷の娘を連れて来る。たいていは彼のように元の容姿がわからないぐらいに汚れきった娘だ。その時々で手の空いている者が彼女たちを『磨く』のだが、毎度その変わりように驚かされるのだ。普通、()()()()はならんやろと。


「あの子、どうなっていくのかなぁ」

 キュロスがどこか遠くを見るように言った。それは誰かに向かって言ったことばではないことはふたりにはわかっていた。


「あれは、イクわ。きっと、遠くまで」

 サリアも独り言のようだった。


「うふふふ」


 ふたりが不思議そうな顔をしてシェリルを見た。思い出し笑い? そういえば、こんなに楽しそうな彼女を見るのはいつぶりだろう? いや、シェリルねえさんはいつも微笑みを絶やさないやさしい(ひと)だ。ああ、でも違ったんだ。これが彼女の本当の笑顔だったんだ。ふたりはなぜか泣きそうになった。それは、自分の憧れの女性が本当に笑っているところを初めて見ることができたからだと気付いた。でも、ふたりは胸の中に微かな痛みにも似たなにかを感じた気がした。


「うーーーーん。また会いたいなー」

 ソファーでうつ伏せになってクッションに顔を埋めながらキュロスが言った。続けて、あの子まだ十歳だってー、と言ったのはなんのためだろう? 自分でも不思議だった。


「またすぐに()()わ」

 キュロスの言葉に胸の中のなにかが熱くなった気がして無意識にそう言ってしまっていた。


 んんっ。


 ふたりはピクっとなってシェリルの顔を見た。ただの咳払いのはずだった。艶っぽいのはこの際関係がない。大事なのはそこではなかった。この三人では一度もなかったことが起きたのを感じたのだ。相手は十歳のお子様。しかも見た目はアレ。そんなはずはなかった。ありえなかった。シェリルの目は相変わらずやさしかった。口元もだ。だが、次に出てきた言葉を聞いてふたりは信じられない思いをした。


()()にわたしが見た時のあの子ったらかわいかったのよぉ」


 ……マジか。マウント取ってきやがった。


 それがふたりの感想だった。それは宣戦布告だった。ふたりは完全にそう受け取った。


 負けられない女の戦いが、そこにはあった。


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