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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第226話 俺の洗浄

 大型竜車は車内から御者台、天井、後ろ扉それぞれにアクセス可能になっている。キュロスには説明したけど走行中も横のドアから入ってくるけどね。


 御者台に繋がる前扉をノックして開ける。


「ソフィア、そろそろ中に入らない? 疲れたでしょ」


「えー? ぜんぜん大丈夫よ。やっぱりおもしろいわ」


 ソフィアがそう言いながら振り返ると、天井にオルカが座っているのに気が付いた。


「え? オルカちゃん、そんなところで何してるの」


 オルカはコテンと首を傾けてる。なにしてるって、ただ景色を見てるだけだからなぁ。


「この車は上に乗れるようになってるんだよ」


「え? どうやって?」


「ん~、行ってみる?」


 手綱をキュロスに渡した興味津々のソフィアを車内のラダーから天井に案内する。物見や弓矢とか魔法を使う用に天井に上がれるようにしてあるだけなんだよね。天井は抜けないように頑丈に作られている。


 この車両は基本的に荷物を積むことは考えていない。俺が乗るからだ。その分、天井に乗ったり、車内スペース拡張のため車体重量が重くなっている。いずれにせよ走竜が引くならなにも問題はない。


「うわぁ~。御者台より気持ちいいわぁ~」


「あー、ソフィア、天井は御者台と同じで付与(エンチャント)が掛けられないんだ。揺れが激しいから気を付けてね。あと日焼けも注意ね! 焼けたら風呂入る時に痛いよ!」


「あははは。旅に出てるのにお風呂の心配までしてくれてありがとう!」


 オルカが「お?」という顔をしたあとに俺の顔を見て笑顔になった。うん、普通は旅の間は風呂に入れるなんて思わないからね。


「オルカも日焼け気を付けてね」


「うん、ロックは白い肌の方が好きだもんね」


「え?! あ、まぁ、そうとも言うし、日焼けしているところと日焼けしていないその差に浪漫を感じることもあるし、どっちでもいいよ?」


「ふーん。ロックも男の子よね」


「あー、ソフィア、それは違う。俺はね、男だからね。気を付けて」


 ニヤリと笑って中に戻った。


「マイ・キング、言って下さればいつでも」


「うわ! びっくりした。いつでも? なに?! 相手してくれればそれで俺は満足だから! 無理に日焼けあと作ろうとかするなよ?」


 シートに戻るとシェリルがニコニコして待っていた。


「いろいろお話しないとダメかしら?」


「いやいや、なんのことだか?!」


 竜車は荒野の集積所から街道に戻っている。街道に戻る分岐点は巧妙にカモフラージュされている。グランデールへの最終集積所なので所々で見張りも付いている。今日はこのまま走って夕方に野営だ。町や村には泊まらない。それはロイドたちにも伝えてある。


 ソフィアはしばらく風呂には入れないと思っている。しかも今日は野営と伝えてある。今は夏だ。川などの水辺で野営すれば最高で水浴び、ダメでも濡らした手ぬぐいで汗を拭くことができる。そう考えているはずだ。


 ソフィアが御者台を離れたのでキュロスが車内に入ってローレライに御者を代わった。ソフィアは何度か出たり入ったりを繰り返した。昼寝もして元気らしい。俺も初めての旅だし、これでもだいぶ浮かれている。何もない景色を見て楽しいという気持ちがあるのは前世の影響だと思う。オルカ以外はそういう気持ちはあまりないみたいだ。不便を楽しむというのは便利や贅沢を知っているからなんだと思う。


 そろそろ野営地を探さなきゃなと思ったらキュロスが目を覚まして御者台に向かった。ローレライが数時間ぶりに車内に入って補助席に座るとライラが声を掛けて後ろに連れて行った。しばらくしてこざっぱりしたローレライが戻ってきた。トイレに案内し、手と顔を洗ってきたのだろう。


