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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第7章 再生

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第144話 深淵もまたこちらを覗いている

 成り行きだろうとこうなってしまった以上、仕方がない。


「まず、俺が組織のボスだ。組織の名は『深淵(アビス)』だ。『深淵(アビス)』は名前を含め今後、その存在が表に出ることは一切無いからそのつもりでいて欲しい」


 会議室を見渡す。みんなが固唾を飲んで俺を注視する。発言の内容が浸透したところで続ける。


「『深淵(アビス)』の中に冒険者クラン『再生の大地』があり、『偏西風(ウェスタリー)商会』がある。今、俺の影響下にある者は全員が『深淵(アビス)』の構成員だ。構成員の条件は、現状では俺の誓約奴隷(せいやくどれい)であることだ。ただし、現時点で例外が五人いる。俺のパーティーメンバーの四人とカレンだ。質問はあるか」


 ベルガーとバリウスの顔にまったく同じように笑みが広がる。ベルガーがみんなを代表するように疑問を口にする。


「くっくっく。なかなか面白くなってきた。ボスはボスでよかったんだな。ボスが犯罪組織に興味がないのはわかってるし、俺も別に犯罪者になりたくてゲットーにいたわけでもないからまったくもって問題はないんだけどな、ボス、『深淵(アビス)』には何か目標があるのかい?」


「そんなものはない。俺と俺の家族の幸せのために存在するだけだ。そもそもゲットーファミリーが俺に手を出さなきゃ今だって俺のパーティー以外は何も存在しなかったはずなんだから。全てはこの世界で俺の幸福を邪魔する奴を蹴散らすためのものでしかない。『再生の大地』と『偏西風(ウェスタリー)商会』は『深淵(アビス)』に内報される表向き用の組織だ。今はまだ特段『深淵(アビス)』を意識する必要もない。ところで俺のパーティーメンバーは俺の家族として全てを共有しているから何も問題ないんだが、カレン、悪いがもう一連托生(いちれんたくしょう)だ。商会長として表の世界で好きに生きてもらって構わない。だが『深淵(アビス)』においてカレンだけが家族じゃないからな、その重荷は背負ってもらうよ。ライズとルシアにも悟られるな。知られたら『深淵(アビス)』に入れなきゃならなくなる。一生を縛ることになるぞ」


「わかったわ。だけど、私自身はあなたの女になってもいいし家族になってもいいのだけど?」


 胸を張ってにこやかに恐いことを言う。カレンさんが覚醒してしまった! 夫人でも愛人でもいいと十歳児に向かって公言しちゃったよ!


「カレン、それは俺にとっても組織にとってもとてもありがたく、大変魅力的な申し出です。だけど俺はまだ自分の家族のみんなも満足させられない子供なのです。今は貴女を受け入れることが出来ない矮小なこの身をお許しください」


 俺の中に日本人が残ってたら『もったいない』とか『据え膳』とか思ったんだろうか。今はもう、そうは思わない。ただ、彼女の言葉が打算だとしても、その好意を受け入れることの出来ない己の度量の無さ、現状を情けないと思うだけだ。形だけ『お前は俺の女だ』と言ったところで『なにが?』としかならないからね。早く大人になりたいよまったく。


「とても残念ね。私が女でいられる内にボスが大人になったらまたお願いするわ」


 冗談めかして言うところが大人ですね。それでこそ商会長です。「その言葉、忘れませんからね」と返すのが精一杯でした。今はちょっとキュロスの方は見れないけれど。


 ベルガーとバリウスが俺のことを(あき)れた目で見ていた。いや、そんな目で見られても! 今の流れって俺が悪いのか?!


「スティングが居なくて良かったぜ」


 バリウスがボソっとつぶやいた。あいつな。変なところで俺に懐いてそうで怖いんだよな。あいつはこういうのに対して憧れが強そうだからな。あいつは奴隷になってしまったからもう叶わぬ夢なんだけど。それで余計に拗らせてそう。俺は今のところ奴隷たちに子供を作らせてやるつもりはない。こいつらは死刑囚だ。生きているだけありがたく思えというやつだ。本来、こいつらは死んでいる人間だからだ。ゲットーファミリーのやってきたことは許されないことだ。この世界が許していたのかもしれないが、俺の前に飛び出した奴が悪い。ロケットは止まれないんだぜ。


「俺が今(えが)いてる絵図(えず)はそんなところだ。ヤリス、だから全ての誓約(せいやく)奴隷は俺のパーティーの支配下となる。偏西風(ウェスタリー)商会の奴隷はそこにカレンさんの名前も加わる。俺は別に出世したいわけでも貴族になりたいわけでもない。俺は俺が思うように快適な人生にするべく動いているだけだ。ゲットーはその邪魔をしたからこうなったんだ。とりあえずスラムも、壁の中の偉そうな貴族も、この街を仕切ってるバーランドも、まるで文明から取り残されたようなこの世界も、それを発展させる力も知恵もない皇帝も、俺の容姿だけを見て差別しやがった聖月教(せいげつきょう)とやらも、俺の尊厳を踏みにじった奴隷制度も、俺は全部が憎いんだよ。俺の見えないところでやっている分には口を出すつもりはないけどな、俺に関わった瞬間から容赦はしない。それが俺のこの世界での生き方だ」


「やっぱりな。手を出しちゃいけねえ相手ってのはいるんだよな。ゲットーはバカだ。五年前にヤっとくべきだったぜ」


 ベルガーの悔恨(かいこん)だ。馬鹿な頭を始末しておけば良かったって後悔しているらしい。やるべきことをやらなかった奴はそうなるだけだ。


「そうだな。なんでグランデールにしがみついちまったんだろぉなぁ。でもまぁ、今回はまともな冒険者ってのをやらせてもらえそうだからな。自分じゃあできなかったことをやらせてもらえると思えば悪くないぜ」


 奴隷になって喜んでる変態野郎め。お前のパーティーは俺の家族の幸せのために便利に使わせてもらうぞ。


「あー、そういえばデミトリーのところにいたパーティーとバリウスのパーティーとではどっちが格上なんだ? まぁ、今はお前がクラン補佐だしな。常に実力を示せよ。俺の気持ちが変わったらお前らにも少しは幸せってやつが巡ってくるかもしれないからな」


 バリウスが困ったもんだぜというような顔をして俺を見返していた。だから次に出た言葉もそんなに深い意味はなかったのだろう。


「なぁ、ボスよ。ひとつ聞かせてくれ。なにか奴隷に恨みでもあんのかい?」


 キュロスがバリウスを見た。その視線に気付いたバリウスの顔から笑みが、余裕が消えた。ベルガーも動けなくなった。俺はバリウスを見ていた。




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