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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1章 DAY1

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第27話 俺の若い頃はなぁ

 まったく想像もしていなかった事態に、ショックを引きずったままシェリルに手を引かれて寝室を後にする。正直今から飲み会という気分でもなかったが、快く受け入れて風呂を提供してくれた宿の主人(あるじ)(ないがし)ろにするわけにはいかなかった。


 部屋に戻りウォーカーの前に進み出る。


「ウォーカー様、先ほどは大変失礼いたしました」


 頭を下げながら言う。そう。俺はさっきこの人を「おっさん」呼ばわりしたのをバッチリ聞かれてしまったのだ。このクラスの部屋なら訪問前に先触(さきぶ)れぐらい出しやがれ!


「かまわんよ。ぶふっ。先触れも出さずにプライべートに踏み込んだのはワシの方だからなっはっはっは!」


 いかにも楽しそうなウォーカー。


「ぶっふふふふ。お前、本当に昼に会った小僧か?!」


 いつまで笑ろてんねん。


「はい。生まれてから一度も鏡なるものを見たことがなかったので、昼との違いというものはわかりませんが、私は私のままだと思うのでおっしゃる通りかと」


 ウォーカーは、またまたおもしろいものを見たという顔を隠そうともせず言う。


「そのナリではそれでもよいが、冒険者なのだろう? もっと気楽に話していいのだぞ」


「私は冒険者なのでそれでも構わないのですが、ウォーカー様は従業員の方々の手前もございましょうからなかなかそういうわけには」


「ぶっ」

 ウォーカーの後ろに控えている護衛(ガーディアン)の狼獣人が吹き出した。ユセフはニヤリとした。


 つまりこういうことだ。


「俺は()()冒険者だからそれでもいいが、アンタは引退した()冒険者だから俺と同じというわけにはいかねぇな」だ。

 

 ユセフに通じるのはわかるが狼獣人の護衛(ガーディアン)はたしかバーズと呼ばれていたな。彼にも通じるということは、彼も元冒険者か。ということはウォーカーと馴染みか元仲間かもな。ユセフも身のこなしから只者ではないだろうけど、冒険者って感じだけでもなさそうだなぁ。


 ウォーカーは負けた負けたというように両手を上げながら


「いや、ちょっと笑い過ぎたな。(わり)(わり)ぃ。許せ。冒険者()めるとなかなかおもしろいことも減ってなぁ。久しぶりに楽しいことが起きてはしゃいじまった」


 やっぱりこのおっさん変わってんなぁ。そんな変わり者だから俺みたいなのに風呂貸してくれたんだから感謝しかないけど。


「いえ、俺も調子に乗り過ぎました。ごめんなさい」


「やめろやめろ! 子供に頭下げさせてるところなんか世間に見られたら俺の評判が下がっちまう!」


 なんとも楽しそうだ。


「ウォーカーさん、ウチの()たちはどうしましょう。このままお席に着かせますか?」


「いやいや、こんな若い(むすめ)を夜遅くまで付き合わせるわけにはいかん。送らせるから今日はここまでで帰りなさい」


 ふたりは残れるのかもと一瞬期待したようだったが、主人(ウォーカー)にそう言われてしまってはどうしようもない。キュロスは「わたしそんなに若くないんだけどなぁ」と言いながらも、二人とも別れの挨拶をして去っていった。去り際に「また明日」と言っていたので、また来るつもりなのかな?


 部屋の中で話している間にテラスでの準備が終わったらしい。やはり今夜は風向きが良いというのは宿の人たちの総意っぽい。屋外で飲食や夕涼みが出来るところも宿の自慢の部分なのかもしれない。こんなセレブ気分は前世でだってめったにお目に掛れないのでありがたく楽しませてもらう。


 テラスの先の両端にはそれぞれ警備員(セキュリティー)が立っている。手には弦を張った弓を持っている。引いていないというだけで矢をつがえた状態という厳戒態勢だ。ユセフからは念のための威嚇(いかく)だから気にしなくて大丈夫と言われた。ホントに?


