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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1章 DAY1

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第21話 ネゴシエイト

 よっしゃー! 一時間以内に終わらせてやったぞ「商業ギルド」編! いよいよ次は「湯煙慕情(ゆけむりぼじょう)」編だっ! むふっ。 急げ俺!


「ロック、ロック! ちょっと待ってくれ!」


 ライズが慌てて俺を呼び止める。俺は急いでいるのだ! 「商業ギルド」編はもう終わったんだよ!


「なんだ、ライズ! 俺は忙しいんだ!」


「いや、俺たちはどうすればいいんだよ?!」


 なんだか泣きそうだなお前たち……。さすがに子供をこのまま放り出すのは酷か。俺が巻き込んだんだしなぁ。しょうがない。ちょっとだけだぞ? 商業ギルドのバックヤードを出たところの馬車道から離れて立ち話をする。


「さっきも言った通り、見たままのことを話して大丈夫だ。えーと。そうだな、とりあえずこのあと冒険者たちに捕まるなら酔うなよ? お前、いま結構大金持ってるんだよな? なにか聞かれたら毛皮の金はオークションが終わってからもらうから今は金は無いって言っておけばいいだろう。でもまあ俺ならこのままバックれるけどな!」


「えー、さすがにそれはマズイだろ」


「大丈夫だ。どうせあいつら宴会始めててなんのために集まってんだかなんてすぐに忘れちまうから」


「そんなこと……あるな」


「じゃあまたな。いろいろ助かったよ」


「え? これで終わりか?」


「ん? 今日はな。そのうちまたすぐ会えるだろ。じゃあな!」


 俺はそう言って走り出した。冒険者たちのいない方へ! そして路地を曲がって誰の目もなくなった瞬間、邪魔だったマイクのボロ装備を収納した。それと同時に俺は今日起きた全ての出来事を頭の中から追い払って、たったひとつのことに全集中した!


 風呂、風呂、風呂……風呂だ!

 スラムに風呂は存在しない。逆に言うとスラムじゃなければ風呂はある! ということだ。


 それはどこ?


 答えは……『高級娼館』です!

 はい、拍手~ わーい。


 ここで大きな問題がある。俺、見た目は十歳なんだよなぁ。中身はいい歳したおっさんが混ざってるから娼館もアリなんだけど。むしろアリなんだけど。もうひとつの選択肢をあえて無視してまで娼館に行くにはどうすればいいか? なんて考えてないよ?


 いや、普通に『高級宿』行けばいいだけなんだよね。俺としてはどっちでもいいんだけど。どっちがいいかな? 子供がいきなり『娼館』は怪し過ぎるから『高級宿』だよな、やっぱり。身ぐるみ剝がされる確率も低い方がいいし。


 娼館の方はパーティーの奴らについて行ってたから雰囲気ぐらいはわかるけど『高級』と付くのはまったくわからないしな。


 高級娼館も高級宿もスラムの入口あたり、つまりギルドのある円形広場の近辺に集中している。そもそもこれは主に出入りの商人と壁の中の冒険者用の店なのだ。


 『スラムにも冒険者ギルドがある』これは増えすぎたスラムの人間を使った金稼ぎの一環として生まれたシステムだ。お前ら勝手に行って獲ってきてもいいぞ、と。それを買い取ってやるぞ、と。そういうわけだ。スラム住人冒険者の買取価格は安い。税率も高い。今は税率七割だ。酷い話だよねまったく。壁の中の冒険者だと税率三割だったはずだ。だからホーンラビットの肉さえスラムでは高くて食えない。すべては壁の中で消費される。壁の中に流通させるためにスラムで買い取ってるわけだ。


 森で狩って、ナイショで食ってしまえば食える。冒険者の特権ってやつだね。それでも冒険者で成功した者はスラムでは金がある人間だ。それを消費させるためにスラムギルドを中心に金を使う場所が発展した。経営実態は壁の中の貴族だったりするわけだけど。


 それと、壁の中のギルドまで素材を持ち込んでバラすのが嫌になったんだな。臭いから。だから壁の外で処理して、必要なものだけ都市内に持ち込むってわけだ。というわけで、基本的に素材はすべてスラムギルドの受付に預ける。都市内登録者は帰りに素材をスラムギルドに預けたらそのまま都市内に帰ってしまう。後日、金銭の受け取りや報告だけを都市内のギルドでやる。スマートでいいよね。


 都市内に戻るのが面倒な金持ちや小金を持ったスラムの冒険者用にスラムギルドの近くにレストランや高級な娼館や宿が出来ていった。壁内の人間にとっても、壁内で過ごすよりスラムの高級宿の方が安いから使いやすいだろうし。問題は臭いかな? 壁の中はどうなんだろう? 地球の中世時代だって城内とかひどいものだったはずだ。


