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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第8章『審判』

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第171話 Judgment the Moons II

 感情の見えない瞳で俺を見下ろすサリアと見つめ合う。


「まったく、あんたほどの男がなんて目をしているのよ」


 珍しく俺を持ち上げるけど、そう言う自分だってたぶん俺と同じ目をしていると思うよ。


「わたしはね、あの()たちとは違うのよ。無理よ」


 サリアが大事な何かを手放そうとしている気がする。


「わたし、人じゃないもの」


 サリアの口角が上がる。なんの話だ?


「わたしはバケモノよ。あんた、よく知らないでしょう。わたしは『混じり者』なのよ。わたしは人じゃないわ。魔人よ」


 『混じり者』ってたしか混血のことだよな?


「魔人? 別大陸とか『黒の森』の向こうにいるとか言われてる? 吸血鬼とかそういう話かい?」


 サリアの瞳が悲しく光る。


「そうよ、吸血鬼(ノスフェラトゥ)もその一種ね。私は」

「サキュバス?」


 俺の声が被る。自信満々に口角を上げて言おうとした一世一代の告白を俺が(さえぎ)った。サリアの顔に不安が広がる。


「そう、よ、あんた、知って」


 吸血鬼かサキュバス、あるとしたらたぶん後者だよね。サリアから吸血衝動を感じたことはない。魅力(チャーム)は掛けられてる気がする。確かにこの世界において魔人と言えば恐怖の対象だ。前世でも現実に存在していたらそうだっただろう。人を好んで糧にする生物は敵対生物だ。人間は熊やライオンとだって一緒に暮らすことはできない。


「いや、今言われてそうなのかなって。それで? サキュバス? それがどうしたっていう話だっけ」


 俺のリアクションが想定外なのかサリアに困惑が広がる。


「だから! 自由になった私はこれ以上あなたたちと一緒にはいられないわ!」


 俺は片手を上げて暴走しそうになっているサリアを制する。


「サリア、理由が知りたい。なぜだ?」


「わたしが人間じゃないからよ!」


 本気でわからない。なにが問題なんだ?


「サリア、落ち着いて俺にわかるように言ってくれるかい? サリアがサキュバスの『混じり者』? だから人間(ヒューマン)じゃないと主張しているのは理解した。それがなぜ一緒にいられないとなるのかがわからないんだ」


「人間のそばに人間じゃないものはいられないわ。わたしたちは憎み合う者同士、殺し合うべき者同士よ。相容れないわ」


 この()はいったい何を言って、何に怯えているんだ? 俺はサリアと同じ場所に飛び乗る。目の前にサリアがいる。ガウンの紐は解いて前を開けてサリアを抱きしめる。俺よりほんの少しだけ背の高いサリア。今はヒールも履いていないからほとんど背の高さは変わらない。キュロスとしたからね、もう怒られないだろうし、怒られるなら一回で二回分怒られた方がお得だから! サリアにキスをした。触れ合う肌が冷たい。サリアの身体が冷えてしまったんだな。重なる胸からサリアの鼓動が速くなっていくのがわかる。唇を離して驚きの残る桃色金剛石(ピンクダイヤモンド)の瞳を覗き込む。


「サリア、本当にわからないんだ。俺とサリアの何が違うんだ? なにがダメなんだ? 俺たち、わかり合ってるし、愛し合えるんじゃないのか? 今、抱きしめてキスもできたよ。サリア、教えてくれ。俺は人間なのか?」


 その瞬間、サリアが目を見開いて俺を見た。


「サリア、サリアの不安も、言おうとしていることもなんとなくわかる。俺の前世の世界には人間(ヒューマン)種以外そもそも存在していなかったんだ。魔人も獣人もエルフも、その存在は完全に御伽噺(おとぎばなし)の中だけのものだ。でも、この世界で、サリアのいう人間じゃないってなんなんだ? 獣人は人間なのか? エルフはどうなんだ? サキュバスと何が違うんだ? サリア、サキュバスは人間から何か奪わないと生きていけないのか? サリア、君はなにに怯えているんだい?」


 サリアはきょとんとしていた。


「え? うそ? そんな? なんで? わたしが間違っているの?」


「そう! 俺が正しい! 俺を信じろ! それで、サキュバスの種族特性とかってあるの?」


「あ、あるわよ。人から性気を奪えるわ」


「あぁ、そういうのはわかるよ、なんとなくね。それで人を殺せるの?」


 サリアが目を伏せる。


「殺せるわ。純粋サキュバスならね。三日三晩、犯し続けて(ライフ)を吸い取るのよ」


 悲しそうに言う。だが、俺にはまったく効かないぞ?


