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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第223話 ヒエラルキー

 奴隷紋の入った美女三人は『再生の大地』の奴隷女中用の一般メイド服に着せ替えられていた。ウチのメイド服ヒエラルキーでは最底辺のものになる。


 ちなみにライラがメイドヒエラルキーの頂点だ。それに匹敵するのが屋敷の女中頭のミランダになる。生地やデザインなどが違っている。らしい。ライラと奴隷女中のメイド服は俺が見ても明らかに違うのがわかる。ライラのメイド服は自分で好きに弄っている。寝起きに絶妙に見えそうで見えない絶対領域丈のメイド服を着てきて俺を喜ばせたこともある。他の女中はそれは認められない。水を使った清掃時のみ袖を捲っても良い、など厳格な服装規定があるそうだ。


 三人は昨夜は大浴場でその他の奴隷女中と一緒に湯浴みをし、一緒の食堂でメシを食い、空室だった四人部屋に放り込まれ一夜を明かした。


 要するに何もされてないし、していない。


 ◇


「旦那様、シェリル様、皆様、どうぞご無事でありますように」


 正面玄関で使用人を代表してオズワルドが別れを告げる。家人それぞれが出発の挨拶をして大型の竜車に乗り込む。


「オジー、できるだけ早く戻るよ。留守の間、迷惑を掛けるけどよろしく頼むね」


「家のことはお気になさらず。お嬢様をよろしくお願いいたします」


 本当なら自分も付いて行きたいところだろう。わざわざシェリルのことお嬢様と呼んだことで思いは伝わった。


「うん。それは任せて。必ず無事に連れ帰ってくるから」


 小型竜車の御者台にはカシムとダッジが座っている。こっちの御者の交代要員は今から補充に行く。スラムの『再生の大地』本部に寄り道だ。


 ◇


 物見の報告でクラン本部の正門が開いたのでそのまま竜車を滑り込ませる。


「ベルガー、バリウス、留守が長くなるが後をよろしくな! 『南の守護者(サウス・ガーディアン)』に話は通してある。クスリのルートはもう泳がせる意味はない! 東西南北全てを徹底的に潰してよくなった。一応証拠は押さえるがどうせその上の貴族にも制裁を加えることになる。全ての組織を潰せ! 全員奴隷にしろ。これから工員は何人いても困らん!」


 キュロスとシェリルも声掛けしている。


 三人の女中が姿を現す。


「ほう? 見違えたな。なかなか似合っているぞ。昨日はここの連中に可愛がってもらえたか?」


「ご主人様、お呼びにより参上致しました。さ、昨夜は湯浴みの後、食事をいただき、そのまま就寝いたしました」


「ほう? 誰からも可愛がってもらえなかったようだな。お前ら、誰にも手を出されないとか実は嫌われ者なんじゃないか? 人としての魅力を勉強するべきだな! 俺がお前らと同じ部屋に泊まってみろ! 一晩中寝てる暇なんてないぞ!」


「うぉー!」


「うぉーじゃねーんだよ! 男はお呼びじゃないぞ! しかし、まだまだお前らは反省が足りないようだ。俺の物を奪い、俺の大事な人に刃を向けたのだからな。お前達は俺の奴隷だ。いいか、奴隷だ! 人ではないからな。俺がお前達の身体も精神も好きにしていいんだ。不潔なのは受け付けんからな。いつでも身綺麗にしておけ。おっと、これだけはお前達には難しいことではなさそうだな。いいぞ、俺の奴隷としての素質が高そうだ。さあ、この旅ではお前たちには想像も出来ないほどの恥辱を与え続けてやろう。楽しみにしておけ。セイレインは俺の竜車の女中だ。ローレライは御者をやれ。マリナリアは『誓いの剣』の竜車付女中だ。行くぞ! 時間が無い」


 わざと本名で呼び捨てた。昨夜自分たちでそう名乗ったのだ。こいつらをどうするかは本当に決めていない。マジで滅茶苦茶に遊んでやってもいいとも思ってる。こいつら、俺のパーソナルスペースである竜車に勝手に乗り込んで奪い去ろうとしただけでなく、オルカとキュロスに本気で殺す気で刃を向けやがった。お(とが)めなし、無罪放免というのは業腹(ごうはら)だしあり得ない。


 とっとと竜車に乗り込み出発する。


 席順は、後席の真ん中に俺、右にシェリル、左にオルカ。真向いにサリア。サリアの右手のドア側にキュロスが座るが今は御者席でローレライに竜車の操車方法を教えている。昨日、普通に乗っていたから確認だけで大丈夫だろう。セイレインはドア近くにある補助イスだ。


