第188話 ポジティブ人生
「スティング、焼き鳥じゃない、ロックバードのところまで案内してくれ」
「了解ボス!」
銀等級冒険者の実力を見せてくれよ、と思ったけどなかなかやるな。銀等級にしてもかなり上位なんじゃないかな? 不摂生な生活からほとんど軍隊か刑務所かみたいな生活だからな! 鍛えられまくってどいつもこいつも健康体になりつつある。奴隷になったおかげで人間らしくなるってお前らマジでどうなってんだ。
ここらでちょっとイタズラ心が出てきた。オルカにハンドサインで『スティングの前に出て引っ張ってやれ』と指示。スパッとスティングの前に出て足場の不安定な河原をグイグイと進んで行く。速いだけじゃなくて効率が良い。踏み込む場所、身体のバランス、先を読む視線の違いが明らかだ。力任せに追っていたスティングが自分との違いに気付いたらしく、オルカをトレースし始めるが、徐々に辛そうになってくる。
「あとどれくらいだ」
横に並んで話し掛けると人を化け物みたいな目で見てハンドサインで『すぐ近く』とだけ返してきた。前方を行くオルカから『了解』のハンドサインが返ったのを見てスティングが天を仰いだ。この速度域で初見の場所を先行しつつ後方のハンドサインにまで反応したのが信じられないのだ。
オルカから『左の森の中に入れ』とサインが飛んだ瞬間、ほぼ直角に左折。一瞬遅れてスティングが反応。態勢を低くしたまま木立に身を隠す。回復のため深呼吸を繰り返すスティング。
オルカに寄り添ったら前方を指差して教えてくれた。
「なるほど。川に入って魚を獲ってるな」
視線の先で集団で川に入ったり河原で休んでいるデカい鳥たちがいる。ダチョウの比ではないほどデカい。
「河原は見通しが良過ぎるよな。森の中を進んで急襲すればいいか」
オルカを見ると反対は無さそうなので『森の中進軍、殺れ』とだけサイン。目の前でしゃがんでいたオルカがパッと消えた。それを見ていたスティングが硬直した。俺は構わず森の中へと突っ込んで鳥たちの方向へと進路を変える。数メートル先をオルカが走る。二十メートルほど後方になったスティングはもうオルカを追うことは諦めて俺を追っている。
木の上、枝を飛ぶ方が楽だが、それをやると焼き鳥たちにバレるので樹木を利用して地を這うように走る。スティングに『身を低く、静かに』とサイン。図体のデカいスティングからは勘弁してくれよと怨嗟の声が聞こえそうだ。
いつの間にかオルカの両手に剣が握られていたと思ったら『後ろは任せた』とサインが飛んで来た。俺が速度を緩めると先を行くオルカがふっと右に折れる。まったく躊躇の無い全速力の突貫! オルカは群れの川上側、先端に突っ込んでいた。川下側の俺と挟み撃ちを意図している。
「スティング! 真ん中に突っ込んで首を落とせ!」
それだけ命じて河原に飛び込む! 宿地を駆使するオルカが旋風のごとく突っ込んで鳥たちに致命傷を負わせていく。俺もスキルを封印して新兵器の刀を抜く。切り飛ばさないよう注意して鳥の首筋を斬っていくが、斬れ過ぎる切れ味の調整に苦労する。どれが死んでて、どれが生きているかわからん! 片っ端から斬りつけながら【収納】を掛けていく。そのうち【収納】されないやつを斬ればいいことに気付いて楽になった。
スティングとオルカの方にも意識を向けて【収納】を掛け、最後にはスウィープに反応するものに常時【収納】を掛ける戦術に辿り着いた。もう、鳥を狩るじゃなくてスウィープに反応するものを斬るになっていた。最後の反応を斬ると河原にオルカとスティングが並んで立っているのが見えた。
「ボス、さすがの俺も引くわ」
「あ、ごめん。夢中になっちゃった」
刀を見ると、魔力を吸収して仄かに蒼白く光っている。刃こぼれどころか血の一滴も付いていない。
「その剣も引くわ」
これは剣じゃなくて刀だと力説しながら河原を歩いて戻る。
「オルカ、運動が足りないかな? スティングを連れて森の中で狩りをしながら戻ろうか。スティングをうまく使ってごらん。狩った獲物は俺が後から付いて【収納】していくから気にしなくていいよ。
オルカの遊びなのかスティングの訓練なのかよくわからない『間引き作業』が始まる。
「少しずつ魔獣が戻ってるか?」
森が溢れるという感じは無い。サーベルタイガーが出張って来たことで魔獣が押し流されてこっちまで来ていたのかもしれない。奇しくもサーベルタイガーと俺たちで増えた魔獣を挟み撃ちにした格好だ。この隙に一気に開墾、開拓を進めてしまおう。
途中で、そりゃないだろっていうほどデカいヘビの魔獣に出会す。俺とかオルカならひと飲みにされそうなほどデカい。流石に刀ぐらいでは処理が面倒そうなのでダンプカーレベルの大きさの石を時速数百キロで頭にぶつけて瞬殺。
「やりすぎたかとおもったけど意外と原型保ってるな」
「あー、なるほどなぁ。ジャイアントスネークぐらいは瞬殺なんだなぁ」
死後も轟音を響かせ樹木を薙ぎ倒しながらのたうちまわる死体を眺めながらスティングがぼんやりと呟いた。
動かなくなった瞬間にサクッと【収納】する。
「なーなー、蛇って美味いんだよな?」
「あー、はい。俺は食ったことありませんけど。ちゃんと料理すると美味いって聞いてます」
「デカすぎるのも考えものだよな。こいつが生きていけるだけの獲物がここいらにはいるってことでもあるし、あんまり人の住むところじゃないよなぁ」
「ええ、そうです、ね。人の住むところではないですね」
「あとさー、魔獣は見た瞬間に殲滅してるんだけどさ、これで生態系壊れるとか注意しなきゃいけないこととかあるのかな」
「いやー、どうでしょう。殲滅とかやってる冒険者を聞いたことが無いんで、わからないっすねー」
なるほど。それもそうか。
「ていうかオルカにはもう着いて行かなくていいのか?」
「あ、はい。今日のところはいろいろわかりましたので、はい。大丈夫です」
「ふーん。でもさ、スティングはまだ成長を諦めるの早いと思うけどな」
「ま、マジっすか! どうすりゃいいっすか!」
どうでもいいけどコイツ、こんな小僧みたいな喋り方なんだっけ? デカいヘビを殺ったあたりからこんな感じになったか?