「うお、そりゃすごいな。あれだろ? その間、ものすごい快楽を与えるとかで逃げられないようにするんだろ?」


「ええ、そう言われているわね」


 俺の中で凶暴にもたげてくるモノを感じる。俺にこの獣が止められるのか?


「それさ、ある意味理想の最後だろ」


 サリアがドン引きした。


「ちなみにサリアはそれできるの? さっき『混じり者』って言ってたけど」


「わたしはね、いいとこクォーターよ。そこまでの力はないわ」


 自分を否定するように、卑下(ひげ)するように、吐き捨てるように言った。俺の中の野生が暴走し始める。ヤバいぞ、もう止められない。


 俺はサリアをしっかりと抱きしめ直してサリアの左耳に向けて正直に告白する。


「あのさ、それを聞くとだね、正直に言うよ? ここだけの話し、俺は早く成人したいなぁとしか思えないんだけど」


 一旦落ち着いてきていたサリアの心音がだんだんと速くなる。


「あ、あんた、なに考えているのよ。ま、まさか、あっ」


 バレた。押し付けてるからね。わざとだけど。


「いや、そりゃそうでしょ。愛している人と裸で抱き合っていれば。純正のサキュバスでも三日三晩も掛かるんでしょ? サリアのその効果なんて、いいところその四分の一なんでしょ? 副作用のない、合法なアレなんでしょ? サリア、俺の『出納』どころじゃないよ、そのスキルの有用性は。それで『混じり者』だって? 俺たち、子供まで作れるんだね」


「いや、あの、スキルじゃないんだけどこれ。え? 有用性? こども?! なに?!」


「立派なスキルでしょ。そんでさ、使ってたんでしょ」


 サリアは黙った。サリアは最高級娼館『一夜の夢アン・レーヴ・デュヌ・ニュイ』のナンバーツーかスリーを常に争う人気を誇っていたと聞いた。お金はまったく貯まらなかったそうだけど。たぶん、自分以外のことに金を使ってバラまいてたんだろう。でなきゃあんなに他の姫たちに好かれるわけがない。


「ちょ、ちょっとだけよ」


「俺にそれ、効いた? 時々何か感じたんだけどよくわからなかったんだよね」


「あんたにその手のものが効きにくいのはなんなのよ」


「俺、三十の男の記憶があるんだよね。サリア、俺がもうお前を手放せないんだよ。俺がもう夢中なんだよ。サキュバスじゃないサリアが大好きでしかたがないのにさ、その上ちょっとだけサキュバスだって? それ、ご褒美以外のなんだっていうんだよ。俺にはサリアが怯えている意味がまったくわからんし、その理由は通じないよ」


「あ、あんたちょっとおかしいんじゃない!?」


「うん、さっきからそう言っている。異世界の記憶とスキルを二つ持つ俺はこの世界の人間なのか? そして一番大事なことだけど、サリアは俺のことが嫌なのか? 俺が知りたいのはそれだけだ。サリアが俺のことをどう思っているのかをまだ聞かせてもらってないよ」


 サリアが真っ赤になってブチ切れる。


「あんたのことが嫌いなわけないでしょ! だったらこんなこと言ったり悩むわけないでしょ。愛してるから悩んでるんでしょ! そんなこともわからないほど鈍いわけ?!」


「サリア、残念ながら鈍いんだよ。そうか、そう言われればそうだよな。なんで俺は悪だくみはすぐ思い浮かぶし人のこと騙すのも簡単に出来るのに自分に向けられる好意を素直に受け取れないんだろう」


