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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第203話 知りたくない!

 よし! 義理は果たした!


「えーと、まぁ、そんな話です。みなさんには話しておいた方がいいんじゃないかなぁと思ってお呼び立てしました。それじゃ俺はこのへんで」

「おい! 逃げるな!」


 ウォーカーがしつこい。


「いや、俺は関係ないので」


「いや、明日、セイレイン嬢を迎え入れるんだろうが」


「セイレイン? 誰ですかそれ。知りませんよ」


「婚約していたロードリンゲン侯爵家の三女の名前だ! なんでそこまで知ってて名前を知らないんだ?!」


「聞いてないからですよ。俺に関係無いし関わりたくないからに決まってるじゃないですか」


「明日、ウェスタリー商会に来るのに関係無いってこたぁないだろう。がっつり一番関わってるじゃないか」


 オーサーが呆れていた。


「いや、関係ないですよ。働きたいから試験受けさせてくれっていう話らしいって聞いてるだけですから。従業員、何人いると思ってるんですか」


 ウォーカーがギルド長官から若手の冒険者の雰囲気まで崩れ落ちていく。後ろでユセフが少し楽しそうに主人を見ている。バーズは呆れていた。


「だとしても無関係ではないだろ?!」


「試験落ちたらサヨナラだし知らないですよ。もし仮に受かったって今はもう平民の女の子ってだけじゃないですか。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。侯爵家に生まれて育ったようなお嬢様なんでしょ? 商会で働けるかどうかなんて怪しいもんじゃないですか。試験に落ちる可能性が高い貴族子女なんかお呼びじゃないんですよ。俺の知ったことじゃありません。ウチはですね、完全実力主義ですからね。身分差は考慮しません。今ウチで働いている貴族令嬢たちもそうです。年下平民女子の下で働いてますよ」


「なに?! そんなんでやれるのか?」


「やれるもやれないも、やれないなら解雇するだけなので問題が起きようもないですよ?」


「ホントなのか? ちょっと次にモールに行く時に店員を見る目が変わりそうだな」


「ロック」


 鋼の声がした。


「平民の下で働くことを良しとしない子女の親が圧力を掛けてきたらどうするのだ」


 なんでそんなこと気になるんだ? お前さんの仲間も不思議そうに見ているぞ。


「え? どうする? うーん、どうもしないですねぇ」


「騎士を連れて娘を取り返しに来るぞ」


「家出娘にそこまでするかなぁ。まぁ、娘が心配でそこまでするのなら話ぐらいは聞いてやりますよ。事情聞いて娘が戻りたくないって言うならウチの社員っていうか身内ですからねー。まぁ、守りますよ」


「家出娘ひとりのために貴族の私兵相手に守る、か」


 ロイドがニヤニヤしながら俺を見ていた。楽しそうだな。しょうがないなぁ。俺の好奇心が抑えられなくなってきた。


「ロイドってさー。誰なの?」


 部屋の空気が音を立ててフリーズした気がした。


 ロイドは俺を見ていた。オルカは俺の左肩にもたれかかって眠たげに薄く目を開けていた。ライラは俺の右後ろに立ったまま、さっきからまったく動いていない。その他の全員がロイドを見ていた。さぁ、どうする?


「俺か? 俺は亡霊だ」


「ふーん。この世に未練があるなら墓場から(よみがえ)ってしまいそうだなぁ」


「ははは。そういうこともあるのだろうか。あるといいな」


「俺は本当に何も知らなし興味も無いんだよね。この国の歴史とか内情とか。近隣諸国との動静もね。あ、南とは戦争やってるってのは知ってる。でもグランデールの東西南北の対立構造もよくわかってないんだよ。俺に何かを期待するのは間違ってると思うなぁ」


「うむ。それはそうだ。いくらなんでもお前は幼過ぎる。本気で関わりたくないと思っているのもわかる。お前はこの国の人間じゃない。この街の人間でもない。そして冒険者でもない。では、お前こそいったい誰なんだ?」


