第187話 昼は焼き鳥
オルカとキュロスの前に食べ物をじゃんじゃか【排出】で並べまくった。すまん! 遅くなった!
しかし、まだ魔獣が戻って来ないなぁ。お陰で伐採は捗ってそうだけど。
「そういえば抜根作業で土石竜使うとか言ってたから見に行こうよ」
ここからグランデールに一日分戻った所にも拠点がある。そこからは一日でグランデールに着ける。街から近い街道沿いということで比較的、魔獣の出現率も低かったので『再生の大地』に開墾から拠点構築まで任せた案件だ。それなりに被害もあったが、二ヶ月で結果が出た。そこで使っていた土石竜を三日掛りで連れて来ているらしい。
キャンプ地をすっかり片付けてから橋へ戻ると、バリウスに代わってドワーフが現場を仕切っていた。
まずはウチのレディたちを豪華東屋にご招待してリラックスしていただく。冷たい物を用意していたらバリウスがやって来た。
「ボス、つい先ほどから本来の開拓担当が作業開始しています」
「すごいね。三日掛かるところをほとんど二日で踏破して来たんだ」
「はい、昨日あたりから魔獣の数が減ったとかで距離が稼げたと言っていました。間引きの効果が出て来ているのかもしれません」
なるほど。そうだったら朗報だな。
「ご案内します」
三人はあまり興味無さそうだったのでのんびりしてもらってオルカと二人で見学に向かった。
「え? もうこんなに抜いたの?」
街道沿いは切り株を引っこ抜いた跡の穴ぼこだらけだった。
「魔斧も一緒に入ったので劇的に開拓速度が上がりました」
「ここまで効率が良くなるとはなぁ。参考になるなぁ。やっぱり事前準備が大事だな。人と、食い物と、道具だな」
そして、穴ぼこだらけではあるがさっきから見えていた。
「うーむ。あれが草食なのか?」
どう見ても恐竜なんですけど。
「あれが土石竜です。草食なので襲って来ることはないんですけどね。まぁ、やつらの気に入らないことをすると攻撃はされます」
土石竜はトカゲだ。丈夫そうなハーネスが掛けられていて、鞍にもなっているらしく、ドワーフが背中に乗っていた。全長は三メートルほどありそうだ。尻尾は短い。ほとんど申し訳程度の長さしかない。短い方が使い勝手は良さそうだが、これが生まれつきのものなのか、使う側の都合でこうしているのかはわからない。色はこげ茶から黒の中間。背中が盛り上がっていて、全体的にすんぐりむっくりといった感じだが、全身が筋肉っぽい。目は意外と愛嬌があり、歯はない。
「なぁ、こいつらって歯が無いように見えるんだけど」
「おい、土石竜ってのは歯が無いのか」
バリウスが手近な操縦士に聞いていた。
「あー、歯が無いように見えるけどな、平べったい骨みたいな歯があんだよ。アゴが恐ろしく強いからな。なんでも嚙み潰して食っちまうんだ」
周りを見渡すとそこいら中で根っこに向かって斧を振り下ろしている。普通じゃないとわかるのは、その一回の打ち込みで斧の頭が見えなくなるぐらいズドンと地面にめり込むからだ。抜く時は抵抗なく抜けているのも不思議だ。
「魔斧ってのは魔力を使ってるよな? どれぐらいの時間振れるもんなんだ?」
「ありゃあな、モノによるんだわ。魔力の通りのええやつは一日振れる。ダメなんは半日も保たねぇ。ダメんなったら交代で鞍に乗ればええから別に問題ないけどな。だけど、この現場の斧はすんげぇな! あの抜く時にあっさり抜けるやつはこの現場で配られてるやつだ。ありゃあ業モンだなぁ!」
そう言ってニッカリと笑った。
ハーネスにロープを掛けていたドワーフから「引け!」の合図が来て操縦士が土石竜に発破を掛けた。土石竜が足にグッと力を入れたのがわかる。すると、ハーネスの先に繋がれだ切り株がメキメキと音を立てて地上に姿を表す。切り株の後方では、まだ地中と繋がってそうな根を別のドワーフが斧を振り下ろしてザクザクと切り落としていく。土石竜の足下を見るとデカくて鋭い爪がしっかりと地面に食い込んでいた。
