第149話 反省
とりあえずウォーカーとオーサーとの最初の交渉が終わった。二人共忙しいらしく、すぐに部屋を辞して行った。見送りの挨拶に寝ているサリアを起こそうとしたら二人に「まだ疲れが取れていないのだろう」と言われ、寝かせたまま別れた。あいつらやっぱりいいヤツらだ。いろいろからかって遊んじゃったから、明日からは少し真面目に協力してやるか。
サリアを抱っこしたままそんなことを考えていたらいつの間にか俺も寝てしまったらしい。キュロスに優しく起こされた時、ソファーでサリアと抱き合ったまま毛布に包まれていた。ひとっ風呂浴びる時間もなかったので顔だけ洗ってオルカとキュロスと一緒に円形広場に向かうと、ちょうど屋台の片付けが終わるところだった。
ビートとガーニーに少し話を聞いたが、どうやら美人部隊の活躍が尋常じゃなかったらしい。タイプの異なる美人、美少女が五人いることで必ず誰かが好みに合致することになって、客が一列に並ぶことを拒否! 推しのメンバーの屋台に並ぶという謎の現象が発生! 屋台ではチップをもらう文化は無いし、エールか果実水のセットで小銅貨五枚という値段設定なのになぜか売り上げが計算より多いという。リアンナに確認すると、どうやら客の中に銅貨を払って「釣りはいらねーぜ」とかいう馬鹿がけっこう居たんだそうな。男って馬鹿。彼女たちは当然のように「困りますぅ」と言ったのだが、一度払ったものを引っ込める輩もいない。これは問題だなぁ。彼女たちも困っていた。そこまでの過熱は明らかにやり過ぎだ。「xxちゃん、今日も来たよ!」ぐらいのノリで充分なんだよね。時間がないのでガーニーは帰して、『銀狼の牙』のライズとルシア以外のメンバーに屋台返却を任せ、それ以外のメンバーで事務所に向かって帰路に着く。
「ビート、屋台三台なら調理人はそっちで確保して欲しいんだがどうだ?」
「給金が良いからな。腕の良い職人を呼び込めるから問題ない」
「できるだけ同じ屋台にならないよう彼女たちにはローテーションしてもらうしかないな。一列に並ぶのを徹底させて客をコントロールしろ。美人過ぎるのも問題だなぁ」
そう言って彼女たちを見たらものすごい良い笑顔を返された。まったくスラムの住人はたくましい。推し活の過熱を防ぐため、明日のメンバーは引き継ぎ要員としてリアンナだけを残して他は変更する旨を伝える。そして今回だけ特別で皆には内緒だよと言って女性全員に大銅貨を一枚ずつ渡した。俺が渡そうとしたらキュロスが一旦全部受け取ってから渡していた。なるほど。俺はいろいろ気を使わないといけない立場に祭り上げられているらしい。
事務所に着く前に話が付いたのでビートはその時点で解放、明日も今日と同じか多めに肉が欲しいと言われた。明日は俺も朝が早いので、これからは組織の護衛に『夕暮れの泉亭』まで肉と氷を取りに来てもらうことにした。『アビス』の食堂か事務所が円形広場に出来ればそこに氷室が作れる。それまでの短い間だからユセフに相談すれば何とかしてくれるだろう。
事務所に着くと商人たちがまだまだ並んでいた。中はちょっとしたパニックになっている。人の流れが悪いので原因を探ると、口頭受付と書類を受け取る窓口が一緒だったのでそれを分けた。書類は記載事項に不備や間違いがないかを確認するだけなのでスムーズに人が流れ始める。しかし、これは今夜は徹夜だろうなぁ。カレンとベルガーは特に大忙しだ。カレンは購入すべきかスルーすべきかを書類を見ながら仕分けしまくっていた。ベルガーは購入したものの納入場所、保管場所の確保の割り振りに追われている。バリウスは保管場所の護衛の割り振りだ。
カレンにライズとルシアを連れて来たことを告げる。二人はカレンが陣頭に立って事務所内を回していることに驚いていた。
「ロック、母さんは何をしてるんだ? 屋台の仕事は止めて違う仕事って言ってたよな?」
「見たままだよ。俺が商会を立ち上げることになったからな。カレンさんには商会長を頼んでいる。もう仕事が入って来ちゃって忙しくなったんで急遽働いてもらってるんだ。ちょっと今夜は帰れないかもしれないからライズとルシアにもここに来てもらったんだ。今夜はここに泊まっていってくれ。ちょっと生活が変わるかもしれないけど、お前達がやることは変わらないよ。早く一人前になってカレンさんや俺がデカイ仕事を頼めるようになってくれよな」
二人はミランダが手配した女中に連れられて行った。メシと寝床などの説明だろう。
さて、忙しい中だがしょうがない。ベルガーとバリウスを呼び付けて明日以降の人員の手配を伝える。この忙しい最中に百人を超える人員の手配だ。いやー、楽しいなおい! と、発破を掛けてやる。ヤリスも奴隷の誓約と商会の契約で大変なことになっている。契約屋でいいから追加で雇わないとだな。デミトリー絡みで仕事にあぶれた奴がいそうだから探してみよう。
最後に女中頭のミランダを呼んでもらって明日以降の屋台のシフトの件を伝えた。「皆さんお美しいのですから働きやすい恰好にしていただいて、控え目な感じで充分ですよ」と伝えた。ミランダ曰く「初日なので張り切り過ぎてしまいましたね」だそうです。「たまには気分転換に貴女も行ってもらっていいですからね」と言ったら「では、その時は張り切らせていただきます」だってさ。女中頭として絶大な信頼を置けるんだけど、スラムに置いておくのももったいないなぁ。ここはもうすぐ女中がいらなくなるからね。
今夜は徹夜になりそうだから夜食など差し入れなど気を使ってやって欲しいと伝えて帰ることにした。ベルガーが護衛を付けようとしたので断ったらすごく困った顔をされた。気持ちはわかるけどね、本当にいらないから。ベルガーとしては形だけでもってことなんだろうけど、いらないものはいらないね。
オルカとキュロスを伴って外に出ると商人の待機列はあとわずかだった。ただ、今になっても駆け込んで来る商人がいる。中が作業中の間は門戸は開いておく方が良さそうだと伝えて歩き出す。きっと酒場で話を聞いた奴が慌てて来るだろうから、手続きが終わった商人に、酒場で会った商人にまだ開いてるかもと伝えてもらうようにした。ライバルに塩を送るようなことをするかはわからないけど、まぁ言うだけならタダだ。
今夜は白と青のふたつの月が出ている。スラムのニオイには慣れない。絶対にこのニオイを消してみせる。だって、かわいそうだろ、美しい女中さんが清拭しかできない生活なんて。美しすぎる店員がそのポテンシャルをまだ使い切ってないことが俺にはわかってしまうのだから!
「ロックがなーにを考えてるのか当てようか?」
「キュロスさん、それはぜったいにやめてください」
俺はすごく反省してオルカとキュロスの手を取って他の女性のことを思考から追い出しながら「月がキレイですね」と言った。
今夜は久しぶりにゆっくり晩飯を食って風呂にもゆっくり入ってぬくぬくと眠れそうだ。左はオルカ専用だ。今夜右側に来るのは誰だろう? 昼にサリアが一緒だったから久しぶりにシェリルかな?
なるほど、こっちの想像の方が楽しいな! そしてこれは間もなく、確実に現実になるのだ!




