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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第7章 再生

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第141話 求人

 カレンさんがいるので普通に歩いて元ゲットーファミリーの事務所まで来た。あちこちに閉まったままの店があった。ゲットーファミリーが経営していた店かもしれないな。事務所に近付くにつれて道が綺麗になってきた。事務所前はゴミひとつ落ちていない。俺の姿を見つけた元組員が事務所に駆け込む奴もいれば元気に「おはようございます」と挨拶してくる者もいた。事務所に着く頃には入口に奴隷たちが並んで出迎え準備万端の様相だった。ゲットーと関係の無い住人がなんだなんだと野次馬も凄いことになっている。整列している奴隷たちの前まで来ると、ベルガーがドスの効いたデカい声を出した。


「ボス! キュロス姐さん! おはようございます!」


「おざまっす!!!」


 手下共にご唱和された。とてもイヤだ。キュロスもイヤそうだ。


「おはよう。みんな礼儀正しくていいね。でもね、みんなの業務が止まるのがもったいないから、お出迎えお見送りの挨拶はこれを最後に廃止とします。そうだ、この辺りがとても綺麗で驚いたんだけど、誰が清掃したの? そして誰の提案だったの?」


 ベルガーが後ろの方にいる目立たない背の低い汚いフードコートを被って顔もよく見えない奴の方を見て呼び出した。


「ヤリス! ボスがお呼びだ! 前に出ろ」


 え? 奴隷商人(スレイブトレーダー)契約屋(コントラクター)のヤリス? 呼ばれて慌ててパタパタとヤリスが前に来た。


「は、はい」


 声を出すがこれはヤリスの声ではない。ヤリスはもっと陰気でボソボソとしたおっさんの声だったはずだ。


「お前は誰だ?」


「あ、は、はい、そのあの、ヤリス、です」


 ベルガーが呆れた顔をしてヤリスを見ている。


「ヤリス、ボスに挨拶する時はフードを取れ」


 慌ててフードを後ろに撥ね上げて顔を見せるヤリス。左の首筋からアゴの上までしっかりと奴隷紋が入っている。が、そこにいたのは痩せた顔色の悪い女の子だった。「へへ、へへっ」とキモい愛想笑いをしている。ちょっとアレな()なんだな。


「おやぁ? ヤリスって中年男性だったと思うんだけどこれは?」


 ヤリスがあたふたしているのでベルガーが代わりに答えてくれた。


「ボス、俺から説明を。ヤリスは最初からこいつなんです。こいつは人前に出ると極端に上がっちまうらしく、普段は目を合わせないようにフードを被っています。声は、そういう薬を使ってました。ボスの言った『クスリはダメだ』という命令で飲んでいないだけです。掃除はヤリスの提案です。俺が声を掛けて手の空いてる者にやらせています」


「うん、いい行動だと思うからこれからも継続してくれ。ヤリス、いい提案だったよ。ちょっと仕事の話があるから付き合ってくれ。フードは被らなくていい。ベルガーも一緒だ」


 ベルガーがその場で「解散」と告げて中に入る。中は掃除も済んでいて変な臭いもしない。金庫を落とすために開けた天井の穴が補修されいて、金庫は一階事務所の奥に置かれていた。カウンターと事務所を区切っていた鉄格子も、ボスのバイラルが入っていた檻も無くなっていた。


「ほー。キレイになったじゃないか。鉄格子はどうした? まだあるなら売らずにおいてくれ。質の良い鉄ならそれだけで貴重だ」


 これならとりあえず事務仕事はこのまま一階で出来そうだった。ベルガーとヤリスを誘って二階の会議室に行く。女性陣は建物内の掃除をしていた。その内の一人に責任者に二階の会議室まで来てもらうよう声を掛ける。会議室には俺、オルカ、キュロス、カレンさん、ベルガー、ヤリスが座る。すぐに会議室を掃除していた女性が人数分のお茶を淹れてくれた。お茶を飲んでいると女性が現れた。