 まぁそんなわけでスラムギルドの近くに高級店はある。表通りにあるのが宿で裏道にあるのが娼館。ちなみに一番利用しているのはグランデールを訪れる高級商人だ。


 てなわけで西スラムのメインストリート。商業ギルドを出てすぐにここに来た。高級宿に行くだけなら俺の恰好でもダメではないと思うんだよ。スラムの冒険者なんてだいたいこんなもんだから。年齢は除いて。


 あー、でもアレか? 冒険者章(ドッグタグ)とか等級で門前払いの気がしてきた。あとさー。なんでこんなド派手でビカビカした店ばっかなんだよ。『高級』の概念とは? どこの田舎のパチンコ屋だよこれ。


 篝火(かがりび)熱いよ! うおお! 滝だ! 滝! これ、水魔法使いいるんじゃね? すっごいな。永久雇用かもしれんな。


 でも……こんなところ入りたくないよ……センスが壊滅的すぎるだろ。


 商業ギルドで宿を紹介してもらえばよかっただけじゃないかとめちゃくちゃ後悔している。焦り過ぎて気が回らなかったよ! 今から戻ってもあの人たちに会うのは不可能だ。あの人たち、偉い人だもの。


 なんかさー もっとこうなんていうの? ()びっていうか、()びっていうかそういうのないのかねぇ。一通り高級宿街を周ったのだが、入りたくなるような宿はありませんでした。これはもう娼館ですかねぇ。むふっ。


 しょうがないなぁ、と裏通りに入ったら表通りとは違う雰囲気の……宿かこれ? 三階建てのわりとシンプルな建物で、壁が高くて俺の背だと中まではあんまり見えないな。個人宅ってわけはないよな。表通りの高級宿みたいに馬鹿みたいにデカくもなく、変な派手さはない。というかむしろ地味。


 今見てるのが庭園側なのかな? 壁沿いに回ると表玄関があった。広めの階段があって上がった先はオープンテラスもあるメシ屋? 飲み屋? になってる。そろそろ客が増えてくる時間帯だろうな。


 で、当然いらっしゃいます。はい。ザ・用心棒(バウンサー)


 階段を上がった店の入り口横に泰然(たいぜん)と立ってらっしゃる。歳の頃は四十台半ば。背は高いけどゴツイ感じではない。槍の代わりに鉄の棒みたいなのを立てて、腰には片手剣差してすごく自然体で立っている。隙が無い。革鎧だけど実戦というよりは店の制服(ユニフォーム)っぽいかな。表情を見ると、決してニラみを利かしているわけでもないし、ぼんやりもしていない。すべてを見てすべてを見てない。

 

 どう見ても引退した元高位階(ランク)冒険者。さすが高級宿。まぁダメ元だ。聞くだけならタダだ。いきなり斬り伏せられたり……しないよね?


 ギリギリまぁ敷地外だよなという用心棒の立ってる階段脇の下にさりげなく立って、フードを脱いでから話しかける。顔はあまり見ないようにする。


「あの、お仕事中すみませんが少しよろしいでしょうか」


 片方の眉を上げながら目線だけで俺を見る用心棒。横顔で見上げながらにこりとして続ける。


「わたしは冒険者見習いをやっている者なのですが、こちらは宿屋だと思うのですが相違(そうい)ないでしょうか」


 用心棒の目がおもしろい生き物を見つけたっていう感じで光ったような気がしないでもない。これは、店を間違えたか?


「そうだ。宿屋に違いはないぞ」


 おお! 答えてくれたよ!


「この辺りには初めて来たのですが、こちらの宿には風呂付の部屋はありますか?」


 今度は両目を見開きながら顔も少し俺の方に向けて答える。


「ほう? 風呂を知っているのか? うむ。いかにも。風呂付の部屋もあるが」


「ああ、よかった。ちなみに風呂付のお部屋はひとりだと一泊おいくらになるか(うかが)ってもよろしいですか?」


 まだ正面切って顔は見ない。俺はどこからどう見てもこの店の客ではないのだ。

 店に迷惑はかけられない。用心棒は少し考えるそぶりを見せてから答えた。


「風呂付はひとり一泊大銅貨二枚だ。ただし、基本的にはふたり分掛かるがな」


 あー、なるほどね! ひとりで来ても朝にはなぜかふたりになってるやつね。本当に一人で泊まるにしてもよほどの常連か、二人分の料金を払うような客にしか貸さないって感じかな。ってことは一泊大銅貨四枚か。


 スラムの大部屋だと八十泊、シングルで四十泊、前払いとか交渉次第で二、三カ月泊まれるぐらいだね。たっけー。頭の中で計算しているとさらに用心棒が声を掛けてきた。


「小僧。どこぞの旅商人の従者か? 大部屋ならひとり銅貨三枚で大風呂には銅貨二枚で入れるぞ」


 営業うまいな! いい人間を(やと)ってるじゃないか! でも俺は大浴場がどんな感じかも知らないし、今世(こんせ)初の風呂はゆっくりひとりで入りたいんだよ。


「なるほど。すばらしいですね。ちなみに風呂付の部屋のお風呂は完全に湯に()かれるものでしょうか?」


 サウナだけとかだったらパスだからね。そしていよいよ用心棒は俺の方に身体を向けて話し掛ける。やけに風呂にこだわる小汚いを通り越した汚い小僧の言い(よう)がよっぽどおもしろいらしい。それに合わせて俺も顔と身体を用心棒に向ける。勝負はここからだ!


