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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第221話 欲に正しき世界

 本来ならクランボスのキュロスに任せたいところだけど、お酒持ってどこか行っちゃってるんだよなぁ。俺が今日中に処理しとけと言って買わせた酒が悪い。うむ、自業自得だな。しょうがないからロイドのところに向かうとオルカ、ライラ、カシムが付いてくる。


 真っ赤な目をした白髪顔面凶器のガチムチ爺さんが『女の子? ロックってのはどいつのことだ?』みたいな顔をしてる。


 爺さんの隣に座る趣味は無いなぁと思ってたらライラがクランの奴隷女中にハンドサインを送って、誕生日席に俺とオルカの席を確保した。


「ありがとうライラ。さすがだね。やっぱり君なしでは生きていくのが難しくなったようだ」


 オルカと手を繋ぎながらライラを振り返る。出来る上司とは常に部下を(いた)わるものだ。


手を取ったままオルカを先に座らせ、そのまま俺も着席する。間を置かず二人の目前に果実水と(つまむ)むものが置かれる。


「コナン、こちらがゲットーファミリーを解体し、デミトリーを討ち倒し、西地区のスラムを支配し、『再生の大地』を創設し、さらにはその母体である『ウェスタリー商会』を設立し、先だってその名を『天狼商会』と改めた男、ラグナロク・シリウス卿その人だ」


 左手の(てのひら)を上にして俺を指し示しながら自分の向かいに座るコナンに俺を紹介した。ちょっと得意げだ。


 コナンはそんなロイドをじっと見ていたが、やがてその場にいる全員が誰も笑っていないことに気付いてゆっくりと俺に目を向けた。その目が「これが?」と語っていた。


 俺の横ではオルカが上品に、美味しそうに食事を楽しんでいた。その姿は毎回、俺にとても幸せと満足感を与えてくれる光景だ。つい頬が緩む。果実水が美味い!


「ローダン様、この黒髪のお嬢さんのことを言ってなさるんで? いや、男ですと? デミトリーを?」


「コナンよ、彼は(たぐ)(まれ)なる美貌(びぼう)を持ち、まだ年齢も若く女性に見られがちだが、(れっき)とした男、男性、少年だ。そして、今言ったことの全ては彼がひとりで成し得た事に相違ない。しっかりしろ。俺はその手の冗談は言わん。そして彼には返しても返しきれぬ大恩もある。(わきま)えろ」


「ははっ!」


 ビシッと頭を下げてから再び俺に顔を向けた。


「ラグナロク殿、失礼(つかまつ)った。(それがし)はオルレアン伯爵家に騎士(しゃく)(たまわ)ったコナン・ドイルードと申す者。今宵(こよい)より、こちらにおわすローダン・オルレアン様に生涯忠誠を誓う者でもあり申す」


「ラグナロク・シリウスです」


 しばし、沈黙。紹介者の俺がなんとかせねば、とでも思ったのか、慣れない進行をロイドが頑張る。


「コナン、しっかりしろ。彼が西地区の民間における裏の、そして真の支配者だ。南でお前がやっているであろう事と同じ、いや、それ以上に進めているのが彼だ。お前は南地区の支配者ゴダンとしてここに来たのであろう」


 そう言われてゴダンの表情が一層凶悪化した。子供なら泣くぞ。俺がその子供だけど。


「そうでありました。シリウス卿、失礼つかまつった。先の捕虜交換の申し出は取り消しまする。いや、最初からやり直そう。俺は南スラムの大部分を牛耳る『南の守護者(サウス・ガーディアン)』の頭を張ってるゴダンという。西の支配者が戻ったという連絡を受けて顔見せに来たんだ。てっきり荒くれ者の巣だと思って来たからこのようなやり方をしてしまった。争う気は無い。許して欲しい」


 そう言って頭を下げた。隣の卓から様子を見ていた『南の守護者(サウス・ガーディアン)』の若い冒険者たちが頭を下げたゴダンを見て仰天していた。


「ゴダン、頭は下げなくていい。時間がない。今後の話があるなら聞きたい」


「うむ。事情はな、変わった。俺もどうしていいかわからん。しかし、こうなった以上、俺はこれより先は再びコナンとして生きねばならないし、それが俺の望みだ。『南の守護者(サウス・ガーディアン)』には当然ながら俺のようにオルレアン家に連なる者もいる。お家再興はお世継ぎが()らぬのだからどうにもならぬと(あきら)め、ここグランデールでその者たちと共に生を全うすることだけを考えてきた」


 そう言ってロイドを見た。


「ロイドはやることがあるんだからそれに付いて行けばいいだろう。お前の人生なんだからお前の好きにすればいいだけだ」


「ここまで付いて来た民草を放ってもおけん」


「本気か? そんなに本気で面倒見ようとも思ってなかったろ。クランなんだからやる気のある奴に引き継げばいいだけだろ。それにおそらく今後一年以内にグランデールの存亡は決まる。ロイドはここを守る義理は無いしなあ。そういえば明日からの旅はどうする?」


 『南の守護者(サウス・ガーディアン)』がどうなろうと俺の知ったことではない。


「コナンが生きていることがわかったが、俺のやることは変わらん。敵を排除しつつ、オルレアン家に連なる者を探す。明日からの皇都行きに変更は無い」


 ゴダンもコナンに戻る時が近いことを悟っただろう。できるかできないかではない。やるのだ。


「ロックよ。お前はグランデールを出るのだな」


 ロイドの問にゴダンが興味津々という風情(ふぜい)だ。


「そうだよ」


 しばしの沈黙の後にロイドが笑う。


「ははっ。お前らしい。だが言いたいこともやりたいことも理解は出来た。コナンよ、グランデールを俺たちの事情に巻き込むのは筋違いだ。まずはウォーカー殿の意向を伺う。次にこの街の民の声だ。どちらも俺たちとの共闘、そして争いそのものを望まぬ場合は巻き込めぬ。俺たちには俺たちだけの大儀しか持たぬからだ。人によってはただの復讐劇と言うだろうし、我らはそれを否定する言葉も持ち合わせてはおらん」


