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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第233話 だが、そこがいい

 集積所に着いて竜車を降りるとセイレインたちが近付いてきた。


「ラグナロク様、書簡を(したた)め終わりましたのでお持ち致しました」


「はい。確かに預かったよ。同じものを二通だね。ではこれはこちらで処理するよ」


「はい。よろしくお願いいたします」


 そう言うと三人が深々と頭を下げ、竜車に戻って行った。


「ラグナロク様、シェリル様、皆様お待ちしておりました」


 この集積所の担当者だ。


「さっそくで申し訳ないけど契約屋(コントラクター)がいたらお願いしたいんだ。それとね、この書簡をそれぞれ別ルートで、最短でロードリンゲン侯爵に届けて欲しいんだ。俺たちにとってはまぁまぁ重要といえなくもないが、これを書いた彼女にとっては家が滅ぼされるかどうかの瀬戸際の話なんでね、よろしく」


「はい。ただ今契約屋(コントラクター)を呼んで参ります」


 そう言った瞬間に後ろで控える事務員がひとり頭を下げ出て行った。もうひとり事務員が進み出て書簡を(うやうや)しく(ささ)げ持つと速足(はやあし)で出て行った。


「シェリル、これを頼むよ」


 契約書を渡す。ロイドと交わした契約書だ。サインはもう入っている。あとは契約屋(コントラクター)に任せるだけだから第一婦人になるシェリルに代行を任せる。それを見てロイドもソニーに契約を任せて俺に付いて来た。


「いいの? 大事(だいじ)な家のことだろ」


「はっはっは。お前にとっては大事ではないと言っているのか?」


「あー、失言だ。取り消そう。でもまあ内容は大事だが紙切れ一枚は別に大事じゃないだろ」


「うむ。そういうことなのだな。お前とシェリル殿との関係、いや、全ての婚約者、使用人との関係と同じなのだな。お前はここが奴隷紋も契約紋も無い世界のごとく振る舞う。そして紋以上に深い関係を築く。俺にとっては事務手続きに立ち会うよりお前と共にいる時間こそが今後に必要な気がするだけだ」


「そうかなぁ。そんな大層なことはしてないよ。買いかぶりだと思うよ」


 気安い会話をしながら貯蔵庫に向かう。


「さすがに量が多くなってきたね」


「はい。ここより東にある街に不釣り合いなほど多くの穀物庫がございまして、大規模な集積所となってございます。よって仕入れの量も多くなりますので」


 仕入れの方法はいろいろある。最も効率的なのは門衛と輸送担当を買収しての横流しだ。


 大量の穀物を【収納】する。俺の皇都行きに合わせてグランデールで必要としている必要最低限以外の物資の移送は中断している。俺がいれば集積所に立ち寄る時に在庫整理は終わりだからね。


 物資関連の作業が終わって事務所に戻ると契約は終わっていた。


 仕事を終えて竜車に戻ろうとしたら書簡を届ける早馬が出るところだったので呼び止める。単騎の乗馬が二人と予備の馬一頭のチームと護衛付き一頭引き馬車に予備の馬二頭という二チームだ。それぞれのリーダーに銀貨と銅貨の入った重い袋を渡す。


「好きに使え。余ったら次の奴に渡せ。足りなくなったら集積所で補給しろ。ただし、お前たちより前を行く者がいない。俺の名前を出す許可を与える。うまくやってくれ」


 『偏西風(ウェスタリー)商隊』の荒くれ商人が鮮やかな笑みと共に奴隷女中に手を振って駆け出した。元貴族令嬢たちが荒くれ商人に頭を下げて万感(ばんかん)の想いを込めて見送る。まだ奴隷の自分たちにも出来ることがあって、それを成し遂げた。


 そもそも間に合うかどうかもわからぬ駆け付けられたとしてもたった千人の部隊。それは復讐を誓った千人。この世界で全てが敵にしか思えない状況での千人の同志。


 ロイドとセイレインの瞳が言っている。出発はまだか、と。


「急いで行っても人集めも今やってるところだからね? 俺たちだけ着いてもダメだから。こういうのはだね、全体を見てだね、わかったよ、出発しよう」


 人の手などまるで入ってないようにしか見えない道なき道を進む。前世に比べれば出せる速度などたかが知れている。それが例えこの世界で最速の名を欲しいままにする竜車だとしてもだ。


 オルカはすっかり天井が気に入ったみたいだ。日焼けしないようにだけ注意している。中に戻るたびに日焼け止めだ水分補給だと言う俺をクスクス笑いながらされるがままになるオルカ。俺を心配させるためにわざとやってるのかな?


