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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第174話 甘やかし

 シェリルがオルカと一緒になって先頭を進み出したので念のために防具を装備してもらった。まったく、嫁入り前の大事な身体ですからね? 自覚を持って欲しいものだ。


「それって、あんたのために傷付けるなって言ってんのよね?」


 サリアが呆れた目で俺を見る。


「まぁ、そういう見方も出来るだろうけど、普通に自分を大事にして欲しいっていう意味だからね? サリアの身体だって傷ついて欲しいとは思わないよ? そこに傷を付けていいのは俺だけだからね」


 サリアが俺のことを信じられないというような(さげす)んだ目で見て大喜びだった。その証拠に、


「あんた、わたしのどこに傷つけようとしてんのよ!」


 などと「もっと言って」と言わんばかりの反論しかしてこない。しょうがないからその後も「もちろん誰にも見えないところにだよ」などとしばらく付き合ってあげた。


 道中の狩りも順調だ。さすがにここまで森の奥まで来るとめったに他の冒険者もいないので角魔鹿(ホーンテッドディア)も狩っていく。鹿は捨てるところがないぐらい有用な魔獣だ。商会が喜ぶだろう。帝都に行く時のためにもう少し希少な魔獣の素材が欲しい。もっと奥に行こう!


「キュロスも行ってきていいよ。どっちかっていうとそろそろ俺よりシェリルの側に付いててもらった方がいいかもしれないし」


「その方が良さそうね」と言ってキュロスも走り出した。このスリートップは強烈だぞ。


「サリア、やっと二人きりになれたね! これで遠慮なく言葉遊びが出来るよ。ガマンしないで言いたいこと言っていいからね!」


「あああんたバッカじゃないの! これ以上わたしに何を言えっていうのよ!」


「あらら。もう降参だったのか。サリアって意外とウブだよね! かわいいなぁ」


 真っ赤になったサリアが「そんなわけない」とか「わたしの方が」とか一生懸命だ。かわいい。


「ほら、前が三人になってスピードが上がっちゃったよ。遅れないように急がなきゃ」


 そう言って手を繋ぐと赤くなったまま「話を誤魔化すな」とか言って怒ってるけど手は離そうとはしない。かわいい。


「サリア、(よこしま)な事ばっかり考えてないで鍛錬もするんだよ。ほら、『走査(スイープ)』を覚えて」


「誰が邪なのよ! あんた、いつか見てなさいよ!」


 そう言いながらも繋いだ手から『走査(スイープ)』を感じようと凄まじい集中に入る。


「ああ、そうか。サリア、おんぶしよう。その方が集中できるよ」


「なっ! ふう。そうね、そうしましょう。ちょっとこのドレス邪魔だからしまってちょうだい」


 戦闘女中服(バトルメイドドレス)を【収納】する。さすがに下着姿だけっていうのもおかしいので薄手のパンツスタイルに着替える。「わたしは別にそのままでもよかったんですけどぉ」とか言ってる。さすがにアウトドアで肌の露出はやめておうこうね。


「はい、どうぞっとぉ。うーん、サリアは羽のように軽いなぁ。ちゃんと食べてる?」


「食べても太らないのよねぇ。種族特性かしらね。まったく、あのふたりがうらやましいわね。最近じゃオルカもずいぶんと立派になってきてるじゃないのよ、嫌になるわね」


「ん~、大丈夫だよ。サリアのもちゃんと背中に感じるし、俺は綺麗で好きだよ。サリアもわかっててわざとそんなこと言ってるんでしょ」


「くっ! あんたはね、ちょっとは本音を隠しなさいよ!」


「いやー、でも俺がこんな本音で話せるのサリアだけだからさー。つい甘えちゃうよね!」


「うっく! そういうところだって言ってんのよ!」


「そんなことより集中してる? イチャコラするためにおんぶしてるんじゃないんだけどなぁ」


「そう言いながらさっきから両手の動きが下の方で不穏なのよ!」


「あはははは」


 夕方前に狩りを止めるころには『走査(スイープ)』を覚えたサリアはやっぱり天才だ。今夜の見張りの時にでも『走査(スイープ)』の改良について話し合えたらいいな。


「みんなー。そろそろ野営の準備に入ろうか」


 サリアをおんぶしたまま三人に追いついて提案する。


「あら、もうそんなお時間なの? つい夢中になってしまったわぁ」


 シェリルはハンティングがお気に召したようでよかった。オルカも満足そうだった。キュロスはちょっと物足りないかな?


