第199話 労働賛歌
『グランデールで手に入るものでここに来て手に入らないものは無い』というのがモールのコンセプトだ。大量販売による低価格化を実現! というのは半分嘘で、仕入れ値がタダみたいな魔獣肉のお陰で価格が抑えられている。
庶民から奪ったもので肥え太った貴族から搾り上げる。それを近隣都市まで広げる。近隣都市の奴らならここまで呼び込めばいい。宿も用意した。
行商ぐらいの規模じゃ商会は維持できない。地方都市でも暴力に物を言わせて店舗拠点を増やしていってる。やり方は簡単だ。現地の組織を潰して乗っ取る。以上!
正義を執行するとご褒美に現地組織が運営していた店舗がもれなく付いて来る。こっちの戦力はグランデール基準の銀等級冒険者。地方都市の組織ぐらいあっという間だよね。呪術師部門の人間も連れて行くので、死にたくないっていう我儘な連中が自ら奴隷になりたいと志願してきて次の街への護衛と悪党退治の兵隊確保。
こうして蜘蛛の巣のように、表向きは『ウェスタリー商会』が広がっていく。実態は『深淵』だ。徐々にどの貴族が裏組織とどのように繋がっているかがわかりつつある。
犯罪組織はどこの街でもキレイどころを所有したがる。遅れた文明社会は俺から見たら世紀末社会だ。奴隷を解放したらこっちの味方になってくれるので、そのまま店舗店員候補。同じ都市では顔が割れていて働きにくい場合は他の都市の娘とシャッフルにも柔軟に対応。優秀な人材がグランデールに集まりつつある。
見込みのない村などは、もう既にかなりの数を潰している。悪党が乗っ取った村はけっこうある。元兵士だったり冒険者が野に下ったパターンだ。
もちろん、抗争に発展することもあるけれど、一瞬で戦力増強させて叩き潰せるから問題ない。『ウェスタリー商会』の名前を出した方が良い場合もあれば、出さない方がいい時もある。俺たちにとってはどうでもいい。だって裏では全部『深淵』として繋がっているのだから。
表には出られない、裏でしか生かせられない連中がいる。そいつらはまず、冒険で森に行って死んだことになる。そのまま行商部行きになり、二度とグランデールに戻ることはない。
まずは皇都までのルートを最優先で作らせた。デカい都市に商会を置く。裏の組織を乗っ取る。縄張りを広げる。ひと月前には王都に小さな店舗を確保した。『西部辺境産の珍しい商品を扱う店』だ。そして同時にルート開拓もできた。危険な宿に宿泊することなく、安全に夜を過ごせる場所がルート上に点在している。これはもちろん、俺たちがシェリルを皇都に送り届けるためのルート開拓がメインの目的だ。
皇都では、都市部ではお目に掛れない珍しい魔獣素材のアクセサリーが馬鹿売れした。行商部から『あればあるだけ売れるからドンドン送れ』と最優先で催促が来ている。ホーンラビットの尻尾を使ったアクセサリーは『幸運を呼ぶ』らしいよ? ボアの牙を小さな牙の形に削り出したアクセサリーは『強くなるアイテム』だ。強さを求める男たちが腰にぶら下げる。岩角鳥の羽飾りは『恋愛祈願』とかで売り出すと勝手に「願いが叶った!」と騒ぎ出す。
西部辺境最大都市グランデール発祥の『偏西風商会』が皇都に届いた。
皇都の商会が取り込もうと圧力を掛け始めているが頑として靡かない。小さな店舗を皇都のあちこちに増やしているが、まだ大店舗は作っていない。裏で『深淵』が勢力を拡大中だからだ。表の商売をデカくする。今はそのノウハウ作りの真っ最中だ。
おっと、今はモールと家族サービスに集中!