 ◇


 クラン本部を出て三十分が経過しようとしていた。もうグランデールは影も形も見えない。伝声菅を通してキュロスから「中に入る」と連絡があった。ローレライの操車に合格を出したということだ。


 竜車は止まることなく外から扉が開けられてキュロスが入ってきた。サリアの隣に座るとシートをリクライニングしてひっくり返りながら長い足を伸ばしてセイレインの膝の上に置いた。当然ブーツは履いたままだ。俺の怒りをキュロスが感じている。キュロス本人にとってはどうでもいいはずだ。ひょっとしたら俺の代わりに恨みを買おうとしているのかもしれない。いかんいかん、まんまとキュロスに癒されているじゃないか。ひっくり返ったままキュロスがつぶやく。


「この竜車ってば速いわねぇ。ぜんぜん揺れないから勘違いしちゃうわ。馬車の倍は走れるわね」


「へー。そんなに違うんだ」


「そうね。倍以上かもね。このペースなら皇都まで十日ぐらいかしら」


「走るだけならそうだろうけどね。仕事しながらだからそこまで早くはならないだろうなぁ」


 テーブルの半分には地図が広げられている。グランデールから皇都までの地図だ。セイレインが竜車に乗り込んで大っぴらに広げられた地図を最初に見た時に目を見開いていた。地図というのはとんでもない軍事機密だ。どこの領主も偽装商人、あるいは子飼いの本物の商人を使って独自に地図を作っている。スパイ容疑を掛けられた商人は消されて終わる。人目のあるとことろで遠くを見ることさえ危険を伴う行為だ。『疑わしきは殺せ』がこの世界のルールだ。セイレインは地図を見たあと、反射的に目を逸らした。地図を見ていたことでどんな目に遭わされるかわからないからだろう。


「セイレインを女中として連れ込んだけどやらせることがないな。俺たちにはライラという優秀なメイドがいるもんなぁ」


 ライラがとても穏やかな表情でにっこりと微笑む。本音の演技だ。


「そもそもセイレインって女中として使い物になるのかね。まだマリナリアの方が使えそうだよなぁ。まぁ、『誓いの剣』の方も何も出来ない女中を押し付けられても迷惑か。すまないな、ライラ。楽をさせてやれないみたいだ」


「何をおっしゃいますか。マイ・キング。貴方様にお仕えし、御奉仕することこそが私の望みなのです。なにとぞ、私の生き甲斐をお奪いにならぬようお願い申し上げます」


 ライラがマイ・キングと言った時、セイレインに微かな動揺が見えた。権力ある者を王様呼ばわりなど明らかな謀叛の兆候だ。独裁政治の体制の中では決して見過ごせない所業だ。


「うーん、ライラの献身と奉仕はじゅうぶん受けているから日常の些末は他の者でもかまわないんだけどなぁ」


「いえいえ、夜の御奉仕こそこの女に手伝わせましょう。私に御命じていただければしっかりと仕込んでおきましょう」


「おいおい、ライラ、その仕込み作業こそ、そいつの主人たる俺の楽しい仕事だよ。そんなこともわからない君ではないだろう。嫉妬も度が過ぎるのは可愛くないぞ」


「ああ、マイ・キング、私はまだまだ至らぬ下僕にございます。どうぞ、この身にお教えをお与えくださいませ」


「ライラ。差し出がましいわよ。メイドの分際でわたしの目の前でわたしの男におねだりなんてよくも出来たもんだわね。次回はあんたを呼びつけるからそのつもりでいなさい。なにもさせないわよ。せいぜい見て覚えなさい」


「サリア様、皆様、出過ぎた発言をお許しください。如何様(いかよう)な罰も御受けいたします」


 そう言って深々と頭を下げる。


 もちろん、全てが茶番だ。(よわい)十五の箱入り娘のセイレインを、大して歳も変わらないが、百戦錬磨の女たちが揶揄(からか)って遊んでいるのだ。子供とはいえ、侯爵家令嬢として皇族への嫁入りの作法、教育は受けている。会話は機微含めて全て理解できるだけの知識も知性も持ち合わせていることは以前の会話により明らかだ。