 半円形のソファーに左側からシェリル、俺、ウォーカー、護衛(ガーディアン)のバーズという並びだ。バーズは「今日の俺の勤務時間は終わってんだ」と(うそぶ)いていた。ウォーカーが平然としていたのでその通りなのだろう。この席で主武器(メインウェポン)を持ち込んでいるのはバーズだけだ。そのことからも彼に対する信頼の高さが(うかが)い知れた。よく見ると彼とユセフには奴隷紋どころか契約紋さえない。


「いや、しかし見違えたな。おっと! からかうつもりはないからな!」


 冗談めかしてウォーカーが言う。


「いや、もうぜんぜん笑ってもらっていいですよ。俺がウォーカー様の立場だったとしても笑ってた自信がありますから」


「そうだよな! わっはっはっは! それとな、さっきよりはマシになったが「様」はよせ「様」は」


 俺はバーズに向かって言う

「変ですか? 他のお客さんはどうなんですか?」


「そうだなぁ。商人とかは(さま)って言う奴もいるなぁ。冒険者は様は付けないな」


 ウォーカーの顔を見る。


「な? お前は冒険者なんだろ?」


 そう言ってニヤリとする。先ほどの意趣返(いしゅがえ)しだ。

 俺はまだ十歳で冒険者登録はできないから、実際は冒険者見習いでさえないのだ。


「お言葉に甘えますよ。ウォーカー()()


 ウォーカーは満足そうに(うなず)いた。


「さぁ、呼び方が決まったところで乾杯にしましょう」


 シェリルが絶妙なタイミングで声を掛けてきた。そうだった。まだ乾杯もしていなかった。俺には薄めた葡萄酒でシェリルはそれよりも濃い普通の葡萄酒、ウォーカーとバーズの前にはエールが置かれた。奴隷は食事の席には着かないが、性奴の酒席の同伴は許される。それはそういう目的(プレイ)の一環としての密室だけで行われる習わしだ。


 みんながそれぞれのグラスやジョッキを持つ。乾杯の音頭を取るのは主人であるウォーカーだ。


「それでは新たな友人との出会い。一度に二人の人間と知り合った気がするから喜びも二倍だ! 乾杯!」


 まったくこのおっさんは口が減らないなぁ! それぞれが「乾杯」とグラスを掲げて口をつける。


 美味(うま)っ! ほとんどアルコールは感じないほど薄いが美味いなこれ。昼間飲んでいた葡萄ジュースも美味かったがこの葡萄酒はまた違った美味さだ。ジュースほどの甘さはないがその代わりに酸味と香りが素晴らしい。 薄めておいてこれなのか? つい「美味い」と言ったあとシェリルの持つグラスを見つめてしまった。


「ほお? ロック、お前酒の違いがわかるのか?」


「いえいえ、こんなにちゃんとしたものを飲んだのは生まれて初めてなので違いなんてわかりませんよ」


 ひとくちだけよ、とシェリルが自分のグラスを俺に渡してきた。かかか、かんせつ  


 チビっと口をつける。うーん、なるほど! 子供の舌にはまだ早い! 正直に言うとまたウォーカーが笑った。


「お前さんと話してるとまだ十歳だというのを忘れちまうなぁ」


「冒険者たちに鍛えられましたから」


「あー、それな。うーん。冒険者ってのは自分から話すこと以外はお互いに何も聞かないのが決まりだからお前にも聞かん。気にはなるがな!」


 がっはっはと笑って取り(つくろ)ったが、かなり本音をぶつけてきたなこれ。まだまだ言えることは少ないがしょーがねーな。


斥候(スカウト)なら多少出来るのでこっちでは狩りをしようと思っています」


 バーズが少し身を乗り出すのがわかった。ちなみにウォーカーもバーズも四十台半ばぐらいのはずだ。間違っても「じゃあ一緒に」とはならない。先輩としての昔話から、これからの冒険者にと、いろいろ話したいこともあるのだろう。