「うむ。うちは風呂には特に力を入れているからな。旅の疲れを癒すには最高の宿だ。ただし、こちらも客を選ぶがな。小僧、お前の主人はどのような人となりだ」


 あー、マジで~? ドレスコードありってかぁ。風呂に力を入れてるとかこの世界でもあったんだなぁ。なんとかひっくり返せないかこのタフな交渉(ネゴシエイト)。がんばれ俺の中の元日本人!


「実は宿泊をお願いしたいのは(わたくし)です。年齢もまだ十歳のため身分証も持っておりません。見ての通りの恰好ですのでお願いを聞いていただくのが難しいことは重々承知しておりますが、そこをなんとかお願いできないでしょうか。宿泊料金は私ひとりで大銅貨八枚お支払いします。それと、身綺麗にしていただく風呂のために追加であと二枚、大銅貨をお支払いします。石鹸があるようでしたらそれらは別途お支払いいたします」


 用心棒はきょとんとした顔になった。

 そしてまた最初の片方だけ眉を上げた顔をしながら確認してきた。


「泊まりたいのは今、ワシが話している小僧本人で、風呂付の一人部屋にひとりで泊まりたい。身綺麗になるまで風呂を使わせる代わりに、必要経費は別にして銀貨一枚払う。こう言ったのか?」


 やっぱりこのおっさん頭よく回るな。元冒険者だよな? 壁の中でやってた人とかこんな感じなのかな?


「はい。その認識で間違いありません。他にお金が掛かるものがあるなら、そちらももちろんお支払いいたします。それと、この話を引き受けてくださるようにこちらのご主人にお伝えいただけましたら、心付けとして些少(さしょう)ではありますが大銅貨一枚をお支払いいたします。ああ、それともう一点。私が宿に出入りする際は他のお客様とお会いしない裏口など利用させていただければと思います。どうか何卒(なにとぞ)お願いいたします」


 おっさんは話しの途中から口を開けてぽかーんとしだした。

 

 やっぱりあきれられたかぁ! そらそーだよなー こんな汚ったねー孤児風情(ふぜい)が突然押しかけても嫌だよな~ 品位を下げる迷惑客だよなぁ。


 おっさんは目を爛々(らんらん)と輝かせながら言った。


「小僧! お前の言ったことが嘘でないなら大銅貨一枚今すぐ見せろ!」


 俺は胸当ての隙間から大銅貨を一枚取り出すとおっさんに指で弾いた。


 ピーン、パシッ!


 おお! おっさん、いい音させるね! 冒険者っぽい反射神経!

 おっさんは受け取った大銅貨をしげしげと眺めると突然大笑いしだした。


「わーっはっはっはっはっ!」


 店で食事中の客と店員が一斉にぎょっとした顔でおっさんの方を見た。俺はすっと階段の脇に身をずらして客から見えないところに立った。おっさんはまだ笑ってた。


 すると店内から慌てたようにひとりの銀髪オールバック紳士が飛んできた。(いぶし)し銀とはこのことか。渋いぜ!


「マスター! また貴方(あなた)はこんなところで何をしていらっしゃるのですか!」


 銀髪の紳士が眉を寄せながら、おっさんに向けて強い小声という世にも珍しい発声方法で声を掛けていた。


「ユセフ! 今日ほどコレをやっててよかったと思った日はないぞ!」


 鉄の棒を掲げながら楽しそうなおっさん。店の中からおそらくこの仕事を奪われた若い警備員(ガーディアン)が困り顔で出て来てマスターと呼ばれたおっさんから鉄棒を受け取る。


「ユセフ、十八番は空いているか」


「はい、今宵(こよい)は空いております」


「よし。すぐに風呂を準備しろ。お客様だ。小僧、名は」


 なんか大変なことに巻き込まれてる気がしないでもないけど風呂に入らせてくれるならいいや。あと悪い人ではなさそうだし。


「あっ、はい。ロックです」


 ユセフと呼ばれた紳士が階段下の俺に丁寧に話し掛けてくる。


「ロック様、ではこちらへどうぞ」


 そう言って(うやうや)しく階段を指し示す。ユセフすげーな! もう切り替えできちゃうの?! 


「いえ、ご迷惑をお掛けしたくないので裏口をお願いします」


 ユセフがマスターを振り返る。


「ワシは気にせんぞ」


()が気にします」


 おっさんがニヤリとして言う。


「あいわかった。ワシの名はウォーカーだ。あとでまた会おう」


 そう言うと笑いながらさっさと中に消えて行った。ユセフは階段を降りて「それではご案内致します」と歩き出した。俺は「お願いします」と言ってあとを付いて行った。


 十年ぶりの風呂、ゲットだぜ!

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