第214話 短命
「ロック、話せてよかった。おもしろくなってきたな!」
ウォーカーが最後はそう強がりを言って笑いながら出て行った。強がりでもそれができるヤツがリーダーでいるべきだ。俺みたいな根暗じゃダメなんだよね。
これからウォーカーは実家と連携を取って戦力をかき集めなければならない。ただ、向こうは向こうで自衛の準備が必要だ。情報は回せても実際の兵士を回す余裕はないだろう。グランデールでいうと市民を兵に仕立てるか冒険者を兵士にするか、あるいはその両方が必要になる。
一番現実的なのはウォーカーがグランデールを出ることだ。反バーランドの勢力がグランデールから消えればそもそも市民に危害は加えられない。
早晩その結論に達するだろう。
「お前の金儲けのやり方は気持ちがいいほど悪どいな! 参考になったぞ!」
オーサーも白い大傷を歪ませた泣く子がチビるほどの極悪人の笑顔で酷いことを言いながら大股で出て行った。手をヒラヒラさせたら部下たちが胸に手を当てながら頭を下げて出て行った。
オーサーはウォーカーと一蓮托生だ。
とりあえず今日来た連中には玄関で土産を持たせている。中身は本当に土産だ。珍しい茶葉や甘い焼き菓子のセットだ。渡す時に女中が淹れ方とアピールポイントをレクチャーするサービス付きだ。それ持って意中の女を口説きに行け! ってことだ。ここは近いうちに戦場になるかもしれんからな。家族がいるならたまにはお前が茶を淹れてクッキーを食わせてみせろ。来年の春、家族が増えることになるよう祈るよ。それがこの街を守る原動力になるだろう。ま、俺はとっくにいなくなってるかもしれないけどな!
客のいなくなった大ホールは片付けを始めた使用人たちが忙しく動いていた。酒を持ったキュロスは部屋に戻った。オルカはどこに行ったかわからない。
「あ、そういえば中庭はどうなったんだろう」
まだまだ余裕で飲み食いしているユーリがこっちを向いた。
「あれは明日の朝までは終わらないでしょう」
「ドワーフ連中はそれでいいけどな。レッドショルダーはどうなってんだ」
「今日来た剣士に三連敗させられた報告が入ったものですから」
「あー、言ってたな。流れ者の強いヤツっていう設定のね」
ユーリが苦笑する。
「ええ、彼女に一矢報いたいと血相を変えてクラン本部に戻りました」
「へー。でももう本部にはいないんじゃないの? ん? 今なんて言った? 彼女?」
「ええ、ローラという女性ですが。なにか?」
「いや、いいんだ。勝手に男だと思ってただけだ」
さすが侯爵家、なのかな。スキル次第で男にも勝る女が生まれるのがこの世界だ。下手に男を混ぜるぐらいなら女三人の方が侯爵令嬢なら移動もしやすかったかもな。
「『楽園』の建設を急ぐぞ。防壁と穀物庫、兵舎、あとは何がいるかなぁ」
「厩ですね。できれば馬よりもう少し強力なやつも」
「いいぞ。好きにやれ。目立っても構わない」
「ほう? そういうことですか。では派手にやりましょう。ダンジョン素材の流通拠点にしてしまいましょう。居城から建立するのもいいですね」
「えー? 別に俺そんなデカい家なんかいらないよ?」
「はっはっは。これも敵をおびき寄せるためです。ご了承ください」
こいつ、それホントかぁ? 適当言ってやりたいことやってるだけじゃないか?
「ロック、なんの話をしているのですか。まるで戦と国起こしの話に聞こえますよ」
ソニーだ。『誓いの剣』の三人が残っている。こいつらは今日はウチに泊まりになるだろう。
ユーリと顔を見合わせる。だって、ねぇ?
「まぁ、そんな感じの話をしているからそう聞こえるんだと思うけど」
「どこの話ですか? そういう話は聞いていません。敵をおびきよせると言いましたね?」
「ソニー、グランデールを守る方法があまり思いつかないんだよ。それはウォーカーたちが貴族パワーで人を集めるとかしてやるしかない。何年かあれば俺もそれに乗っかるのもアリだと思ってたんだ。ウォーカーを立ててグランデールを発展させて金を集める。人が集まる。力になる。中央を落とす。ってね。そうすればそこから北にも足を延ばせる。だが時間が無くなってしまった。グランデールのことは俺は知らん。だから何もできない」
「だから新しく国を興すのですか? 攻め込ませるために? 大義名分が欲しいだけでそれをやろうというのですか?」
言うな! ハズいだろ!
「グランデールは守れないけれど、自分の国なら守れるって言ってますよね?」
「イッテナイヨ」
「ラグナロク様、走竜は明日には戻ります」
「まったく、一度離れると連絡手段がなくなるってのは不便だよなぁ」
「走竜は戻りますが御者はどうされますか」
「今御者が出来るのは?」
「ロイ小隊だけです」
走竜は亜竜といわれるトカゲとドラゴンの間みたいな獣だ。亜竜の中で最も有名なのがワイバーンという翼竜。土石竜もトカゲだが亜竜だ。走竜は雑食の亜竜だが、足が速くてとても強い。そして意味がわからないぐらい燃費が良い。ただし! 弱い人間のいうことは聞こうとしない。と、聞いている。
最近仕入れたばかりの走竜をロイが使いこなそうと完熟訓練中だ。
「でもなぁ。ロイはさすがに連れて行ったらこっちが回らなくなるだろうからダメだな。キュロスに頼むか」
「キュロス様おひとりでは負担が大き過ぎましょう。バリウスたちを使いますか」
「それもなぁ。どう考えてもアヴァロンに送るしかない人材だ」
「ふむ。まぁ最適なのがひとりいますが」
「まさか。いや、それはさー」
「彼女たちなら喜んで同行するのではないですか?」
「逃げて来たばっかりなのに連れて行ってどうすんだよ。皇都まで連れて行ってハイさようならってわけにもいかないんだぞ」
「連れて行かなくても連れて行っても彼女たちの行く先に変わりはないでしょう」
それな。早晩、彼女たちはまた抜け出すだろう。生きるためにここに来たわけでもない。敵を引きつけようとしたのに全無視されて守るべき故郷を蹂躙されるっていう話なんだから。自分は原因だったけど、黒幕が欲しいものは女の身体ではなく、実利の伴う領土だったのだ。
欲しいのは御者だけなんだけどなぁ。侯爵令嬢どうしよう。メイド服着せてみるかぁ?
「彼女の本性がまだわからん。それと、とりあえず一晩時間をくれ。家族会議で話を通す。えーと、名目は御者と、シェリルのメイドと、みんなのための女中だ。ライラ、お前も連れて行く。彼女たちは家の主人である俺のメイドのお前の下に就くことになる」
「あぁ、マイ・キング、調教のし甲斐がありますね」
頬を桜色に染めてうっとりとあらぬ方向を見ていた。そんなことよりせっかく完成した自慢の屋敷なのにもうお別れかよ。