 引退冒険者の夜は長いのだ。


「お前の見た目で泥にまみれた斥候(スカウト)ってのも想像し辛いが……実際この目で見てるからなぁ」


「違いない」

 含み笑いでバーズ。裏口で初めて会った時のことでも思い出しているのだろう。


 そのあとも、この方向が森への最短でなぁなど身振り手振りでどの辺りに何がいるかを教えてくれる。時々バーズが訂正を入れたり、いやこっちの方がいいだの、いやいやそれは違うなどとなかなかに情熱的にご教授いただけた。


「まぁ、いずれにせよギルドで仲間を見つけてからだな。最初の内はお試しや助っ人で、いろいろなパーティーで軽い依頼をこなしながら相性のいい相手を見つけるのが定番だな」


 と、ウォーカーが言うのを受けてバーズも頷きながら口を開いた。


「まぁ慌ててパーティーを組むとロクなことにならんからな。俺のように。」


 ウォーカーが「なんだとー! お前の方こそなー」と返してまた二人でイチャイチャし始めたのを見てシェリルが、


「でもロックは十歳なのよね。冒険者登録できるまでまだ二年もあるわ」


 と、言った。ぎゃあぎゃあ言ってた二人の口が開いたままピタっと動きが止まる。二人の顔が俺の方にギギギと向いてくる。こわっ!


「あー、そうか。お前、今日が十歳の誕生日って言ってたな」


 ウォーカーがすっかり毒気を抜かれたように言った。


「そうですね。そのうち仲間も見つかるでしょう。その前に冒険者ギルドの方でも嫌がりそうだからどうなるかわかりませんが。まぁ、仲間ができるまでは修行だと思ってソロで狩りでもしながらのんびり過ごしますよ。」


「ん? なんだそれは? いや、それよりお前、ソロでもって言ってもだな」


「ホーンラビットぐらいならひとりでも狩れるから大丈夫だと思うんですけど」


「え? ホーンラビットを()()()()狩る?」


 ウォーカーが疑問に思うのは無理もない。ホーンラビットと一対一で対峙して狩るのは冒険者であれば当然といえば当然だ。ただし、ホーンラビットがいる場所まで行くこと、戦っている間、処理している間というのはパーティーメンバーのバックアップなしにはどれも危険があり過ぎるのだ。


 『恵みの森』でソロで活動する冒険者はほとんど存在しない。


 そもそも、どんなに個人としての戦力が高くても、獲物を持って帰れなければ収入にならない。魔石やツノだけを持ち帰る方法がなくもないが、それも解体などの間に無防備になるなど、総合的に考えると現実的ではないのだ。


 前例がないわけではないのだが、そういう者たちはいわゆる()()()()(たぐい)だ。


 ウォーカーとバーズの脳裏に一瞬、彼らのようなバケモノが思い浮かんだが、目の前に座る女の子にしか見えない十歳児がそうだとは思えなかった。


 だが、しかし、冒険者として生き延びてこうして成功を収める実力者だった彼らはこうも思った。今日の昼間に見たこいつと、今のこいつが同じに見えないように、まだ俺が見えていないこいつがいるのではないか? と。


 そこまで思って、今夜は飲み過ぎたと反省した。


 忙しく過ごす中で忘れかけていたが、久しぶりに昔の冒険者仲間として酒が飲めた。それもこの変な子供のお陰だと思うとおかしかったが、たまには善行らしいこともしてみるもんだ、と自分を平気で棚に上げられるのがウォーカーの良いところでもあった。

 

 明日の朝には服を持ってこさせるからなと言ってウォーカーは去った。今夜はここに泊まるが、明朝は早くに壁の中に戻らねばならないというので別れの挨拶とシェリルを呼んでくれたことの礼を言った。特に礼の部分はシェリルが照れて止めに入るぐらい熱く語ってしまい、ウォーカー達も若干引いていた。


「また来いよ。お前ならいつでも歓迎してやる! なんせ気前のいい客だからな!」


 どこまで冗談かわからない口調で笑いながら出ていく背に向かって深く頭を下げた。 


 部屋のソファーに座って見ている間にテラスの酒席が片付けられた。前世の新幹線の折り返し運転時の清掃を思い出した。つい「おー」と声が出るほど見事なものだった。そして全員が頭を下げて出て行った。


 あとには俺とシェリルだけが残された。


 え?



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