第32話 アドヲタ爆誕
ここで少し長くなるがメンバー紹介だ。
冒険者パーティー『銀狼の牙』は見習いから上がったばかりの鉄階位星なし。
ライズ(十四歳)前衛、パーティーリーダー
アーノルド(十五歳)中衛、サブリーダー
バル(十四歳)盾役
ウィル(十三歳)遊撃手
キリエ(十二歳)斥候
グランデールにおける冒険者階位は、下から見習い、鉄、銅、銀、金。見習い以降は星なしから始まって星三つまで。金級は貴族専用なので、実質的には銀階位三等級が現場の最上位等級になる。
ルシア(十三歳)ライズの妹。跳ねっ返り娘
オルカ(十二歳)狼獣人。前衛、攻撃手、二刀流のダガー使い。ルシアとふたりでいることが多い。
こうして見ると……火力が足りないなぁ。まともな攻撃力がありそうなのがライズとバルだけか。誰かが魔法使いになれば少しは楽になるが……やっぱりもう一枚、ガツンと欲しいな。まぁ、こいつらの問題だな。
「ライズ、防具の下取りしてくれるいい店知らないか」
「え? 今度は防具かよ……。アーノルド、どうだ?」
「ん~、そうだなぁ。修理が必要ならボルツんところだし、一番高く買ってくれるなら交渉次第でゲットーファミリーなんだけど……」
「だよなぁ」
「アーノルド、下取りに出す防具はこの広場から見える店には置いてないような上物だとしたらどうだ? お前ならどうする」
「え、う、うん。そうだな……。ゲットーファミリーは俺たちみたいな子供相手にはまともに商売なんかしないからボルツの店で決まりだと思う」
「ライズはどうだ」
「うん。俺もそう思う」
「他に何か意見のあるやつはいるか?」
やはりみんなボルツがいいと言う。さっき買ったバルの片手盾もボルツのところで買ったらしい。
「ライズ、そいつ呼び出せるか?」
「どこに?」
「ん~。さっきの空き地のひとつ先の廃墟のところだ。そこにある」
「……それ、先に見てもいいか?」
「もちろん。さぁ、行こう」
そう言ってみんなで向かう。その場所は昨日、高級宿を探すのに通ったところだ。人が住むには倒壊し過ぎている廃墟で、無人だった。さっきも『走査』したけど人の気配はなかった。もちろん、今そこに防具などは置いていないが、行ってから出せば問題ない。
俺はコートの前を閉じてフードを目深に被って先頭を歩いている。どうも俺はここではけっこう目立つらしい。綺麗になりすぎた。……いろんな意味で。
さっきルシアたちに襲われたところを通り過ぎて一本奥の路地を進む。ルシアを見ていたが、襲撃地点を通る時に何か考え事をしている感じだった。自分よりぜんぜん年下の俺に完膚なきまでに叩きのめされたショックをまだ引きずってる感じだ。本来の彼女らしくなさそうな振る舞いがショックの大きさを物語ってるな。
俺の目の前に廃墟が現れた瞬間、瓦礫の下の死角になるところに『赤竜の爪』のやつらの防具を『排出』して設置。迷いなくそこまで歩いていく。
「この下に置いてあるやつが売り物だ」
「見てもいいか」
「全部引っ張り出してその辺に並べてもらってもいいよ」
ライズが瓦礫の下を覗き込んで「すげぇ」と言った瞬間、アーノルドが凄い勢いで頭を突っ込んだ。「うひょー」とか言って大興奮だ。あいつ、ミリヲタならぬ冒険者ヲタク……アドヲタか?
アーノルドの的確な指示で職業別にきちんと仕分けされて並べられる装備。昨日まで現役バリバリで使われていた冒険者の装備をここまで間近で見るのはみんな初めてだろう。銅位階三等級の使っていた装備品だ。スラムでは超高級品の装備を前に全員が緊張しているのが伝わってくる。
みんな興奮しているが、特にアーノルドがひどい。
「こ、こいつはすんごいでごさる。つい昨日まで使われてたような最高の装備ですなー。洗ったばっかり? まだ濡れてるぅ。うひょーここは血が付いたままですぞ! おっほ、なんだこのヘコミ方? どうやったらこんなことが出来るんですかねえ。こっちはナイフで切られてますな。もったいなーい」
アーノルドが保存状態がーとか、手入れの仕方がーとか独り言のように早口でぶっぶつ言いながら検品というよりはお宝鑑定みたいになってた。
「どうだ、アーノルド」
ライズが声を掛ける。
「こいつぁとんでもないお宝ですぞ! ボルツもこれを見たらおったまげるでござるよ!」
お前、ひどいな。
「だそうだ」
とはライズ。
「そうか。ライズ、ボルツというヤツを呼んで来れるか?」
「ああ、これだけのお宝があるとわかればスっ飛んで来るだろう」
「そうか。問題は子供の言うことを真に受けるかどうかだ。ライズ、『銀狼の牙』に個人的な依頼だ」
「依頼」と言った瞬間、全員の間にピリっと何かが走った。昨日のことが頭に過ったかな? いい傾向だな。
「ボルツを呼んできて取引がいい感じで成立したら査定額の一割を渡す」
「「えっ」」
ライズとアーノルドが同時に反応した。アーノルドの声が震える。
「え、え、だって、これ全部売ったら銀貨が何枚になるかわからないよ」
それを聞いた他のメンバーが驚いた顔になる。そうだ。それほど高位冒険者の装備というのはスラム住人にとって高級品だ。前世で例えるなら高級外車を買うようなものだ。それが五人分ある。
「そうだよね。いくらになるかはわからない。けっこう痛みも酷いし。アーノルドはこういうのに詳しいんだろ? だったらできるだけ高く売れるように仕向けろよ。そうすればその分、自分たちの報酬も多くなるんだから。これが最初で最後だ気合入れろよ」
アーノルドの目つきが変わった。今までパーティーとして頭脳では貢献してきていたが、やはり、わかりやすい火力としては足を引っ張っていた自覚があるのだ。だが、その引け目を一気に帳消しにできるほどの収入になる可能性がこの仕事にはあることに誰よりも早く気付いたのだ。「最初で最後」は、俺に防具屋を紹介したらもう二度目は無いのだ。次からは俺が直接交渉すればいいだけだからだ。これは、燃える! 燃えなきゃ冒険者なんかやめちまえ! 俺がニヤリと笑いかけてやった意味を理解したのか、アーノルドがスラムの悪ガキの顔になった。
「ライズ! 急ぐぞ! こんなところにこんなもの出しっぱなしはヤバい!」
言い終わった瞬間にはもう走り出していた。慌てて追いかけようとするライズが急いで振り返ってルシアを見る。
「ライズ! ルシアたちのことは俺に任せろ!」
ライズは俺の顔を見てひと言「任せた!」と言って今度こそ振り返りもせず走り出した。
ライズ、俺は紳士だからな。約束は守る。任せろ。
あっという間に『銀狼の牙』の連中はいなくなった。
さあ、ルシアよやっとおじさんと二人きりになれたね。くっくっく。