 あちゃー。藪蛇(やぶへび)だったか。


「奴隷にされて全てを憎んで全てを破壊しようとしたけど思いとどまって更生した子供ですよ。あと五年も放っておいてくれたら姿も消しますよ」


「いやいや、お前さんが俺の宿に、俺の目の前に現れてからまだ三ヶ月だぞ。五年も時間を与えたらどうなるのか見当がつかん」


 ウォーカーのあとを受けてロイドが身を乗り出す。


「ロック。俺にはやらねばならんことがある。お前はこの国をどう思っているんだ」


「この国? 以前、ウォーカーたちにも言ったことがあるし、今ロイドが言った通りだ。俺はこの国の人間じゃあない。俺は三ヶ月前まで五年の間、奴隷の先行斥候だった。運良く解放されたが誰かに助けられたわけでもないから誰かに恩があるわけでも借りも無い。今更ここがお前の国だから国のために尽くせだとか言われてもそんな義理も無いし、そのつもりも毛頭無い。悪いが俺はこの国に住むどの人間にも等しく好意を抱いてはいない。俺は俺の家族のために動いている。それだけだ。俺の家族も全員この国に仕える義理は無いからな。俺の家族の役に立つかどうかだけが俺の行動基準だ。他には何も無い。俺が今この場にいてお前達に情報を与えたのはウォーカーとオーサーを友人と思っているからだ」


 少しの静寂を再び破るのも深く静かな鋼の声だ。


「人生を壊したこの国、皇帝、貴族に恨みはないのか? 倒すべき敵とは思わないのか?」


 危険な話だ。それを聞きたいなら。


「あー、ロイドくん、ダメだよ。この世はギブ&テイクなんだ。一方的に求めるだけの男はモテないよ?」


「ぎゃはははは。嫁が四人もいる男に言われると説得力が違うな!」


 カシムが明るく言ったが場を取り(つくろ)うにはちょっと弱いかな。オルカが俺の左腕に絡まってアゴを肩に乗せてきた。舌を伸ばせば俺の耳に触れる距離だ。横目でじっと冒険者たちを見ている。ふさふさの尻尾がゆっくりと揺れている。久しぶりに俺の本性に触れて彼女の野生が反応していた。オレンジの髪の好青年が身震いをしていた。年端もいかない少女だと思っていたのにって顔だな。これも社会経験だ。でもわかるぞ。女の子って、怖いよね。


「そうだな。だいぶもらい過ぎてしまった」


 冒険者たちに緊張が走る。


 いや! 違う! 俺はそれが嫌だって、聞きたくないんだって

「俺はこの国をひっくり返すために生きている」


 あー! 終わったー! なんで言うんだよ! ばかぁ!


「俺は十年前、この国の皇帝、アリテウスに尻尾を振る貴族どもと隣国が結託した謀略で滅ぼされた北方(ほっぽう)の領地の跡取りだ。万の民を殺された恨みがある。生きながらに燃やされた民草たみくさの無念は晴らさねばならん。その時、貴族どもの音頭を取ったのがこの地を治めるバーランド家だ」


 おわったー! いや、まだ間に合うか!?


「ふーん。それは大変だね」


 必殺! 知らんぷり!


 しーん。ウォーカーが目を見開いて俺を見ている。


「いや、お前、大変だねって」


 他に何て言えばいいんだよ。


「ふ。ふはははは! そうなんだ。けっこう大変なんだ」


 いよいよ全員が呆然とロイドを見ている。


 お前らはまったく、どいつもこいつも生き方が下手くそ過ぎる! 娯楽も何もない世界で生きるのは難しいよな。楽しいことで過去を忘れろと言うには重すぎる話ではあるが。


「まぁそうよね。だって、ロックくんには関係ないもんね」


 ソフィアはそりゃそうだって感じだ。少し笑ってる。


「あ、わたしはね、ロイドの婚約者だったのよ。当時は九歳ね。夜襲はね、初の顔合わせでロイドの城に行って最初の夜だったわ。敵が殺到する城から脱出して燃える街、殺される街の人を見ながら逃げたの。ロイドとソニーとダッジが声を掛けて守ってくれたわ」


「いや、ソフィア、あの時、私はそんな大層なことは出来ていないですよ。コナン殿の言われるがまま必死で逃げただけです。なにも、なにもできなかった」


 二枚目が美しく苦悩していた。オレンジの髪の好青年のダッジは床に視線を落とし唇を噛んでいた。十年という年月ぐらいじゃまだ昨日の出来事か。この世界じゃあ、ずっと戦場にいるようなもんだ。


 こいつら不健全だな。なにが婚約者「だった」だよ。ロイド、お前なにやってんだ。これだけの金髪超絶美少女魔法使いなら俺がってダメだ。何かものすごく殺気を感じる。横と後ろあたりから。