「ロック様、遅くなりまして申し訳ありません。ただ今、本館の女性メンバーの代表のようなものをしておりますミランダでございます」


 度々ここで献身的に協力してくれていた女性だった。この中にいた女性は美人しかいなかったわけだが、ミランダさんはリーダー格だけど、それでもやっぱり三十にはまだまだ届かない若さだ。


「ミランダさん、どうぞお掛けください」


 そう言ったらものすごく戸惑っていた。それを見たオルカがスっと近寄ると手を引いて自分の横のイスに座らせた。会議室は大きなラウンドテーブルで、周りをイスが囲んでいて、座っている人の顔が見えるのがいいね。椅子はボス用のやつだけちょっと豪華だ。俺の左にオルカ、その横にミランダ、右にキュロス、カレンさん、真向いにベルガー、ベルガーの左にヤリスが座っていた。ミランダは二日前に奴隷解放されたばかりだ。こんな幹部級の会合で椅子に座っている境遇に思いっきり緊張していた。目配せで女中にミランダの分のお茶も入れてもらう。目の前にお茶が置かれた瞬間、ミランダが「ひぃっ」と小さく声を上げた。


「ミランダさん、とりあえずお茶でも飲んで落ち着いてください」


 俺がまずお茶に手を付ける。キュロスとオルカはとっくに飲み始めていた。紅茶か。うむ、わからん! オルカもべーっとしていた。みんなが一通りお茶に手を付けたところで話を始める。


「まずはミランダさん」


 びくっとなるミランダさん。「はぃ」と、声が小さい。そういえばちゃんと明るいところで顔を見るのは初めてか。採光のために壁中の窓を開け放っている。びくびくしているが、とても落ち着いた感じの女性だ。髪は明るすぎない紫だ。


「俺が荒らし放題にしてしまった事務所をここまで綺麗にしていただいてありがとうございます。これはベルガーにも礼を言った方がいいのかな」


 ベルガーを見たら、静かに目礼した。


「ミランダさん、俺はまだまだみなさんの名前どころか、顔も人数も境遇も知りません。これから知っていこうと思いますのでよろしくお願いします。ミランダさん、この組織は俺が責任を持って運営していくことになりました。当然ですが、もう犯罪組織ではありません。ご安心ください」


 ミランダはまだ不安げだがゆっくりと頷いた。


「この組織に従事させられていたすべての罪なき奴隷だった人々は、俺の庇護下となった以上、もう二度と奴隷になることはないとお約束します」


 ミランダと給仕のために出入り口で控えている女性の眉間のシワが無くなり、肩から力が抜けるのがわかった。


「ミランダさん、ちょっとご相談なのですが、実は俺は串肉屋の屋台を経営しているんです。円形広場の商業ギルドの前に屋台を出しています。そこで、最大三台の屋台を使って商売をしているのですが、人手が足りないんです。ミランダさんから見て、屋台で働けそうな女性はいませんか? 串肉を調理する人がひとり、エールを入れたりお会計をしたりのお手伝いが三名から四名欲しいんですけど。もちろん給金を払います。店の責任者には手伝いの女性はお姫様のように大事にしろ、誰かが彼女たちに手を出したら俺が殺すと言ってあります。どうでしょうか?」


 ミランダは突然の提案に戸惑っているみたいだった。


「なにか質問があればどうぞ。遠慮なく聞いてください」


「あの、正直ちゃんと把握できている自信が無いのですが、私たちに働く場所をご提供いただけるということなのでしょうか」


 そこからか。俺は席を立つとミランダの席を回って空席との間に入り、(ひざまず)いて左手を両手で包んで彼女の顔を見上げる。


「そうです。みんなが安心して働ける場所を作りたいと思っています。太陽の下で働き、働きに見合ったお金をもらい、しっかりと食事をして、夜は安心して眠れる場所を貴女たちに提供すると約束します。いつかどこかで素敵な出会いもあるといいですね。店の責任者には手を出したらお前を殺すとは言いましたが、一生を掛けて幸せにする気があって、お互いが同じ気持ちなら祝福するとも言ってあります。あぁ、でもあいつはあまりお勧めはしないですけどね。かなりな唐変木(とうへんぼく)なので! 外に出れば貴女たちのような器量良しですからねー! モテモテなのは間違いないですね! ()()見取(みど)りでいい男を捕まえてくださいね」


