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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第183話 恵みの水

 焚火台グリルを火がついたまま収納。


「じゃあ、橋の上に戻ろうか」


 さっさと戻って橋上に転がる三十七頭のウルフたちと残された荷馬車をあっという間に収納。時間が経っていたのでせっかくの毛皮が血で濡れてしまっていた。腹の立つ。橋上も血だらけだ。水の温度を上げてお湯にして勢いを付けて洗っていく。これでは魔力がいくらあってもたりない。水にさらに勢いを付けるようにイメージする。


 (ひらめ)いた! 水の出口を(しぼ)る。水を狭い出口に押し出すイメージだ。出口をどんどん絞る。膨大な魔力に任せて極限まで絞った出口から射出!


 橋の(たもと)の街道沿いの木を見つめていると異変を察知したサリアに声を掛けられた。


「あんた、さっきから何遊んでんのよ。あと少しなんだからサッサと終わらせなさいよ」


「ん? あぁ、ごめんごめん。すぐ終わらせるよ」


 俺はそう言って橋上の血溜まりをすべて洗い流した。地面の血溜まりも出来るだけ熱湯を掛けて消毒したお陰で、そこら中で水たまりから湯気が立ち昇っていた。すると、森の入り口まで行っていたキュロスが戻ってきた。


「ロックー。あなた、アレどうやったのー?」


 首を傾げてちょっと困ったような顔をしていた。あんまり見たことのないキュロスの「わからない」という表情だった。


「なぁに? またなんかやらかしたの? キュロス姉さん、どれのこと?」


「んー。サリアならわかるのかなぁ。ちょっとおいでー」


 サリアがキュロスの後に付いていく。俺も結果が知りたいので右にシェリル、左にオルカの三人で二人の後に続く。


 キュロスは橋の袂からすぐ脇の木に近付くと、太い幹に手を当てた。


「ほら、ここよ」


「ん? どこよ? なんなの?」


「これ、指先のところ」


 サリアがキュロスの指先に近付く。


「え? なにこれ? これがどうかしたの?」


 キュロスが俺を見た。


「ねぇ、これってロックがやったのよね?」


 サリアの横に立ってキュロスの指さす穴を見た。


「おっ、うまくいったかな? なかなか良さそうだね」


「え? これ、アンタがやったの? なにこれ? どんな魔法なのよこれ。なんの意味があるのよこんな穴に」


「あー、これはサリアが思ってる魔法じゃないと思うわよ。これね、穴を開ける魔法じゃないから。ロック、これって水魔法なのよね? だからわかんないんだけど」


「は? この小さい穴が水魔法? なに言ってるの?」


「そう。だから聞いてるのよ。どうやったの?」


 あらためて木の幹を観察する。幹には直径数ミリの真円(しんえん)の穴が穿(うが)たれている。恵の森の木だ。これだけ森の深くで、この太さの木だ。魔素をたっぷりと吸収して硬い木になっている。魔鉄や魔鉄鋼で造られた大斧(おおおの)で魔力を通しながら打ち込まないと切り倒すのだけでも大変な労力が掛かる魔木(まぼく)とも呼ばれる最高級の木だ。


「へー、思ったよりうまくいったなぁ。それにしてもキュロスの目は良いね。こんなのも見えちゃうの?」


「んー、見えたっていうかロックの視線がここを狙ってたでしょ? その前にも血を流すのに飽きて変なことして遊び始めてたから何かやらかしてると思ったのよねー」


 言い方がいろいろと酷い。だけど内容は合ってるから反論の余地はない。シェリルはニコニコしているから全部横で見ていてわかってそうだ。オルカはぼんやりと周りを見ているのか見ていないかわからないが、こういう時は周囲全体を把握しようと索敵をしている時だ。


「は? 穴を開けたんじゃなくて結果として穴が空いた? 穿(うが)ったってことなの? 水魔法でってどういうことなのよ」


 サリアが怖い顔で迫ってきた。眉間にシワを寄せてるから親指を当てて軽く揉む。


「あんっ、もう、なにすんのよン」


「可愛い子が眉間にシワ寄せて迫って来るのはね、うん、アリだな。サリア、それ好きかも。もっとやってね」


「うン、そんなことで嬉しいの? しょうがないわね、相変わらずのニホンジンねっ」


 キュロスの困った顔に気付いてサリアが慌てて取り繕う。


「あああアンタね、わけのわからないこと言ってないで早くこれの正体を言いなさいよ!」


「あー、これね、キュロスが正解だよ。水魔法なんだ。水を出来るだけ細く、勢いを付けて出すんだ。それだけだよ」


「細く? え? この穴の大きさの水を出したの? 勢いを付けるってどれぐらいのこと言ってんの? いえ、違うわね。この穴が空くほどの勢いってことね。水でそんなことが出来るってこと?」


「そうだよ。水ってさ、速いと硬いんだよ。究極まで絞って、究極まで勢い良く出すんだ。そうすれば魔獣でも金属でも切断出来るよ。これは前世知識だね。さっき血を洗い流すのに勢いよく出してる時に思いついたんだ」


 掃除するのにホースをイメージしてたんだけど、勢いをつけて出せることに気付いたからやってみたんだよね。


「こんなの知らないわ。知った今でも出来る気はしないけど」


「うーん、サリアなら俺とは別のやり方で出来るようになる気がするけどなぁ。細くするのはすぐに出来るようになるよ。勢いを付けるのはちょっと難しいかもね」


「ふうん。とりあえず一回見せないよ」


「ちょっと下がって。その木のもっと下の方でやろう」


 最初は指先からホースから出すように真っ直ぐに水を出す。だんだん絞って線のようになる。幹に当たって水浸しになる。水の放出口から(まと)までが遠いから空気抵抗で速度が落ちている。勢いを付けつつ水の放出口を幹に近付ける。ビチャビチャという音がチーッという音に変化していく。水の出口がほとんど木に接触するまで近付く。ヂーッ! という音に変化して木が削れ始め穴が空くのがわかる。


 一旦止めてから連続で当てていく。


ヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッヂッ!


