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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1章 DAY1

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第28話 はじめの一歩

 新しい朝が来た。


 あ、本当に文字通りの意味です。昨夜はなにもありませんでした。超色っぽい、むしろ(つや)っぽくて若くてダイナマイトバディタレ目美人というフルスペックおねえさんとでっかいベッドで一緒に寝た……けど指一本触れておりません。


 俺、子供なので(泣)


 それよりも俺は今世初めてのベッドよ。


 知ってる? 昨日までの俺。藁よ? 藁。わら、ね。草だよ。野宿と変わらないんだよ。ここには変な虫とかいないんだよ。いや、別にもうそんなのいたところで気にもならんけどね。この世界にもちゃんとベッドがあるって知れて良かったよ。


 いやー、俺の体重が軽すぎるのか無重力で寝てるのかと思ったわ。


 普通こういうのって「柔らか過ぎて寝れねぇぜ」「俺は床でいいぜ」とか言うと思うんだけどさ。普通に熟睡した。隣の方からなんかいい匂いしてたけど寝れてしまうあたり本当に俺の身体は子供なんだと思う。自分が思う以上に精神的にも子供なのかもしれない。


 ちなみにシェリルは二十三歳だ。子供(バカ)のフリして聞いた。その時の模様を脳内でリプレイしてみよう。


 明かりを消してベッドに入ってからの流れだ。


「あのさ、俺って今日が誕生日だったけどさ、よかったらこの日を覚えておきたいんだよね。俺、日付とかよくわからないし。せっかくだから知っておきたくて」


「もちろんよ。明日紙に書いておくわ。一枚はロックにも渡すから」


 なに?! シェリルって字が書けるの? すごくない! ではさっそくこの奴隷契約書を確認! っていうのはまだ無理だ。巻き込めない。というか魔法も使えて文字の読み書きもできて……高級娼館『一夜の夢』アン・レーヴ・デュヌ・ニュイってどういう店なんだろう。これは一回偵察に行かなければ……


「ありがとう。じゃあさ、その紙にシェリルとさ、キュロスとサリアの名前と誕生日も書いてもらえない?」


「いいわよ。だけどそんなものどうするの?」


「うん、ここに来て初めて出来た友人のことを少しでも知っておきたいんだ。ちなみにシェリルって何歳なの?」


「あらぁ。女性に歳を聞くのはマナー違反なのよお。ふふっ。わたしは今もう二十三歳ねぇ。もうだいぶおばさんになってしまったわぁ」


 は? なんて? おばさん? おいおいおいおい、なーに言ってんだか、この小娘(こむすめ)は! いや、このバディに対して小娘は失礼か。


 この世界の一般人は十代子持ちが当たり前だ。それも子供ひとりふたりの話じゃない。一応この国での成人は十五歳となっているが、それはもうほとんど男の事だ。女は子供が産めれば大人だ。人が、子供がばたばた死んでいく世界とはそんなものだ。だからシェリルの二十三歳おばさん説も間違いではなかったりするのだ。


「いやいやいや、シェリルはこれっぽっちもおばさんじゃないよ! そんな馬鹿なこと言うやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやるよ」


「うふふふ。ありがとう。じゃあわたしが行き遅れたらお嫁さんにしてね」


 キタコレテンプレ。いただきまぁす!


「望むところだよ! シェリルが行き遅れるなんてまったく考えられないから、その賭けは俺が負けちゃうだろうけど。五年後の俺が成人する時にシェリルがまだひとりだったら俺と一緒になってもらうからね!」


「はぁい。たのしみにまってるわねぇ」


「指折り待っていてください」


 そうやっておやすみなさいしたんだけど……


 よく考えなくても完全に子供扱いだなこれ。おおきくなったらけっこんしようね! のやつだよ。くそっ。なんで俺十歳なんだよ。子供設定ウザ!


 冒険者ギルドには入れないし、パーティーも組めないし、美人さんともほにゃららがアレだし。まだ今日が一日目だぞ! 五年長いってー!


 ……そして五年後




 なわけねーだろ! 翌朝な。


 それでもってこれが俺の異世界転生二十四時よ。いろいろ事件ありすぎだろ。誰だよ、この世界は娯楽が無いとか言ってたやつは。これは忙し過ぎるって。俺の目標、異世界スローライフにしようかなぁ。


 よし! 今日という新しい一日の始まりに相応しいことから再スタートだ! そう。朝風呂だ!


 ってことで……いやー、堪能させてもらいましたよ、今朝も。むふっ。

 

 服がないので今朝も部屋出し朝ごはん。朝ごはん来ちゃうので長湯できなかったのが残念だった。安宿や安娼館での朝飯はもはや人間の食い物とは思えないほどの素晴らしい朝食をいただいた。洗練とはこのことか。


 ウォーカーっていったい何者なんだ。ただの冒険者上がりじゃここまで洗練されたものは作れないよな。たぶん元貴族とかかな。継承権のない男児とかの説が濃厚かな。まぁ定番だね。継承権無かったら平民だから騎士や文官になるか()(くだ)るかだからな。こっちの世界だと幼いころから文武の教育受けていれば平民社会に出たらスーパーエリートだしね。


 朝食後は昨日の約束通り服屋がいろいろ持って来た。しっかり話が伝わっていてサイズとかもばっちりだった。質の良い下着を数枚、丈夫なシャツも数枚、黒のズボンも戦闘用のもの。


 ズボンに関しては長く使えるように少し大きめなものを折ったりツメたりした。なんとなく雰囲気で元々貴族のご子息用の冒険者服っていう気がするなこれ。それから華美な装飾的なものを排除して実戦に振り切った作りになっている。これ、いつからあったんだ? 昨日オーダーされてから仕上げたのかな? これに関しては他を見るまでもなく即購入決定だった。


 ポケット多めの革ジャケットと野営や雨避け用にもなるフードマント。すぐにサイズアウトするかもしれないけど革のグローブも買う。ブーツはすごいたくさん持ってきてくれた。これも詰め物をして少し大きめのやつで使い勝手のよいものを購入。


 服を選んでいる途中でキュロスとサリアが来た。せっかくなら朝ごはん一緒に食べたかったねと言ったらキュロスが「その手があったかー」と残念がってた。


 服屋はなんと靴下まで持ってきていた! あったのかよ! この世界に靴下なんて!