「身体強化の熟練度がまだまだ上げられるだろ。無駄が多過ぎる。必要最低限で回せ。けど楽はするな。最初は少し多いなぐらいで常時発動しろ。寝る前には魔力を極限まで使い切って寝ろ。魔力を使い切ったら寝れるんだから簡単だろ。寝てる間に回復して量が増えてくから」
「え? ボスはそれをずっとやってるんですか? お嬢もですか?」
「やってるよ」
「なるほど。魔力切れで寝るって、失神じゃないんですか?」
「何が違うんだ?」
だから俺は毎晩、寝られないと悩むことはないぞ。
「あ、いや、大丈夫っす。今日からやるっす。今からやるっす」
スティングだと身体強化の常時発動がすぐできるようになるか、クセが抜けなくてなかなか出来ないかのどっちかだろうな。オルカは身体強化を独自に身に付けてたから意外と苦労した方だ。ただ、それの乗り越え方が異常だっただけだ。常時発動を身に付けるまでの期間は短かった。『今すぐ出来なきゃ死ぬ』ぐらいの覚悟が見えてたから、そりゃ習得までも早いよな。要は気合いだ。
オルカの狩った魔獣を回収しながら後を追って樹木の間を移動する。スティングはすっかり俺のトレースをする方針にしたらしく、ひたすら付いてくる。見て覚えようとするヤツは勝手に伸びていくから楽だ。嫌いじゃないね。そう思ってたらスティングから声を掛けてきた。
「あの、ボス、質問があるっす」
「なんだ」
「ボス、なんの魔法使ってるんですかい? 先読みが視線では説明がつかなくてわからないっす」
サービスしてやってるんだからそこぐらいは気付いて欲しかったというところに気付いた。
「これはな、【探索】の上位版で『走査』だ。今のお前ではまだ無理だ。さっき言ったことを続けろ。オルカは使ってるぞ。だが、キュロスは使っていない。だから使えても使えなくてもいいものだ」
「でも、キュロス姐さんも【探索】は使ってるっすよね?」
「そうだ。めちゃめちゃ使ってるぞ。戦略的には非常に重要だ。だが戦いの本質はそこだけでもないからな」
「ああ、ちくしょう。今までの人生、時間を無駄にしちまった!」
「はは! まだ遅くはないだろ。お前、俺は十歳だからな。修行したのはここ五年だぞ」
「ああ! そうだった! たった五年?! いや、それはそれでかなり異常というか」
「じゃあ、オルカはほぼスラムだけで独学で十二年だ。俺と知り合ってまだ三ヶ月だぞ」
「マジか。でも、お嬢だって天才だからなぁ。あれが天才じゃなきゃ誰も納得出来ないっす」
「それはそうだ。オルカは天才だよ。でもな、三ヶ月前の俺と知り合う前のオルカならお前、楽勝で勝てたぞ」
「うっす。それは、なんとなくわかるっす。最初は胸を貸すつもりだったっす。いや、最初から負けたっすけど。次は勝てる、そう思って稽古してたっす。でも、あっという間に手に負えなくなって、ゴードンまで一緒になって手玉に取られるようになったっす」
「俺と一緒になったからな! 停滞する女とは暮らしてない」
「ボスはボスだなぁ。俺も強くなったら良い女と繋がれますかねぇ」
「この世にいるなら探さなくてもそのうち会えるだろ。会ったら逃すな。二度目は無い」
「二度目は無い、か。でもまあ、今の俺は二度目の命みたいなもんすけどね、それはいいんすかね?」
「ああ、それなら何も問題ないぞ! 俺が二度目の命だからな! 保証してやる」
「おお? ボスのお墨付きか! いいっすね! じゃあ二度目は目一杯やってやるか!」
二度目の人生がポジティブスタートでお前が羨ましいよ。この世界で二度目があることがいかに幸運であるかを理解して生きろよな。




