第184話 魔刀
パーティー名:神々の黄昏(冒険者ギルド未登録)
ロック:10歳 黒目黒髪ロング。どこから見ても美少女の健全な男子。30歳男日本人の記憶あり。【死女神】
シェリル:23歳 茶色髪&瞳でタレ目超絶美人。左目に涙ぼくろ。大双丘完備の完璧我儘ボディ。【女神】
オルカ:12歳 天蓋孤独の天然天才殺し屋気質の銀狼獣人少女。艶煌銀青の髪と透き通る青灰色の瞳。絶賛成長期。【疾風の銀狼】
キュロス:21歳 黄色髪に琥珀の瞳。女豹獣人。完璧に均整の取れた究極締まった身体の美双丘。【一閃の剣姫】
サリア:15歳 薄桃色の髪に桃色金剛石の瞳。人形のように可憐な毒舌娘。クォーターサキュバス。魔人特性で微双丘の発育途上。【人形姫】
橋に戻る間もバリウスの報告は続く。
「今日は入りが遅くなりましたが、明日からは早朝から作業始められます。本当に木こりたちに声掛けなくていいんですかい?」
「うーん、あいつらさ、客選ぶんだよ。スラムの住人相手だとあからさまに下に見てナメた仕事するんだ」
最初に『銀狼の牙』の家族を蔑ろに扱ったことは忘れてないぞ。
「あいつらが泣きついて来た時にどっちが上か思い知らせろ」
「あー、それで言うとですね、木こりの中でも割れてるんですよ。内々の話ですがね、こっちに入れてくんねーかっていう若い連中がいます」
「えー、それはマズいだろ。俺がウォーカーとかオーサーのおっさんに恨まれるじゃないか。却下だ。そいつらを入れたところで今の状況が劇的に改善するわけじゃないし意味がない」
「はい、そういう話はしています。なので、お前達がこっちに仕事を頼むように動けと言っています」
「おお、そうそう、そういうことだよバリウスくん! それ、誰の指示?」
「ユーリ様とベルガーです」
「雇うにしても最低賃金でいい。厚遇する意味が無い。グランデール内の奴らのお得意様を奪う気は無いから別にあいつらの実入りは変わらんだろ。俺たちが自分で使う木を切ってるだけだ。ただし、スラムの職人には材木を安く売る。それで良い職人はどんどんこっちに引っ張り込む」
「なるほど? だけど、そうやって作ったものはどこに売るんです? グランデールで売ればまた揉めるだろう」
「グランデールで売らなければいい」
「ほう。なんかデカい話になってきた。どうなるか想像出来ん」
「お前らが冒険者やりたいなら冒険させてやると言ったろ。護衛依頼で旅だってさせてやるぞ。で? そろそろお前らの奴隷紋は取ってもいいんじゃないか?」
「まあ、一応な、けじめとして南の組織を乗っ取り終わるまではこれでいい。クスリのルート開拓に乗っかってたことに変わりはない。パーティーの総意だ」
バリウスのパーティーは壁の中で活躍していた銀等級パーティーだったが、デミトリー傘下の組織の仕事を請け負ったせいで信用を失い、ギルドを追われゲットーの下で働くまで落ちぶれていた。なまじ強かったために長男のザイツェフ直属の裏組織に回され、薬物ルート確保のため南地区の組織同士の抗争の矢面に立って暴れていた。結果として西地区へのクスリの流入に繋がった。
セーフかアウトかで言ったらアウト寄りのアウトだと思うが、ゲットーの下に居た時でも、まともな娼館以外の女たちには手を出していないことがわかった。それと、意外なことにスティングが組織内の子供たちに慕われていることも判明した。厳しいが部下の面倒見がいいのはこの辺の性格が表れてるんだろうな。
騒動の時にデミトリー側に付いた他の銀等級パーティーも素行自体は悪くなかった。金や権力に逆らえなかったというのがほとんどの理由だ。じゃあそれをもってして無罪になるのかといえばそんなはずもない。難しいところだが、解放してもこのまま俺の傘下で真面目に働けるかどうかが判断の分け目だ。奴隷紋のお陰で「正直に話せ」の一言で本音の話が出来るから便利と言えば便利だな。
結局、銀等級ぐらいになると昇級に際しては普段の素行も加味されるから、基本的にウォーカー派はいいけどデミトリー派の冒険者は裏に何かあるってことなんだよね。攻撃に参加していないデミトリーの屋敷にいた防御要員のやつらは基本的にデミトリー直属派閥じゃない連中だったってことだ。まぁ、年内いっぱい真面目にやってくれたら恩赦的に新年にでも解放するか。
「どうでもいいけど忙しいな!」
「ボス、こればっかりはボスにしかできねーからしょうがないわ」
【出納】が便利に使われてて誰よりも働いてないか?