 キュロスが「あははは」と大笑いしていた。カレンも口元を抑えているが笑っていた。オルカは紅茶をちびちびと飲んでいた。ひとしきり笑ったキュロスがテーブルに肘を付いた手に顔を乗せてこっちを見ている。


「ミランダさー、ロックが「約束する」って言ったの聞いてた? その男はね、約束したら絶対にそれを守るからね。だからあなたたちはあたしと同じよ。二度と奴隷になることはないし、幸せになれるわ」


 ベルガーは腕を組み目を閉じて天井を向いていた。ヤリスはあごの下で両手を組んでミランダを見ていた。ミランダはキュロスを見ていたが、話が終わると手を握られていることを思い出したように俺を見た。俺は手を離しながらミランダの隣の席に座って彼女の目を見てもう一度聞いた。


「どうだろう? 外の屋台でグランデールに来た行商人相手の客商売なんだけど、出来そうな人はいるだろうか?」


「はいっ! あの! わたし! わたしが! やり、たい、です」


 給仕の女性が手を上げて大きな声を出したが、全員の視線を浴びて途中から声が小さくなっていった。


「いいですね! やる気のある人は大好きですよ! 貴女のお名前はなんというのですか?」


「は、はい! わたしはリアンナといいます。十七歳です!」


 明るいブルーの髪と瞳をした目の大きな可愛らしい娘だ。


「リアンナ、十七歳ですね。わかりました。ではリアンナが一人目に決定!」 


 この状況下でもこの明るさでいてくれる少女に救われる思いだ。


「ミランダさん、屋台の仕事もずっとそればっかりということじゃなくていいですよ。他にもいろいろ仕事はありますので、体調が悪かったり、希望者が多かったら交代でやってもらって構いませんから。ちなみに今は三回目の鐘が鳴るぐらい(八時)に商業ギルド前に集合で屋台を出して、お昼前から売り出して、七回の最後の鐘(十八時)の前には売り切れてしまうので店じまいしちゃってます。それで調理人は最低銅貨三枚、売り子さんは最低銅貨二枚です。売り上げが多かったら追加で銅貨一、二枚はお支払いしています。そういえば今のとこと毎日売り切れてるから毎日ボーナスが出ていますね」


「ロック、気前が良い男はモテるのよ。毎日売り切れてるならお給金上げちゃいなさいよ」


 キュロスが良いことを言う。けどそれやったら周りの屋台の連中に恨まれそうだなぁ。


「あ、モテるんですね! じゃあそうします。調理人は銅貨五枚、売り子は銅貨四枚にします。あとでビートに伝えましょう。ということに今なりました」


 ミランダが目をパチクリしている。まつ毛の長い美人だからほんとにパチクリしていた。リアンナが「いちにちどうかよんまい?」と呟いている。しばらくミランダと見つめ合っていた。


「あ、あ、はい。もちろんです。すぐに集められます。というか、希望者が多すぎて絞る方が大変です」


 リアンナが「よし!」って言ってる。


「ではミランダさん、人選をお願いします。屋台はもうすぐ営業開始なので」


「え! あ、はい! き、今日からなんですね! リアンナ、準備なさい」


 そう言いながら席を立つミランダさん。そのまま「失礼します」と礼をして部屋を横切る。緊張しながらも行動が迅速で良いです。リアンナも「失礼します」とお辞儀をしてドアを開けて急に振り返って俺を見た。


「あれっ。えっと、さっきキュロス様がロック様のことを約束を守る男だって、気前が良い男はモテるっておっしゃってました、よね?」


 ミランダが「この()はまた何を言い出すの」って顔をしてから俺を見た。それは最初に会った時に言わなかったっけ?


「あれ? 最初のころに言わなかったっけ? 俺、普通に男だけど? どこか女っぽい言動があった?」


 キュロスがニヤニヤしている。


「ロックは何もおかしくないわ。言動はずっと男らしいわよ」


 それはそれでどーなのよ。





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