第224話 一度知ったら
第220話のペーストをミスって投稿していました。
訂正しましたのでご興味ある方は再読願います。
しばらくして竜車が停止すると伝声菅から休憩地到着の報告が入る。
階段が設置される音がして外から扉が開かれる。セイレインが出ようとするのをライラが止める。
「最初に出るのは貴女ではありません」
言い終わる前にオルカが飛び出す。奴隷女中はオルカが守る対象だ。奴隷は俺の所有物で財産だからだ。無駄に死なすことはない。オルカのハンドサインでセイレイン、ライラが出る。俺が出てからサリア、最後にシェリルだ。
キュロスが走竜を竜車から解き放つが、走竜はその場で伸びをするぐらいで平気な顔をして佇んでいる。適当な場所に水の入った桶を【排出】する。走竜が美味そうに水を飲む。小型車両に繋がれていた赤い走竜がやって来て一緒に水を飲み始める。
水を飲み終えると毛繕いを始めてリラックスしている。
「まだお腹も空かないし、水もあれば飲む程度なのよね。ホント、どうなってるのかしらね」
キュロスもあきれるくらいの底なしの体力だ。
竜車を挟んでみんなとは反対側に軍用の大型天幕を【排出】する。天幕の下にテーブルとイスを並べて、火の着いた竈の上にスープ鍋を置く。テーブルの真ん中にでっかい鳥の丸焼きと各種パンをカゴに盛る。清涼な水差しと果実水、氷の入ったアイスペール、ジョッキ、各種カトラリーを並べる。サラダボウルを二つ。小振りの串焼き肉も並べれば昼食会場の出来上がり。完成まで所要時間三十秒弱。
俺がスープを混ぜているとライラがみんなを呼びに行く。
「みなさま、昼食の準備が整いました」
ライラの声が聞こえる。箱馬車を降りたばかりの『誓いの剣』と侯爵令嬢たちがこちらに顔を出してぎょっとしている。
「なななな、なんだこりゃ?!」
カシムがデカイ声を出す。
「え? 補給地? いや、誰もいない? そもそもこんなものさっきまでありましたか?」
ソニーが疑いの目を向ける。
家族はとっとと席に着く。それを見てみんなも恐る恐る近付いて来る。
「はいはい。とっとと席に着いてください。走竜はまだまだ走れますから。車内でサンドウィッチでもいいんですけどね。旅で最初の食事だから温かいものを用意しました。『誓いの剣』は昨夜約束をしていますが、念のためもう一度。この旅に同行している者は『神々の黄昏』に関することはその一切を生涯口外することは許されません。旅に関する全てです。よろしいですね?」
「うむ。約束しよう」
鋼の声が代表して宣言した。セイレインを見る。
「御命じにならないご主人様の御意向を承りました。我ら三名、生涯に渡り、この旅の一切を口外しないことを誓います」
侯爵令嬢がカーテシーを決めると、残りの二人もそれぞれの礼でもって約束した。
それでもわざわざ細かく俺のスキルを説明する必要は無い。
「はい。では食事です。手を合わせて。いただきます」
「いただきます」
家族が声を合わせる。うむ。屋外で飲む冷たい果実水の美味いことよ。温かい白パンに手を伸ばして引き千切って口に運ぶ。
「ろ、ロック、それってどこの国の儀式?」
カシムが訝しがっている。
「たぶん東の方かなぁ。よくわからない。効力は無いよ」
俺が適当に言って食事を始めるとサリアが自慢気に説明を始めた。ライラが俺とシェリルの給仕をする。『誓いの剣』の給仕はマリナリアの仕事だ。なかなか様になっている。学園にいる時から身の回りの世話をしていたのだろうか。
「お前たちも食事にしなさい」
ライラは軽く頭を下げると席に座って食事を始めた。食べながら各人のお代わりなどの世話も焼く。奴隷女中は戸惑っている。奴隷の作法はわかっている。今までは使役する側だったからだ。
ライラが奴隷に命じる。
「お前たち。『再生の大地』『天狼商会』では奴隷もそうでない者も同じ卓で食事を摂ります。食べる物にも差異はありません。仕事は仕事です。遅れないようにしっかり食事は摂りなさい」
手を動かしたまま新人奴隷の教育も熟す頼りになるパイセン。ただまぁ、奴隷の連中はまだ食事の味もしないだろうなぁ。自業自得だ。冒険者たちもどことなくよそよそしい。急に現れた食事会場と温かい食事に戸惑っている。
「キュロス、良い場所見つけたね。なかなかこんなところで食事は出来ないよね」
今いるのは見晴らしのいい小高い丘のようなところだ。街道からも離れていて他に旅人もいない。見晴らしが良いので外敵の接近も容易にわかる。なによりも単純に景色が良くて気持ちがいい。
「ロックと一緒だと世界のどこに行っても怖くないわ」
オルカが遠くを見ながらポツリと言った。その言葉にハッとしたのは冒険者たちだった。みんなが俺の顔を見る。「やっぱりこれはお前がやったんだよな」って顔だなぁ。
ライラが残った肉と野菜で手際よくサンドウィッチを作っていく。それをいくつもの網籠のバスケットに詰める。いくつかのカゴを冒険者の方に持って行く。
「暗くなる前には夕食があると思いますが、それまでに必要であればお召し上がりください。ただ、無理にお食べになる必要はありません。余りましたら走竜に食べさせますので」
「ええ?! 走竜にやっちゃうの!? さすがにもったいなくないか?」
カシムが騒いでる。
