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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第2部 第1章

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第173話 神々の黄昏

 シェリルが「よくできました」と、単独で狂暴な魔獣を討伐したかわいい妹を()でている。いずれ妻になる(ひと)たちがこんなにも仲良く過ごしているところを見ることができて嬉しくなる。尊い。


 さ、仕事仕事! 角魔熊(ホーンベア)を一旦『収納』して虫除(むしよ)け。キュロスが大枝にロープを通している。地面には既に穴が空いていた。


「キュロス、ありがとう。さすが、抜かりないね」


角魔熊(ホーンベア)なんて持って帰ったらみんな喜ぶものねー」


 穴の中に『排出』された角魔熊(ホーンベア)の後ろ脚にロープを結ぶと、ひとりで軽々と引き上げて逆さ吊りにして、そのままロープを木の幹に結び付けた。身体強化を使ったようには見えない自然な動きだ。キュロスもこの三か月で身体能力に磨きが掛かっている気がする。元から均整の取れた身体がさらにシャープになってる。なにせみんなのボディラインは俺の(まぶた)に焼き付いているからね。少しでも違いが出るとわかるから。オルカもそうだけど、新鮮な魔獣肉と日々の運動が美容と健康に良いのかな? 朝の鍛錬はキュロスも参加していて、俺も出来る限り顔を出すようにしている。オルカはこの三か月でだいぶユセフの動きに付いていけるようになった。


 そんなオルカはまだシェリルとサリアの可愛がり中なので、キュロスが脇差(わきざし)を抜いてササっと首や脚の付け根を斬って血抜きをする。適当なところで大太刀(おおだち)を抜いたみたいだが見えなかった。どうやったら大太刀で居合が出来るのかはわからないが、キュロスはそれをやる。綺麗に内臓を抜かれた角魔熊(ホーンベア)を『収納』しようとしたが、「せっかくだからお昼に少しいただきましょう」と提案してくれたので、(さばく)くのをそのまま見守ることにした。


「これ、首と後ろ脚の付け根が斬られてたよね」


 オルカが討伐した時の話だ。


「そうねー。後ろ脚は内側の付け根を先に斬っているわね。そこに気を取られたところで首を斬ったのねー。サリアが言うようにちょっと凄いわよね」


 もちろん、キュロスなら最初の一閃で首を斬って終わりだろうが、オルカはまだ十二歳だ。伸び代しか感じない。


 ツノの生えた頭部はほとんどぶら下がってるだけだ。ガイアの剣がいくら業物(わざもの)だとしても、熊の股を(くぐ)ったあとに首を斬ってるからなぁ。身体が出来てきて【縮地】を使いこなし始めている。オルカひとりに狩らせて、その後ろから大部隊で追い掛けて素材回収させるだけで相当な魔獣の間引きができちゃいそうだ。キュロスでも同じことができそう。今日はこのままもっと森の奥まで行ってもよさそうだな。


 キュロスが、(さば)いた肉をどんどん積み上げるので、俺はそれをポイポイと『収納』していくだけだ。「とりあえずこんなところね」というキュロスの声で残りのすべてを『収納』して、洗面台を『排出』してお湯を張って石鹸を渡す。ほとんど汚れていない手を洗っている間に必要な部位の胆嚢(たんのう)と心臓を取り除いた内臓を埋める。大量に獲れる肉も皮も、その全部を持って帰ることの出来る俺の場合でも内臓はわざわざ持って帰る必要はない。それでも鹿やボアの腸は有用なので好んで持って帰るけど。


 昼の休憩では『銀狼の牙』のメンバーの実家の工房で作ってもらった東屋(あずまや)と椅子とテーブルのセットを出してゆったり食事休憩。ちゃんと床もある。床は四隅に柱があって、その部分の地面の高さを合わせるだけで水平になる。『出納』を使うと床の出し入れが簡単であっという間に水平が取れる。これで不安定だったり湿っぽかったりする地面を気にせずゆったり座れる。雨が降っても平気だし、寒ければ暖炉も置ける。(かまど)も火も『出納』から取り出すだけ。焼き立てのパンも温かいスープもある。せめてもの雰囲気で今日獲って捌いた肉を焼く。俺のデイキャンのやり方を見て、俺が何かするたびにキュロスは大笑いして、サリアは(あき)れて、シェリルはニコニコして、オルカはもくもくと食べていた。肉を獲ったのはオルカだからね。いっぱいお食べ。