「バリウス! 俺がボスだよなっ?! 奴隷よりも働くボスってなんなんだ!」
伝令が飛んで来る度に狩りで集められた魔獣を回収に走り回っている。時々、動かせないデカい魔獣が討伐されるとその場所まで行かねばならない。橋の拠点候補地ではキャンプが張られて俺渾身の野外リビングでシェリルとサリアは優雅にティータイムだ。俺に付き従うオルカと勝手にフラフラと狩りに出ているキュロスは働き詰めだ。
キュロスは彼らの本来のボスなのでバリウスのパーティー『蒼い月』の斥候の犬獣人ファルと狩人で人族のジェドが護衛として付き従い、身体強化の出来る人夫が六人、獲物の回収、集積のため付いて回ってるらしい。スティングは野営地の責任者だからその場で陣頭指揮の最中だ。しっかりキュロスと役目が入れ替わってる。
一度、橋に戻った時にちょうどキュロスも戻っていて話が出来た。
「ロックと一緒じゃないと狩った魔獣の回収に時間掛かって面倒なのよねー」
って言われた。キュロスの討伐スピードが速過ぎるからだ。建築要員が減らせるようになったら大部隊を引き連れてもいいんだけど、だったら俺がひとり付いて回収した方が効率良いもんなぁ。
その後、川上に向かって魔獣回収をしていたら引き返してくるメンバーに出会した。
「ボス、今、全員引き上げさせてます。前線下げさせて下さい。なんか様子がおかしいです」
とりあえずその場で撤収命令を出して詳しく話を聞く。
「風が止むみたいに急に魔獣の数が減りました。というか魔獣が居ません。消えました。最初にボアみたいな大物が居なくなっておかしいと思ったんですが、そこから何もかもいなくなりました」
「なんかいるのか? バリウス、お前も戻ってキャンプで警戒態勢を取らせろ。いざという時は脱出する準備もな。シェリルとサリアだけでは来させるな。必ずキュロスと一緒に行動させろ。行け」
「はっ!」
その場には俺とオルカだけを残して全員を引き返させた。久しぶりにフル装備を身に付ける。武器はガイアが最近打った中では会心の出来と言っていた刀だ。長さは七十センチ弱。小太刀にしてはだいぶ長く、刀にしては少し短い。完全に俺に合わせたワンオフ品だ。魔鉄と魔鉄鋼のハイブリッドで玉鋼の作製時にスウェリティアーナが魔力を練り込んで、刀を打つ時はガイアが魔力を込めてみたというダークエルフとドワーフの合作という変態作品だ。エルフの魔力が芯にある感じがして、いくら俺の魔力を注ぎ込んでもぶっ壊れる感じが無いのがこいつのおもしろい特性だ。
白い細布を出してオルカに後ろ髪を縛ってもらうとすっきりした。ポニテの美少女の姿を想像するのは不健全なのでやらない。
「オルカ、何か感じる?」
「んー、なにもないわ。ほんとになにもない」
そう。動物が消えた。
「なんだろうな。そもそも一匹かどうかもわからないね。ここから追い込むのはやめておこうか。向こうがどこかに行ってくれるなら今はそれでいいや。この場にいて俺の『走査』に引っ掛かったらこっちに来る可能性があるっていうことだ。その時は俺たちでやろう。後ろのキャンプには近付かせない方がいいだろう」
突っ立ってるのもどうかと思うということで十メートルほどの高さの枝に乗って様子を見ることにした。
初夏の乾いた風が熱気を運んでくる。しかし、川に冷やされるので木陰にいれば暑さは感じなかった。湿度が低いのがありがたい。日本の夏を覚えている身としてはこの程度では「暑い」などとは言えなかった。セミと時折鳴く鳥の鳴き声が眠気を催すところだが、まず鳥の声が無くなった。次いで虫の声が消える。風も止むのかと思ったその時。