 ライラが全員にお茶を淹れる。もちろん、ローレライにも。御者台にいる時も水筒、軽食は渡している。


 そして、旅に付き物の盗賊は出ない。俺の冒険に危険は無い。だって、いっぱい斥候出してるもの。さんざんあっちこっちに手を出して裏の組織とかバンバン粛清して奴隷にしまくってるもの。そいつら使って次のところ攻め込んでの繰り返しだもの。最初の頃は道中も散々商隊が襲われたが、その全てを撃退したり奴隷化したりしている。偽装武装商隊ナメないで欲しいよね! うちの商隊が走り回ってるんだから盗賊なんかいるわけがないのだ。いるのは、魔素が濃い地域の魔獣ぐらい。


 今、街道で恐れられているのは盗賊ではなく『偏西風(ウェスタリー)商隊』だ。当然、犯罪行為はしていない。真っ当な商売の真っ当な戦力としてそこら辺の商人や荒くれ、もちろん犯罪者がビビってる。貴族は知らない。表では『偏西風(ウェスタリー)商隊』の名前を控えているから。『深淵(アビス)』が支配しているだけだ。でも、わかるやつらはわかるからね。


 結局、どの世界でも経済を押さえた奴が勝利だもんね。武力も財力だから。っていうことをやるつもりの五カ年計画だった。


 ライラが席を立って地図のピンの位置をズラした。現在地を把握している優秀なメイド。


「えー? もうそんなところまで進んでいるの? 速すぎるわね」


 サリアが感心している。


『ロック、そろそろ停めるわよ』


 伝声菅からキュロスの声が聞こえた。荷馬車で二日分の距離を一日弱で走破した。街道を外れて脇に入って死角になる林の裏手へ回って竜車を停める。


 外に出ると夕方になろうかという時間だった。少し早いが人数が多いからしょうがない。ここを今日のキャンプ地とする!


 水平出しをして母屋を設置。隣に『誓いの剣』用のロッジ。母屋の外側に女性用の風呂とトイレ。ロッジの横に男風呂とトイレ。母屋の前に食事処の東屋。その隣に竜車の設置と走竜の厩舎。


 全てを設置するのに五分もかからない。


 巨大な東屋の中のソファーやイスに婚約者たちが座るとライラがお茶の準備をする。


「いや、いやいやいやいや、いや! いやーっ!」


 カシムが俺のところにダッシュしてきた。


「ロック! なんだこれわ! お前、なにやったんだ!?」


「これはな、今日の野営地だ」


「野営? これは野営とは言わないんだよ?!」


「まぁ、そういうこともあるんだよ。リラックスしてくれ。風呂とメシ、どっちが先がいいかな?」


「風呂!? あれか! あの建物が風呂なのか?!」


「あー、そうそう。あっちのが男用の風呂とトイレね。あのロッジは『誓いの剣』で使ってよ」


「ロックー。走竜用のエサちょうだい」


 キュロスに誘われて厩舎に向かうとカシムとダッジとローレライが付いて来た。他のメンツはおろおろしている。走竜たちは新鮮な寝藁(ねわら)を使って寝床を作っていた。キュロスたちが走竜たちをブラッシングしている間に野菜や肉などのエサをエサ箱に入れておく。