 ちなみに、個室トイレも作っちゃった。さすがにこれだけのことができるのにトイレだけ従来のワイルドな野営スタイルなのも変だからね。ちなみに設置する場所に応じて大小さまざまな大きさで用意してある。これはオルカを除く全員に好評だったと思う。オルカは何かが不満っぽいが言語化できないみたいだった。自分の時はなんだったんだという不満かもしれない。いや、あれが普通だから。今回の野営訓練中に何度か誰かの使用中に我慢できないからと付き合わされた。なにこれ? 罰ゲーム?


 食後、ソファーにゆったりと座りながらお茶を飲んでいるサリアがぼんやりとした顔をしていた。


「わたし、ここでなにをしているのかしら」


「ね? サリア、言った通りでしょ。野営も悪くないでしょ」


「ええ、そうね。これを野営と言っていいなら野営も悪くないわよね。でもこれって、野営なのかしら」


「うふふふ。私にとっては初めての野営ですからね。最初にこれを知ってしまったらちょっと、他の方との野営はもう無理かもしれないわぁ」


 シェリルがいつものテーブルセットで紅茶を飲みながら微笑んでいた。


 実はこのテーブルとイスはかつてのワイマール家の実家のシェリルの居室にあったものだった。シェリルが指でなぞるテーブルの傷は、幼少期のシェリルが室内で槍を振り回した時に誤って付けてしまった傷だそう。自分を戒めるために傷をそのまま残しているんだそうだ。他にもワイマール家所有の家具がいろいろあって、それは新居に適切に配置される予定となっている。


 さあ、午後もいっぱい食材を確保していこう! じゃなくて都市生活の危険度を下げるために魔獣を減らしていこう!


「オルカの進行速度が上がっちゃったなぁ。実力が上がったことを実感して索敵に余裕も出来て進行速度に合わせて狩ることから獲物を積極的に探すやり方に変わったんだね。獲物が探知できない間は全力で移動に割り振ってるんだなぁ」


「あんたね! 森の中でこんな馬鹿みたいに全力で走りながらのんびり言うセリフじゃないでしょ!」


 森の中をけっこうな速度で身体強化を入れて走っていた。俺はシェリルが余裕そうに着いて来られることが不思議だった。一度ならず「平気?」って聞いているのだが、その(たび)に「ええ、大丈夫よ」とにこやかに返されるのだ。オルカとキュロス以外は胸当てもまだ装備していない。シェリルは珍しくパンツルックのミリタリースタイルだ。俺が着てる姿を見たかっただけではある。ギャップ萌えだ。こういうミリタリー雑誌の表紙あったなぁ。


「ありゃ。オルカが魔獣に囲まれているみたいだ」


「はぁ?! なぁに余裕ぶってんのよ! それ大丈夫なの?!」


「うん。逃げずに動き回ってるから大丈夫だと思うよ」


 現場に到着すると森狼(フォレストウルフ)魔猪(ボア)の群れを相手に走り回るオルカがいた。どうも様子が変なのでしばらく木の上で見ているとサリアがぼそっと呟いた。


「あの子、遊んでるわよね」


 それは言い過ぎじゃないかなぁ。


「遊んでるっていうか、訓練?」


 森狼(フォレストウルフ)は六頭、魔猪(ボア)は二頭の(つがい)だろう。たまにこの二種は共闘すると聞いたことがある。だけどオルカは単騎だからね。わざわざ群れで狩る相手でもない。


「これ、あの子の方から突っ掛かっていったのね。魔獣たちもいい迷惑でしょうね」


「ロック、私も軽く運動したいから長刀(なぎなた)をいただけるかしら」


 シェリルがジョギングに行くみたいに軽い調子で言った。


「あ、はい。気を付けて」


 長刀(なぎなた)を渡すとひらひらと手を振りながら木から落ちて行った。キュロスが俺の右腕を絡めながら隣りに来た。


「姉さんのは初めて見るわねー。防具付けてないけどいいのかしらね」


 あ、ホントだ。などとリラックスしている。喉が渇いたから冷えたエールをちょうだいと言われた。渡すと腕を組んだまま美味しそうに飲む。じつはこれはエールではなくビールだ。まだ始まったばかりだが『金獅子(きんじし)醸造所(じょうぞうしょ)』を(そそのか)して共同開発中の試作第一号をキュロスに試してもらっている。『金獅子醸造所のゴールデンビア』爆誕の日も近い。


