第231話 結局、仕事
「一番在庫量が多いのは?」
「それはやはり、バーランド侯自身の領地の穀物庫になります」
「続けて」
自身の解釈で話せと言われてニヤリとする担当。彼自身が調べたわけでは無い。報告を受けた立場というだけだ。それなのにいきなり独自の解釈を求められた。笑えたのだから信頼出来そうだ。
「伯爵から皇軍への穀物の移送は確認できていません。遺物を使っての移送も疑われますが、在庫量からもそれはないと判断しています。糧食は別のところから出ています。自らの管轄のものは怪しい動きがありません。ただし、非常に効率的に集められています。自らの領地以外では他に四カ所の集積所があります。そこから細分化されています」
「その四カ所を先にやってしまうと警戒されそうだな」
「二カ所やれます」
やるなぁ。視線で先を促すと腰袋から取り出したメジャーをピンと伸ばして地図の上に置く。このメジャーは伸び縮みしない特製の布で出来ていて、目盛りが入っている。商人御用達の物差しだ。
「このラインで伝令より先に進軍出来ます。ルートは確保できています。伝令、追撃部隊を迎撃も出来ます。本命と合わせて三カ所全部を完全に空に出来れば、年内に進軍すれば民が冬を越すのが難しくなります」
「その場合、逆に進軍を早めて年内決着を望む可能性は?」
「あります。しかしそれは攻撃しなくても変わりません。それに、バーランドなら万全の態勢を整えてから来る気がします。これは私見です」
「残りの二か所も犠牲無く奪う、もしくは燃やせるかを検討してくれ。三日後の夜明けに開始する。それまでに万全の態勢が取れないならそっちはあきらめろ。犠牲を出してまでやることじゃない」
「徹底させます」
「それでいい。んじゃ、ここの余剰をもらってくよ。あ、それとな、ここも店じまいだ」
「敵の報復ですね」
「軍隊で来るとは限らない。少数精鋭で来られたら警戒網を抜けられる可能性がある。俺ができることは敵もできる可能性があると忘れるな」
「なるほど。それは怖いですね。こそこそさせていただきます」
毎度のことで余剰品を預かり酒と食い物を置き土産に竜車に戻っていると、ずっと付いて回っているロイドが声を掛けてきた。
「優秀な司令だな」
「ん? 報告した彼のこと? 彼は商会の流通部門の管理職だよ」
「商人なのか?!」
「そうだよ。あ、でも流通のプロだからね。軍事でいうと兵站だね。まぁ、そっち方面の才能がありそうだよね」
「そういう程度の話ではないと思うが。あれならどこの軍でも欲しがるぞ」
「それはそうなんだけどさ、彼はうちの中間管理職なんだよ」
「引き抜きは困るという話か?」
少し楽しそうだ。だけどハズレ。
「そうじゃなくて、彼より上位の役職の人間がまだまだいるんだよ。うちは実力主義なのは知ってるでしょ?」
「なんだと。彼より優秀な者がまだ大勢いると言っているのか?」
「彼を貶めるつもりはまったくないよ? 彼は確かに優秀だし、もっと経験を積ませてさらなる高みを目指せる優秀な人材だろうことは間違いない。その上で、現状はもっと適材適所の人が上位にいるってことだね。ロイド、貴族と平民、どっちの方が人口が多いんだ?」
「それは平民に決まっている」
「貴族も平民も同じ人だよ。完全に同じ割合とは言えないのはわかるけど、多い人数の方が優秀な人の数が多くなるのは当たり前だろう。ま、うちはそれに特化して選別して引き抜くという極悪非道なことを生業にしているんだがな。その仕組みにまだ誰も気付いていない。貴族の血の方が尊くて優秀な人間らしいからなぁ」
「お前、どうやってそんな」
「あとはな、基本的に人の優劣は生まれた後に出来るんだよ。先天的に優秀な者に教育と訓練というのが貴族の考えだ。そりゃさぞかし優秀な人間が出来上がるんだろうけど、優れた教育と訓練で優秀な人材は作れる」
「それが『天狼商会」なのか?」
「ん? あぁ、すまんすまん。それは違う。商会はまだ立ち上がって数ヶ月だよ。当然、今いるのは元からいた商人だから俺は関係ない。ははっ。この過酷な世の中で金儲けに勤しむ商人をどう思う? 金にがめついとか、細かいとか言うよな? 相手のことを見下して自分が理解出来ないものから目を逸らす愚か者の戯言だ。もうこの世はとっくに商人のものだっていうのにな!」
そう言うとロイドが深刻な顔をした。貨幣経済に移行してしまったんだからもうこの流れは止められないよ。そういうこれからの世の中で自分が何をすべきか、やりたいのかを見つけろ。そして、まだまだこの世界ではお前のような無骨な指導者も必要だからな。
「ロイド、お前の家に連なる者を探してる。ほとんどが中央にいるぞ」
一瞬の間のあとにバカでかい声を出しそうな気がした!
「待て! 順を追って話す! 時間が惜しいからお前の竜車に乗るよ」
失敗したかな? 夜に話せば、いや、そうしたら長い夜になってしまう。しょうがない、婚約者たちとの楽しいドライブはお預けだ。
旅の二日目でもう仕事漬けになりそうだ。もっとのんびりと各地の街々に寄って名物を探して、皇都旅行を楽しむつもりだったのになぁ。
ロイドに先にパーティーのみんなに話を通しておくよう伝えた。そして自分の竜車に顔を出して事情を伝える。
「みんなー、ちょっとロイド達に今後のことで報告してくるよ。あ、ソフィアも来て」
深刻に捉えてないのかソフィアが「はーい」と気楽な返事で付いてきた。俺とライラと奴隷三人と御者のカシムを除いた冒険者四人の合計九人で軽車両は満員だ。
竜車が走り出すとすぐにライラが全員分のお茶を用意する。茶器などは俺が手伝って言われるがまま【排出】する。
竜車の前列席に冒険者が座る。俺から見て左からソフィア、ロイド、ソニー、ダッジ。後席の左端、ソフィアの向かいが俺、セイレイン、マリナリア。俺の左のドアの補助席にライラ、前席側の補助席にローレライ。俺だけゆったりと二人分の席だ。オルカは興味無いと付いてこなかった。
今日はもう昼食も終え、街を回避して街道と荒野を進んで今夜の野営地を目指すだけだ。お茶を飲んでのんびり、しようとしたけど前席の男たちの圧が強い! わかったよ。知ってることを話してやるよ。