「ここから先は冒険者コーナーだよ」
武器、防具、被服、魔法使い、薬、携帯食料、野営道具、およそ冒険者に必要なものは駆け出し見習いから金等級までのものが全て手に入る。セレクトショップから個人店も入っている。『偏西風商会』『再生の大地』への依頼相談窓口もある。
ここは私設冒険者クラン『再生の大地』の店でもある。店員の多くは『ウェスタリー商会』の商人だが、店内のあちこちに左肩が赤い現役の『レッドショルダー』がいる。道具や冒険のアドバイスをしてくれる存在だ。街中では話しかけにくいレッドショルダーでも、ここなら思い切って声を掛けられる。
「ロック、ここおもしろいわね。靴、ブーツだけで何種類あるのよこれ」
キュロスは冒険者コーナーにテンションが上がっている。
「武器を試すことも出来るよ。ここは初心者から超上級者まで対応するからね」
「なんでこんなに野営道具がたくさんあんのよ」
「面白そうでしょ?」
「うっ。これの使い方を教えなさいよ」
サリアが興味出るぐらいにはなんだかわからない物も置いてある。焚き火台だけで何種類も置いてある。『銀狼の牙』のメンバーの実家に作らせたり改良させた道具も多く置いている。バルの実家の炭も立派な野営道具だ。
「ふーん。これは頭から被るのね。あら? どうなってるのこれ」
「それね、首元に風魔法で空気を送り込めるんだ。魔石がいるんだけど、ホーンラビットを狩ればいいだけだしね。涼しいよ。アーマーにも仕込んだ温冷服シリーズが目玉だね」
「なんなのこれ。アーマーの中に風を吹かせたの? どうしてそんなことになったのよ。意味がわからないわ」
サリアが胸当てを試着している。
「ちょ、ちょっと外の風に当たりたいわね」
全員が温冷シリーズのアーマーや胸当て、コートを試着してモールを出た。モールのエントランスには午後の開店を今か今かと待っている客の長蛇の列だ。今日は六回の鐘、午後十二時が開店だ。冒険者コーナー前なので街の冒険者たちが列をなしている。
シェリルたちが外に出てくると冒険者だけでなく、庶民たち、中には下級貴族や豪商、衛兵などもいるのだが、彼らがざわつき出した。
「女神様だ」
「ぎ、銀狼!?」
「人形姫だ! ホンモノだ!」
「きゃ~! 剣姫様~!」
みんなはそんな声に軽く手を振るなどして温冷服を堪能していた。
「あんた、これ、なに?」
「にゃはははは。きもちいー!」
キュロスは強風モードにしていて黄色い髪の毛が舞っていた。
「あらあらあらあら」
シェリルが楽し気に舞い上がろうとするスカートの裾を押さえていた!
「あわわわわ、シェリルの生足が! 隠せ隠せ!」
慌てて近寄って風量を下げる。
「ロック、これ、おもしろいわね」
にっこり余裕のシェリル様。
みんなの風量を適正値にする。魔法で動いているので無音で動作している。
「服の中に風を通しているのよね。温度調整もあるの? ホントだわ。これ、どうなってるのよ」
「それね、めっちゃ秘密なんだよ。今度作ってるところ行って見てみる?」
「ん? バラせばいいじゃない」
「中を見ようとして分解すると完全に壊れるんだよ」
「ん? それってアレじゃない? そんなもの仕込むなんて」
「そう、『鉄槌と金床』のスウェリティアーナと作った」
「はぁ。あの性悪黒エルフに教えを乞うのは願い下げだわ」
「でもさー! あたしたちの装備にもこれ仕込んでもらわないとでしょー!」
強風に毛を逆立てたキュロスが相当お気に召したようだ。次はこれをオートエアコンにする方法だよなぁ。スウェリティアーナにそう言ったらすっごい乗り気だったけどね。実現できるのだろうか?
一通り冷風を楽しんで中に戻る時に三人が並んでいる人たちに手を振るとまた歓声が起きた。サリアはウィンクまでしていた。こういう時、サリアは強い。ああそうか。サリアってアイドルなのね。ツンデレが強烈だ。かわいい。モールに入るとさっきの笑顔はなんだったんだというぐらい素になっていた。ほら、かわいい。
温冷服で遊び過ぎて時間が無くなった。あとはタイミング見てまた遊びに来るか。
「ロック~。これなぁに?」
キュロスだ。なんだ?
「それはね。調味料だよ。塩とか胡椒とかいろいろな香草とかが混ぜてあるんだよ。で、配合違いでいろいろな味になるようにしてあるんだ。えーと、ほら、これ」
一番目立つところに置いてある小瓶を取る。
「なぁに? え? オルカって書いてあるわね」
「この配合はオルカが考えたやつだからね。オルカの名前が付いてるんだ。この瓶のラベルはオルカが書いた字を再現してあるんだよ」
「オルカすごーい!」
キュロスがオルカを抱きしめていた。ビクともしないやつだ。でもオルカの顔は笑顔だった。
「すっごいいっぱい置いてあるのね」
「これ、ぜったい売れるからね! よかったらサリアもやってみない? 開発に付き合ってくれるだけでいいよ。もっと塩少なくーとか、この香草を入れてみてーとか。そういう感じで出来上がればサリアっていう名前で売るよ」
「そんなんでいいの? ふーん。おもしろそうね」
ヒット! サリアの最初で最後の労働になるかもしれん。
「ロックー。それ、あたしでも出来るの?」
キュロスも釣れた!
「もちろんだよ! たぶんみんな喜んで買うと思うよ」
「へー。おもしろそうだからやってみよーかなー」
このあとみんなが頭を抱える未来が見えるな。オルカは早かったよ。味を決めるのが。自分の中に明確な基準がある人は早いんだけどね。正解のない正解を求める地獄を味わってもらおうか!




