第166話 秘密基地ごっこ
警備についているバリウスを呼びながらユーリに話しかける。
「ユーリ、武器工房の『鉄槌と金床』のガイア親方と話がしたいんだ。俺のパーティーメンバーの武器、防具で更新できるものがあればお願いしたいから話を通して欲しい」
「かしこまりました。早急に手配いたします」
ユーリはお付きの使用人を呼んで指示を出す。バリウスが来た。
「お呼びですか、ボス」
「バリウス、着席の許可を出す。座れ。『再生の大地』用の武器防具が必要だろう。犯罪奴隷ではあるが、死傷者が出るのを前提で魔獣狩りに行かせるつもりはない。適切な装備と訓練を施して損耗率を抑える。お前達は奴隷ではあるが、俺にとっては資産だ。無駄にはしない。充分な食事と清潔な環境で体力を強化し、回復に努める。そして俺は充分な利益を得る。それから、基本的に未成年の子供の奴隷を解消する。ただし、未成年でも組織犯罪に手を染め、一般市民に対して暴力を用いた者はその限りではない。一般市民として適応可能かどうか確認して対処しろ。武器防具の発注に関しては一旦、ユーリを通して可否の判断を仰げ。『再生の大地』に関しては武器流通の『豪剣の英雄』と防具流通の『堅牢なる城壁』には世話になったから候補として考えてみてくれ」
『豪剣の英雄』、『堅牢なる城壁』は『夕暮れの泉亭』で展示即売会をしたショップだ。この二店に武器防具を置いてもらうことが壁の中では一種のステータスとなっているみたいだ。職人のドワーフは、自分の作ったものを商売に結び付けて上手に利益を出す行為をめんどくさがる者がいる。そういう者の販売を受け持つアンテナショップがいくつかある。
「ボス、訓練は順調に進んでいる。特にデミトリーの屋敷の守備任務がおいしい。実戦のない守備巡廻で金を稼いでメシも食えて好きな時に訓練が出来ている。いったいどんなペテンを使えばこんなことが出来るのか想像もできん」
ご主人様をペテン師扱いしたことにユーリの眉根が反応するがバリウスは知らん顔だ。俺たちは野蛮な冒険者だからな。その手の言葉は誉め言葉だ。
「お前にもそれができるようになったらもっと良い暮らしができるようになるだろう。冒険者としてのクラン内でのランク付けと役割分担をしておいてくれ。森に行って、狩りをして、解体して、運ぶんだ。森の手前にクラン専用の集積所兼野営地を構築する。冒険者ギルドの野営地の近くでもいいぞ。それと森近くに前線基地だ。安全な運用が出来るようになるまで世話係の女は連れて行けない。食事その他の日常生活用で男の人員や物資も必要になる。本当なら解体もできるだけ森の近くでしたいんだけどな。余計なものを捨ててしまえば軽量化になって運送量が増やせるからな。森の中の集落を作るテストにしたい。闘えない者を有効に使え。森林の伐採をしてもいい。流通に使えば文句も出るだろうが、自前で使う分には文句は言わないだろう。言って来たらどちらの言い分が正しいかわからせるだけだ。冒険者たちの縄張り争いはちょっと気を使ってやれ。今ならデミトリーの息の掛かってた場所が空いているはずだ。ほかのパーティーなりクランが占有していたら奪ってもいい。デミトリーの利権を横取りした向こうが悪い。時間が勝負だぞ。遅くなると権利の主張も嘘くさくなる」
男の子が秘密基地を作る遊びの延長の話だ。楽しくないわけはない。バリウスとユーリのニヤニヤ笑いが止まらない。バリウスはまだわかるんだけどね。ユーリがさっきからおかしい。楽しいばかりじゃないからなぁ。ちょっと釘を刺すか。
「遊びみたいなものだが遊びじゃない。命も掛かっていれば、これは全て金儲けの話だ。注ぎ込んだ金は回収しないと立ち行かなくなるからな。ユーリ、希少魔獣素材を隊商で外部に直接高く売りつけるぞ。費用対効果から商業ギルドに流すものと直接売るものを今の内から検討しておいてくれ。何の魔獣がどの季節にどこで狩れるのか、そんなデータも必要だ。勘だけでやっていたら取りこぼしが多くなってもったいないからな」
ユーリとバリウスの視線が交差する。言葉はないが頭の中を様々なことが過っていることだろう。
