第20話 頭痛の種
俺の当面の卸先が確保できたところでサイラスの元に買取査定完了の報告が届いた。
「お待たせしました。査定の結果が出ました。今回の 草原狼一頭の査定結果ですが、魔石が大銅貨二枚、肉が大銅貨一枚、牙が二本で大銅貨一枚、歯が銅貨五枚、ここまでの小計が銅貨換算で四十五枚になります。七割の税を引いた額は銅貨十三枚と小銅貨五枚になります。この内『銀狼の牙』の皆様へは肉の買い取りとして銅貨三枚の受け取りとなります。ロック様はそれ以外の分配として銅貨十枚と小銅貨五枚となります」
ここで一同を見渡す。ライズとアーノルドが頷いた。
「最後に毛皮になります。こちらの毛皮のみの査定額は大銅貨五枚になります。これは私ども商業ギルドが今この場で買い取りをする場合です」
サイラスが俺たちを見渡す。ライズたちの顔には、望外の高値に対して笑みが広がっていく。草原狼の毛皮の平均的な査定額は大銅貨二枚程度だからだ。サイラスが続ける。
「皆さんもお気づきでしょうが、この毛皮はきちんと加工をしてオークションに出すべき品だと判断いたします。草原狼だとしてもこれほど見事なものであれば高い需要が見込めます。ただし、加工やオークションへの出品の手間などもあり、かなりの時間と費用を要します。では、オークションに出したとしてくらで落札されるのか? これは正直わかりません。どんなに安く見積もっても銀貨三十枚は下らないと思いますが、最終的にいくらで落札されることになるかは月の女神のみぞ知るです」
なんの話だ? とライズたちが不安そうな顔になっている。
「これだけ立派な個体です。この毛皮だけではこちらとしては物足りないのです。ツノ、爪、牙、歯、そしてできれば魔石も込みのすべて揃った状態でオークションに提出したいと考えています。すべてをまとめて買い取らせていただきたいのです。ロック様はお気づきのようですが、このまま黙ってバラバラの単なる素材として買い取ったあとにこちらで全てを一揃いのものとしてオークションに掛けるような不誠実な真似はしたくありません。それぞれの素材を単品で査定をした金額から肉を除き、ツノ、爪の査定額大銅貨三枚を足した場合の合計査定額は税抜き前の価格で銅貨百十五枚となります」
サイラスがここまでよろしいか? というように一同を見回す。
「今回はオークション出品用の 草原狼一頭の素材代金として買取金額を大銀貨一枚、つまり銀貨十枚の買取金額を提示させていただきます。どうかこの金額で買い取らせていただきたい」
今度こそライズたちは絶句した。話を進めるために俺が口を出す。
「ま、とはいえこっちの懐に入るのはその内たった銀貨三枚だけどね」
サイラスが苦笑交じりに言う。
「せっかく私があえて大きな金額の方を申し上げたのに」
『銀狼の牙』を除く三人で笑った。
「もちろんこちらに異論はありません。商業ギルドの商いに対する誠実さをあらためて知ることができたこと、感謝に堪えません。一同を代表してお礼申し上げます」
そう言って軽く頭を下げる。感謝を伝える礼のためなら首を垂れることに躊躇はないよ。
「よせよせ! お前がそういうふうに話してくるたびに恐ろしくて背筋がゾクゾクしてくる!」
「それではこちらに」
そう言ってサイラスが俺の前に素材一式の買取額の銀貨三枚、その横に肉の買取額の銅貨三枚が載ったトレーを置いた。
銀貨を一枚取ってサイラスに頷いた。サイラスは軽く頷き返すと自らトレーを持ってライズの元に歩き目の前にトレーを置きながら「お納めください」と言った。
『銀狼の牙』のメンバーの誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。まだ駆け出し冒険者の彼らにとっては見たこともない大金だ。ライズが俺を見る。
「お前らの今日の報酬だってさ。まぁ悪くはないよな」
ライズが何か言う前に軽い調子で続ける。
「それな、口止め料ってのも込みだから気をつけろよ」
『銀狼の牙』が泣きそうな顔になった。
「わっはっはっはっは!」
オーサーが大笑いした。
このままじゃかわいそうなので助け舟を出してやる。
「外ではさっきの連中がお前らの話を聞きたがって待っている。もちろんお前たちはここであったことの何を話してもいい。口止め料って言ったのは冗談だ。このおっさんが笑ったのもお前らをからかっただけだ。ここにいる誰も、お前らがどこで何を言おうと、それが真実である限り何もしない。信じろ。お前らは冒険者ギルド所属の冒険者だ。今日、ここであったことをギルドに報告する義務がある。話してもらって困るんだったら最初からこの席に同席などさせていない。適当に外で待たせて金だけ払えばよかったんだ。このおっさんは最初からそのつもりだったってことだ。いいな?」
ライズは途中から真剣な顔をして聞いていたが、正直全部理解できたかは怪しい。まぁ、みんなこうやって大人になっていくのだよ! 少年!
にやにやしてるおっさん、じゃなくてオーサーに挨拶をする。
「それではお世話になりました。ありがとうございましたオーサー様」
そう言って恭しく頭を下げた。
「ふっふっふ。言ったろう? 怖いからやめろと」
「オッケー。じゃあまたな、おっさん。サイラスさんも、また」
そうしてライズに「行こうぜ」と声を掛けるとマイクのゴミ装備を肩に掛けて裏門に歩き出す。ライズは慌てて、しかし大事そうに財布の麻袋に銀貨を入れると俺のあとについてきた。まるで逃げ出すように見えて笑ってしまった。
たまたまその場に居合わせた商人たちは、商業ギルドの御用達しか入れない場所を笑いながら歩いている汚い浮浪児と、それを慌てて追いかける若い冒険者パーティーを見て怪訝な顔をしたあと、ギルド建物へと向かうこの街の陰の支配者とその右腕が同時にいるのを見て、このあと数日間に渡って自分にとってこれがどんな意味を持つのかと頭を悩ませることになった。