 この箱入り娘が第三皇子にどう扱われていたのかはよくわからないが、表向き調べた情報では入学以来二人きりで会っていた形跡がまったくない。侯爵家側でそういう機会をすべて潰していたらしい。きっとそのあたりも皇子が庶民を相手にする切っ掛けだったのかもしれない。皇族としては下手に貴族子女に手を出すと後処理が面倒だ。聖女候補とはいえ所詮(しょせん)は平民の女だ。本当にマジでどうにでもなるのだ。


 そもそも聖女候補なのに手を出したらその時点でその女性は聖女になれなくなってしまう。普通は男の方に姦通罪が適用されるはずだ。癒し手の最高峰である『聖女』のスキルを持つ女性は国にとっての宝だ。傷を癒す力が桁違いの『聖女』は戦場に連れていけば兵数が倍に計算されるとまでいわれる存在だ。戦傷で後退してもすぐに戦列に復帰してくるのだ。敵にとっては不死身のゾンビを相手にしているようなものだ。その聖女候補に手を出して、あまつさえ極刑に処したのだ。この国のトップも末期だ。


 ちなみにシェリルも聖女候補だった。だが、シェリルの実家のワイマール男爵家がそれを望まなかった。内々にひた隠して婚約まで持ち込んでいた。聖女にさせる気がさらさらなかったということだ。そして、今となってはそれを知る貴族関係者はもういない。ウォーカーも、実家のジラール家もシェリルが聖女候補だったことは知らない。一部教会関係者で「そうだったかもしれない」と知る者がいる程度だ。シェリルは奴隷娼婦に落とされた。その時点でシェリルの秘密を知る教会関係者も絶望しただろう。聖女は教会の権威の象徴でもあるからだ。


「それで? あとどれぐらいで今日の宿営地なの?」


「さあ?」


「へ? さぁって、あんたねえ! 決まってないの? どこに泊まるのよ!?」


「サリア、落ち着いて。そんなのどこでもいいじゃない? というかさ、宿屋は嫌なんだよね」


「あー、そうだったわ。そんなこと言ってたわね。あれも本気だったのね」


「うふふ。いいんじゃないかしら? 私はロックがどんな旅にしてくれるのかとても興味があるわ。前の皇都への旅はちょっと辛かった思い出しかないもの」


 馬車でゴトゴト揺られる旅だ。「揺られる」と言ったが実際はそれはガッタンゴットンの上下運動のことだ。多少のクッションがシートにあったとしてもショックアブソーバーも板バネも無いのがこの世界の馬車という乗り物だ。苦痛でしかないし、車体も中の人も耐えられないからスピードが出せない。悪路ではそれこそ徒歩と変わらない。出せてもジョギングより速い速度は無理だ。時速でいうと三キロから十五キロまでしか出せないのが馬車という乗り物だ。


 それに比べてこの竜車はマラソンランナーよりも速い巡航速度を保つ。今回はスプリングサスペンションはさすがに搭載できなくて板バネ式を採用しているが、概念は伝えてあるので遠くない未来にもっと快適な箱馬車が実現できるだろう。でも、ガス封入式ショックアブソーバーはまだまだ無理だろうなぁ。


 それよりも呪いの一環で付与(エンチャント)というものがあることを知れたのが大きかった! 武器に軽量化や硬質化、鋭利化などの付与が出来ると言われて、それならばと思いついたのだ。武器工房『鉄槌と金床』のドワーフのガイア親方とダークエルフの鍛冶職人ティアナ、それに奴隷商人(スレイブトレーダー)のヤリスを交えた会議でいろいろチート工業製品の可能性が広がった。技術開発部の連中のアゴが外れるんじゃないかという革新技術がいくつも生まれた。


 さっきからセレインの様子がおかしい。竜車の快適さと窓外を流れる景色の速さに混乱しているのだ。彼女にとっては不快な馬車の旅で急ぎに急いで国の端っこに来たのに、ほぼとんぼ返りで皇都に戻っていることになる。


 揺れない車内でキュロスは横になって眠り、サリアは前列のシートの半分をフルフラットにしてゴロゴロして本を読んだりうたた寝している。シェリルは軽くリクライニングして本を読んだり、窓外の景色を楽しんでいる。オルカは飽きもせず窓外の景色を見ている。俺は起きている彼女たちとそれぞれ話しをし、初めて見る外の世界も楽しんでいる。さて、そろそろ出発して三時間で昼メシの時間だなと思ったらキュロスが目を覚ました。


「キュロス、見晴らしの良さそうなところで昼休憩にしよう」


「わかったわ」


 そう言うと走る竜車のドアを開けて出て行った。




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