 それは前世の俺があまりにありふれた人間だったからだろう。俺はもう一度キスをした。


「サリア、愛しているよ。だから俺のことも愛してるって言って、俺の女になってくれ」


「愛しているわよ。その代わりちゃんと愛しなさいよ。わたし、サキュバスなんだから」


「うん、俺たち楽しくやっていけそうだね」


「あんた、変態なんじゃない?」


「それだ! 俺、日本人だからね! 民族特性でみんな変態なんだよ!」


「なによそれ。あんたニホンジンっていうの? 酷い民族もあったもんだわね」


 ふたりで手を繋いだまま笑って遮蔽物から飛び降りる。サリアの紐を締める。サリアに俺の紐を締めてもらう。ふたつの月が作るふたりの影を見ながら手を繋いで部屋に戻る。


「いつだったか風呂で何かあった気がするんだよ。あの時やったのはなに?」


「あー、あれね。吸い取るやつの逆よ。わたしのをあんたに戻しただけよ。疲労困憊(こんぱい)で抵抗が弱かったのね。珍しく効いたわね。短い時間だから大して回復しなかったでしょ」


「いや、だいぶ効いて助かったよ。すごく気持ちよかった気がする。で、なにやったの?」


「えっ! それは、まあ、そのうちね」


「マジか。もうヤッてんのか。もったいないなぁ。ぜんぜん記憶に無いや。それってシェリルは知ってるの?」


「は? え! ちがうわよ! そんな、シェリル姉さんに報告するほどのアレなことはやってないわよ! ちょっとだけよ!」


 最後の方で扉が開いてた。部屋に入ると最初に戻ってからずいぶんと待たされたシェリルがニコニコして座っていた。


「ずいぶん遅かったわね。でも、家族が仲が良いのはいいことだわ。で? 私に報告するほどじゃないアレでちょっとだけなことってなんのことかしら?」


 それに関しては俺は無罪だ。だって、なにも覚えていないもの。


「えーと、話の続きはとりあえずお風呂に入ってからにしよう。たいぶ身体が冷えてしまったので」


 みんなで風呂に向かいながら「ガウン着ているのになんで身体が冷えるのかしら」とか追及が怖かった。とりあえず風呂ではシェリルが俺の専用風呂イスになっていて、当然誰もなんの文句も言わなかった。



 俺の抱えていた不安は杞憂に終わった。


 彼女たちは前世記憶がある俺でもいいと言ったわけではない。俺が彼女たちと過ごしてきた俺であればそれでいいと言ってくれたんだ。


 俺にとってシェリルが貴族だろうがそうでなかろうが、オルカが獣人だろうが、キュロスも獣人で元娼婦だというがそれがなんだというのか。サリアは人ではないというがむしろそれはご褒美なのでは?


 誰をどのように思うかという気持ちは、容姿も人種も思想も関係なく、その全てを超越する。きっとそれが愛というものだろう。ついぞ前世で手に入れることができなかった究極のものを四人もの愛する人から受け取ることができた。


 俺はこの世界がけっこう好きかもしれない。






――――――――――――――――――

最後までお読みいただきありがとうございました。


ここまでで第8章、第一部(完)となります。

一旦、完結処理をしておきますが、

サブストーリーをこのあとに付け足したり、二部再開をこの続きで投稿する可能性もあります。


ログインして登録していただいた方、ありがとうございました。

励みになりました。


いいねボタンを押していただいたみなさま、ありがとうございました。

とても励まされました。


作中ではまだ転生してから10日ほどしか経っていません。

構想としてはここから好き勝手が始まる感じなので続きが書きたいと思っています。


皆様のリクエストありましたら第二部再開が早まるかも?!


応援いただけましたら作者のモチベが上がって投稿頻度も上がります。

今後もよろしくお願いいたします。


秋乃せつな

完結処理してからチェックしておりますw

評価記入ありがとうございます。

別作品の準備をしていますが、早期再開との狭間で揺れております…

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