切り株はあっさりと地面に転がった。土石竜の歩みが遅いので根っこが抜けても急に負荷が抜けてツンのめることもなかった。土石竜側のハーネスを外すと、すぐ次の現場に移動していった。なるほど、効率的だ。と、いうかこれ前世の重機で掘り起こす作業並に早いな! 人海戦術ではあるが、見る間に平な土地が出来てゆく。
昨日まで木を切っていた人間種は穴埋めに回されていたが、明らかに切り株が抜ける速度の方が早かった。とりあえずその場の見える範囲の抜かれた切り株を片っ端から【収納】した。
「おおおおっ!?」「なんだなんだ!」
一瞬、現場が騒然とするが、視線が俺に集中し出すと波が引くように静かになった。俺のことを知らない契約のドワーフたちの一部が若干騒いでいるが、商会員やクランの連中が宥めていた。するとドワーフは、敵の攻撃や魔獣の仕業でもないとわかったらあっさりと引き下がった。ガイアもそうだけど、自分の目標に向かって突き進む感じはドワーフの種族特性なのかもしれないな。
ギルドや商人など、重量物を運ぶ荷馬車では馬だけでなく、様々な使役動物が使われる。一番ポピュラーなのが馬というだけだ。最近、スラムで道路上の糞を回収する仕事を立ち上げた。使役動物での運送手段に頼る以上、この問題を放置することは出来ない。今は商会の使役獣を燃費が良く、糞の少ないものを検討中。
「ボス、昨日、キュロス姐さんから渡された荷馬車ってのが報告に上がってるんですが、ありゃあ何のことですか」
「あー、それな。昨日お前達が来る直前に橋の上で揉め事に巻き込まれたんだよ。なんだっけな、あの商会」
「黄金のツボ」
「あー、そうだった。ありがとうオルカ。その黄金の壺商会というところの跡取りとかいう奴が喧嘩売って来たからちょっとな。シェリルをコケにした。あそこは完全に潰すからよろしく」
「へい、わかりました」
「この橋はグランデールのモノだからな。こいつを都市基盤のメインにはするな。これはあくまでもこいつを使ってる連中の金をここで落とさせるための道具ぐらいに思っていい。とはいえこんなところを通るやつがそんなに金を持っているとも思えないけどな」
午後からは兵隊もがっつり増える。昨日のサーベルタイガーはイレギュラーだったが、まぁまぁ順調だろう。
「A中隊が岩角鳥を獲ってきたぞー!」
橋の方で誰かが叫んでいた。
「昨日、指揮に追われてたスティングが朝から狩りに出てた隊です。あの言い方だとけっこうな量を獲ってきた感じですな」
「へー。どこにいたんだろうな。見に行こう」
岩角鳥は額が岩のように固い飛べない鳥だ。その代わりに足が速く、性格も狂暴だ。飼い慣らして使役獣にもできるが、野生の成獣を飼い慣らすのは無理だ。この辺にいるなら角ありの魔獣だろう。
橋のベースキャンプに戻ると食料班が大忙しだった。
「スティング、お手柄じゃないか。美味いんだろ、あれ。どこで見つけたんだ」
「ボス、お疲れさんです。俺はボアのステーキとかの方が好きですけどね。まぁ美味いですよ。対岸の川上にいたぜ。まだまだいそうだったんだけどな、持ちきれなくなる前に止めてきたんだ。食料になる以外、そんな狂暴なやつでもないからなぁ、今わざわざ討伐に行く意味は無いなぁ」
いいや! 焼き鳥の元は必要だろ! すげぇ狂暴っていわれてる魔獣だけどな。あと、こいつらが獲って帰った肉をもらうわけにはいかんからなぁ。ちょっと行ってくるか。
「シェリル、ちょっとひとっ走りして鳥肉獲ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
「キュロス、サリア、留守をよろしくねー」
「帰ったら美味しいもの食べさせてねー」
キュロスからリクエスト。サリアは手をひらひらしていた。
「オルカ、昼飯を獲りに行こう」
「ボス! 俺も付いて行っていいか!」
「付いて来られるならな!」
「ヒィヤッハー!」
どうせお目当てはオルカだろうに。おじさんが張り切っちゃってやーねー。