 シェリルがオルカに声を掛けるとオルカが頷いて、そこからは狩りというよりは一方的な虐殺になった。オルカが自在に飛んで旋回するたびに綺麗に森狼(フォレストウルフ)の首から血が(したた)った。オルカの誘いにのって魔猪(ボア)がシェリルに向かって猛然と突っ込んでくる! シェリルはゆっくりとしか動いていないように見えるが、()かれると思った瞬間に空中で横回転しながら長刀(なぎなた)石突(いしづき)でボアの脳天を打ち抜いていた。


 ゴグッ!


 ものすごく痛そうな音がして魔猪(ボア)が昏倒した。


「はい」


 と、やけにのんびりした声が聞こえた瞬間、ぶぅん! と音がして長刀(なぎなた)が一閃すると、倒れていくボアの首がパックリと開いて鮮血が(ほとばし)った。


 隙ありと飛び込んだ森狼(フォレストウルフ)の喉元を後ろも見ないで振り回した長刀(なぎなた)の刃が掠めると、オルカの時と同じように首から血を吹きながら倒れて動かなくなった。そんな感じで次々と魔獣を薙ぎ倒して、最後は逃げようとした森狼(フォレストウルフ)をオルカが追い掛けて斬り殺して終了。全部で一分も掛かっていない。絶命した獲物はサクっと収納していく。


 シェリルがボアをすれ違い様にひとりで討伐しちゃったね。狩りは初めてなんじゃないのかなぁ。


「ねえ、シェリルって狩りをやったことあるの?」


「ないわよぉ。オルカちゃんのを見て勉強させてもらったのぉ。オルカちゃんは良い先生ねぇ」


 いやいや、オルカは魔猪(ボア)狩りは見せてないでしょうよ。どうでもいいけどここまで誰も魔法もスキルも使ってなくないか? 俺たちってこういう脳筋な感じでやっていくんだっけ?


「ロック。あんた、パーティーリーダーとしてどうすんのよこれ」


「え? 俺? どうするって? 俺になにかできることが?」


 あるなら教えて欲しい。


「まぁ、なにもできないわよね。あ、そうだ、パーティーなんだから名前あるのよね? わたしたち」


 ああ、そうだ。それ、誰も聞いてこないから言う機会もなかったんだよな。


「うん。一応、考えてるよ。『神々の黄昏(たそがれ)』だよ」


「あー、そう。『神々の黄昏』ねぇ。ふーん。いいんじゃない? どうせあんたのことだから神でも女神でもぜんぶに喧嘩売っちゃうんでしょ」


 いえいえ、別になにもしませんよ。


「ふーん。『神々の黄昏』ねー。いいんじゃない」


 ホントにそう思ってる?!


「ふふふ。聖月教の前で言ったらおもしろくなりそうね」


 シェリルがなんかぶっそうなことを言い始めた。でもそれはそう。だって聖月教って月の女神の一神教だからね。『神々』という概念が無いから、ウチのパーティー名だと明らかな異端扱いになるはずだ。神に見放されてぶっ飛ばされてきた俺がここにいるから彼女たちは神々の存在を信じている。信じてはいるがそれが信仰に結びつくどころかまったく逆の結果になった。ただ一点、俺がこの世界にいることを功績と認めているが、それはただの偶然と見なしている。それはまぁ俺の主観がそのまま彼女たちの思想になってしまってるんだけどね。センシティブな話題なのであまり神の悪口は言わないように気を付けている。


 このブートキャンプが終わったら屋敷の引き渡しイベントがあり、生活が落ち着いた早い段階で帝都のロガリアへ行くつもりだ。シェリルに大聖堂へ行ってもらってスキルの授与を終わらせるためだ。


 黒目黒髪の俺はどうせ何もしなくても忌避(きひ)の対象だ。せいぜい堂々と『神々の黄昏』を名乗ってやるさ。




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