第202話 業務連絡
「ロイドってさ、歳はいくつなの? 俺は十歳なんだけど」
子供のフリをして聞いてみた。ロイドは虚を突かれたのか軽く目を見開いている。左隣に座る金髪碧眼、典型的な王子様スタイルの二枚目の目がスっと細められた。ロイドと共に若さが出てるか?
「俺は確か二十一だな」
微かに微笑みながらそう言った。思ったより若いな。ウソは言ってなさそう。全員の目がロイドを見ていた。ある者は意外そうに。ある者は驚きを持って。無関心でいる者はいなかった。オルカと俺の後ろに控えるライラ以外は。
そのライラが俺とオルカの前に冷たい飲み物を置いた。あの夜以降、ライラは俺以外の家族にも給仕するようになった。
「へー。歴戦の勇者みたいな貫禄だからもう少し年上かと思ったよ」
「お前も見た目はともかく中身はかなり年上に思えるがな」
今は戻ったが、さっきまでの顔は確かに年相応な若者らしさがあった。そんなロイドを見てカシムは驚き。ソフィアは微笑んでいた。
俺の質問に意味は無いし、意図もない。本当に気になったから聞いただけだ。ただ、なんとなくわかったことがあるような無いような。ユーリが気にしているのもこの感覚だろうか。貫禄があってもやっぱり二十歳そこそこだもんな。こいつら、どこか危ういんだ。
「あの商会さー。下品だからもう依頼受けたりしない方がいいんじゃない? パーティーの品格が下がっちゃうよ?」
「はっはっは。冒険者パーティーの品格に上下があるのか? あるのは等級だけだと思っていたんだがな」
「ウチのパーティーにランクは無いけど、品格なら相当ハイレベルだよ? 嫌な仕事は受けないからね」
「それを貫けるのはうらやましい話ではあるな。だが等級はあった方が便利だろう。依頼の難易度の目安になる。頼む方も受ける方もな」
「それもそうだね。でもさー、あんまりそれやるとどこかが文句言ってきそうなんだよなー」
ウォーカーを流し目で見る。
「俺のこと言ってる? いや、そこは別に誰にも迷惑掛けてないしいいんじゃないか」
「ギルド長官の許可が出たからいいのかな。あ、そうだ、今度『再生の大地』の下部組織を立ち上げますね」
「どういうことだそれ? 次は何をやる気だ?」
「いや、『再生の大地』に入れてくれって奴が多いんですよ。でも『再生の大地』って元ゲットーの奴らを奴隷にしただけの愚連隊じゃないですか。そこに奴隷でもない若者とか入れると奴隷が一般人に命令するとかわけのわからん状態になるんですよ。だからいっそのこと別組織立ち上げようかなって。あいつら、チンピラ候補とか身寄りの無いやつらなんで、放っておいてもロクなことにならないし、冒険者になったとしてもあっさり死ぬじゃないですか。だったら引き取って教育して使う方が良さそうだなって」
「うん。言ってることはまともだ。驚くほど理路整然としている」
「じゃあ、やりますね。たぶん街の役には立つと思うんで」
「ダメって言ってもやるだろうからなぁ。というかダメだという権限も無い。実際スラムがスラムじゃなくなってきてるのは俺でもわかるから文句も言い辛い! それで、だ。このメンツを集めたのはそれを言うためじゃないだろ?」
「そうですね。先に謝っておきますが『誓いの剣』の人たちは無関係かもしれません。そしたらまぁ、親睦を深めたっていうことでお願いします」
その一言でふっと場の緊張が解けた。緊急事態ではなさそうだと判断されたからだろう。
「今ですね、モールとか店とか急激に展開したものですから商会の方で新規の従業員を募ってます。貴族相手のそれなりの格式の店もやってるので下級貴族や商家の子女の採用を始めたんですよ」
「ほう。男だけでなく女もか? 家政婦でもないのにいいのかそれ?」
ウォーカーが疑念を口にした。子供が出来たら辞めてしまうような女性ばかり雇っても続かないのに、そんな急場しのぎみたいな方法で大丈夫なのかという心配だ。ただまぁ、自立を考える女性は結婚願望が高いわけでもない。それだったら貴族の立場でいた方が有利だからだ。貴族籍を抜けてまで自立を目指す女性はそれぞれにのっぴきならない理由があるものだ。