「カシム、本当に気にしなくていいんだ。夕食は昼よりはまともな食事にする予定だから。それ食べて晩飯入らなくなるとそっちの方がもったいないよ」
「お、おう。お前が言うんだからきっとそうなんだな。っていうか晩飯はこのメシでも充分な気がするんだけどな」
「これはこのあと御者をするダッジに渡しておきましょう」
ソニーがそう言ってカゴのひとつをダッジに渡す。
「まだ出発して半日も経っていないんだがな。幻惑の中にいる感じが抜けん」
鋼の声が少し自信無さげだ。
「ロックが俺たちを皇都まで連れて行ってやると言った意味がわかってきたな」
「あー、こいつ、そんなこと言ったの? そーよ。コレはね、普段からわたしたちに「世界のどこでも快適に暮らせるんだから国なんかいらない」って言ってますからね。あんたたち、疑っちゃダメよ。疑ったら真実を知った時にショック大きいわよ? だから最初からこいつの言うことは全部信じるの。そうしたら何かあっても「やっぱりね」って思えるわ」
「にゃははは。、サリアが他人にアドバイスするなんて珍しいわね! でもちょっぴり自慢っぽいけど」
「ふん。自分の男を自慢してなぁにがいけないのよぉ」
「さぁさぁ、一応遊びじゃないからね。そろそろ行くよ」
サリアとキュロスが聞き分けの良い子のように「はぁーい」と返事をして席を立つ。そのままキュロスはカシムとダッジ、ローレライに声を掛けて走竜をローテーションで繋ぎ換える作業に行った。ライラはセイレインとマリナリアに声を掛けて使用した食器を洗いに行く。ソフィアが手伝いを申し出るのを礼を言いながら丁寧に断る。サリアがソフィアに声を掛けてふたりで大型竜車に入って行った。たぶんトイレに誘ってあげたんだろう。オルカは大型竜車の屋根に飛び乗ると遠くの景色を見ていた。
「さて、男の我々はテントの撤収といったところなわけですが」
ソニーが手持無沙汰で俺に声を掛ける。ロイドも所在無さげだ。
「まぁ、適材適所って言葉もあるからさ」
ふたりに向かってそう言ってから竜車に向かって歩き出す。
「わぁ!」
「なんだなんだ! ソニーどうした!」
カシムとダッジが駆け寄って来た。
呆然とするソニーとロイドを見て腰の武器に手を伸ばすふたりだったが、当のロイドとソニーは呆然とするばかりで身構えてもいない。
「おい! どうしたんだよ!」
ロイドとソニーが無言のまま同時に指を差す。
「あん? なんだよ? 何も無いだろう」
怪訝な顔で二人に問いかけるカシム。
「え? 何もない?」
ダッジがぽつりとつぶやく。
「なに? なにが? って、わーっ! ない! ない! なんで? なんでだー!」
カシムが騒がしい。騒ぎに奴隷女中もこっちを見て絶句している。
とりあえず説明とかめんどくさいからキュロスのところに歩く。走竜が早く走ろうぜってな感じでキュロスに「クェクェ」言ってる。キュロスはさっきまで単騎で小型竜車を引いていた赤い走竜に鞍を付けていた。
「あれ。カーマインに乗るの?」
「うん。ちょっとどんな感じか試すだけね。乗っておかないと本番どうなるかわかんないし」
「そりゃそうだね」
「おいおいおいおい! ロック! あれはどうなってんだよ!」
冒険者たちが押し寄せて来る。
「んー? まぁ、出るものは入るんだよ」
「道理では、ある。行いは道理から外れているがな」
ロイドが哲学を語っている。
「マイ・キング」
ライラが声を掛けてきた。うしろには洗い終わった食器を入れたカゴを両手いっぱいに抱えたマリナリアがいた。
次の瞬間、両手いっぱいのカゴが消失する。
ライラが一礼して呆然とする奴隷女中に声を掛けて大型竜車の後部へと消えていく。たった今、大型竜車の反対側にトイレを設置したので、ライラが奴隷を連れて行ったのだ。
「で、男はあっちね」
男たちの背後、小型馬車の前方を指差す。そこにはさっきまでなかった建物がある。
「おおう?! なんだありゃ?!」
毎度カシムが良いリアクションだ。説明がしやすい。
「行けばわかるけど、トイレね。中に使い方が書いてあるから。いつもキレイにご使用いただきありがとうございます」
男子用も女子用も個室は四個ずつ、完全にプライバシーを保つようになっている。
「それさー。とりあえず四つ個室作ったんだけどさ、外で使う時は一応、ひとり見張り立ててね。中にいると外の様子わかんないから」
とりあえず野郎をトイレに追い立てる。キュロスが走竜の上からケラケラ笑いながら一部始終を見ていた。
その後、トイレに関してしつこくいろいろ説明を求められたが、どれも適当に答えた。お前らは使う立場なんだから使い方だけちゃんとしてくれればいいんだよ、と。道具がどうやって作られたかとか、どういう原理で動くのかは知らなくていい。それはな、秘密だ! って言ったら納得してくれた。まぁ、本当は説明するのが面倒なだけなんだけどね。
トイレを流したあとどうなってるかなんて知らなくていいんだよ。後処理が必要だって知ったところでどうにもなりゃせん。使う人間は『どこかに消えた』って思ってるぐらいが幸せってもんだよ。
ちなみに大型竜車の後部奥には豪華トイレが付いている。車内、車外のどちらからもアクセス可能。この日の午後からソフィアの懇願と俺の婚約者一同の理解によりソフィアとセイレインの搭乗車両が入れ替わることになった。