 

 これでもう必要なものないよなと確認していたら、服屋の主人が「じつはバッグもご用意していますがいかがですか」と来たもんだ。この商売上手! 苦しゅうない! 持って来て持って来て!


 実際は必要ないのよ。全部収納しちゃうから。でもね、ここから出るのにもこの荷物を全部持ち運ばないとダメなんだよ。


 すごい早さで部屋がカバン屋になる。この商人のおじさん、何者だ?


 荷物が全部入って、俺が背負ってもそこまでおかしくない丈夫そうなやつに決定。実際の見た目は新一年生のランドセルみたいにカバンがデカく見える状態。いいんだよ身体強化あるから。それとは別に俺が実際に使う小さめバッグも購入。


 ズボン用のベルトも買った。今までは装備用のベルトでズボンを押さえていたけど本来の使い方ではないので。


 値段を聞かないで商品を選んだけど、最後に内訳をひとつずつしっかり説明する店主。誠実だね。すんごい値段になったけど端数は結構ですと言いながら結構な値引きをしてくれた。それ以上値切ることはなく、急な願いにも関わらず朝早くから商品を用意してくれたお礼を言って支払う。


 そのあとに値下げされた分程度をここまで荷物を運んでくれた従業員の方にと言って渡す。主人の後ろで控えていた従業員が震えるのがわかった。主人は「皆も喜びます」とだけ言って受け取った。


「またのご利用をお待ち申し上げております」


 そう言って頭を下げると後ろに控える従業員の人たちも一斉に頭を下げた。これは間違いなく壁の中の一流店だと思った。服屋は入って来た時以上に素早い仕事であっという間に片づけて引き上げていった。


 女中のミリィさんがお疲れさまでしたと飲み物を用意してくれる。一息つくとシェリルが高らかに宣言する。


「さ、あまり時間もないしやってしまいましょう」


 え? なに? と思う間もなくテラスに引っ張り出されてスツールに座らされて上半身がシャツだけにされる。ミリィさんに大きめのタオルでぐるっとされて散髪屋のできあがり。早っ! ここの人たちみんな仕事早いよね!


 シェリル、キュロス、サリアだけじゃなく侍女のミリィさんも一緒になってサクサクと散髪が進む。俺的にはもういつでもガッツリ男っぽく短い髪型でいいのだが、この女子率の高い現場においては男子一名の意見など言うだけ野暮なので、笑顔で全てを「イイネ」で受け止めるしかないことを知っているのだ。


 最後にミリィさんが鏡を持ってきた。とても良いと思いますと笑顔で礼を言う。俺は紳士なのだ。そこにはどこから見てもただの美少女が映っていたとしても、だ!


 服を着たところでユセフが現れた。


「ユセフさん、お世話になりました」


「なにかご不便などはありませんでしたか」


「とんでもない。これ以上良い宿は世界のどこを探してもないでしょう」


「そう言っていただけましたら我が(あるじ)も喜びます。そのお言葉、必ず伝えておきます」


 追加料金を聞いたら「不要」と言われたが笑顔で石鹸、追加の食事含めて「教えてください」と言ったら観念して教えてくれた。その場で追加の大銅貨五枚を渡す。


 ミリィさんに向かってお世話していただいたみなさんでお分けくださいと大銅貨を渡す。ミリィはユセフの顔を見たがユセフが小さく頷くのを見て「ありがとうございます」と受け取ってくれた。チップは文化としてもちろんある。問題は俺の見た目が十歳の子供(美少女)だってことだろう。


 チェックアウトは終わった。昨日までの装備を外に吊るしたバックパックを背負ったら出発だ。


 みんな表玄関まで見送りをしてくれた。


 預けてあった短刀を受け取る。これも結局やつらの装備は足がつきそうだから使うのをやめて元々の自分のボロいやつなんだよね。


 まだお昼前の早い時間なのでレストランにも人はいない。


 俺を見た従業員の誰かが他の従業員を呼びに行ってざわついていたら、暇していた用心棒(バウンサー)のお兄さんたちもなんだなんだと出てきて俺を見て、女中さんから耳打ちされて驚いたあと笑ってた。昨日の自分を鏡で見たわけじゃないからどれぐらい変わったかはわからないけれど、まぁ変わったよね。少なくとも今の俺は浮浪児には見えないだろうし。ついでに男にもなかなか見えないだろうし!


 キュロスとサリアが進み出て俺の頭に細い銀色のカチューシャをつけた。風になびく髪が収まった。昨日渡したチップで朝から買いに行ってくれたものかもしれない。


 ユセフがにこやかに「いってらっしゃいませ」と頭を下げると全員が「いってらっしゃいませ」と唱和して頭を下げた。シェリルがやさしく微笑みながら小さく手を振っていた。


 俺は「いってきます」と言って新しい冒険へと最初の一歩を踏み出した。


 第1章 了



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