「みんなお疲れ様。キュロスはちょっと物足りなかったかな。明日はもっと奥に行くから今日より楽しめると思うよ。オルカもずいぶんと強くなったね。シェリルがこんなに冒険者向きだとは思わなかったなぁ。驚いたよ」


 今は初夏だ。西部辺境地域は湿度が低く、夏でもそこまで不快な暑さは感じない。前世の記憶からすれば大変すごしやすい土地だ。


「ちょっとあっちの方に池がありそうだからそこまで行こう」


 とはいえ水辺の方が涼しいだろう。サリアが魔法を習得したあとも降りようとしないのでそのまま移動する。


 ほどなく湖畔に到着。対岸に角魔鹿(ホーンテッドディア)が水を飲んでいるのが見える。見通しの良い湖側に大きめのトイレを設置。壁付なので万が一、襲撃されても時間稼ぎできる。野営用のロッジは現在進行形で製作中なので今は小屋は持っていない。


 湖畔に東屋を設置する。食材を出してみんなに仕込みをお願いする。みんな料理が嫌いじゃないので仲良く作業してて微笑ましい。中でもオルカは食への興味が大きく、嗅覚も鋭いのでオリジナルスパイスの開発に余念がない。唐揚げなどの揚げ物を教えてからは一気に料理開発の腕が上がった。サリアは途中で「ここって森の中よね?! わたしたちいったい何をしているの!」と叫んだりしていた。キュロスが「そう言えばそうねー。なにしてんだろうねー」って笑ってた。貴族のご令嬢だったシェリルも今は何にでも挑戦して常に楽しそうだ。


 みんなが料理に夢中になっている間に俺は寝床の準備だ。空中にネットを張るわけだが、さすがに五人で横になるとたわみが出来てしまいそうだ。真ん中に向かって全員でギューってなるだけだよなぁ。固いロープ使って身体強化で思いっきり締め上げてワイヤーのごとく固定するならいけるだろうけど、それは違うよなぁ。


 そう考えて四メートル四方のネットと三メートル四方のネットの二枚を張る作戦を考えてきた。四メートルの方で三人が寝る。三メートルの方で二人が寝て一人が見張り。これでローテすればいいや。


 ネットを微妙に重ねてお互いに行き来できるように貼る。三メートルの方が一メートルほど高い。張り具合を確かめていると下から視線を感じた。全員がこっちを見ている。特にオルカの瞳がキラキラしていて、こっちを指差しながら皆になにか一生懸命説明している。帆布(はんぷ)の屋根はまだ張らない方が良さそうだ。ハンドサインでいつでもおいでと送ると、慌てたように手を洗い始めた。二十メートル弱の高さを飛び降りる。


「寝床できたよ。いつでも見に行っていいよ。明るい内に慣れておいた方が

いいから」


 そう言うとオルカ以外の三人が口を開いたまま見上げていた顔を俺に向けた。


「あんた、あれはなんなのよ」


「いや、だから寝床だよ。あの高さなら木登りが出来ない敵からは身を守れていいでしょ」


「そうねー。理屈的にはね。冒険者でも木登りが得意な人は幹にロープて身体を固定して寝る人とかもいるしね。これは重くて運べないからロックにしかできないわねー」


 キュロスの顔にもだんだん笑みが広がっていく。


「ロック! 防具いらない!」


 手を洗い終わったオルカだ。みんなの防具を【収納】した。


「お先にね」


 オルカと一緒に手を洗っていたシェリルが軽く木を駆け上がっていった。オルカも負けじと続く。すぐに上の方から二人の嬌声(きょうせい)が聞こえてきた。珍しくシェリルが声を出して笑っていた。よく見るとシェリルがオルカの髪を縛ってあげている。ギチギチに網を張っておいてよかった。慣れるまでは寝床じゃなくてトランポリンにされるだろうなって思ったから網は目一杯締め上げてある。まぁ、みんなも落ちても怪我しなさそうだから放っておいても大丈夫だろう。


 サリアとキュロスも手洗いを済ませると駆け上がっていった。すぐにクールぶっていたサリアの嬌声も混じり始めた。キュロスは大笑いしている。うーん、四人で遊ぶにはちょっと狭いかな。


 これはもう屋敷にも作ってやろうか。そういえば娯楽に飢えてるんだよな、ここの住人たちって。女中たちのためにハンモックとかブランコも作ってあげよう。福利厚生は大事だ。ウチはちゃんと当番制で食事、休憩時間ありの労働環境になるようオズワルドとミランダに指導した。最初は二人とも、あまりのヌルい労働条件に規律がとか言っていたが、適切な指導でみんなが集中して仕事をするようになって納得してくれた。特に朝早く起きなくてもいいシフト勤務は好評を博した。


「ミランダ、俺は俺の配下になった者は徹底的に甘やかして俺から離れられないようにするんだ。俺は暴力では支配しないよ! 向こうから俺に尽くすように仕向けたいんだよね!」


 って言ったら目を輝かせていた。


「それでは私も目一杯甘やかされましょう。その代わり精一杯、尽くして参ります」


「うん、それでいいよ」


 俺には厳格にやる必要が無い。身分差で縛る気がないからね。対価を得るためにどうすればいいを考えてくれればそれでいい。それが俺の国のルールだ。


 みんなが仕込んでくれている肉の仕上げをするが、さすが四人で仕込んでいたからほとんど終わっていた。仕込みが終わった肉は寝かせるもの以外は【収納】しておく。


 湖畔にテーブルとチェアを出してトランポリンに興じる若い娘たちを眺めながらコーヒーを飲んだ。伸身宙返りをする誰かのシルエットに目を細めながら一番年下のはずの俺が一番年寄りくさいな、と思った。







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