「ええ、まだ実際に今後どうなるかわからないんですけどね。仮に子供が出来てもそのまま長く働けるように出来ないかと試してるところです。それを置いても市井には優秀な女性というのは世にたくさんいるんですよね」
オーサーが頷いた。不動産部門の我が家を担当しているサビーネや、その他にそういう娘たちを預かっているのだろう。これは冒険者ギルドの責任者のウォーカーも同じだ。受付嬢はそういう娘たちで構成されているからだ。そういう娘たちにも良い相手を探してやるのは長の甲斐性でもある。
「ほう? 子供がいても働けるだと? それはどういう試みなんだ?」
ヤバい。食いつかれた。でもまだそれは言えないなぁ。言ったところで真似も難しいぞ。
「まぁ、それは追々。まだこちらでも成果も何も出ていないので。本題はまぁその女性雇用というところに繋がるんですけどね。それでですね、今、皇都で最新の騒ぎって知ってます? 貴族用の学院絡みの話なんですけど」
「ん? 学生の話なのか? なんだそれ。知らんぞ」
真っ先にウォーカーが言い切った。本気で知らないみたいだ。オーサーも眉を寄せている。『誓いの剣』も知らないみたいだ。すごいなご令嬢。ウォーカーの情報網より早く辺境に辿り着いたのか? いったいどうやったんだ? そもそも明日到着っていう段階になるまでウチも知らなかったからな。
たぶん、今日は最終地のグランデール入り前に身支度を整えるかなにかして足止めになってるんだな? そこで情報を拾えたってことか。ウォーカーたちを出し抜いたのなら『深淵』が機能し始めたんだと好意的に考えよう。
俺がシナリオライターならここにいる人間に令嬢のグランデール到着を事前に知らせないな。他人事ならその方がおもしろい。ざまぁみろ。ネタを潰してやったぜ。俺の周りではハプニングは起こさせん。俺は平々凡々、平和に何事も無く楽しくイチャイチャしながら生きるんだ。
「あれ? 誰も知らない? じゃあロイド達が皇都を出たあとにあった出来事なのかな。えーと、第三皇子ってのが東の侯爵家の三女と婚約していたと」
ウォーカーもオーサーも知っていると頷いた。が、ふたりともすぐにハっとなった。「婚約していた」という過去形に気付いたんだ。さすがだねぇ。
「で、この第三皇子が学院内にいた聖女って呼ばれてた平民の女性と恋仲になったのかな。それでこの前あった卒業前の前夜祭だとかいうパーティーの席上で侯爵令嬢に婚約破棄を突き付けたんだそうです」
「なんだと!? そんな馬鹿な話があるかっ! 自分が皇族とはいえ相手は侯爵家の令嬢だぞ! しかもなんだ? 別の女を捕まえて令嬢を捨てるだと?! 正式な手順も踏まずに夜会の場で?! ありえん! 断じてあり得ない!」
ウォーカーは怒っているわけではない。理解できない事態だと言っているだけだ。オーサーは開いた口が塞がらないようだ。
「まぁ、それで皇帝側も怒って皇子は城に軟禁中で庶民の聖女候補は皇子を誑かしたってことで公開で斬首刑になったらしいです。で、その婚約破棄のあった前夜祭当日なんですけど、婚約破棄された令嬢は皇都の侯爵家別邸になるのかな? 帰宅後に即、縁切りしてそのまま出奔。彼女、明日グランデールに到着します」
「はぁ?! なんでココに?!」
「うちの商会に就職希望ってのが表向きの理由だそうです。そもそも縁切り自体が両親である侯爵夫妻を自領に逃がすための時間稼ぎの工作らしいです。ただ、実際に離縁の処理をしているので今は元侯爵令嬢です。両親はもう自領に到着しています。この話って転がり方次第で国を分断する話に発展したりするんですかね? 俺はこれ以上のことは知りません。というか知る気も無いんですけど」
「くっくっく」
深い海の色の髪と瞳の偉丈夫が嗤っていた。
「これでも割れないなら割れるよう力を貸してやればいいのだ」
静かだが声がよく通る。ふぅん。国を割りたいのかな? って、ダメだ! この先は聞いたらダメなやつだ! ウォーカーとオーサーが俺を見ている。




