第163話 許さないからな
打ち合せ中にユーリから使いが来た。倉庫を確保したから商品を補充したいとのことだった。今日の仕入れからすでに出荷が始まっているけど、それだけではぜんぜん足りないらしい。ここまでは金が出て行く一方だったので良いニュースだ。屋敷の打ち合せを三人娘に任せ、バリウスの護衛も付けずに俺とオルカだけで向かう。知らせに来た商会の馬車に乗って移動する。
倉庫は商会本部予定地の真横のブロックだ。このメイン通りの一等地はデミトリーのものだったが、デミトリー陥落の報を受けた直後、お抱え商人たちが隊商を率いてグランデールを脱しても抜けの殻になっていた。カルチェンコ家の息の掛かった貴族の領地や、他の街にある支店に向けて夜逃げの形で出て行ったそうだ。こちらも総力戦を展開して追撃する余裕もなかったために逃げるに任せるしかなかった。俺に至ってはそんなことが裏で起きているとは想像もしていなかった。まぁ、知っていたところでこちらにも戦力は残っていなかったけどね。
そんなわけで今、デミトリーが押さえていた商家はも空き家になっている。ウォーカーとオーサーがどんどん接収してる。営業実態が無いところや、怪しいところも遠慮なく押さえているらしい。というわけで、商会本部のブロックと、その真横の二つの地区を確保。敷地内にあった倉庫を使っての仮営業をしている真横ではすごい勢いで解体とバカでかい倉庫を建設中。
俺の仕事は空いた場所に商品を補充することだ。どこに何を補充するかを知るために、補充場所に少しだけ見本となる商材を置いてもらって、準備が出来たところから人払いをさせた。もちろん『出納』を直接見せないためだが、俺がおかしなことをしていることはバレバレだ。契約で俺含む五人のことは他言無用という縛りが入っているのだが、商会の人たちは誓約奴隷ではないから秘密保持の観点で気を使う。
倉庫をいっぱいにしたら、馬車で送ると言われたのを断って気分良く街に出た。俺は装備なし、オルカは胸鎧だけなし。店を見るために出来るだけ人通りの多い道を選んで歩く。いろいろ参考になった。屋台もそれなりに見かけた。やはり、大きな公園に屋台は集中していた。
スラムより大きな円形広場があって、冒険者ギルドと商業ギルドもスラムと同じ場所にあった。串肉屋はここでも定番だったが、はっきり言ってウチの屋台の圧勝だな。ドッグタグが手に入った今、明日からでもここに店を出せる。串肉専用屋台の開発、製造を急がせなければ。
壁の中でも奴隷を使っている人間は大勢いる。今も歩いていて荷物を持たせたり、護衛のようにしてる者がいるが、個人で所有というよりは商売上の問題で奴隷を使っていることの方が多そうだ。実際、俺も今その問題に直面している。『出納』の使いどころで躊躇してしまう。でも今さらだよなぁ。きっと身内の中でも俺のことはいろいろ言われているんだろう。俺はそういう他人に何かを言われることはあまりに気にならないからいいけどね。
今日はこのまま裏社会の奴らに殴り込みにでも行こうかと思ってたけど気が変わった。この一週間、かなりバイオレンスで怒涛の生活だった。今もやらなければならないこと、考えるべきことが山積みだが、周りに優秀な人間が増えたこともあって、任せられることも増えた。だったらそっちはその人たちに任せて、俺は俺にしかできないことをやろう。
壁の中の商業ギルドに寄って話しを聞いた。最初は不審な目で見られたが、オルカ共々ドッグタグを見せたら丁寧に対応してくれた。俺がやれることって言ったら屋台経営ぐらいだからね。外に出て歩いてたら声を掛けられた。
「ロック様とオルカ様ではないですか。こんなところをお二人だけで歩いていらっしゃるんですか」
こいつ、誰だっけ? どこかで見たことあるようなないような?
「商会の者です。名をアルと申します。いきなりお声がけしてしまい申し訳ありませんでした」
あー、この前スラムの買い付けの時に事務の手伝いに居たな。赤い髪で思い出した。
「この前、買い付けの時に助っ人で来てもらってましたよね。気が付かなくてすいません。これは何をしているんですか」
俺の目の前では、円形公園の外周、商業ギルドにも近いところの一等地と言える場所でかなり大きな建物の改築工事をやっている。
「この店舗も商会で押さえている物件になります。ここは商業ギルドも近いということで、行商人なんかと直接交渉で買い取りが出来るようにする予定です。ちなみに今この広場を見渡して工事中のところは全て商会のものになります」
あ、そうなんですね。なんかすごい数あるけど。
「アルさん、実は屋台をやってみたいんですよ。商会の名前を売るための一番の入口になるような店です。とりあえず最低でも五台の屋台、将来的にはその倍以上の屋台を同時に運営するつもりです。専用の屋台を作る予定なのですが、雨風をしのげる保管場所が欲しいんですけど、いい場所ありませんか」
「番頭のユーリさんから聞いています。そちらも私が担当しております。一本、路地を入った裏手を考えております。せっかくの路面店を屋台の保管番所で埋めてしまうのはもったいないかと思いまして」
アルが屋台用に用意していた場所は、円形公園の六時方向、メインストリートを進んですぐ裏の建物だった。全体が大きな倉庫のようになっていて、地下の保冷用倉庫から一階の仕込み用大型キッチンや飲み物の保管、二階は屋台従事者用の宿舎にもなる予定だ。まじか! 住み込みじゃないか! しかし、そこで俺は腕を組んで悩んだ。
「ロック様、何か気になることがありましたか」
溜息混じりに答える。
「屋台なんですけどね、一台に二人ペアでの運営を考えているんです。焼き手は男で屋台を引いて、売り子は女性がいいのかなと。未婚の男女をここに一緒に住まわせるのはちょっと」
アルは「なるほど」と考え始めた。
「ロック様、そうしましたらですね、引手兼護衛の奴隷をひとりと焼き手、売り子の女性ふたりの三人態勢はどうでしょう。幸い敷地に余裕があります。ここの護衛も兼ねて敷地に奴隷用の住居を建てることも可能です」
いいね! 採用! 戦闘奴隷としては使えなくても用心棒や肉体労働に使えそうなやつらが余りまくってたしね!
「アルくん! 天才かよ! それ、採用!」
屋台に三人付けるという無謀極まりない儲け度外視に思える経営者としてどうなんだという体制だがそれでいい! これは宣伝だからね。赤字じゃないならいい。というか肉がタダみたいなものだから赤字になりようがない『勝ち確』のゲームなんだよね。あとはもう『どれだけ儲けられるか』っていうね。
地下冷蔵庫予定地を見るともう出来ていたので氷を詰めて肉と香辛料、塩、串、調理道具を設置。アルには今日からセキュリティ度を上げるように指示。保冷庫はしかるべき時まで開けるなとも伝える。そして、倉庫の一階部分に屋台部門の責任者用の住居を作ることとした。最初はビートになるかもしれないからね。ヤバいな、本当にハーレムになりかねないぞこれ。主人公入れ替わって物語が始まりそうだよ。許さないからな!