 うーむ。全て忘れて楽しく生きろっていうのは無責任だし無理な話なんだろうなぁ。あとはまぁ、点と線が繋がる気がするけど情報が足りないしやっぱり時間も足りない。いろいろと間に合わないかもしれんなぁ。


「なるほど。ロイドたちの立ち位置はわかったよ。ウォーカーもね。邪魔はしないよ。俺はウォーカーとオーサーとは友達だからね」


「ふっ。そうか。ウォーカー殿、良きご友人をお持ちだ。紹介してくれて感謝する」


 ウォーカーもオーサーも苦笑いだ。だが、カシムが納得いかないって顔だ。


「いや、お前も恨みとかあんだろ? 肉親だって殺されたんじゃないのかよ」


「カシム、それはね、よくわからない。記憶が無いんだ。それとさ、俺が恨みを晴らすとか言うとさ、最初に言ったでしょ? この世を滅ぼすしかなくなるんだよ。ロイドたちには悪いけどさ、俺は恨みを晴らすよりも自分たちの幸せを求めてるだけなんだよ。それを邪魔するやつは許さない。それだけなんだ」


「恨みを晴らすより幸せを求める、か。それは、()いな」


 本当に良いと思っているが他人事としか見ていない。こいつの中身はもう打たれまくった鋼だ。決して折れない。曲がらない。


「ロイド。それが出来る場合と出来ない場合があることはなんとなくだけどわかる。今の俺には俺自身に対することの恨みしかないんだ。家族にも復讐を求められていない。デミトリーの件はね、俺の気持ちだった。大事な人を傷つけられたら許せないのは当然だ。だからロイドのやろうとしていることを止める気も邪魔する気も無いよ」


「うむ。お前のその潔さもまた良し。それがお前の強さか。俺は敵を求め彷徨(さまよ)うが、お前は立ち塞がる者を(ほふ)るのだな」


「そう。この国は愚かな支配者によって(まつりごと)()られている。奴隷制度などという唾棄(だき)すべき制度が(まか)り通っている。だが、その全てが俺にとってはどうでもいい。ここは俺の国ではないからだ。滅ぶなら勝手に滅べ。いつか誰かがそれを正すならそれもまた良し。だがそれをするのは俺じゃない。今その恩恵に(あやか)る者達全てを滅殺(めっさつ)する気も無い。それはロイドとかウォーカーの仕事だろ?」


 全員が神妙な顔で俺を見ていた。ウォーカーがギルド長官に、為政者の顔に戻っていた。


「まぁな。お前のそれが本当だってのはさすがにもう信じられる。お前を止めることは誰にも出来ないってのもな」


「は? なんスかそれ? それじゃあロックがまるで無敵みたいじゃないスか。いや、そりゃまぁ強いんだろうとは思うけどさ」


 カシムが納得できないみたいだった。ウォーカーが天井を見上げた。


「うーん、まぁロックは敵じゃない。俺たちが味方に。いや、敵じゃなければいいだけだ。それはそんなに難しくはない。お前、あと五年って言ったよな? 出て行くのか?」


 ウォーカー、そんな卒業式の日の同級生みたいな顔すんなよ。


「いやぁ、そんなにちゃんと計算してないからわかんないです。最長五年かな? もっと早くなるかもですけど」


「ロック! ロックがさ、そんな強いならさ!」

「カシム、やめておけ」


 鋼の声が(たしな)めた。


「傭兵が必要なわけでもないだろう。強いからといって尻尾を振っては()(とな)えられん。お前はロックの下に就くことになってもいいのか?」


「それでみんなの願いが叶うならなんてことないぜ!」


 ロイドの口角が上がった。それを見たカシムが目と口を開けて動かなくなった。


「ふっ。誰かを差し出して何かを得ることは俺にはもう出来ん」


 まぁ、こいつらはこの世界でも珍しく俺が良いヤツと思えるやつらだ。俺に付いてもらいたいなら上手くやれってところだな。


 押してもダメなら引いてみな。ったく、日本人に情で訴えるのは反則だぞ。しかもこの鋼の偉丈夫、天然モノじゃないか。ウォーカーめ。類が友を呼びやがって。


 いずれにせよ転生してまだたったの三ヶ月だ! 風雲急を告げ過ぎてなんか腹が立ってきた。無理やりにでも遅延させてやろうか? それとも時計の針を進めてやろうか?


 その気になりゃ時間だって支配してやるぞ。





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