「バーランドはうまくやってんだよ。一般人にとっては別にそこまで悪政を敷いているようには見えないんだ。たまに隣国に攻め滅ぼされるだけで、それまでは平穏無事な生活が成り立っている。誰かがバーランドを倒せ、皇帝を討てと言ったところで私利私欲の謀叛(むほん)にしか見えないだろう。命を懸けて戦えだとか、街を守れと言ったところで理解も得られないし、勝ったとしても荒れた生活が残ることに対して歓迎もされない」


 ゴダンがロイドを困った顔で見ている。


「はっはっは! 言っただろ? 西の騒動を起こし、その全てを制したのがお前の目の前にいる少年だ」


「いきなりそんなことを言われても困りまする。ワシは『再生の大地』のクランマスターは女だと聞いていたんですぞ? それがいきなり少年だったと言われてそれだけでもわけがわからんのですぞ」


「ん? それは間違ってないぞ。ほら、ちょうど来た。彼女が『再生の大地』のクランマスターのキュロスだ」


 俺が指差す方には酒瓶を肩に引っ掛けて(あお)り飲みながら歩いて来るほろ酔いセクシー獣人がいた。服の上からでもわかる女性的でしなやかな肢体(したい)の腰には思わず二度見してしまうほどの長剣を()いている。剣を扱う者ならひと目見て思わずにいられない。「その剣、どうやって抜くんだ?」と。


 その彼女がこちらの視線に気が付くと目の前にある背もたれのない丸イスをひょいと掴んで俺の真後ろに置いてドッカと座った。座るなり後ろから右足を回して俺の足の間に突っ込んでのっしと俺を包み込みながら、その美しい双丘で頭を押さえつけると、その上で喉を鳴らしてビールを流し込んだ。俺は酒のツマミらしい。


「やあキュロス。ちょうど君の話をしていたところだよ」


 グリグリと頭を回しながら真上でゴクゴクと嚥下(えんげ)する白い喉を見上げながら話し掛ける。


「ふーん」と言いながら俺のおでこの生え際あたりの匂いを嗅ぐ。細く長い舌がペロリと唇を舐めるのが見える。


「良い話だといいけれど」


「きみの噂話が悪い話であるはずがない。さて、紹介が遅れたな。先にも言ったが俺の名前はラグナロク・シリウスだ。ロックでいい。この美しい狼は俺の第二夫人となることが約束されているオルカ・シリウスだ」


 右手を上げて頭の上にある黄色い髪の中に差し入れて後ろに撫でつける。


「こちらの美しく、誰よりも強い女性剣士が『再生の大地』クランマスター、そして俺の第三婦人となるキュロス・シリウスだ」


 ゴダンが口を大きく開けて絶句していた。隣に座っていたカシムがゴダンの足をゲシゲシと蹴りつける。


「ぬあおっほん! ワシの名は、うーむ。ここではゴダンと名乗っている。『南の守護者(サウス・ガーディアン)』のクランボスだ。だが、本来ワシはここにおわすローダン・オルレアン様の騎士になる者だ。真名(まな)をコナンという。クランマスター? 第三婦人? いったいどうなっているのだ」


 あまりのキュロスの自由っぷりに混乱しまくりの爺さん。


 キュロスはなにも意識してエロいことをしているわけではない。皆の前で夫となる彼氏へのマーキングを兼ねてちょっとイチャついているだけの話だ。この世界では特段に珍しい行為でもなんでもない。なんなら、酒場や街のあちこちで見られる光景から言えば控え目な表現と言っても過言ではない。俺も彼女も組織のトップだ。誰よりも自由に振舞える権力を持っている。ただ問題があるとすれば、お相手の俺がどう見ても年端もゆかぬ美少女だということなのだろう。それに関しては、自分で自分を見ることのできないこの世界では俺もその光景を想像することしか出来ないでいる。そんなに違和感あるのかなぁ?


 向こう側の卓に座る『南の守護者(サウス・ガーディアン)』の若い冒険者たちの目は明らかに「そっちのボスの方がいいなぁ」と語っているけどね。


「そっちのモンとの奴隷交換だっけ? 来年の春までかあたしたちがここを出て行く時に生きていればそっちに返すわ。そっちにいる奴隷はこっちに帰ってきたところでウチらの奴隷冒険者になるだけなのよね。まぁ、一回こっちに帰らせるかこっちからそいつらの知り合いか家族を寄越すわ。そのあとにそいつらにどっちの奴隷でいたいか決めさせてもらえればそれでいいわ」


 なんとも合理的で男らしい判断! 全員がそれでいいと頷いてこの話は終わった。


 ライラが俺のすぐ右の肩越しに腰を折り曲げ顔を出す。唇が耳ではなく頬に触れそうだ。


「ご主人様、間もなく正門前を当家の大型竜車が通過いたします。どのように処理致しましょうか」


 人前で「ご主人様」と呼び掛ける時に見せる愉悦の表情のあと、「処理しましょうか」と問う時のサディスティックな笑みのコントラストが見事だった。俺は俺のメイドが正しく(つか)えてくれていることに気分が良かったので、この件は最も穏便な方法で済ませてやろうと思いながら席を立った。



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