そいつは何も恐れるものは無いとばかりに堂々と『走査』に現れた。単独だ。
ボアよりデカいぞ。全長は五メートルを優に超えて七メートルほどはある。俺がまだ会敵したことがないやつだ。俺たちの位置がわかるのかゆったりと、しかし真っすぐに向かって来て、そして姿が見えた。
異様な姿が現れた。顔面から身体の上面がチタンに焼きを入れたような不思議な虹色にも見える薄い装甲のようなもので覆われている。その下の身体は黄色い毛で覆われ、黒の模様が入っている。脚の内側と腹は美しい白だ。額には一角が伸び、口角からは長い牙が伸び、その隙間からはぐるるると低音が鳴っていて腹に響く。
「サーベルタイガーか? 絶滅種だろお前」
目が合っている。ゆっくりとペースを変えずに歩いてくる。
「ずいぶん余裕だな。負けるなんてこれっぽっちも考えてないんだな。オルカ、未知の敵だ。回避は全力でね。ちょっと当ててみる」
試しにヤツの真後ろ五メートルの距離から五キログラムの岩石を終端速度の時速二百五十キロオーバーで【排出】
「今」
ドンッ! 岩石が地響きと共に地面にめり込んだ。
「避けた?!」
あり得ない! 百分の一秒以下だぞ!
「はっは! おもしろい! あいつ、危険回避か何か持ってるぞ!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
三連続も避けた! 瞬発力の塊だ。最後は十メートルも後ろに飛んだ。
「筋力じゃないな。身体強化か? 物理法則超えてないか? ほとんど魔法だな」
じっと俺を見ている。
「オルカ、こいつはちょっとヤバいぞ」
さて、次は何を試そうか、と思った時には自動車と同程度の体重のくせにヒラリヒラリと左右に残像を残す速度で突っ込んで来た。ほとんど縮地並みの速度で十五メートル手前から俺に向かって飛んできやがった! というのは目線を使ったフェイントで目標は三メートル左隣にいるオルカだ!
咄嗟にサーベルタイガーの目前に高さ五メートルの岩を出現させたら奴が前足から垂直の岩肌に着地してそのまま駆け上がった!
「ウソだろおい!」
叫びながら右に走って別の枝に飛んだ。オルカは俺とは反対方向に走っている。念のためにオルカの方向からサーベルタイガーの未来予測位置へ向けて二十発の岩石を散弾銃の如くバラ撒きながら【射出】!
ゴゴッ!
五メートルの岩石の影からオルカを襲うべく殺到した瞬間に二発の岩石が奴の右前足の付け根と脇腹に当たった!
空中で身を捻りながら華麗に着地する前に魔木の幹を【縮地】の足場にして蹴って姿を消したオルカが仰向けのまま姿を現したのは、まだ空中にある大きな咢の牙の真下だ。
擦れ違い様に右手を一閃した後、再び【縮地】で顎を片足で蹴り上げて首をのけ反らした。オルカは血飛沫を上げるサーベルタイガーの落下方向とは真逆へ飛んで姿を消した。
俺はサーベルタイガーに向かって肩を落としてトボトボと歩く。
「いや、この流れはさ、俺のこの奇跡のような魔剣ならぬ魔刀の真価を発揮するシーンだったんじゃないのかなぁって思うんだよね」
俺の左真横に音も無く現れたオルカが可愛らしく首を傾げると青銀の髪がサラリと肩に流れた。左手でそのウルフカットの感触を確かめながらサーベルタイガーに近付く。
ヤツのその瞳は最初と変わらない敵意の籠った赤光を放っていたが、どこか満足そうだった。そして、奴が見ている相手は俺じゃなかった!
目の前に着いた時にはもう事切れていた。オルカを手で制して【収納】するが何も出なかった。
「すごいな。自然界に身を置いて寄生虫の一匹も着いていないとかどうなってんだ」
恵みの森に虫と鳥の声が戻りつつあった。