「バリウス、あとなぁ、今回、検討する時間なんかなかったからな。問答無用で全員奴隷にした。自分は奴隷身分が不当だ思う者には反論の機会を与える。公平な判断でその主張に正当性が認められたら奴隷から解放して新たになんらかの契約に切り替えることも可能とする。お前の方で目を通して判断してくれ。そして、全ての申請をユーリも判断してくれ。二人が正当だと認めれば解放してもいいだろう。どちらかだけ、もしくは悩むようなものは俺に回せ」
「それは良いニュースだな。全員申請してきそうだがな」
二人とも先が思いやられるといった表情だ。バリウスが俺を見た。
「ゲットーファミリーには南地区の奴が何人か虜囚になって汚い仕事をさせられてたんだ。そいつらと南地区で虜囚となっているこっちの奴を交換するっていう話があったような気もするんだがどうすればいい」
「ん? そんなことはまったく不要だろ」
二人が意外だなという顔をした。バリウスが疑問を口にする。
「味方が増えることになるし、喜んで帰ってくると思うが」
認識がまるで違うなぁ。
「いや、それは根本的に違う。いいか、その虜囚になってる奴は俺と無関係だ。ただの犯罪者だろ。いらん。俺の奴隷となって戦力になるっていうのなら今いる奴らと何が違うんだ? 捕虜交換しても攻撃力としての戦力は交換するだけだから変わらないよな? でもな、帰した捕虜はこっちに対して殺しても殺し足りないほどの怒りを抱えてるんじゃないのか? 敵の戦力が増えるだけだろ。捕虜交換はゼロじゃない。マイナスだ。もうゲットーファミリーは存在しないんだからな。俺に対して提案しろ」
「なるほど。言われてみればその通りだな。まぁ、向こうに捕まってる奴も俺にとっては知らん奴だしどうでもいいんだけどな」
「向こうの組織と話すこともあるからな。返せとか言って来るかもしれんが。今言った理屈が通じないならどうなるかわからんな。捕虜は返さなくていいから金を寄越せって言った方がいいかもな。どうしても取り返さなきゃならん理由があるなら陳情すればいい」
ユーリが満足そうに頷いていた。その後は細かい相談事など片付けてそろそろお開きかというタイミングでさっき出した使いが戻って来てユーリに報告を入れた。
「ロック様、『鉄槌と金床』のガイア殿から言伝です。「いつでも来い」以上です。腕は良いという名工ですが、ずいぶんと気に入られているご様子ですね」
バリウスが唖然とする。
「まったく、『鉄槌と金床』の武器かよ。ますますスティングと差がつくな。ボス、知ってますかい。今、お嬢の相手はスティングとゴードンの二対一ですぜ」
は? ゴードンってさっき順番待ちしてると思った盾役の獅子獣人だよな。
「うちの斥候のカナレってのは斥候術を教えてます。早く森に連れて行かねーとって訓練が終わるたびに俺に言うんでさ。オルカお嬢、成人前ですよね? どうなってんですかい。あんな怖いのはめったに見れないですよ」
背後でギリっと聞こえた気がした。気配消えてたから忘れてたわ。振り返らず聞く。
「ライラって何歳なの」
「あ、はっ! 十六です」
若さが出てるな。クールだと思ったけどまだまだかな。最長で五年の奴隷期間ってことは十一歳からか。天才とはいえ、貴重な期間を無駄にしてしまったな。早くに訓練を積んでいたアドバンテージがもったいないことだ。オルカは野蛮な世界での純粋培養だ。やれと言えば誰にでもどんな残酷なことでも平気な顔で出来てしまう。俺の後ろに立つ少女も、目の前のバリウスもそうだ。俺は振り返らないまま問う。
「ライラ、お前は技量をどう維持して伸ばすんだ。お前は完成形なのか?」
「申し訳ありません。その答えは持ち合わせておりません」
もう決めたことだからね。面倒見なきゃだよね。
「だよねぇ。まぁ、そのうち、ね」
ユーリをあまりここで拘束してると商会に損害が出るので解放する。それぞれの打ち合わせも方向性が出たので解体など進められるところは進めてあとは図面待ちだ。
さあ、みんなー、髭もじゃらに会いに行くよ。




