第201話 夜の会議
『夕暮れの泉亭』に戻ってからはモールでの話で盛り上がった。帰ってからはほとんど宴会だったけど珍しくシェリルも飲んでいたから、よほど刺激的だったのかもしれない。
オルカも自分の考えた商品が並んでいた事が嬉しかったみたいで買って帰った瓶を飽きる事なく眺めていた。
キュロスは今日は飲む日と決めたみたいで楽しそうだった。出掛けて汗をかいたから風呂に入ろうと言い出して露天で冷たいビールを飲みながらずっとご機嫌だった。
サリアはいろいろ感想も言うし楽しそうだったが、みんなの中では一番冷静だった。サリアだけは俺と同じ目線でモールを見ているからだ。俺の発想や発案の源がわかってしまう事後分析の目線だ。俺の発想のその全てがお客様である貴族を掌で転がす方向なものだから呆れて喜んでいた。
呆れながらも共感してしまうから手に負えない。俺の意図に気付く度に身震いしてるのを必死に隠す。かわいい。
キュロスはそういう裏の意図があろうが無かろうが関係無い。自分にとって良いかどうかが全てだからだ。裏の意図に気づいた上で楽しんでくれる。喜びがダイレクトだから一緒にいて楽しい。
ご飯もどれがなんの酒に合うかだとか、今度はこんな肉を食べたいとか、とにかく発言がポジティブだ。
「ロック、今度は気取ってない肉の美味しい店を作って食べさせて! 分厚いステーキをライスとビールで流し込むのよ!」
「うお! それは忘れてたよ! ステーキハウス作らないとね! そうだねー。良い店が作れそうだよ! イメージ湧いた! 鉄板作るのに鉄鉱石がたくさん欲しいなぁ」
「あー、それ、あんたの自業自得じゃない。グランデール中の鉄鉱石が全部カトラリーに変わってるって噂になってるわよ」
「あれって大きも何種類かあって食べやすいものね」
「まあね、従来品を潰して作り替えもしてるんだけど間に合わないんだよね。グランデールは平原だから大量の鉱石は望んでも手に入らないからね」
ただのフォークなんだよね。三又、四つ又の。マジで、なんでこんなものが存在してなかったのかわからん。なんというか、全体的に食に疎い。一部の高位貴族社会にはあるんだよ。ちゃんとした料理は。それが発展していない。限られた食材、限られた調理法しか無いからしょうがないのかな。
まあ、慣れてしまえばはっきり言って『メシマズの国』ではある。これからの発展に期待。
鉄に関しては近場の南の国とやりとりできればいろいろ手にも入るんだろうけど、戦争相手だから無理。そもそもグランデールに運んで作るなら現地で製造して作ったものを持って来た方がコストも掛からない。今後は中間拠点の川を探索して砂鉄の採取が出来ないか見極めたい。
「そういえば今夜はどうするの。またユーリのところで悪だくみ?」
サリアの言い方にトゲがある! まぁね、夜に妻や彼女を放って男友達と会うとか最悪だよね。俺のは仕事だけど。
「今夜の会合はキャンセルになったんだよ。その代わりウォ-カーと『誓いの剣』の連中と話し合いになっちゃった」
「ふーん。なんかめんどくさそうね」
それはそう!
「サリアに立ち会ってもらってもいいんだけど」
「えー。なんの話なのよ」
すっごい嫌そうな顔。かわいい。
「今って商会の方に仕事がしたいっていう貴族子女がけっこう来てるんだよ」
「あ、パスね」
「まだ全部言ってないし!」
「貴族が絡んでるのに話がしたい馬鹿はいないわよ。ただの厄介事じゃない」
「そりゃそうだね」
「やけにあっさり引っ込むじゃない」
「サリアの嫌がることはさせないよ。特定のジャンル以外は」
「あー、そう」
などと俺のストレスを発散して気持ちが楽になる。
ユセフに言って家族を巻き込む話じゃないからウチの部屋じゃないところで頼む。ついでに早めに風呂も入ったので晩飯も早めで部屋でお願いした。
「あら? このお肉、いつもの味付けと違うわね。すごく美味しいわ。ロック、これ、野営に合うんじゃなくて?」
「説明しようとしてたんだけどね。これがオルカのオリジナル調味料の『オルカ』なんだよ。売ってるやつをそのまま使ってもらったんだよね。今夜の宿のごはんと下のレンストランバーでも使ってるはずだよ。実際に食べた人の感想が知りたくてね」
「そういうことは先に言いなさいよね。オルカ。本当に美味しいわ。野営の楽しみがまた出来たわね」
「すごいわよねー。これ、捌いた肉にまぶして焼くだけで美味しくなるんでしょ? これは冒険者に売れるわねー」
「かんたんに美味しくなるから普通のお宅でも使われそうね。オルカちゃん、とても美味しいわ」
家族があったかい!
