第177話 大漁
今回の森の遠征の目的は『パーティーとしての完熟』にある。自分たちの実力がわからないっていうのもあるが、皇都への旅の予行演習みたいなものだ。みんな、俺と野営することの意味がわかってないからね。三か月経ってやっとまとまった休みが取れたとも言えるけど。
それと同時に森の現状把握という意味もある。『再生の大地』に肉を獲らせに森に派遣して、実際にうまく機能しているが、うまくいきすぎている気がする。バリウスも、森の浅いところで大型魔獣が獲れるから楽だという状況はマズいという認識だ。元々西地区でやっていた冒険者の話を聞くとみんなが口を揃えて変だと言う。戦争があったのは五年前だけど、もっと前からグランデールの本来の目的である『人類生存圏の確保並びに拡張』という目的を失っていたせいだと思う。皇都の発展とか待ってられん。ここがおいしい狩場だと国中に知らしめて人を集めて森を食い尽くしてやるぐらいの勢いを作らないとこっちが飲まれるぞ。
昨日は、どの程度この森がヤバいのかを実感することと、パーティーの実力を計ることが目的だった。その目的は果たせたように思う。銀等級のパーティーで三日は掛かるだろう深度まで森への侵攻が果たせた。
最高級娼館『一夜の夢』にちょっとご挨拶に行かねばならんかなぁ。それにはまだまだ金を稼がないとなんだけどね。
二日目の今日の目的は、ダンジョン都市であるフロンティアとの中間地点に造る拠点の候補地探しだ。南地区では半日も歩いたところにけっこうな大きさの川があったが、昨日歩いたところでは小川はあっても大きな川はなかった。この湖に流れ込む北からの川を遡ってフロンティアに繋がる街道までの様子を確かめようと思う。
俺たちが野営をした場所を中心に魔獣が消えた。どうやら、昨日の三人娘の暴れっぷりと、俺とサリアの夜の警戒網のせいで、魔獣たちに俺たちが危険な相手だと認知させてしまったみたいだが、オルカの『探索』能力と進行速度の速さのおかげで、向こうがこちらを察知する前にオルカたちが接敵するから何の問題もなく狩り続けられそうだ。
川を遡り始めてしばらく行ったところで先行組にハンドサインで『停止』を命じる。
「なんかあったの?」
隣のサリアが聞いてきた。
「うん。ちょっとこの川がいい感じだなと思って」
深さといい、流れといい、魚がいる気がするんだよね。三人が戻って来た。
「ロックー。どうしたの?」
キュロスが首を傾げている。
「この辺りの川が浅くて流れもゆるやかだから魚が獲れないかなと思って」
「え? 魚なんか釣ってたら時間が足りないでしょうが」
サリアがそんなことやってる場合じゃないでしょと窘める。パーティー内で反対意見を出してくれる人は重要だ。イエスマン、俺たちの場合はイエスウーマンばかりじゃ良くないよね。いつも俺の行動が正しいわけじゃないんだから。サリアには助けられっぱなしだ。
「うん。だから魚釣りじゃなくて魚獲りなんだよね」
全員の頭の上に『?』が浮かんでた。
「えっと、あそこさ、川の真ん中あたりにでっかい石があるでしょ」
俺が指差す方をみんなが見る。
「あそこにでっかい石をぶつけるんだ。魚がいたら浮いてくるから。オルカ、魚が浮いたら頭を刎ねて欲しいんだ。ブーツを脱いで裾を捲っておいてくれる。サンダルを出すから」
「あ、あたしも川に入りたい」
そう言ってキュロスもブーツを脱ぎだすとシェリルも黙って脱ぎだした。イスを出してブーツを脱ぎやすくしてあげたらサリアに「やっぱりあんたって便利ね」って言われた。あ、そういうこと? と思って休憩用のイスをサリアに出したら思いの外喜ばれた。どうやら嫌味はなく、単に褒められてただけらしい。
「準備できたね。魚がいなかったらなにも起きないんだけどね。ちょっと大きな音が出るからみんな、耳を塞いでてね」
わかりやすいように石に向かって指を差す。上から下に降ろした瞬間にデカい石を【排出】してぶつける。
ゴガーン!
石が川に落ちる前に【収納】すると、ひと間後に川面に大小様々な魚が失神してぷか~っと浮いてきた。それを見たオルカが弾ける笑顔で走り出し、キュロスは大笑いしながら着いて行った。シェリルは驚き顔で、それでもふたりを楽しそうに追った。三人とも足元はまったく危なげない。サリアは呆気に取られていた。
「あんた、本当にやることエゲつないわね。網も無いのに一網打尽じゃない」
サリアがなんかうまいこと言った。三人は川に勢いよく入って行き、魚の頭を刎ね飛ばしてはそのまま魚体を空中に放り投げてくれた。お陰で【収納】しやすかった。人の手がまったく入っていない漁場には大量の魚が浮いていた。あっという間に獲り尽くして三人が帰って来た。大きなタライにお湯を張って出迎えるついでに鍔広の麦わら帽子を三人に渡す。
「イスに座ってサンダルのまま足を浸けちゃっていいよ」
シェリルのサンダルを脱がせつつ足を揉み洗い。
「シェリル、川の水はどうだった」
季節は七月上旬。湿度は低いが日が昇って気温は上がって来たところだ。森の中は影になるが、川沿いは陽が照っている。
「とっても楽しかったわ! 川の水が冷たくて気持ちいいいのよ」
お嬢様は足を洗われながらも自然体でとっても楽しそうだった。やっていることは魚の斬首刑ではあったけれど。
「ロック、魚の頭ってどのへんで切るのがよかったの」
オルカが良い質問をしてきた。
「オルカ、大変良い質問だね!」
そう言うとドヤっとなった。魚は死んでしまえば【収納】できるからできるだけ損傷を少なくしたい。頭は食べないから無くてもいいんだけどね、と前置きして
「魚も生き物、動物だからね。頭が骨で繋がっている動物は、脳の指令がこの背骨、脊椎に神経が通っている。骨が切れなくても、この神経が切れるとそこから下の身体に命令が届かなくなるんだ。神経だけを切るのは出来ないから結局、骨ごと斬ることになるけどね。だから、魚の場合はここだね。エラの間が刃が通りやすいし、食べられないからここを切るんだ。頭はね、俺は残したままにする。これはでも料理の見た目の好みでもあるから好きにしていい。魚を食べ慣れていない地域では頭は落とすよね」
ブーツを履き直す間に料理の下ごしらえ講座まで終えた。そこからまた川沿いを遡上して行く。俺は河原の石を適当に【収納】しては時折落下させて弾丸化しながらサリアと森の現状や雑談をして過ごした。川の対岸にいる魔獣は俺が倒して【収納】した。サリアの魔法だと魔獣を傷め過ぎてしまうんだよね。炎は言わずもがなだし、雷も電気が通過した部分に熱が入って焼けてしまう。前から考えていたやつをちょっとお試しでやってみせようか。
「サリア、水魔法ってどこまで遠くに出せる?」
「え?」