「うん、だいぶ慣れた」


 キュロスとサリアが幹に触れていた。


「うわー、穴だらけだわ。すっご。石を出すのと変わらないわよね。距離が無いもの。避けようがないわ」


「ほとんど重さが無いから穴を深くするなら当て続ける時間が必要なのね。でもこんなの、百発百中じゃない。ふん。最初に両目を潰せばいいのよ。それで終わりよ」


「ひゃあ、それは勘弁ね。始まる前に終わっちゃうわね」


「ふふ。うふふふふ。いいわぁ。ロック、あんた、でかしたわ。これ、習得しなきゃだわね」


「これはマズいわぁ。だいたいこれ、どうやって攻撃されたかもわからないじゃない。やっばぁ!」


 なんでキュロスはうれしそうなんだ? どうやって対抗しようか策を巡らしてる気がする。


 水のレーザーは手ぶらで使えるところがいいところ。ただ、キュロスが言うように、相手を一瞬で真っ二つに出来るわけでもない。改良点は明確だ。気長に育てよう。サリアにこれ以上助言は無い。あとは自分のアレンジ次第、訓練次第だ。


 橋をグランデール側に戻ると森の中から何十人もの冒険者達がゾロゾロ出てきた。


「ボス、荷馬車は野営地に送りました。それと、道中倒して野営地まで持ち帰れない獲物を血抜きしてます。血の処理をしていますが追いつかないので獲物を【収納】してもらえると助かります」


「わかった。案内してくれ」


 冒険者は全員に奴隷紋がある。『再生の大地』のメンバーだ。話しかけてきたのはまとめ役のバリウス。この辺りに防衛並びに交易の拠点とすべく森の開拓を始める。手始めに周辺の森林伐採と魔獣の駆除を急いで始める。魔獣よりも森林伐採の方が大変そうだなぁ。


 今は直営の職人だけでなく、周囲の職人にも発注を掛けて魔斧(まふ)を作っている。武器防具工房『鉄槌(てっつい)金床(かなどこ)』の頑固職人のガイアとフランにも刀を後回しにしてもらって手伝わせている。


 街道ではグランデール側から荷馬車の行列が到着すると、周囲が一気に騒々くなった。そこら中で斧が木を打つ音が聞こえ始める。


「小隊整列! 第一から第三まで、威力偵察開始! 第四から第六小隊! 対岸側だ! 行け! 第七から第九小隊は陣地構築開始!」


 スティングが現場指揮で大声を上げている。バリウスが寄って来た。


「ボス、獲物の集積場に行きます。お願いします」


 森に分け入ってしばらくすると仮の集積所が出来ていた。血抜きも始められていたが処理が途中のものも全て【収納】する。解体は解体所ですればいい。森の中に血臭を振り()く必要は無い。


「ボス、ボアが何頭かいるんで案内します」


 ボアは大きすぎて解体しないと動かせないので、血抜きだけして現場で確保しているのだ。速度重視の身体強化で急行して順次回収する。


「いいね、これだけのペースで狩れば早めにセーフティゾーンが確保出来そうだ」


「ところがですね、縄張りに空きが出来たそばから他のヤツが入り込んで来ます。当分は気が抜けなさそうです」


「そこまで酷いのか。じゃあ、しばらくはペースを上げていこうか。橋の川下側も間引かないと危ないな」


「明日、旧邸(きゅうてい)の警備がまた半減されます。四十名、八小隊回せます」


 デミトリーの屋敷は『旧邸宅』を()て今では『旧邸』と呼ばれるようになっていた。


「休息日無しでいきなり森への派遣なんて大丈夫なのか?」


 バリウスが少し呆れたような顔をした。


「ボス、旧邸の守衛任務が休みみたいなもんです。訓練ばっかりで緩んでやがりますからね。ここに来て締めた方が奴らのためです。奴ら自身も身に着けた実力を発揮する場を欲してます」


「そうか。働きたいと言っているなら任せるよ」


「ボス、奴隷の待遇が良過ぎます。お陰で噂を聞きつけた奴らが未だに他の地域から脱走してまでウチに入れてくれと毎日のように押し寄せてます」


「は? 終身奴隷だぞ? 馬鹿なのか?」


「ボス、あのですね、スラムの底辺では食い詰めてる奴らが大勢います。西地区はボスのお陰で経済が回り始めてます。南は『南の守護者(サウス・ガーディアン)』が仕切っててまだマシですが、東と北はまだまだです。特に東は経済格差が酷いから悲惨です」


「でもそんな奴らいくら来たって戦力になんかならんだろ」


「ええ、ですから商会とか下働きにしている者も多いです」


「ふーん。人が多くて困るって報告が来てないってことは大丈夫なんだよな」


「それはもう。ここでも人ではいくらあっても足りません。メシは森で狩った魔獣で(まかな)えてます。というかボスは奴隷にも魔獣肉食わせてますからね? そりゃ、集まって来るでしょう」


「なんてったって『恵みの森』だからな!」


「そういうことじゃないと思うんだけどなぁ」






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