食後にまったりしているとドアがノックされた。ミリィさんから全ての仕事を引き継いだライラが応対に出る。
「ロック様、お部屋の準備が整ったそうです。いつでもよろしいとのことでした」
「あれ。ずいぶんと早いな。じゃあ、みんなちょっと隣の部屋に行ってくるよ。遅くなりそうだったら先に休んでて。明日も午前中からお出かけだからね」
誰も会合に出る気はサラサラないので「いってらっしゃい」と見送られて部屋を出た。
「お? 来たな。ロック! こっちこっち!」
挨拶もまだなのに気安く自分の隣を指定してきたこいつはグランデールの有名銀等級冒険者『誓いの剣』の最年少メンバー。深緑の髪のカシムだ。相変わらず調子がいい。
「みなさん、こんばんは。私が最後ですか。で? どこまで知ってます?」
とりあえずカシムは無視して俺のために空けてあった三人掛けのソファーの真ん中に座る。するとすぐにオルカが左隣に座る。もちろんフル装備だ。
俺の左前の上座にはウォーカーとオーサーがそれぞれソファに座ってすでに軽くアルコールも入っている。
俺の右側、ウォーカーたちの正面からぐるりと『誓いの剣』のメンバーが囲んでいる。
帯剣していないのは俺とウォーカーとオーサーだけだ。『誓いの剣』の紅一点、淡く輝く金色の髪と瞳を持つ超絶美少女のソフィアも軽装で短剣しか身に着けていなさそうだ。
『誓いの剣』の連中はとてもリラックスしている。前回、森で見た時とは装備が違う。屋内、オフ用の軽装という感じだ。武装しているのにそれを感じさせない自然さがある。違和感がある。少し離れて座るバーズの武装はウォーカーを守るためだ。だが、お前達は何を警戒してるんだ? 俺じゃなさそうなんだけどなぁ。
「ロック、久しぶりだな。お前のところの商会、えらいことになってるな。ウチの奥様も顔を合わせるたびにその話ばっかりだぞ。今日は娘と息子が冒険者の売り場がどうこう言って朝メシの時からやけに騒いでてな。お前、なにやってんだ?」
じとーっという目でウォーカーが胡散臭いものを見る目をしながら聞いてくる。
「せっかく広い場所を譲ってもらえたから同じ場所でいろいろ売ってみようかなーってやったら珍しくて人が集まってるだけじゃないですか? 流行りなんてすぐ廃れて人の流れもすぐに落ち着きますよ」
もちろんこちらにはそんなつもりはない。イベントをぶち込んだり季節を先取ったり飽きさせずにリピートさせる準備は万端だ。
「たまたまだぁ? オーサーさんよ、こいつこんなこと言ってるぞ」
「いかんなー。ウソはいかんなー。商業ギルドそっちのけで儲けてけしからんなー」
「だよなー! 冒険者ギルド絡ませないで自分のところのクランで全部賄って、依頼受付の窓口まで作ってんだぜ!」
ウォーカー、めっちゃ詳しいな。子供が騒いでるだけじゃなかったのかよ。
「まぁ、十歳の俺だと冒険者ギルドは入れてくれないし、話しも出来ないからしょうがないんですよね。あと、特にお願いすることも今のところないし? 商業ギルドは話を通して『ウェスタリー商会』にいろいろ商品を融通してもらってるってシェリルが言ってた気がするんですけど? だいぶ買い取りで仕入れもしているような口ぶりだったんですけど違うんですか?」
「なに! おい、オーサー! 聞いてないぞ!」
「えー? あれー? おかしいな? サイラスがやってんのかな?」
「ロック。顔を合わせるのは二度目だな。あの時はいろいろ手間を掛けてすまなかったな」
アラフォーの街の重鎮より遥かに貫禄のある鋼の声が静かに響いた。
『誓いの剣』のリーダー、ロイドだ。静かな海の底を想起させる 深い海の色の髪と瞳。ソファーに立て掛けた 両手持ち剣が聳えている。
静かに話しているだけなのに声がビリビリと腹に響く。貫禄がエグい。