 車内はまったりとしている。ほとんど身内しかいないからね。家にいるのとほとんど変わらない。各人の距離がより近いだけに自宅以上にまったりしているかもしれない。


 ソフィアが冷たいカフェオレを飲んで呟く。


「うーん。信じられないほど快適だわ。なんなのこれ。馬車旅で太るってありえないんですけど」


 砂糖とバターたっぷりのクッキーを今度はあたたかいミルクティーで流し込むソフィアが呪いに掛かった絶望のように悲壮な顔で俺を見る。ドリンクバーか。全部ライラの仕業だ。


「いや、それは俺のせいじゃないというか。運動、すれば?」


「だって、ここ馬車の中よ?」


 あ、ばか。


「あらぁ、車内ではあるけどねぇ。ここにはベッドもあるわよぉ。わたしと運動してみなぁい」


 昨夜、サリアに一度襲われかけた記憶が蘇っただろう。


「いやぁ、あははは。それはまだいいかなぁ、なんて」


「遠慮しないでいいのよぉ」などと追及の手を止めないサリア。彼女もきっと退屈しているのだろう。誰もなにも言わず放置! いや、ロイドに怒られそうだから少し助けよう。


「ソフィアってその手の押しに弱いよねぇ。なんでだろ? それ、嫌がってもいいんだよ?」


「え? あっ、そ、そうよね!? あははは。シリウス家ではこれが当たり前なのかと思っちゃった。え、あれ? わたし、変なこと言った?」


 第一婦人が家訓を述べる。


「コホン、ソフィアさん、何が当たり前かはその人、その家によって違いますからね。自分が良いと思うようにしていいのですよ? もちろん、わたしたちはソフィアさんがなさりたいことを止めることはありません。私たちは幸いなことに奴隷ではありませんからね。みんな自由なのです」


 シェリルの「奴隷ではないから自由」という言葉はソフィアに突き刺さる。さっき、過酷な奴隷人生から脱却した話を聞いたばかりだ。


「ねえ、嫌なら嫌って言って欲しいんだけど」


 仰向けのソフィアを覆い被さるように上に乗るサリアの顔に右手を伸ばしてソフィアが問う。


「自由になって何を考えたの?」


 俺からサリアの顔は見えない。


「永遠の別れと死と愛を失う絶望よ」


「え、それは」


 サリアがブルっと震えた。ソフィアがサリアを見上げて動けなくなる。


「うふふふ。そしてそれが全て反転するの。わたしはもうこれだけで一生満足できるのよ? うらやましいでしょ? あら、無理よね。これは誰にも理解できるわけないわ。ふぅ。ちょっと風に当たって冷やしてくるわね」


 楽しそうに踊るように屋上へと歩いて行った。


「ごめんなさい。興味本位で聞いていいことじゃなかったわ」


 心底悪いことをしたという顔をしていた。


「ん~? いいんじゃない? ちゃんと答えてたでしょ? サリアは不快になんか思ってないよ。あれはちょっと喜んでさえいたね、うん」


「そうねぇ。どっちかというとわかりやすいわよねぇ」


「にゃははは。そういうやり方もあったのねぇ。今度あたしもやってみよーかなー」


 タブーに土足で踏み込んでしまった後悔がソフィアの顔に張り付いていたが、今は混乱していた。サリアも俺も()じれて絡まった釣り糸みたいなものだ。そんなに簡単に理解はできないと思うよ?


「ソフィアさん、誰にでも当てはまるものではないわ。ただ、私たちはちょっと変わってるんだと思うの。なんていうのかしら。今でも私は夢の中にいるように思うんです。あなたが今感じている漠然とした未来への不安は本当に大変なことだと思います。でもね、ごめんなさい。私たちはそういうものがもう無い世界に生きてしまっているのよ」


「不安がないの? なにも? シェリルさんはわかるわ。キュロスさんもなの?」


「そーよー。シェリル姉さんと同じよ」


 ソフィアが俺を見る。


一妻多夫(いっさいたふ)があってもいいのにね!」


 ソフィアの顔がだんだん赤くなる。


「そそそそそんなこと言ってなーい!」


「いや、俺が言ったんだけど」


「あ、な、た。本当にいいんですか?」


 シェリルのツッコミが怖い。


「うそ! 冗談! 前言撤回! あ、でも、うーーーん、シェリル、君が本気でそれを望むなら俺はそれを止める術を持っていないよ。だから遠慮なく言って欲しい。俺は全てを受け入れる覚悟はある」


「ああ、またあなたはそんな卑怯なことを言うのね」


「にゃははは。ロックは酷い男だものね! ソフィア、わかった? この男はこうやって女を縛るのよ?」


 そしてライラが真剣な顔で追随する。


「さすがご主人様です。感服いたしました。一生、尽くします」


 うーむ。俺の周りは変な人が多い。だが、そこがいい!




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