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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1章 DAY1

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第18話 向き不向き

 商業ギルドの裏口というか商談用の搬入口から素材を担いで入っていった俺たち。


 最初に入ろうとした時は警備員に止められたが、ギルド裏口から慌てた様子で表で会ったのとは別の職員が走り出て来て通してくれた。で、入ってすぐのところで待機中。早くしてくれ! 日が暮れてしまう!


 俺は好きに生きると決めたんだ! もう俺を止めることは誰にもできないんだ!


 だから! だから!


 お風呂に(はい)らせてください……


 正確に言うと風呂に入るのが目的ではない。身綺麗になりたいのだ。俺はおそらくこの世界に生まれ、物心がついてから一度も風呂に入っていない。そればかりか、まともに水浴びをする習慣もない生活をしていた。


 それは、今ここに(つど)う人々のほとんどがそうだ。だから冒険者とか、スラムの一般人の中にいたらこれが「普通」だ。でもね、もう無理。このごわごわのアフロドレッドのような究極のヒッピースタイルの頭はどうよ? 垢だらけで薄汚(うすよご)れた、いや、()い汚れた顔はどうよ? なんだよ()い汚れって。石鹸(せっけん)は一度も見たことがない。この世界に存在するのかどうかも知らない。ほとんど洗ったことがないような服は? 裸足でサンダル履きの足は?


 俺の目の前にいる商業ギルドに出入りしている箱馬車を使うような商人がとんでもなく清潔に見えるんだよ……


 いかんいかん! ちょっと弱気になってた!


 ここは西スラムの商業ギルドの出張所だ。辺境都市グランデールの西側にはこれ以上大きな都市はない。あるのは行き止まりの最前線都市フロンティアだけだ。人類の生存圏最前線だ。とんでもない僻地(へきち)。なんか笑っちゃう。


 だからグランデールの西側スラムにはあまり商人は用はない。フロンティア相手の商売人か、森の産出品狙いの商人だけだ。大量の商品のやり取りで利鞘(りざや)を稼ぐ商売は出来ないのだ。ここにいる商人の目的は、このあたりで獲れる魔獣素材だ。


 そこが俺の狙い目だ。魔獣素材の需要はあるのだ。正直、食料部分の肉の取り扱いが冒険者ギルドと商業ギルドのどっちが強いかはリサーチ不足でわからない。それを調べる前にいきなりこんなことに巻き込まれてしまった。早いタイミングで仕切り直したいなぁ。


 裏に到着して五分も経っていないが、ギルド建物の方が(にぎ)やかになってきた。動きがあるかな?


 まず最初に、きっちりとしたシャツにベストを着ているけど、(まく)った袖から覗く太い腕とぶ厚い胸板という、服の上からでもガチムチがはっきりわかる上に右(ほほ)に白い大傷が走る四十台前半の大男の警備員(ガーディアン)が、するどい目つきで左右を素早く見渡して、俺たちを見つけるとザッザッと歩いてきた。こえー。とんでもない手練れだな。元なにやってた人だろう? 拳闘士(グラップラー)


 ライズパーティーの面々が、うわぁ、というすごい迷惑そうな顔で後ずさろうとしてる。お前ら俺の後ろに隠れようとすんな! 俺が一番小さいんだぞ!


 警備員(ガーディアン)の背中に守られるように付いて来るのは、ピシリとビジネス服を着こなした紳士然とした人だ。三十台後半の口元に笑みの絶えない柔和な顔をしていた。やさしそうだが、商談ではその微笑みが逆に恐そうだな、と覚悟を決めた。さらにその左右には何人かの職員が手に筆記具か何かを持って一緒にこちらに向かってくる。みんな仕事が出来そうな雰囲気だ。いきなり押しかけたのにも関わらず、俺らみたいなのにこんなに早く対応してくるとはなかなか良い査定チームなんじゃないか。冒険者ギルドがんばれよー。


 大男は迷うことなく俺たちの前まで来てギロギロと討伐素材を睨みつけている。特に毛皮が気になるみたいだ。すると、今度は俺たちを順番に睨みつけてきた。そして一番前で矢面に立たされている俺の顔の高さに合わせるように(かが)みながら口を開いた。傷の迫力がすごいな。どう見てもその(スジ)の人だぞ。


「俺は西地区商業ギルド責任者のオーサーだ。魔獣素材の買取希望っていうのはお前たちのことで間違いないな」


 はあ? このガチムチの四十絡(しじゅうがら)みのおっさんが西地区の商業ギルド長だぁ? スラムって付けなかったぞ? ライズの顔を見ると嫌そうな顔で頷いてみせた。マジだこれ。またおっさんだがそこはまあいい、とにかくとっとと話を進めよう。


「はい。そうです。買取をお願いするロックです。採取と狩猟が生業(なりわい)です。年齢は十歳なので冒険者登録はしていません。つい先ほど、そこの冒険者のツテを頼って冒険者ギルドに行ったのですが、ちょっとした行き違いがありまして、こちらで魔獣素材の買取をお願いできないかと先触(さきぶ)れもなしに押しかけてしまいました。なにぶん鮮度が落ちるのが待てなかったもので申し訳ありません。わざわざ商業ギルド長に足をお運びいただきまして感謝いたします」


 ライズたちは今度は俺のことを目を丸くして見ている。言っておくがこっちが()の俺だからな? ホントだぞ?


「かまわんかまわん。なにやら()()()()()(にぎ)やかだと聞いて気になっていたのだ。その原因がわざわざこちらに出向いてくれるとは思ってもいなかった。しかもなかなかおもしろいものを持ってきたと聞いてな。仕事を全部放り出して来てしまったわ。わっはっはっは!」


 なにがおもろいねん。笑いのポイントがわからん!


「ギルド長」


 温厚そうな人がやさしく声を掛けた。この雰囲気のところに割って入るとか、この人もシゴデキかもしれんが果たして。


「ああ、すまん。担当のサイラスだ」


「皆さま、はじめまして。西スラム商業ギルド出張所、所長のサイラスと申します。よろしくお願いいたします」


「ロックです。よろしくお願いします。早速ですがサイラスさん、ここに 草原狼(グラスウルフ)丸々一頭分の素材があります。こちらの買取査定をお願いいたします。全て現金化が希望です」


 そう言って魔石と牙を出して手渡す。


「毛皮は加工前ですがこうして見るだけでも素晴らしい程度なのはわかります。査定をさせていただくのに少々お時間をいただきたいので、皆様は中の商談室にてお待ちくださいませ。ただ今案内の者を寄越します」


「あー、サイラスさん、お心遣いはありがたいのですが、私たちは()()()()()(なり)なので、どうぞお気遣いなく。外で待たせていただきますので」


「いや、しかしお客様をそのように」


「いや、本当に。あの、無理です!」

 ビシ! っと手のひらを向けて言い切る。


 ギルド長のオーサーは俺とサイラスが会話をしている間中、毛皮に夢中で、ライズにどこで狩ったんだーとかどうやって仕留めたんだーとか楽しそうに聞いていたが、俺たちの会話もちゃんと聞いていたらしくこっちを見るとおもしろそうに口を開いた。


「んー。それもそうだな。冒険者だからな! そこの建物の脇にイスとテーブルを用意させよう」


 そう言って付いてきていた他の職員に目配せをすると、職員たちはダッシュで消えていった。


 商業ギルド、いいねぇ。

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