 東屋に戻ると落ち着かない男たちとゆったりくつろぐ婚約者がいた。サリアが声を掛けてくる。


「ロック、明るい内にお風呂に入りたいわ。雄大な景色の中で入る風呂なんて、ここにいる誰も知らないのよ」


 だから見せつけてやれとドヤっていた。


「いいよ。俺もそれは楽しみだ。お湯を溜めてくるから少し待ってて」


 まずは女性用の風呂に歩いて行くとオルカが付いてきた。壁の扉を開けて三和土(たたき)でブーツを脱ぐ。 脱衣所を抜けて風呂場に入って魔力を練って一気に風呂を溜める。


 野外風呂は視線を切るための壁が二枚しかない。外に向かった残りの二面は壁が無い。風呂場から見えるのは地平線まで続く無人の草原だ。


「ロック」


 風呂が溜まるとオルカが両手を広げて「ん」って感じでこっちを見ている。


 服を全部【収納】すると洗い場に歩いて行って上を向く。シャワーの要求だ。温かい土砂降りを降らせる。座って髪を洗い始めたのでみんなを呼びに行く。


「オルカ、髪を洗う女中たちを呼んで来るよ」


 風呂場から出てブーツをサンダルに履き替えて東屋に歩き始めるとサリアが俺を見つけてみんなに声を掛けていた。待っていると女性が全員歩いて来る。


「ロック、手伝いなさい」


 サリアに言われて一緒に広い脱衣所に入る。


「ロック、構わないわ全員脱がして」


「え? いいの?」


「さっき全部説明したわ」


 どういう説明をしたんだろう? シェリルとキュロスを見ても微笑んでいるからやっちゃっていいのかな。ソフィアも元貴族娘たちもいるんだけど。まぁ、いいって言うならいいか。


 全員の服を全部【収納】


「……きゃー!」


 ソフィアと奴隷女中たちの悲鳴が重なった。これはダメだと慌てて外に出ると『誓いの剣』の男たちが走って来るところだった。


「ちょっと待った! 大丈夫だから! なんともないから!」


「ソフィア! 大丈夫なのか!」


 ロイドが焦っている。


「だ、大丈夫だから! びっくりしただけだから!」


 壁の向こうからソフィアが大きい声で返事をした。


「ロック、いいから入って来なさい。あんたがいないと始まんないのよ」


 扉のすぐ内側からサリアに呼ばれた。


「男風呂の方もこっちが準備できたらすぐ行くよ。とりあえず東屋で見張りしててよ」


 半信半疑の野郎共を追い払って女子風呂に入る。


「早くいらっしゃい。風邪ひいちゃうわ」


 サンダルを脱いで風呂場に入ると堂々と立つ婚約者たちと、手と手ぬぐいで隠しながら恥ずかしそうに立つ女性たちがいた。


 サリアが女性たちを洗い場に立たせる。


「いいわよ」


 合図に合わせて熱い土砂降りの雨を降らせる。


「きゃあ!」


 きゃあきゃあ言う慣れてない女性たちを尻目に気持ち良さそうにシャワーを浴びるシェリルたち。サリアとキュロスがソフィアを誘っていろいろ教えている。ライラは奴隷娘に声を掛けている。サリアの合図でシャワーを止める。


「ロック、とりあえずいいわ。あとはこっちでやっておくから男共も綺麗にしてやって。それが終わったらすぐにこっちに戻ってくるのよ」


「え? 俺はあっちでしょ」


「は? あんたバカじゃないの? 誰があたしの身体を洗うのよ? あんたはこっちよ」


 え? そんな決まりあったっけ?


 サンダル履きで外に出ると男たちが所在なげに立っていた。


「あー、まぁ気になるよね。とりあえずあっち行こか」


 男風呂に入ってブーツを脱がせて脱衣所の説明。男の服を【収納】する趣味は俺にはない。


「この風呂は『夕暮れの泉亭』のものと同じ感じで全裸で入るやつね。タオルを湯舟の中に入れて湯を汚す馬鹿は極刑だから」


 そう言ってまずは洗い場の上のタンクにお湯と水をそれぞれ溜める。


「これがカランっていうんだけど、このレバーをこっちで冷水、こっちでお湯になるんだ。温度調節はレバーをいい感じのところにして。これを動かすと頭の上の蛇口からお湯が出る。で、これが頭を洗う用の洗剤。これが身体を洗う用。先に頭と身体を洗って汚れを落としてから湯舟に入ること。タオルを湯舟に入れるのは絶対にダメだからね。それはご法度だ。質問は? 無いね。タオルはあそこに置いてあるのを好きに使って。で、使い終わったやつはこのカゴに入れておいて。んじゃ、俺はあっちで手伝いだから」


「ロック」


 カシムに呼び止められる。


「お前、毎日『洗い子』やってんのか?」


 『洗い子』というのは浴場で働いている背中を流したりする仕事をする者のことだ。


「ん? そうだけど」


「そ、そうか。まぁ、がんばってくれ」


 手を振りながら男風呂を出る。


 そして俺は俺の洗浄じゃなくて戦場に向けて力強く歩み続けた。



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